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神風ナイト  作者: Ringo
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第8章 傷ついた心が揺れ始める

こんなに台風に感謝したことはなかった。おかげで休校に・・・ッw


 昔、俺はこんな事を言った覚えがある。


「おおきくなったら、すごいがっこうにいって、いっぱいべんきょうして、はかせになるー!」


「じゃぁ、おれ、スポーツせんしゅになって、きんめだるいっぱいもらうー!」


「にいちゃん、うんどうできないじゃん」


「れんだって、べんきょうきらいじゃんか!」


 俺がまだ幼い6歳頃だったろうか。まだ<家族>がいたある日の夕飯。家族4人そろって楽しく食事をしてるときだ。俺と祐介は自分の将来を互いに言い合いっこして遊んでた。それを暖かく見守ってくれていた母さんと父さん。


 あんなに楽しかったのに、何で俺たちは捨てられたのか、よく分からなかった。


 あれから数年後、未だにどこへ消えてしまったのか分かっていない。


 あんなに楽しかったのに、俺たちを裏切った。


 だから俺は、誰も信じない。信じれるのは、自分と、祐介達と、この銃だけだ。


 友達とか、恋人とか、家族とか、そんな生温い絆なんか一瞬にして切り離される。その時に悔しさと苦しさを身に焼き付けたから。


 あの雨の日、俺達が捨てられた事を。


 だから俺は、誰も信じない。


 なのに、ここ最近の俺は何だ? 友達とか言うくだらない<しるし>を心の中で許し、信じているじゃないか。


 現に今、俺はこうやって・・・。




―――黒雲は後に血の雨を降らし、真っ赤な海をつくろうとしていた―――




 第8章 傷ついた心が揺れ始める






 現に今。一人の少年は皆を助けようとしている。


 体育館に呼び集められ、教職員生徒共に配列関係なく集い、ステージに立つ男に視線が集まっていた。館内、周辺には騎士がマシンガンを構えて待機と見張りを怠っていなく、一人ではどんなに連が良い腕を持っていたとしても太刀打ち出来ないだろう。


 こんな危険極まり無いというのに、騎士は、連は、皆を助け出そうとしていたのだ。


 本人も、何故リスクの高くなるというのに、ましてや全員を助けようとしているのか理解していなかった。


 体育館の屋根と天井の間にある狭っ苦しい空間を物音たてず忍んでいる。僅かな光が漏れる隙間から下の状況を確認することしかできないというのに。それでも彼は助ける気でいた。


「えー、皆さんに迷惑を掛けているのは十分承知の上です。ですが、本日皆さんを集めたのは皆さんの為なのです」


 騎士達とは違い、派手な装飾を胸元につけたブレイド社のスーツを着こなす男がマイクを握って話しを始めた。


「・・・どうか驚かないでください。現在、我々ブレイド社の追っている賞金稼ぎがこの学校に忍び込んでいるのです」


 ざわつく生徒と職員。すっと、校長がステージの前へと出た。


「そんな・・・っ。しかし本当だとしたら何故<ガイア>が来ないのです?」


 スーツの男は頷いた。


「実にそうでしょう。ですが、それについてはお答えできません」


「何故ですか?! それに証拠はあるので・・・」


 力強く校長が説得するのを無視し、男は目で合図を送った。すると素早く騎士が校長を取り囲み銃口を向けた。


 校長だけならず全員が驚き、叫び、身を震わせた。


「あまり時間はありません。分かりましたでしょうか?」


 校長も顔からは血の気が引き、黙って頷いた。


「あなた達もです! 我々の指示には絶対としてもらいます。その分、命の方は保証します。いいですね?」


(嘘付け、どうせ後で皆殺しのだろ。これが噂に聞くブレイド社の正体か)


 ブレイド社は火器、銃器といった兵器を製造・販売において業界トップを誇る会社である。だがその一方、ブレイド社には表と裏の顔があることも噂で流れていた。


 表ではただの製造から開発、販売をして儲ける大手業者であるが、裏では独自に兵士を鍛え上げ、賞金稼ぎとして依頼を受けていたり、他国と手を組んで戦争を起こし上げたりしようとしていると聞く。所詮は噂であってその様な事実は見つかっておらず、<ガイア>も怪しんではいない。


