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神風ナイト  作者: Ringo
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第7章 狂い始める日常

定期テストと期限が被ってるぅぅぅ

 窓の向こう、大きなグラウンドには何十台とブレイド社のシンボルマークを塗装した大型トラックが並び、そこから合計何百人とブレイド社が独自で鍛え創り上げた騎士が下りてくる。


(ふざけるなっ!!)


 窓際にいた連はその場を突如離れ、控え室に飛び込んだ。控え室に入って直ぐ右を向けば内線式の固定電話が設置されていて、ここからこの広い校舎の所々へ連絡を出来る。


 受話器を取り職員室へのダイヤルを押した。職員もこの状況に気付いているのなら何か分かると思ったが、受話器の向こうから出てくる音は、ツーッ、ツーッと寂しいものだった。


 内線までも既に切断されていたのだろう。連は強く舌打ちした。受話器を放り投げ控え室を駆け出る。残された受話器はコードによって宙を支えられてクルクルと回っている。


「ちょっと、神風君? どこいくのよ!」


 連を追って廊下を出てきた沙紀はどこかへ消える連の背中へ向かってそう叫んだ。だが、連の心にその言葉は届きすらしなかった。


 ちょっと廊下を走って男子トイレに着いた。掃除用のモップを握って天井の一つを強く突いた。浮いた天井をさらに一突きし、天井の小さな扉が開かれた。


 脚立を使ってその中へ入り、長く大きい銀色のケースを引っ張りだした。祐介がいざ、と言う時に備えて用意してくれた物。連は学校のこんな所に隠していたのだ。


 引っ張りだしたケースを開けて中からガバメントと呼ばれるハンドガンを二丁取り出し、マガジンを装填した。収納されていた隠密行動用スーツもその場で素早く着用し、予備のマガジンも腰に装備した。ナイフを腕に巻き付けるケースに収納し、簡易的な衝撃を受け止める頭部用クッションメットを装備した。


 次に携帯で祐介達に応援を頼もうと、開いた時だった。連の見た先の中に、大型のアンテナを取り付けてあるトラックを見た。恐らくそれは仲間と連絡を取るだけにあらず、妨害電波を流すか通信をキャッチされるかもしれなかった。


 それに、未璃の事も心配だった。彼女を人質に取り、杏奈か連をおびき寄せるのか、それとも端っから連を追って来たのか。今一ハッキリとしない点がある。


 あまり考え込んでいては時間が無くなる一方だ、とふらつく気持ちを無理矢理修正した。連は携帯をポケットにねじ込み、その他武器をセットして解放した屋根裏の扉へ入った。


 一方、校舎では誰もが異変に気付き、不安に怯えていた。その頃に校内放送が流れた。聞いたことの無い男の声は、速やかに体育館へ集まるように呼びかけてきた。


 連を追って廊下を巡る沙紀にもそれはちゃんと聞こえていた。だが、消えた連の行方も気になって無視していた。


「神風君・・・って居ないし」


 小さな声で言いつつ、多目的室の扉を開けた。普段使い道の無い部屋はただの倉庫と化していた。そんな所に人の気配などあるわけ無い。ゆっくりと後ろを振り返ろうとしたその時ーーー。


「見ーつけたぁ」






 ジディの家


 老人の家に堂々たる態度でソファに座っている祐介の表情は、珍しく不機嫌だった。彼が手に握っているのは携帯電話で、先日の仕事について色々とエクシード社から聞き出しているのだ。


「だからぁ、あんたらの依頼の内容が不十分だったんだっつてんだろぉ! 何が「新兵器の破壊」だ。詳しい情報もっと寄越せっての! お宅、アレについて何か知ってるんだろ? ・・・おいおい、だから今回はあんた等の情報不十分で失敗したって・・・。ふざけんな! 賞金はやらないだとぉ?! 何でそうなるんだよ! こないだもあんた等の依頼受け持ったけどさ、後日詳細を送るとかいって全然詳細を送んなかったじゃんかよ! それはどう説明する気だぁ?」


