第6章 彼らの長い一日の始まり 後編
ほんと・・・日にちやばい・・・orz
未璃に作戦中止の申し出と同時に彼女に嫌われた賞金稼ぎ・連。連は屋上に突っ立って唖然としていたが、暫くすると重い歩みで教室へと帰った。昼食休憩と昼休みの時間を1時間もある。だが、彼の場合もう何がなんだか、脳内で全てがシェイクされている状態。まともに会話できないどころか、食欲すらわかずに机に顔を伏せて寝込んでいた。
(・・・くそっ)
何が彼女の気に障る事だったのか、必死に脳裏を巡った。だが、答えになるものはこれといって浮かばなかった。
(・・・俺、どうすりゃいいんだよ・・・)
こんな依頼受けなければ良かった、と連の心に嫌な意見が一つ浮かぶ。
(そうだ、こんな依頼なんか受けなかったら・・・!)
もしもこんな依頼を受けていなかったら、今頃自分は何をしているだろう、と少し想像してみた
毎日なかなか来ない仕事を部屋で筋トレしながら待ち続ける。そしてようやく来た仕事も、「人殺し」の依頼だろう。その依頼通りに作戦を決行し、邪魔する奴をまた殺し、殺しては殺し、ターゲットを殺し終えたら賞金を受け取ってまたつまらない日々を送る。いつの日か借金を全額返済したら、祐介と共に今度は復讐をしにかかるだろう。そして復讐を終えた矢先ーーーまた、退屈に仕事を待ち続ける。
何かが心に突っかかる。連の生まれて初めて体験したもどかしさが、連の心の中で膨張していく。心の底から、何もかも嫌気が刺した。
(この仕事をしてなかったら、もっとつまんなかったかもしれないのか・・・?)
とにかく、連は今は寝るべきだと、そう思いこんだ。そして少しずつ、意識が遠のいていった。
それから数10分後 屋上
昼食休憩の始め、連達のいた屋上には彼らに代わって亮と信也がフェンスに寄りかかる形で座り込んでいた。食いかけの弁当を横に携帯ゲームに気がそっちのけでいた。
亮が熱くなって何度も何度もボタンを連打している。すると亮のゲーム機の画面には赤い時で「YOU LOSS」と大きく表示された。
亮は両腕をバンザイの形で上げ大声を上げた。
「だぁー! また負けたぁーっ!!」
その反応を横から楽しそうに見物する信也。にやりと今の亮にとって憎たらしくて堪らない表情を見せつけた。
「お前ホント下手くそだな。レーシング系のゲームセンスないだろ?」
亮は腕を下ろして口を尖らせた。
「俺はシュミレーションの方が好きなんだよ!」
負け惜しみを言う亮を鼻で笑ってやった。
この昼休みはずっと亮と信也はゲーム対戦をしているだけであった。時間を忘れて続けていたが、まだチャイムが鳴っていないからしてもうそろそろ教室へ帰るのが頃合いだった。
「なぁ、そろそろゲームやめて教室戻ろーぜ?」
大きくあくびをして腕時計を見る。
(あれ?)
信也は自分の目を疑った。時計の指す時刻はとっくに20分以上過ぎていたのだ。
「時計壊れたかな。何かもう昼休み過ぎてるんだけど。なぁ、亮そろそろ教室帰ろうぜ」
亮がいつの間にか立ち上がってグラウンドを見下ろしていた。しかも彼が普段見せることのない青ざめた表情。
「亮? どうしたんだよ」
そう言って信也も立ち上がって亮の眺める先を見る。普段亮が屋上からグラウンドを覗くとしたら、スコープ片手に女子のスカートがめくれる瞬間を待つ時ぐらいだ。その時の彼の表情は、目尻は垂れるは、鼻の下が伸びるは、イヤラシイの他以外無い。
それが今、何故か口をぽかん解放し、青ざめて言葉を失っている。
どうせいつものつまらん冗談だと思って遠くを見る。それを見た瞬間、信也も顔をひきつった。
「何だあれ・・・!」
保健室
ベッドの一つだけ、カーテンで仕切られている。そこには声を殺しながらも涙を流す未璃が寝ていた。
「みーちゃん・・・」
それを少し離れたところからカーテン越しに見守る愛梨。彼女が何故今泣いているのか、その理由は未璃本人と親友の愛梨にしか分からないだろう。
「おかしいわね・・・そろそろ予鈴がなってもいいのに、故障かしら」
壁掛けの時計を見て不審に思い始めた保健の先生が電話と手にとって連絡をした。職員室に内線で通信しているのだが、ツーッ、ツーッ、と切れて一切の交信が出来なかった。
「おかしいわ、職員室にも繋がらないなんて。何かあったのかも」
そこでふと、愛梨は聞き慣れない音が彼女の耳に届いた。微かに耳に伝わる音は、何か外から響いていた。その音に誘われるように窓を覗くと、そこには―――
「―――っ! せ、先生! 見て!」
呼ばれて先生も共に窓から校庭を見渡した。見た途端、先生は顔色を悪くし、絶句した。
「何よアレ・・・!」
教室
どのくらい寝ていたのだろうか。連の脳内時計は浅い睡眠のせいで狂っていた。重い瞼がゆっくりとあがると、何やら騒がしい景色が目の当たりとなった。
教室にいる生徒の全員が窓により、何かを見下ろしている。窓際に近い位置にある連の机の周囲にも、窓から我も見ようとして溢れた者が囲んでいた。
(・・・うるさい)
再び瞼を閉じるが、不自然なまでに騒いでいるこの場では安眠することは難しい。それでも尚顔を伏せ続ける連には、誰かの会話が耳に入ってきた。
「何アレー? なんかトラックとかいっぱい来てるじゃん」」
「ってあれ、なんかトラックから人が沢山出てきたぞ?」
「あ、あれテレビで見たことある! ブレイド・コーポレーションのマークだ!」
「それに何か鎧着てるぞ? 何人いるんだよ、銃もってるぜ、あの騎士達」
鎧、ブレイド・コーポレーション、騎士・・・。それらの単語が繋がり、連の脳裏に電撃が走った。
周囲の人も驚くくらい激しい勢いで連は立ち上がった。連の横にクラスメートの沙紀もいた。彼女もまた、いきなり怖い顔をして飛び跳ね起きる連に驚いていた。
「ちょっと・・・神風君どうしたの・・・?」
その言葉は連には届かずにいた。連は力ずくで窓に寄る集団をかき分け、窓枠の前にたどり着いた。そこから校庭を覗いた。
「―――何で、何であいつ等が・・・ッ!」
何十人なんてものじゃない。100人以上の騎士が標準装備のマシンガンを手に取り、桜坂高校の広い校庭を占領していた。
(何故だ? 本格的に伊崎の姉貴を殺しにかかる為ここまで公になるようなことをするか?! 後々会社の存続が問題になる! いや、それとも・・・)
最悪の事態が、目の前で起ころうとしていた。連は生唾を飲み込んだ。急に吹き出した汗が、連の頬を伝っていった。
「・・・俺の正体が・・・?」
第6章 彼らの長い一日の始まり 完
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