 だが、連の目の前で起きていることは、真実なのだ。


「・・・ッ」


 連は小さく舌打ちをして場所を移した。






「・・・やばいよぉ。私たちどうなっちゃうの・・・? ねぇ、みーちゃん?」


 集まる人の中にいた愛梨は、先ほどまで横にいた筈の未璃が消えていることに気がついた。


「・・・みーちゃん?」






「―――ッちょっと、痛いって! 離してよ!」


 鎧を纏った騎士に腕を捕まれて、未璃は校庭まで連れていかれていた。周囲は何十人と騎士が待ちかまえており、その後ろには大きなトラックが停まっていた。


「これはこれは、可愛らしいお嬢さんで。人殺しの妹にしておくのはもったいありませんねぇ」


 下睫したまつげが異様に長く目立つオールバックの男が、両手を広げて歓迎して迎え出てきた。騎士は未璃をその男に突き出すように押し出した。


 思わず足下がヨロケて体が傾いてしまう。だが、それをオールバックの男が素早く受け止めた。


「危ないなぁ。こんなに可愛いお嬢さんの顔を傷つけたらどうするのですか」


 男は未璃の肩を支えてあげたが、未璃は危険を感じ取って振り払った。


「おやおや、どうなされましたかな? ご機嫌が宜しくないのですか?」


 未璃の顔をじっと見つめる男。徐々に寄るものだから後ずさりをしながら未璃は言った。


「貴方達は一体何? 何で私を連れてくるの? 何でこんな所に来るの?」


 そのことか、と今思い出した言わんばかりに拳を手のひらへポンッ、と置いた。


「これは失敬。私はブレイド社の者、今回の作戦の本部長を勤めております、柏原かしはらといいます」


 丁寧に紳士な素振りでお辞儀をしてきて、未璃も軽く戸惑いながらお辞儀を返した。


「今回貴方をここへ連れ出したのは他でもない。囮となってもらうためですよ。<シルク>のね」


「<シルク>・・・?」


「そう、貴方の・・・実のお姉さんである賞金稼ぎ<シルク>は私達のと契約を裏切りどこかへ逃げてしまいました。そこで我々は貴方と人質に捕らえ、奴を呼び出そうと考え出したのですが・・・。予想外にも、奴は貴方の護衛として別の賞金稼ぎを付けておいたのですよ。これには流石に驚きましたねぇ」


「え・・・ちょっと待って」


 未璃が話を遮り、男は首を傾げた。


「おやぁ? もしかして・・・知らないんですかぁ?」


「さっきから何? あたしが人殺しの妹とか、賞金稼ぎとか・・・、お姉ちゃんの事、何で・・・?」


 未璃の不安と怯えを見て男は興奮した。不気味に花で笑って見せて。


「ふふ・・・。貴方のお姉さんは、実はですねぇ・・・」


 その瞬間、後方で何か不振な音が響いた。男は目をキッとキツく細め、そちらを睨んだ。


「ブレイド社、よく聞け! 貴様等は周囲の住民の安全を脅かしている! 次期に貴様等の制圧作戦が始まる。その前に我々に降伏を認め、教職員生徒共に解放、武器を全て放棄しろ! これは脅しではない。命令だッ!」


 胸にシンボルマークを付け、巨大なトラックに装備されてるスピーカーから男性の声が轟いた。その周囲にはガイアの騎士が綺麗に横へ列を並べて銃口を向けている。紛れもなく、ガイアがこの場へ救助に来てくれたのだ。


「おやおや・・・。思っていたより早かったですねぇ」


 他人事の様にくすっと笑う柏原。


「無駄に抵抗しない方が無難だぞ! さぁ、早く答えろッ!」


 めんどくさそうに溜め息を吐いた。


「それは貴方達ですよ」


 次の瞬間、一斉にブレイド社の騎士が飛びかかり、ガイアの騎士を皆殺しとした。明らかにブレイド社の方が数が勝っていたため、瞬時に片づいた。


 その血の海を見させまいと柏原自身が未璃の視野を遮るようにして立ち、こう言った。


「お嬢さん、ここに居ては無意味でしょう。とりあえず私と共に来てください。人質として大いに役立ってもらいますよ?」


 抵抗などしても無意味だと言うことを、この状況からして読みとった。仕方なく、彼らについていくことを未璃は同意した。


「利口なお嬢さんですね。嫌いじゃありません。将来がどうなるか楽しみです」






 ドゴォンッ!