 知り合いとはいえど人様の家でこれほどまで騒ぐ人はなかなかいないだろう。


「・・・ったく、誰の家だと思っとるんだコイツは・・・」


 台所に一人居所無さそうにコーヒーをすするジディ。暇でしょうがないが、暫くすればキャンディが訪れる頃だったので、堪えていた。


 ジディの家独特のドアの開く音がした。暇つぶし相手が来てジディはそっちへ向かった。


「やっと来たか、キャンディ。もう祐介がうるさくてなぁ。ずっと暇だったんだわい」


 笑顔で玄関へ迎え出る。だが、ジディの顔から笑顔が消えた。


「―――お前さんは・・・ッ!」






「ああ。そう、分かった。賞金はそのままの額でいいから、その代わりちょっと幾つか武器を支給してくれ。うん、そうだな・・・」


 エクシード社との話は上手く進み始めた。祐介の表情もちょっと前より穏やかになりつつあった。


 交渉の最中、祐介の前にあるソファに見知らぬ女が座った。赤い髪が輝き、凛々しい顔立ちに鋭い瞳が目立つ女性、その美しさに交渉中であることを忘れさられた。


「じぃさん、この人誰だよ」


「馬鹿垂れ。お前さん達のクライアントだわ」


「・・・はぁ?」


 始めはジディの言葉を理解できず問い返した。とうとうボケが来たかとも疑ったが、ジディにひっぱたかれてしまうので言わずにいた。


「クライアント? 依頼者? ・・・まさか、あの護衛の・・・・・・!」


 祐介がハッと気付いたが、ジディは溜め息を吐いた。


「お前の頭はほんと鈍いなぁ」


 ジディも一人用の椅子に年老いた腰を下ろした。


「お前さんも言ってただろ。依頼者に一度は会いたいってな」


「って、わざわざ呼んでくれたのかよ」


 携帯の事を忘れて自分の横へ置いた。


「いや、私自らここへ来た。・・・もう、潮時の様だしな」


「・・・どう言うことだよ」


 突如祐介の前に現れた依頼者は、目の前にあった暖かいコーヒーに手を伸ばした。


「ブレイド社が本格的に動き出すだろう。そうすれば、あんた達も巻き添えになる。この仕事、中断してもらえないか?」


「はぁ? 訳分かんねぇよ。それにあんた、こないだれ・・・じゃなくて<イバニス>と話してたんだろ? そこでいきなり騎士に襲われたんじゃねぇのかよ」


 女がにやり、と笑った。潤った唇がまた綺麗であった。


「私が、この<シルク>がそう簡単に死んでたまるか」


 <シルク>、という言葉に祐介は疑った。連からある程度話は聞いていたが、こうも本人に言われると驚かざるを得ない。


「それじゃ、何であんたはブレイド社に狙われてるんだよ。喧嘩でも売ったのか?」


 手に取ったコーヒーカップを両手で支え、冷たい表情に変わる。


「・・・私が奴らの依頼から逃げてきたからだ」


「逃げてきた?」


 杏奈はこくりと頷く。


「数年前、私は高校生だった。家族4人で仲良く暮らしていたんだがな。ある日、母が病死してから父親がショックのあまりに鬱に落ちてしまったんだ。仕事も首になり、賭事を重ねて借金を作って・・・、私はそんな父親を捨てていた。ただ、未璃と暮らせる生活を手に入れるため、卒業して直ぐ働いた。その間、まだ小6だった未璃が、あんな親の世話を必死でしてくれていたんだけどね・・・」


 杏奈が奥歯を噛みしめた。


「そんな未璃の努力も報おうとせず、あの男は・・・麻薬に手を出しやがった・・・ッ!」


 ジディと祐介は、その語られる話を黙って聞いていた。






 それは、私が仕事から帰ってきた頃だった。


 8時を過ぎた頃。一人の杏奈がオフィスレディの格好で雨の中傘も差さずに駆けていた。


(晩ご飯まだなのに・・・仕事で遅れて。未璃もお腹空かせてるだろうな)


 勤め先の部長から帰り支度際に突如申し出された仕事。そのお陰で普段の帰宅時刻を大きく過ぎてしまっていた。杏奈の脳裏では可愛い妹の未璃が空腹で倒れている姿が見えていた。そんなことを考えると、一層歩を速めた。


 手に握られた買い物袋が無惨に揺れ踊る事を忘れ、杏奈は家の前へと来た。


「ただいまー。ごめんね未璃。仕事が長引いちゃって・・・」


 気味の悪い静けさが杏奈に異変を感づかせた。


「未璃?」


 部屋へあがって明かりの灯るリビングへ向かった。


「―――ッ!!」


 絶句。今杏奈が目にした光景はそれしかすることが出来ないだろう。買い物袋も足下に落ち、袋からぐしゃりと嫌な音がするが彼女の耳に届かなかった。


 ・・・青ざめた父親が、狂気に走った様に幼い未璃の首を掴み殺そうとしていた。未璃は微かに開く瞳が今にも閉じそうだった。


 麻薬による精神状態の不安定が起こす事件は数々ある。その内の一つが麻薬中毒者が幻をみてパニックに陥り人を殺してしまうというものだ。まだ、その時の杏奈には何故自分の父親がこんな事をしているのか分からなかった。


