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神風ナイト  作者: Ringo
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第9章 生きた鉄の化け物

今日だぁぁぁぁぁぁ

「総指揮官! 奴が・・・、<シルク>が・・・ッ!!」


「来たか・・・!」


 突然揺れる車体、異常な爆発音が外で響き、柏原だけならず未璃も不安を感じていた。無線で柏原のインカムから連絡する騎士は、<シルク>が現れたと言っている。


 シルクの妹を使ってシルクをおびき寄せるのがこの作戦だった。人質にとった妹は見事マスコミが全国的に知らせてくれ、ブレイド社達は待つだけであったのだ。柏原は未璃と共に外へ出た。


「よく見るといいですよ。これが賞金稼ぎ<シルク>・・・否、貴方のお姉さんの真の姿です!」


 未璃が目にした光景は、酷い殺戮の跡形であった。鎧を着た者達がごろごろと転がっている。先ほどまで何十人・・・何百人と待機していた筈の騎士達が、たった一人の賞金稼ぎ殺された現場だった。


 あまりにも残酷すぎる光景。真っ赤な血液が校庭を浸すように流れ、首を半分切り裂かれた者、腕を引き裂かれたもの・・・。これ以上は、見るに耐えられなかった未璃は血の色が引き、頭を抱え込みながらしゃがんだ。


「どうですか?! これが貴方のお姉さんの力です! そう、我々がどんな手を持ってしても奴から血を流させる事すら出来ない!!」


 何故か妙に興奮し、トーンを高めて話す柏原。かすかに聞こえる弱々しい声で未璃は訊いた。


「・・・学校の・・・みんなは?」


「それなら、先ほどまで体育館に隔離していたのですが、逃げられました。あなたの騎士に。まぁ、用済みでしたので全員解放しましたよ。今は新たに現れた自衛隊とガイアに保護されていることでしょう」


 背を向くと、新たに呼ばれたガイア兵と自衛隊が何十台も待機していた。トラックからは騎士が無数のように現れた。


「ふむ・・・。私の負けですね、お嬢さん」


「どういうこと?」


「我々の本来の目的はシルクを呼び出すことでも、貴方を誘拐する訳でもないんですよ。そもそも、我々が本社から預かった新型兵器の可動実験のみなのです」


「新兵器?」


「ええ。まぁ、実践的なデータが欲しかった為、先日の実験施設護衛の依頼を裏切ったシルクを相手に実験する事になったのですが・・・。あなたを護衛する賞金稼ぎのお陰でこうして、内側から混乱させられ・・・仕舞にはシルクに全滅させられた。私一人じゃ何も出来ません」


「じゃぁ・・・終わったんだ」


 ほっと、安堵の溜め息をつく。それを横目で見た柏原は鼻を鳴らした。


「ですが、新兵器自体はまだ生きています。貴方達の想像を明らかに超える代物です。また、私よりしぶとい男が、まだ諦めていませんでしょうしね。彼の指示で本部が雇った<賞金稼ぎ>が動いてます。全部で3人。一人は既にシルクにやられましたが・・・。あと2人。その内の一人は新兵器を所持していますよ」


「何で、私に教えるの?」


「実に的を得たいい質問ですね、貴方にはセンスがあります。私は自害します。もう、捕まっても死ぬのは確定ですから。で、貴方に全ての情報を教えたのは、貴方は後でシルクに伝え、奴らと戦うでしょう。その時・・・貴方達の泣き叫ぶ顔をあの世から見物するためです」


 すると、柏原は一丁の拳銃を取り出し、自らの側頭部へ銃口を向けた。最後に、彼は気味の悪いほど爽やかな笑顔を見せてこう言った。


「それでは、ご機嫌よう。貴方達の苦しむ姿、向こうからしっかり見てますよ」


 こんな言葉を残し、彼は未璃に背を向け校門・・・自衛隊やガイアの騎士が待機する方へ向かって歩いていった。


「・・・お姉ちゃん・・・!!」


 パンッと一発の銃声が沈黙した校舎を跳ね返って未璃に聞こえてきた。彼女は急に駆け始め、校舎へ向かった・・・。










 掠れた視界と朦朧とした意識に飛び込んできたスキンヘッドの大男(女装済)。そいつは連の足を伸ばしてじっくり見るなり、小さな箱から白い布切れを取り出して足に巻き付けた。


