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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

退職勇者、嫁を連れて故郷に帰る

退職勇者、嫁を連れて故郷に帰る【外伝】 〜転生王女さまは勇者と結婚したい〜

作者: 大貞ハル

『退職勇者、嫁を連れて故郷に帰る』の王女様、シルヴァーナ視点になります。

後から考えたアレなので、矛盾とか多いと思いますが、ふんわり読んでもらえれば。

「すまない…」

「な…ぜ、貴方が、謝る…の?」


傷つき倒れた少女は少年に抱き起こされた。

少年の涙を拭おうとした手が血塗(ちまみ)れで、少年の顔を赤く染める。


「守れなかった」

「いいえ、貴方は既に、私を…、救ってくれ、た、わ」


魔族に囚われていた少女を救い、一度は彼女の故郷へ連れて行った。その後、少女には大きな力が秘められていたために囚われていた事が分かり、彼女の身を守る意味もあり一緒に旅をしたのだ。


「でも…」

「泣いてちゃ、だめだよ。私の、大切な、人達を、守ってくれるんでしょう?」

「ああ、約束する。今度は絶対だ」


「ん…」


あとは口がはくはくと動くだけで声が出なかった。

死ぬのは怖かったが、彼の腕の中で眠りにつく事が出来る事に喜びすら感じていた。




 悲しまないで。さようなら私の勇者…




目覚めると侍女のモニカ・ヘンゼルがハンカチで涙を拭いてくれていた。


「あ…」

「すみません、起こしてしまいましたか」

「ううん、普通に起きただけ」


モニカはハンカチを渡すとベットから降りた。

大きなベットだ。下からでは手が届かないのでベッドに上がって涙を拭いてくれていたのだ。


ベッドで寝ていた少女の名前はシルヴァーナ・ヘイデンスタム、ヘイデンスタム王国の第3王女だ。


「起こしてさしあげた方が良いかとも思ったのですが、泣いてしまった方が精神衛生に良い場合もあるかと」

「ありがとう。悪い夢ではなかったから」


「さようですか…。また、例の勇者様の夢ですか」

「そう。悲しいけど温かな夢。…この国にも勇者様がいらっしゃるのよね。予知夢かしら」

「いえ、何度も申し上げております通り、この国の勇者様は既に30歳。お嬢様の夢に出てくる様な少年ではございません」

「そう、なのよね…」

「それに、王女であり、そのお歳で聖女の称号を賜るお嬢様に万が一にもその様な事が有っては困ります」


シルヴァーナは自分が神聖術の才能を持っていると知ってから、日々研鑽に励んだ。

いつか勇者の力になりたいと言う子供にありがちな夢だったが、彼女の場合は寝ている時に見る方の夢の影響もあって、その集中力は並々ならぬものがあり、神聖術において特に優れた者に与えられる聖女の称号を弱冠10歳で獲得していたのだった。


「もう一眠りなさいますか?」

「いいえ、もう起きてしまうわ」


ベッドから降りるとモニカがお茶を入れてくれていたので、ひとまずそれを飲む。

モニカはシルヴァーナの事を良く理解してくれていたので彼女が選んでくれた服に外れはなかったが、毎回確認してくれるので素直に首を縦に振る。服を着替え、汚さない様に肩に布をかけて髪を纏めて貰えば朝の支度は完了だ。

この世界の化粧品は質があまり良くない事もあり、さすがにまだ11歳の肌に化粧は早い。


朝食はだいたい姉とだ。たまに側妃である母とも一緒にとる。


シルヴァーナには2人の姉と兄と弟が居る。

当初子供が出来ずに悩んでいた王は側妃を迎えたが、それでも子供はできず、王の身体の問題だと分かって魔法や食事療法で対処されてからは早かった。結局、正妃が男子を2人、女子を1人、側妃が女子2人を産んだ。


最初は正妃も側妃も女子を、後継は欲しいと頑張った結果が第一王子とシルヴァーナだった。

その後、忘れた頃に弟も生まれた。


そんなわけで、最後に生まれた弟以外は歳が近い。


シルヴァーナは神聖術を使う関係で神殿などとも関係が深く、付属する治療院や孤児院の慰問なども頻繁にしていた。治療院では神聖術で治療などもしたが王族が平民の子供と妄りに触れ合うわけにもいかず、孤児院では寄付がてら院長に挨拶をする程度の活動が主だった。