 突如、巨大な爆音が体育館に轟いた。続いて同じ爆音が響く。同時にカーテンで外からの光が入らないこの場の照明が全て落ち、暗闇へと変わった。


 あまりに突然すぎて生徒職員だけならず、待機していた騎士までもが混乱していた。


「何だッ!」


 少し前、ステージで偉そうにしていた男は大声をあげた。


「分かりませんッ!」


 一人の騎士が驚きながらも直ぐに答えたが、男の不安は収まらなかった。


「北条作戦副指揮官! あれをッ」


 北条というのがこの男の名字のようだ。騎士が指を指した方向を凝視した。爆発によって埃が舞い、視界悪くなる一方だが、その白い煙の中に、生徒でも、教師でもないおかしな動きをするものを。


「あれは―――ッ!」


 忘れることは無かった。あの数週間前、北条が指揮官を努めていた実験場で、すべてをぶち壊した張本人を。建物や試作途中であった兵器のみならず、この実験さえ終われば昇進するはずだった夢も。


 北条はその瞬間、あの時の怒りともどかしさを思い出した。あの一件で副指揮官に落とされ、念願の昇進も取り消された絶望と悔しさ。


 気づけば拳を握りしめ、指先の色が変色し始めていたが、今の北条はそんな事は気にしなかった。


「奴だッ! イバニスだッ! 殺せェッ!!」


 その指示の通り、待機していた一人の騎士が体育館の端にある階段付近めがけて射撃した。射撃音の大きさに生徒達はさらに混乱し始めた。


 やがて射撃音が止み、煙も引いた頃、そのイバニスの陰は無かった。勝利を確信した北条は腹の底から笑った。


「ハハハ・・・やったぞ! 金の亡者めッ!」


「残念だったな」


 彼の耳元に囁かれた一言。その瞬間、北条から血の気が引き、先ほどまでの頬の赤みを思わせない程まで青ざめた。


 パンッ、と空気を裂く乾いた音。何が起きたのかすら分からなかった北条は、どうすることも出来なかった。


 それから遅れて、肉が裂け、血が噴水のように飛び出て、強く激しい痛みを感じ、北条は吠えた。


「全員入り口へ向かって走れ! 逃げろッ!!」


 北条の落とした拡声器を使って生徒教職員に伝えた。皆焦り戸惑いながらも逃げていった。それを無視して騎士達は銃口を連へ向けた。


 連は痛みで獣のように吠え続ける北条を無理矢理起こし、銃口を彼の側頭部へ向けた。


「どちらの立場が上か考えろッ!」


 北条は打ち抜かれた右足がうまく動かないまま、片足で立たされ、彼を盾に体育館を去った。


「未璃はどこだ? 面倒な事へなる前に答えろ」


「ふ・・・ふざけるな・・・誰が・・・」


 躊躇うことなく、連は先撃った箇所に向けてもう一発放った。


「がぁぁああっ!!」


 痛みが効いているのか、息も荒く、意識が落ちかけていた。


「早く答えろッ!」


「・・・校庭の・・・本・・・部・・・の」


 大体の場所が聞き出せたところで、言いかけの北条を付近のごみ箱に放り投げた。無抵抗にごみ箱へぶつかって鈍い音と共にゴミが散った。


 北条を背に廊下を駆ける連を、微かな意識の中彼は見続けていた。






「クソッ!」


 圧倒的な敵の数に連は苦戦を強いられていた。銃弾も残るは8発。そもそも一人で立ち向かう時点で間違っているのは百も承知だったが、連がやらなくては、大切なものが失ってしまうかだ。


「そもそも・・・俺は何を守る気なんだ・・・」


 柱を背に銃弾を回避しながら、ふと自分に問いかけた。


「俺が守るものは・・・金で結ばれた護衛対象者じゃないのか・・・?」


 様々な気持ちが彼の心を大きく揺さぶる。


「―――クソォッ!!」


 どこか変なもどかしさを振り払うように飛び出し、姿勢を低く構え、装甲の薄い関節、首もとを的確に狙った。4人もいた騎士はそれぞれたった一発の銃弾に打ち抜かれ、絶命した。