 次第に視界に色が着色されていき、連は意識を取り戻した。


「連ちゃん無視しないでよ、もうっ!」


 大男の正体はキャンディだった。だが、何故学校に彼がいるのか未だ分からず混乱し始めた。


「俺・・・死んだのか・・・?」


 ぼそりと口に出した台詞に、聞き覚えのある兄の美声が連の耳に届いた。


「バーカ、生きてるよ。むしろお前死ぬこと出来るのか? こんな状況でよく生き残ってたぜ」


 続いて、機械的な音声が聞こえた。


「さすが神風騎士ナイトです。お二人は本当に心が通じあっているでしょう。この場まで駆けつけたのも、祐介騎士が私達を導いてくれたお陰なのです。そして連騎士たったお一人で何十人もの騎士を倒し、ここまで生き延びた。尊敬に値します」


「って言っても、俺は直感でここの部屋まで来ただけだけどな・・・?」


 俯いていた顔をあげると、祐介とロゥランドが助けに来てくれていた。キャンディが力強く包帯を締め、激痛が電撃のように走って視界が涙で滲む。痛がる連を知ってか面白そうに傷口を叩かれた。再びあの電撃が走った。


「痛いって!」


「それだけ元気があれば大丈夫よん」


 次にロゥランドが背に負っていたコンテナを下し、蓋を解放した。見覚えのある鎧と武器の一式が、そこには詰められていた。


「鎧です。どうぞ着て下さい」


「敵の司令塔はシルクが倒したが、伊崎未璃が見つからないんだよ。それに、ロゥランドのレーダーだと妙な熱源があってさ」


「・・・これは?」


 連が指したのは、彼が見たことない銃器だった。


「エクシード社を口説いてな? すげーもの貰ったんだよ! 安心しろ、この仕事が終われば賞金も手に入る」


 祐介が自慢げに握った大口径ライフルよりか太く、大きい銃器。マガジンの付近にはおかしな程謎の装置が取り付けられている。


「新型のライフル?」


「いや、こいつは小型化された<レールガン>! 銃弾を音速で射出することによって威力は大口径なんか比べもんにならねぇ一品! さすがエクシード社、ブレイド社に対抗してレールガンを小型化するなんてなぁ!」


 鎧を纏い、本来の姿を取り戻した連。祐介とロゥランドは未璃を探しに、連は一度杏奈と合流することとなった。が―――・・・。


「キャンディはどうすんの?」


 連が訊いてみた。すると彼は気色悪い笑みを浮かべててこう言った。


「私はもう少しここに残ってるわよぉ。だって、愛しの連ちゃんが危うくなったら誰が助けると思ってるのぉ〜♪」


 相変わらず、の緊張感のなさに連は呆れてしまう。








(まだ、何かある・・・?)


 悪魔、死神、化け物、シルク・・・。杏奈のあだ名はこれといってまともなものなどない。彼女は世界でもトップクラスに入る賞金稼ぎ故に、彼女を恨む企業や人達は数えきれなくて、そういった者達が彼女の事を恨み、死神だの悪魔だのと呼んだりする。


 実際彼女は悪魔でも死神でもない。だが、たった一人で何十人、何百人といるブレイド社の騎士を全滅に追いやっている姿を見れば、誰もがそう考えなくもないだろう。


 そんな死神とまで恐れられる杏奈は、校庭にいた騎士を片付け、未璃を発見した。だが、彼女を見たのは遠く離れた位置から。彼女は自ら未璃に触れることを拒んでいた。この、血によって汚れた手で彼女を抱いてはならない、そう考えているのだ。


 だから今、彼女はこうして校舎に引き返し、残兵を片付けていたのだが・・・。妙な殺気を、彼女は感じていた。


 静まり返った校舎は薄気味悪く、背中に違和感を感じてしまう。神経を張りつめ、殺気の主を探している。


「杏奈!」


 連の声を放つ騎士が杏奈のもとへ駆けてきた。


「どうやら生きてたらしいな。あんたの働きには感謝してるよ。おかげであの子は無事さ」


「未璃か? 今はどこに?」


 次の言葉を発するのに妙な空白の間が空いた。


「・・・私は、あの子と顔を合せていない。恐らく、ガイアに保護されているだろう。生徒達も一緒だ」


「未璃が待ってるのは俺じゃない。お前だ。これが片付いたら必ず会って全てを話してやれよ。そして一緒に暮らしてやれ。・・・・・・俺は、あいつを守ってたんじゃなかった。あいつにすがってた。頼ってた。いつの間にか、俺の心に空いた穴を埋める存在になってたみたいだ・・・」


