序章 鎧を纏う騎士
空想科学祭2009出展作品!「神風ナイト」初公開!観覧してくださった方、応援してくださった方本当に心から感謝を申し上げます。ありがとうございます!
―――騎士 それは、何かを守るために忠誠心をもち、使える者―――
―――騎士 それは、何かを守るために鎧を纏い、武器を握る者―――
―――騎士 それは、何かを守るために命を懸けて戦う者―――
―――・・・騎士 それは・・・―――
騎士なんて、もう存在しない。何せ時代は遠い先へ進んでいったからだ。こんな時代に、全身を鎧の様なもので包んだ者がいたら、そいつは重度のコスプレ、否、ただの変態だ。第一、重い鎧を身に纏いながら戦いへ出るなど、効率が悪い。もっと軽く動き易くする必要があるだろう。
でも、使い方は違えど、まだ騎士は存在した。忠誠心を持たない騎士。ただ、賞金の為に命を懸け、武器を握り、返り血を浴びる。そんな者達を、<バウンティハンター>と呼んでいる。俺たちは・・・。
ビィーッ ビィーッ ビィーッ
とある施設内に、警報器の警告音が響き渡る。施設内全体に響くその音は、何者かが侵入した時のみに発する。この施設内に今、侵入者が発見されたのだ。
警備の者達は駆け足でその侵入者のもとへと向かう。すると、路地を曲がった先に進入者の影があった。侵入者もそれに気付き、その場から逃げ去る。警備員は標準装備の機関銃を握り侵入者へ向かって一斉放火をする。トリガーを引いた時には既に別の路地に逃げられ無駄撃ちと化していた。
「くそっ、急げ! まだそう遠くへ逃げていない。見つけ次第射殺せよ!」
警備員の中の一人がそう告げると、幾つかのグループに別れ、侵入者の背を追った。
「・・・おい、予想よりも発見が早いんだけど気のせいか?」
侵入者の男は、施設内を駆けながらインカムで何者かに連絡を取っていた。状況が彼の予想とは違うようだが、それ程焦った様子を見せていなかった。
「ああ悪ぃ。警備システムのハッキングでダウンさせる前に見つかっちまった。今ロゥランドを向かわせてある」
通信相手の男はそういうと通信回線を一方的に切り離した。「いつ頃合流するか」と聞こうとするつもりだったのが、インカムからはザーッという不快な雑音しか聞こえない。先を良く見ると、2、3人の警備員が現われ、声を上げて応援を呼んでいた。小さく舌打ちをし、両手にハンドガンを握って正確に警備員の心の臓を捉え、打ち抜いた。
警備管理室では、施設内のいたるところに設置された監視カメラが侵入者の姿をハッキリと映していた。付近に待機している警備員に応戦させるが、全て一方的に全滅されている。警備員の技量自体低いものではないのだが、侵入者が怖ろしいほどの速さとテクニックでこちらを遥かに上回っているのだ。
「まだあのバウンティハンターを抑えられないのか?!」
他の警備員とは少し装飾が派手な男は、堪えていた怒りが思わず出てしまう。拳を壁に叩き付けたが、何もかもうまくいかないもどかしさが勝っていた為、痛みは特に感じられなかった。
「向かわせたチームは全て全滅されています。もうあれを使うしか打つ手は・・・!」
その場にいた者全員が息を呑んだ。先程の男がある回線のスイッチを入れた。マイクに向かって放った声は、何故か震えていた。
「格納庫はどこだ?」
侵入者の男は再び回線をONにした。だが、返答は帰ってこなく、雑音が鳴り続くだけであった。
ドゴォン!!
背後から爆音が轟き、男はすぐさま振り向いた。暫く煙で見えなかったが、通路の壁を突き破って何者かが現われた。男はハンドガンを煙の先へ向けた。いつでも攻撃できるようにトリガーにも指を掛けた。
煙の中から重々しい鉄が、地を踏んで此方へ一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる音がした。さらに警戒心を高め、ハンドガンを両手で握り、生唾を飲み込んだ。
「―――ッ!!」
突如、赤いカラーリングを施されたロボットの様な物が煙の中から飛び出してきた。男は迷わずトリガーを引いた。銃弾の全てが当たった―――筈だった。照準にミスは無い。だが、銃弾は全て貫かず弾かれただけであった。
「鎧?!」
気付いた時にはもう遅く、飛び出してきたロボットに体当たりをされ、数メートル先まで吹っ飛んでしまった。受身は何とか取れたが、ダメージが無いわけではない。立ち上がるのに力が入らなかった。
「くそっ! バウンティハンターか・・・ッ!」
愚痴を吐いて、膝が震えつつも立ち上がる。その時には再び鎧のロボットはこちらを向き、腰に装備してあったガトリングを握った。
絶体絶命であった。
目の前のロボットは大型のガトリングを装備しており、こちらはガトリングに耐えられる装備ではない。隠密行動用のスーツは主に柔らかく動きやすい作りであるため、銃弾を易々をと通してしまう。又、逃げ道もないのだ。あと50メートル位先へ走れば左右へ分かれる通路があるが、そこへ向かおうとするだけであの巨大なガトリングの餌食にされる。立ち向かうにも、こちらの装備はハンドガン二丁にマガジンのみ。どうやっても、勝てる見込みは無かった。
(・・・畜生!)