「わーっ」「わははは」「きゃーっ」「おりゃーっ」


いつになく子供たちが騒がしいので庭の方を見ると、そこには30歳くらいの大人が居た。

その姿を見た瞬間、シルヴァーナは固まり、そして全てを理解した。


胸が高鳴る。


あの夢は未来の話ではない。過ぎ去った過去の記憶だ。それも、自分が生まれるよりもずっと前。


「これはお姫様、いや王女殿下、かな。王族に対する言葉遣いとか分からなくて申し訳ない。私はタクヤ、タクヤ サカイと申します」

「いえ、気にしないでください。私はシルヴァーナ・ヘイデンスタムです。勇者タクヤ様に比べたら私など…」

「もう10年以上も前のことです。実際あなたは噂ぐらいしか知らないでしょう?」


そう言ってタクヤは笑った。

14年前、タクヤは仲間達とこの大陸を廻り、魔王とその配下や魔獣たちと戦って勝利した。

全てではないが夢で見たので知っている。


「で、でも、今でも現役の勇者として活躍されているのでしょう? 魔物の討伐とか」

「ええ、でもそれを言ったら貴方も現役の聖女ですよね。素晴らしい才能だ」

「えと、あの…」


タクヤの優しい笑顔を見て言葉に詰まる。

記憶にある勇者からだいぶ歳をとっているが同じ笑顔だった。

唇が震える。喜びと悲しみがない混ぜになって襲ってくる。


とは言え、このような事で感情をコントロール出来ないのは、王女として、まだまだだと反省するシルヴァーナだった。




「間違いありませんわ。タクヤ様こそ私の勇者様です」

「どうしたのですか?」


モニカが困っている。


「夢で見た以上の事を思い出しました。私はタクヤ様に会うために生まれてきたのです」

「………」


お嬢様はまだ11歳。今は夢見る少女なのだから応援すべきか、流石に三十男はやめておけと止めるべきか。


「声に出てますよ、モニカ」

「はっ、すみません」

「貴方の気持ちは分かります。成人の15歳までは大人しくしているつもりです」

「15になったら動くのですか」

「もちろんよ。その時は応援してね」

「…はあ………」




この国の貴族は12歳から3年間、王立の学園に通い学問とともに社交などを学ぶ。

と言う建前で結婚相手を探すために子供を集めるのだ。

15歳で成人なので早ければ在学中、もしくは中退して結婚という形になる。


「やっぱり、今年度は生徒が多いようね」

「そうですね」


これまでも王女が2人居たわけだが、今年はそこに王女シルヴァーナと、さらには王太子になるであろう王子まで入学するのだ。教育自体は家庭教師で十分という家でも学園に通わせない手はない。


シルヴァーナはと言えば、城から出る機会を増やす事で、勇者と近づこうという作戦だったため、他の貴族など眼中になかったのだが、思わぬ伏兵が現れた。


腹違いの兄である第一王子のベングト ヘイデンスタムがいちいち絡んでくるのだ。


一応彼とて王族なので、平民や下級貴族とは比較にならない教育を受けてはいるが、シルヴァーナは物心付いた頃から勇者と出会って共に世界を救う使命を持っていた、と本人は思っていた、ので、魔法、彼女の場合は神聖術、から、学問、体術や馬術に至るあらゆる事に対して、常に研鑽を積んできた。ベングト王子とはスタートラインもレベルもまるで違うのだが、それが気に食わないのだ。


しかも、彼女を守る加護は凄まじく、物理的な嫌がらせは一切効果がない。

そうなると、目の前で嫌味を言うくらいしか手がなかった。


そして、ベングトが直接の言い合いでどうにか出来る様な相手ではなかった。

その事がさらにベングトの神経を逆撫でした。


だが、トドメを刺したのもシルヴァーナだった。


「良い加減になさい。私に嫉妬する暇があったら自分を磨いたらどうですか。そんな事では王太子にすらなれないかもしれませんよ」

「な、なんだと。私は第一王子だ、この私を除いて何が王になるというのだ」

「そうですね。例えば私は聖女の称号を賜っていますが、この国には勇者様がいらっしゃいますね。どうでしょう、私が勇者様と結婚すれば、国民は遊んでいる貴方より、私と勇者様がこの国を治めた方が、とならないですかね」