 すると、杏奈は怪しげに連をじろじろと見た。


「・・・お前、まさか・・・!」


 何を言っているのか分らなかった。暫し考えてみると、ふと、彼がこの何17年生きてきて考えもしなかった一言が浮かび上がってしまい、鎧の中で頬を赤く染めた。


「ちがっ・・・、別にそんなんじゃ・・・っ!」


 急に、不自然なほどゆっくりと音をたてて階段を降りる足音が響き、瞬時にして連と杏奈は戦闘モードへ切り替わった。


 彼らの目の前にあった階段を凝視し、杏奈は日本刀を、連はマシンガンを2丁構えた。


 ゆっくりと姿を現すもの。黄金の鎧に身を固めた騎士。それが徐々に明らかになるにつれて、連の脳裏に先ほどの祐介との会話が蘇っていく・・・。


―――ロゥランドが戦ったそいつ、変わっててさぁ。全身金色の鎧に包んでたんだぜ。それに・・・、訳の分からない新型兵器。10なのか、刀なのかすら判断できないものだった。まるで<生きた兵器>って感じだったなぁ・・・―――


「まずい・・・ッ」


 銃を構えたまま、連は言った。妙に焦っている様な連の口調だったため、杏奈も不審に思った。


「どうした?」


「あれは・・・、祐介とロゥランドが戦った賞金稼ぎだ・・・!」


「賞金稼ぎ? でも敵には変わらんだろ!」


 もう、上半身が全て明らかになるころだった。連は声を強めて杏奈に言い放った。


「あいつが持ってるのは、ブレイド社の新兵器だッ!!」


「何?!」


 黄金の騎士の全身が明らかとなった。ゆっくりとした動作でこちらに寄ってきている。2対1だというのに恐れず、迷わない、落ち着いた歩みだった。


 そして、彼の右腕に取りつく<鋼鉄の心臓>・・・。あれが、ブレイド社の新兵器だった。鋼鉄の様に銀色の輝きを放ち、心臓の様に鼓を打つ続けている。見た目は本当に心臓にそっくりだが、どこが見たこともない物にそう簡単に手は出せなかった。


「何だあれは・・・ッ!」


 杏奈が珍しく焦り、唸った声で話す。すると、黄金の騎士がこちらへ友好的に話しかけてきた。


「ウェルカーム。ようこそ墓場へ。ここまで生きてたのには感心するぜぇ?」


「ふざけやがって・・・!」


 連がおちょくる騎士に苛立って2丁のマシンガンのトリガーを引き、銃弾の雨を喰らわした。全弾命中だった。だが―――。


「んだよ、もうそーゆー気なの? 面白くねぇなぁ。楽しもうぜぇ?」


 騎士の男に取りついている心臓の様なものが・・・すべて銃弾をその身にとりこんでしまった。そのお陰か、妙に大きくなっている。また、新兵器からは触手の様なモノも伸び始め、彼の二の腕に繋がった。もしかしたら、戦闘態勢に入ったのかもしれない。


「・・・ゲーム開始だ・・・ッ!!」








 別行動中の祐介とロゥランド。祐介は転がる死体をオーバーな程距離を置いて歩き、銃を抱える手が笑うように震えていた。彼の表情も硬く強ばっていた。


 祐介は現場での戦闘慣れをしていなく、普段は常に安全な所からロゥランドと連のバックアップをしているだけであって、実戦は未経験なのだ。そのためかやけに緊張している様子だった。


 そんな弱虫の祐介を放って置いて、ロゥランドは高性能のレーダーで周囲を検索していた。先ほどと状況は変わらず、妙な熱源反応が一つ残るだけだった。それも連と杏奈が接触している事も分かった。