奥歯をきりきりと噛み締め、覚悟を決めようと心が揺らぐ。ロボットがガトリングの銃口をこちらへと向け、トリガーに指に掛けるのを見た。心臓の打つ音が段々と早まっていく。
ドガァンッ!!!
不意に爆発音が響き、ロボットは後ろを振り向く。そこは煙が砂埃のように立ち上がっていて、その中が何なのか、判断することが出来ない状態であった。すぐに煙は引き、天井に巨大な穴が開いて、そこからまた銀色のロボットが降りてきた。
2メートルを軽く越すであろう巨体を持つ銀色のロボットは、両手に持つ突撃銃を赤いロボットへ向け、銃口が火を噴いた。赤いロボットは腕を体の前でクロスさせ、防御をする形をとるが、装備していたガトリング砲に着弾したため、使い物にならなくなった。一見事態が狂い男に逃げるチャンスが現われたと思えるが、赤いロボットに当たらず飛んで来た弾が男の足や体の動きを制するようにギリギリの所へ飛んでくる。男は結局逃げられずにいた。
やがて左右の銃弾が底を尽きると怯んでいる赤いロボット目掛けて突進―――数メートル先まで吹っ飛んでいった。銀色のロボットは男の横へ寄り、手を差し伸べられた手を借りず男は立ち上がった。
「俺まで殺す気かよ、ロゥランド!」
先程通信相手との交わしていた会話の中で出てきていた<ロゥランド>とは、この鋼の鎧を持つロボットの事であったのだ。ロゥランドと名付けられたロボットは「申し訳ありません。ですが敵の不意を打ち、怯ませるにはこれが最も有効と思われたので」とご丁寧に言い訳を述べた。
兎にも角にも、赤いロボットが怯んでいるうちに逃げなくてはならない。2人はロボットを背にして出口へと向かった。
施設の外へと脱出が成功し、迎えに現われた大型トラックにロゥランドはコンテナへ、男は助手席へと飛び乗った。運転席の男・・・先程からの通信相手である。彼はすぐさま車を発進させ、施設から逃げ去った。
「おい、祐介! まだ格納庫を破壊していないぞ!?」
祐介と呼ばれた運転手の男は焦る事無く冷静に答えた。
「ロゥランドにお前を助けさせる前に破壊させておいた。お前が色々と暴れてる最中にね」
自分が結果、無駄な仕事をしていたことを知らされると、なんだかムカムカとした。あれだけ危険な目に遭っていながら結局無意味に終わるなど、納得が行く訳がない。男は腕を組んでふんっと鼻を鳴らした。そんな機嫌の悪いのを察してか、インカムからロゥランドが慰めの言葉をかけてくれた。
「ですが、私が動けたのも蓮騎士が敵を困惑させてくれておいたお陰の結果です。蓮騎士の力がなければあれ程速やかに事は進まなかったでしょう。」
蓮・・・と呼ばれた男。いや、正確には少年の方が正しいだろう。体付きは大人にも見えなくはないが、顔にはまだ幼さが残っているようにも見える。
そんなことを言われても、所詮ロボット。AIに慰められてもちっとも気分は良くなりやしない。
「とりあえず依頼は完了したんだぜ? さっさと帰る方がいいだろ」
祐介にも慰められ渋々ながら気持ちを落ち着かせる事にした。
バウンティハンターに破壊された施設から赤いロボットが現われた。施設は戦闘が激しかったため、火災もあらゆる所で発生していた。トラックが遠く先へ逃げていくのを見ると突然インカムから男の声が響いた。
「貴様! なぜ逃がしたのだ!! お陰で武器格納庫はボロボロだぞ!!」
怒りで声が枯れ掛けていた。責任を求められたが、ロボットは・・・
「お前達が私を出撃させるタイミングが遅かったのが原因だ。 私には関係ない」
ロボット・・・であるはずだった。だが、実際その姿は単なる鎧を全身に実に纏っただけであり、中からの声は女性の声が響いた。自分の責任ではないと主張する鎧の女に、さらに声を荒くした。
「なんだとぉっ!? バウンティハンターと交戦して逃がしたのは貴様以外だもいないのだぞ!!」
「あんた等が寄こした情報と違っていたからだ。向こうはバウンティハンターにアーマードナイト(A.N.)までいたぞ? それはどうなんだ」
言われた通り、自体は予想外でもあった。バウンティハンター1人と判断をしていたのだが、実際向こうは人工脳を組み込んだロボットまでいた。そこを突かれると、男は唸るだけであって言い返すことは出来なくなってしまった。
「とにかく私に関係ない。約束通り金は頂くぞ」
そういうと女は回線をこちらから切断し、頭部の覆うヘッドアーマーを外して縛っていた長い赤髪を解いた。逃げていくトラックへ踵を返して施設へと戻った。通信相手である男は、再び拳を壁へ打ち付けた。またしても痛みは差ほど感じなかったが、拳が変形しそうないやな感覚を覚えた。
「クソッ! 金の亡者めッ!!」
序章 鎧を纏う騎士 完
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