「・・・何? すでに賞金稼ぎがいた、だと・・・?」


 現地の司令塔となる大型トラックのコンテナ内にあるちっぽけな椅子に大人しく座る未璃に寄り、クイッと未璃の顎を持ち上げた。未璃は怯えずただ柏原を睨み付けていたが、柏原も本気らしく数10分前とは表情が強ばっている。見下ろしながら未璃を睨み、まるで自分の方が立場が上であることを示しているかのように見える。


「・・・何故お前を護衛している奴がここにいる。我々が占拠した時点から誰も進入は確認されていない。・・・どういうことだ?」


 さらに互いの息がかかる距離まで顔を寄せた柏原。それでも、未璃はいつの間にか彼女の中で強い意志が彼に負け時と対抗して背けようとしなかった。


「・・・お前等、一体何者だ・・・?」


「彼は―――」


 一瞬、未璃は喉から出かかった言葉を飲み込んだ。






 ガキンッ ガキンッ!


 銃のトリガーを引いても鉛玉はもう飛び出すことはなかった。隠し持った爆弾も底を尽き、残された武器はナイフ一本と絶望的な状況になってしまった。


 廊下の向こうからは虫のように湧いて出てくる騎士が止まない。正直、ここまで来たが勝つことは不可能である。


 それでもナイフをしっかり握り、先頭の駆けてくる騎士に飛びついた。


(死を恐れていない・・・?)


 連の心の中で、何故ここまでして戦おうとするのか理由を探してみた。


「うおぉぉ!」


 不意を突かれた騎士はのし掛かってきた連に押し倒され、首元を切り裂かれた。


(・・・今まではそうだったかもしれない)


「奴はもう飛び道具は残っちゃいない! 距離をとって撃てッ!」


 別の騎士が他の騎士へ伝えた。連に至近距離では挑まなければ、勝機があると考えたのだろう。


「・・・ッ!」


 小さく舌打ちして後ろへ大きく飛んだ。銃弾の雨を食らうよりか、避けた方がましだった。


(・・・でも、今は・・・)


 あと数メートルで教室がある。そこへ逃げ込めればこの場よりかは安全だ。だが、逃がすまいと鉛玉が連に食いつこうと飛んでくる。何発か、連の体を掠り、スーツを破り、肉を抉っていった。痛みを耐え、決死の思いで逃げ込んだ教室。でも、結局、彼に為す術は無い。このまま、死を待つだけだったのだ。


 それでも良かった。たった数秒だけでも時間が欲しかった。今まで連の心を揺さぶる正体を、暴けるからだ。


(・・・でも今は・・・守りたいものが、信じたいものが・・・増えたのか・・・?)


 彼の頭の中できりきりと張りつめていた糸がその瞬間をもって切り離された。同時に、自然と笑みが浮かびあがってきていた。


「そうか・・・俺、誰も信じない筈だったのに・・・。いつのまにか・・・信じて、楽しんで・・・」


 ぐったりと座り込み、彼の頬に一筋の涙が流れ始める。


「人を信じれなくなっていた俺を・・・助けてくれたんだ・・・みんなが・・・」


 次々と、連の頭の中に友の顔が浮かび上がる。もう、二度と会えなくなると、胸が苦しくなった。


「そうか・・・未璃は・・・俺の心を・・・開いてくれたんだ・・・・・・。だから・・・いつの間にか俺は・・・あいつを・・・」


「いたぞ! こっちだ!」


 当然、騎士達に見つかってしまった連。それでも、彼は逃げる気力すら湧かず―――否、もはや彼の耳に、騎士達の声は届いていなかった。


「・・・守る筈なのに・・・守られてたのか・・・」


「てこずらせやがって!」


「がんばりすぎたな、バウンティハンター」


「でも、みんな・・・ごめん」


 一人の騎士がゆっくりと銃口を連に突き立てた。


「・・・俺・・・みんなを守れなかった・・・」


 トリガーに力が徐々に込められる。


 ――――――・・・ごめん・・・未璃・・・――――――


 空気を裂く乾いた音が、校舎に一つ響きわたった・・・。




 第8章 傷ついた心が揺れ始める 完

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