「現在、連騎士とシルクが謎の熱源反応と交戦中のようです」


 祐介が震えた声で答えた。


「あ、ああ。この辺りも騎士が居ないようだし、俺達も応戦しに―――」


 祐介の震える声を遮って、ロゥランドが話を覆した。


「周囲に一体の騎士を確認」


 祐介は歩みを止め、「え、どこ?」


「真上です」


 ロゥランドが短く放った答えと同時に天井が爆破した。驚きのあまり祐介は屈んで身動きが取れなくなっているが、ロゥランドは独自の独立した人工知能が戦闘モードへの移行をし、後方へと飛び避けた。


 埃を巻き上げ視野が悪くなる中を、ロゥランドはレーダーで敵の次の動きを予測し、同じように後方へ飛びながら大口径ライフルを撃った。標準は適当で、相手を怯ませるだけでよかった。


 だが、敵は一切の怯みを見せず威風堂々たる姿で立っていた。


「まだいたのかよ!」


「・・・騎士、お前等か。俺の依頼者クライアントを殺しちまったのは」


 随分とのんびりとした口調だ。


「何だよ、同業者かよ!」


「まぁ、別に良いんだけどな。・・・でも、俺、退屈してたから助かった」


 意味不明の話に祐介は眉を釣り上げた。


「お前等、女の子捜してるだろ」


 ロゥランドが銃を構えたまま返答した。


「・・・何故貴様が知っている」


依頼者クライアントに教えてもらった。・・・で、そいつ、どこにいると思う・・・?」


「何だよ・・・もったいぶってねぇでさっさと言えよ・・・!」


 不気味に間を空けて笑いだした白い騎士バウンティハンター


「この騎士、もしかしては先日連騎士が交戦したという奴では?」


「うっそ、まじ?!」


 連が先日交戦した騎士は、白い鎧に巨大なガトリング砲と特徴的なのんびりとマイペースな動作と言っていたのを、祐介は一気に思い出し、背筋が凍る感じがした。


「・・・その女の子。俺が知ってる」


 その瞬間、白い騎士の胸の装甲に大きな鉛玉が命中した。白い騎士はビクともしないが、続けてロゥランドが跳び蹴りを食らわした。


 白い騎士は、大きく吹っ飛び、仰向けに転がる騎士を踏みつけながらロゥランドは脅した。


「私達にも時間がありません。ガイアが直に鎮圧しに来ます。あなたも同じでしょう? 今死ぬか、後で死ぬかの違いですよ、バウンティハンター」


「・・・痛いなぁ・・・」


 何とも無さそうに首を振って骨を軽くならした。さすがの鎧でもあれだけ吹き飛ばされたら中の人間が耐えられるはずが無いというのに、この騎士は平然としていた。どころかその踏みつけている足を掴んできた。


 ロゥランドは危険を察して腕を振り払おうとするが、人間を勝るロボットの馬力を押さえ込むほどの馬鹿力からは逃げることができなかった。


 掴んでいる腕に取り付けられた装置から何かが射出された。至近距離からのアームガンだった。距離が近すぎ、ロゥランドは避ける事も出来ず、諸に直撃を食らうこととなってしまう。


 ジディご自慢のアセンブリ。特殊な合金で従来のアーマードナイトの装甲より遙かに強度が増し、ロケット砲ですら耐えうる代物。その装甲をまるで紙切れの様に易々と貫き通した。


「ロゥランド!」


 機体温度が急激に上昇し、次を食らうとオーバーヒートは確定だった。すぐさまライフルで掴む腕の肘を狙ってトリガーを引いた。しかも大口径だというのにへこみの一つすら見せず、衝撃によって腕が一瞬足から離れただけだったのだ。その隙を利用し、ロゥランドは大きく飛んでしゃがみこむ祐介の隣まで避難してきた。


 ロゥランドの脚部装甲は外部装甲がボロボロに割れはがれ落ちている。何とか歩行は出来そうだがバチバチとショートしかけているため、激しい戦闘は控えた方が良いだろう。


「左脚部脹ら脛が大破。自力で立つのが限界です。今のジャンプでダメージが重なりました。又、機体温度が異常なまで急上昇。おそらく、特殊な熱暴発をさせる銃弾を撃ち込まれたかと」