「お父さん止めてッ!」


 杏奈の必死の呼びかけにも答えず締め続ける。杏奈は父親の体を掴んで無理矢理未璃と引き離した。腕に力がある割には足下がふらついて吹っ飛んでしまった。


 未璃を抱き抱えて未璃に問いかけた。


「未璃! 未璃! 返事して!」


 苦しそうに肩で息をする未璃は掠れた声で返事をした。それを見てホッと安心をする杏奈。


 だが・・・。


 ふと、後ろを振り向いた。倒れた筈の父親は姿を消し、台所へと移していた。痙攣する腕で握られた白く輝く物。


「おとお・・・さん・・・」


 未璃が震えながら手を伸ばす。


 気色悪い笑みを浮かべながら白く輝く包丁を心臓へと突き刺した。真っ赤な血が、勢い良く飛び出す。


 その瞬間を、瞬きせず見た杏奈。そして、偶然父親の自殺を自身の目で捉えてしまった未璃。二人は、絶句したまま床が赤く染まっていくのを見ているだけだった。






「後々知ったよ。あの男が麻薬をやっていたことにね」


 いつの間にかコーヒーカップから離れていた杏奈の手はぎゅっと強く拳を握られていた。


「・・・何も助けてあげられなかったんだ。苦しい思いをさせてしまっていた未璃に二度とあんな思いはさせるわけにもいかなかった。父親の作った借金も多額でな。未璃を高校へしっかり通ってもらいたかった思いもあった。・・・だから私は賞金稼ぎになることを決意した」


 話し終えた頃にはくもりの日の朝の様な沈んだ空気と化していた。


(・・・連が未璃本人から聞いたのとちょっと違うな。 まぁ、友達に自分の父親が麻薬やってただなんて知られたくないか)


「で、本題だ。お前さんがバウンティハンターになった訳はよーく分かった。だが、何でお前さんの妹を護衛せにゃならんのだわ。自分で守ってやった方が早いだろうて」


「・・・私じゃだめさ。数週間前、ブレイド社から実験施設の護衛を任されたんだ」


 祐介は脳裏で何が閃いた。


「数週間前って・・・。まさかあの時の赤いバウンティハンター!?」


「何で知っている?」


 苦笑いを見せ、首筋を掻いて目をそらす。


「・・・いや、あの時奇襲をかけたの、俺らだったし」


 暫くポカンと口を開けて放心する杏奈。次に鼻で笑い、頬を緩ませた。


「そうか。お前たちだったのか・・・世の中狭いものだね。・・・それで、だ」


 再び話を主軸に戻した。


「あの仕事は見事あんた等に潰されてさ。その原因を私に擦り付けて来やがったのさ。それを、無視して賞金だけもらって去ったんだが・・・。どうやら気に食わんらしく、私の妹を人質にでもして捕らえるつもりなんだろうが。もう直接私を狙ってきてもいるし、その内奴らを潰しにいく」


「アホかお前さんは! 一人でブレイド社と太刀打ち出来るわけ無かろうが! それに残された妹はどうする!」


 杏奈はもう一度鼻で笑った。


「未璃は・・・一人でやっていけるよ。私のこの人を殺して汚れた手で、未璃に触れる事なんて出来ない。あの子だって、もう私の事を忘れるさ」


 机に平手を押しつけ急に立ち上がった祐介。その顔は普段脳天気な彼からは見ることが出来ない強ばった表情だった。杏奈もジディもあまりに突然すぎて驚いていた。


「ふざけんな・・・っ! あんたの妹は、あんたを一番待ってんだよ! 勝手な事言いやがって、一人取り残されて行方の知らない姉貴を待ち続ける妹の気持ちはどうなんだ!! ちったぁ考えられねぇのかよッ!!」