公共の場、学園内での爆弾発言だった。

つまり5年後の事件の元凶は彼女だったと言っても過言ではない。


その場に居た半数は王子に発破をかける為の虚言だと思っていたが、その後、王女が勇者にアプローチをかけているという噂がまことしやかに囁かれた。


そんな噂が流れて焦ったのは王子以上に王子の後ろ盾であった貴族達だった。

王子は学園を去り、英才教育が施されることとなった。



「はあ、勇者様はまた魔物退治に行ってしまわれたのね。しかも他国への支援だとか」

「それがあの方の仕事ですから」


テーブルに向かうシルヴァーナにお茶を出すモニカ。


「ありがとう」

「それにしても、勇者様にアピールするのは成人してからの予定ではありませんでしたか?」

「あら、恋愛的なアピールはまだ一切していませんわ」

「………」


「とりあえず、成人してしまえば、ほとんどの上位貴族は結婚までは行かなくても婚約は済ますだろうから、落ち着いて勇者様を籠絡出来るのだけど」

「籠絡はどうかと思いますが…」


シルヴァーナは着々と美しく成長していると自負していたが、それでも相手の勇者タクヤは30過ぎの大人だから焦ってアピールし過ぎれば返って子供扱いされて終わりである。焦りは禁物だ。だが手抜きもできない。


「誰かに先を越されては元も子もないの」

「………」


主人のあまりにも真剣な声に返事すら出来ないモニカだった。




「おかえりなさいませ、タクヤ様」

「ああ、ただいま帰りました。王女様」

「シルヴァーナとお呼びください」

「うんむり」


帰国した勇者との茶会の席を設けてもらった。

勇者は全国、さらには周辺国にまで行くので、基本的には国の中央にある王都を拠点としている。


「出来れば、この国のこと、この国の置かれている状況のこと、勇者様の立場から見た話をお聞かせください」


「…この国は16年前にあった魔王との戦いの傷跡が癒えていない。正直持ち直すのは難しいだろう」

「そう、ですか…」

「…殿下は、聖女でしたね」

「はい」

「………」

「…?」


「この国は魔王軍の残党が残り、至る所が汚染されている。残党の魔族や魔物は俺でもなんとか出来るが、浄化して回るのは無理だし、それが成されなければ永遠に終わることはない、んだが…」

「それは、私にお手伝い出来るということですか?」


目を輝かせるシルヴァーナを意外な顔で見つめるタクヤだった。




それから2人はたくさん話した。お互いのこと、国のこと、これからのこと。

既に卒業資格は持っているシルヴァーナは、タクヤと2人で、とは行かなかったが、騎士団やモニカ達を連れて国中を浄化して回った。

タクヤは素直にシルヴァーナの活躍を褒め、シルヴァーナはそれを喜んだ。


決して男と女の仲では無かったが、大人と子供の関係は脱する事が出来たと思った。


16歳のある日、王都に立ち寄った際に父王に頼んだ。勇者タクヤと結婚したいと。

意外な事に、あれよあれよという間に婚約が決まり、再び王都を離れた。婚約者として。


そして17歳のある日、国中と周辺国のかなりの範囲を浄化し魔物も討伐して、再び王都に戻ると、謁見の間に通されるのだった。国王不在の謁見の間に。





「こちらに来た際に神様に用意していただいたお金を運用して、2人で暮らしていけるだけの額が確保できるところまで持ってこれましたわ」

「…えーっと、ありがたい事だけど、普通に働いて生活できるようにはなりたい」

「それはもちろんですわ」


シルヴァーナもすっかりタクヤが生まれ育った街に慣れ、高校卒業を控えていた。

大学も2人一緒に通う事にした。

世界を救った特典とでも言うべきだろうか、こちらの知識が頭に浮かぶ能力と、高い記憶力などの能力を持っていた。おそらく、こちらの人生とあちらの人生、両方覚えてられるよう、2倍以上には最低でもなっているのではないだろうか。その記憶を処理するための能力も同時に上げて貰った。そんなところだろうか。


実際にはシルヴァーナは特に加護と言えるような力で守られていたりする。


もしもこちらの世界でも世界を平和に導くような活動をするのであれば、さらなる力が貸し与えられたりするかもしれないが、先のことはまだ誰にも分からない。


「そう言えば、シルヴァーナはやはり向こうでの俺みたいな体格の男が好きなのか?」

「いえ、そんな事はありませんが?」

「そうか。いや、こちらの世界であそこまで追い込むのはなかなか難しいし、する必要もないからどうしようかと思っていたんだ。俺的にはどっちでも良いと思っているからな」


とは言え、トレーニングが習慣化していてこちらの世界に帰ってきた直後に比べれば格段にたくましくなっているタクヤだった。


「そもそも外観に惹かれたわけではありませんが、今のタクヤも好ましいですよ」


今、シルヴァーナは以前よりも鮮明に10代の勇者タクヤと旅した前世の記憶を思い出せるようになっていた。


今日も転移した時に同い年になったタクヤと並んで歩く。平和な街を。





今回は物語として組み立てたんじゃなくて、書きたいネタを縦に並べただけなので、お話として面白いかと言われると、正直自信ないですが、普段書いてるやつが面白いかと言われたらそんな事はないので(オ

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