「全然違うんだけどな、それ」


 白い騎士はのっそりと起きあがって右腕に取り付いている装置を祐介達に見せた。それは彼のボディの色に合わせて塗装されており、外見はアーマードナイトに標準装備されているアームガンだった。


 だが、アームガンの銃口となる穴からは煙ではなく、先端が鋭く尖ったブレードが現れている。


「これは突出型の接近戦用に造られたランスだ。俺のコントロールによって射出される鉄の短い槍が相手の装甲を一点に突いてぶち破るって代物」


 祐介も何年も賞金稼ぎをやってきて、幾らか武器・防具については詳しい。だが、あの様な珍しい兵器は見たことがなかった。


「おいおい、どうすんだよ・・・ッ!」


 祐介は奥歯をキリキリと強く噛みしめた。


「そうだ・・・。お前等に見せてやるよ。女の子・・・」


 そう言って白い騎士はすぐ近くのドアに手を掛け開いた。広々とした空間は埃っぽく、体育祭で使われる道具やその他の物置の様な部屋。そこから、もごもごと籠もった声が響く。


「おい、まじかよ!」


 白い騎士は部屋に入り、その声の主を起こして口を塞いでいたテープを勢いよく剥がした。


「・・・ほら、お前等の探してる女の子、<伊崎未璃>だ・・・ッ!」


 テープを剥がされ痛がる少女・・・。黒く長い髪にきりっとした一重。甲高い声で騒ぎだす伊崎・・・未璃?


「あれ、この子・・・伊崎未璃じゃない・・・?」


「痛いって、もう!! 何よ急にここに閉じこめて! 何時間経つと思ってるの?! それにあなた誰? 私を早く解放しなさいよ!!」


 本物の伊崎未璃に顔立ちが似て無くもないが、まったくの別人だった。本物は赤い髪、青い瞳に眼鏡の筈。その3つがどこにも当てはまらない。


「この女性は伊崎未璃とは別人のようです」


「そんな訳ないだろぉ。ちゃんと写真を覚えて探したんだ。それに、お前、名前は?」


 白い騎士は伊崎未璃(仮)に訊いてみた。すると彼女は怒りをぶつける思いを込めて叫んだ。


「あたしは<日下部沙紀>! さっきから言ってる<伊崎未璃>とは別人よっ!」


 一瞬、空気が凍てつき、白い騎士は完全に動きを止め、沙紀を見つめて停止してた。祐介もロゥランドも、どうすればいいのかわからなかった。








「温い! 温いねぇ!!」


 赤子の手を捻るようにシルクの刀を弾き返す。連も応戦して右腕を狙い撃ち続けるが、命中しても効果が現れやしなかった。


「くそっ! 化け物がッ!」


 銃弾の尽きたマシンガンを放り捨て、大口径ライフルを握った。狙いは黄金の騎士の左足。杏奈が敵を誘っている間に足に大口径を撃ち込んで転ばせる。その隙を彼女が突き刺す。脳裏で浮かんだ作戦を実行に移した。


 銃口から飛び出た大きめの銃弾は空気を切り裂いて黄金の騎士に向かっていき、足に当たった。続いて膝に一発、脹ら脛にもう一発と、続けて撃った。


 さすがにこれには体を傾けてしまう騎士。大きく体を揺らして地に体が吸い寄せられていく。


 それをチャンスと見切った杏奈は刀をギラリと輝かせ、首筋の装甲が甘い部分めがけて突き刺した。


「あっぶねぇなぁ」


 しかし、体を倒しながら騎士は右腕で刀の動きを止めていた。すぐさま引き抜こうと力を込めるが、触手が刀を絡め取るように伸び、諦めて手を離した。


「だから言ってるじゃん。俺に武器は効かないの。ぜーんぶコレが取り込んじゃうわけ? ね?」


 ちょっと小馬鹿にした言いぐさが杏奈の神経を刺激する。


「化け物が! 何が<兵器>だ。最早<生きた鉄の化け物>じゃないかっ!」


 体を起こして暢気に伸びをする黄金の騎士。


「ん、まぁそうだろうなぁ・・・?」


 間抜けに杏奈と会話をしている隙を連は逃さなかった。瞬時に騎士の背中へまわり、祐介から預かったレールガンを構えた。銃口と背中の間の距離は数センチのみで、食らえば新兵器は無事でも衝撃で中の人は確実に致命的ダメージを与えられる。