 直後、沈黙が続いて、わざとらしくジディが咳をした。


「お前なぁ・・・。それより、エクシード社はどうしたんだ」


 はっとして祐介は青ざめた。


「まずい、忘れてた!」


 そう言って慌てて携帯を握り2階へ駆けていった。ジディも安堵の溜め息をつくと杏奈に話し出した。


「すまんなぁ。あいつ等は兄弟で賞金稼ぎをやっとるんだが、ちっと複雑な過去を持っててな。親に捨てられたんだわ、子供の頃な」


 目を大きく開いて真剣にジディを見つめて聞き始める。


「捨てられた? あなたがあの兄弟を拾ったのか?」


「まぁ、そんなところだなぁ。親が居ないあの嬢ちゃんに妙に自分達が重なって見えるのかもしれん。あいつがあんなに怒鳴ったのは始めてみたの」


「そうか、あいつ等も苦しい過去を・・・。私の行動は、未璃を悲しませているのかな・・・」


「そう気にすることはないさ。というより、気になるなら自分の目で見てみたらどうだい?」


「・・・ああ」


 その杏奈からの返事には心が無かった。


 ふと、台所から人声が響いてくるのにジディは気づいた。そちらを覗くと、詰まらなそうに椅子に腰をかけ、小さな古いブラウン管式テレビで昼ドラを観賞している女装大男がいた。


「キャンディ! お前さんいつの間に・・・?」


「ジディ達が暗い雰囲気つくりながら語りだしたところ等へんからよぉ。もう、あんまりテンション低いもんだから挨拶もロクにしないで上がっちゃったわよん」


 相変わらず強烈なキャラクター性を表すキャンディは、今日も一段と化粧が濃く、派手な服を身につけていた。杏奈もそれを目撃した瞬間、未璃同様に吐き気に襲われた。


 顔色を急激に悪くする杏奈に気づいたジディは、一歩前へ出て吐き気の原因を隠すような動きをとった。


「初対面じゃ死人がでるかもしれんしな! あんまり思い出さん方がええぞ」


「今ちょうどいいところなのよ。静かにしてよぉ」


 丁度テレビのドラマは感動のシーンを迎えるところだった。若い男と女がゆっくりと体を寄せ、互いの唇が重なる―――その瞬間だ。あと1秒もすれば最高の場面を見れたというのに、別番組がそれを割って入ってきた。


「ああー! んもう、こんな時に何よこのニュースぅッ!」


 怒りと興奮でブラウン管テレビを激しく揺らすが、画面に映るアナウンサーの男は動じるわけがない。それを分かっていても、もどかしさをぶつけていた。


 すると、アナウンサーの男は慌てたようすで話し始めた。右上には「緊急速報」とも記され、ジディは暴れるテレビを抑え顔を寄せた。


 乱れていたキャンディも、前代未聞の事件にテレビの揺れを止めていた。


「へぇー、ついに町中が戦場となったのかしらぁ。ねぇ、ジデ・・・ィ?」


 振り返るとジディは顎を外したくらい大きく開け、唖然とし微動たりと動きやしなかった。どころか、顔面には気味の悪いほど汗を流していた。


 不安になって一声掛けてみるが、まったくの無反応だった。体を揺すってみるとようやく顎ががくがくと動き始めーーー。


「何だとぉぉぉー!!!」


 老人は大声を上げた。家をも飛び出す音量に祐介までその声が届いていた。


「何だよジジィ! 急に大声上げんな!」


 文句を口に強いながら祐介が下りてくるが、ジディはテレビを掴んで力んだ表情のまま映像を凝視していた。


 その大声には客人である杏奈も驚かされ、彼女も台所へと集まっている。


「どうした。何かあったのか?」


「どーせ大好きなグラビアアイドルであーだこーだ騒いでんだろ?」


 と呆れながら杏奈と祐介、キャンディは揃って画面を覗く。


 その映像を目にした瞬間、二人は血の気が一気に引いてしまった。


「えー、番組の途中ですが緊急速報が入ってきました。今日午後1時頃、都内の公立高校が騎士によって人質になった模様です。騎士の数は百を越えていて、ブレイド社の騎士の可能性が高いとのことです。現在ガイアと自衛隊が現場付近まで来ているそうです。繰り返します―――」


 アナウンサーの男は何度も何度も繰り返し、同じ文を読み続ける。


「おい。あのテレビに映ってる高校って・・・」


 画面が切り替わり、事件現場の高校の写真が映し出され、次に生放送へと代わった。


「こちら上空からヘリにてお伝えしています。御覧ください! 何百人との騎士が高校を占拠しています!周囲の住民は避難を終えたと連絡が入りましたが、未だ生徒と教師は拘束されている模様です!」


「・・・奴ら、こんなおおごとにして何する気だ・・・?」




 第7章 狂い始める日常 完

がんばんきゃ・・・まぢで・・・(汗

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