第6章 彼らの長い一日の始まり 中編
中編、後編、一気に公開しますよ~。
そして、その日の昼食休み時間―――。
伊崎未璃とその親友愛梨は、神風連を屋上へと呼び出していた。
屋上のフェンスに寄りかかり、そこから眺めることができる町の景色を思い詰めた瞳で見つめている未璃。少し距離を置いて仁王立ちで待ちかまえる愛梨。
暫くして、屋上の重い鉄製のドアが金属同士の擦れ合う音を立てて開いた。ドアから現れたのは、勿論神風連本人であった。
連も普段と変わらぬ無愛想な表情・・・それより少しばかり重い顔つきである。
こんなどこまでも続く蒼い空に、似合わぬ表情を揃えた彼らはこれから一体、何を始めるのだろうか。
「全部、聴いたよ」
最初に口を開いたのは未璃だった。彼女は連に振り向くことすらせずに会話を続けた。
「あなたが何者で、一体何故、この場にいるかも」
連も覚悟した出来事だ。彼自身が全て明かしたのだ。公開などできない。それでも、連は口を開かずに黙っていた。
「あの後、ニュースで流れてたよ。私の住むマンションに賞金稼ぎが現たって。マンションで戦闘、けが人数名、死亡者0、未だ賞金稼ぎの行方は不明・・・」
「―――でも、その時の賞金稼ぎが、今私達の目の前にいる―――」
仁王立ちで構えていた愛梨も会話に入った。
「私もみーちゃんから話は大体伺ってる」
遠回しの会話に嫌気が刺した連は、単刀直入に言った。
「で、何で俺を呼んだんだ」
未璃は顔を俯かせて振り向いた。
「数週間の間、ご苦労様でした。もう、いいよ。無理して私に近寄らなくて」
答えにならない答えに連の頭の中はぐしゃぐしゃに荒れた。
「訳が分からないんだけど」
そう冷たい一言を吐いた。もうこんな喧しい事はウンザリだった。連には未だハッキリとしていない物事が多すぎて、余計な事に首を突っ込みたくない、故の苛立ちだった。突然襲撃してきた騎士、ブレイド社との関係、祐介とロゥランドが接触した敵の新兵器、そして杏奈の行方ーーー。これらの全て、何か裏での繋がりがあるに違いはない。そちらに気が集中し、本来の依頼はそっちのけになっている。
未璃は声を荒げて強く言い放った。
「信頼してた私・・・バッカみたい・・・ッ!」
拳をぎゅっと強く握り、微かに震える。下唇を噛んで何か堪えている。そんな姿の未璃など一度も見たことがなかった。
「もういいの、依頼で私の近くにいるの・・・。所詮誰かにお金つぎ込まれて寄ってるんだものね。今まで優しくしてきたのも、偽善なんでしょ?」
「・・・違う、俺は偽善で君に近寄ってる訳じゃ・・・」
言いかけの途中、大声を上げて割り込んだ。
「じゃぁ何であなたは私の側にいたのッ!? 仕事だからでしょ? あなたが真面目なのは変わらないと思う・・・それでもお金で雇われた人・・・賞金稼ぎなんて、信じられない・・・!! だから私は誰に狙われていようと、自分で何とかする・・・」
彼女の頬が少し紅潮して太陽光で輝く涙がこぼれていた。言い返そうとしたがそれを見た瞬間、言葉が出なくなった。
「―――だからもう、私に関わらないで、近寄らないで・・・・・・!!」
そう強く吐いて涙を隠すように下を向いたまま、彼女はその場を去った。連に、何故彼が涙を流したのかその訳を知りたかったが、聴く暇など無く彼女は連の視界から消えた。
連はただ、その場で立ち尽くしているだけであった・・・。
後編へ・・・。
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