「終わりだッ!!」


 トリガーにかけていた指に力を込め、銃口が輝き出す。その瞬間、目にも留まらぬ早さで飛び出した銃弾は騎士の背中を押し、数十メートル先まで吹き飛ばした。ガラスを割り、校庭にへ投げ出された騎士。重力の力によって地面に引き寄せられる。


「がッ!」


 完璧に倒したと確信をし、窓から見下ろした。


 だが、奴はそう簡単には地獄に堕ちなかったようだ。ゆっくりと体を起こして再起動した。その姿を見た杏奈は恐怖を覚えた。


「ここは4階だぞっ!? 何故生きてる!」


「でも、何とかなりそうだ」


 そう言った連の視線の先には、特別鍛えられたガイアの特殊装甲騎士団が黄金の騎士を取り囲んでいた。ここまでくれば、自分達で手を下す必要はないだろう。


「終わった、か・・・」


 安堵の溜め息をようやくつくことができ、膝に力が入らなくなった杏奈。連と杏奈は頭部の鎧を外し、外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。


「これほど気持ちのいい空気はないよ。・・・色々ありがとう、イバニズ」


「お礼より、未璃に謝ってこい。何年も会ってないんだろ」


「ああ。あの子と、一緒に生活できるならがんばってみるさ。私の今までの罪も晴らしてな」


 階段を掛け上がる音が響いた。何事かと重い切ったばかりの戦闘モードへ移った二人。だが、階段から現れたのは・・・。


「お姉・・・ちゃん?」


 姉に似た赤く背中まで伸びた長い髪。青い瞳に眼鏡。間違いなく、本物の未璃だった。


「未璃・・・ッ!」


 杏奈は何年ぶりかの妹との再会に、驚きと涙が押し寄せてきた。


「未璃・・・あなた・・・無事でここまで・・・!」


 徐々に近寄ってくる未璃。感動の再会だというのに、彼女はあまりうれしく無さそうだった。


「・・・お姉ちゃん、やっぱり賞金稼ぎだったの・・・?」


 息の詰まりそうな気持ち。感動は瞬時にして絶望へ変わった。


「・・・ごめん、未璃。お姉ちゃん、いけない人なんだ・・・。・・・ごめんね、本当に・・・」


 話す杏奈の声は徐々に震え、涙が溢れだした。


「私は・・・私は・・・・・・ッ!」


「・・・もう、いいよ・・・」


 杏奈は俯いていた顔を上げ、未璃を見た。未璃は杏奈に抱きついた。


「全部聞いたよ。もういいよ。一人で苦しまなくて・・・。お姉ちゃんだけで抱え込まなくていいのに・・・馬鹿。・・・私たち、姉妹でしょ・・・? だから、これからは私の側にいて。辛いことがあっても、二人で一緒に乗り越えようよ・・・ね?」


 何年ぶりかの未璃の体。あれだけ未璃の体に触れることを拒んでいたのに・・・自然と、彼女を抱けていた。大粒の涙が、いっぱいこぼれだした。




「感動の所悪いが、状況が変わった。―――くるぞ!!」


 ハッ気付いた杏奈は未璃から体を離した。


 先ほど突き破った壁と窓の大きな穴。そこへ一変した黄金の騎士が飛んできた。


「馬鹿だッ! あそこから飛んできたのか!」


 だが、騎士の様子がおかしかった。下で騎士団の攻撃を受けたせいか、火力に負けた装甲が崩れ、大破していた。が・・・。


「こいつ、人間じゃない・・・っ!」


 騎士の体が崩れた装甲の部分から見ることが出来た。そこには右腕に残る兵器の触手と機械の様な物が浸食しており、もはや体の半分が機械と化していた。


「力に溺れ、逆に体を乗っ取られたのか!?」


 黄金の騎士は先ほどと生気を感じさせず、無言にこちらへ向かって飛んできた。


「未璃、逃げろ!!!」


 連の叫んだ一言は、辺りへと木霊した。




 第9章 生きた鉄の化け物 完


 次回、最終章へ。

次回、最終章!!!

本日公開!

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