プロローグ
きれいな青空が天井に広がっている。今日はどうやら『晴れ』のようだ。しかし、この世界には『風』はない。部屋の窓から見える光は寸分たがわず、太陽の光の成分を模してはいるが『太陽の光』ではない。
俺は、転生したあの日から風も光も感じていなかった。この世界の人間にとっては当たり前のことかもしれないが、俺にとっては『異質』であった。
「おーい、リョウ‼ そろそろ時間だぞー仕事しようぜーまぁ、仕事が来てるかどうか知らんけどなー」
相棒の声がドアの外から聞こえてくる。
相棒は俺がこの世界に来てから十分すぎる程、面倒を見てくれた。口には絶対に出せないが、すごく感謝している。
俺は、とりあえず立ち上がり、ドアの横にある生体認証ロックの画面に手を当てる。
「よう、おそようさん!! 二ホンのダイガクセイってのはほんとに寝坊助だな」
「ほっとけ、っていうか仕事が来たら、部屋の端末に通知が来るんだから毎日毎日オフィスに行かなくてもいいだろ。非効率だ」
俺がそう言うと、相棒はやれやれといった表情で首をすくめる。
「ほんと、リョウってアホだな。仕事の時とは大違いだわ」
「いや、俺は当たり前のことを、現に俺ら以外のメンバーは…… 」
オフィスの扉の近くまで行くとまだ五歳くらいの女の子が扉の近くでうずくまって泣いていた。
相棒は俺が動く前にすぐ少女の近くに行き、同じようにしゃがみ肩を抱く。
「お、どうしたお嬢ちゃん、せっかくの美人が台無しになってるぜ」
「みみちゃんがいなくなっちゃったの……」
「みみちゃん? 」
「うん、カレンのおともだちのねこさん…… 」
「それは大変だ! よっしゃ、俺らに任せておきな! 探し出したる! 特徴とかいなくなった状況とかお兄さんに教えてくれ! 」
俺はまたかとため息をつく。相棒は基本的にいい奴――というよりはいい奴すぎるがためにこのように100%金にならない仕事を安請け合いする。
基本的にはうちの会社は『秘密結社』のはずなのに社長がこの調子だから、近所の人たちにはこのように便利屋扱いを受けている。
「な、リョウ、オフィスに行かなかったら小さな涙を見逃すところだったんだぜ? それでもお前はまだ毎日出勤することに疑問を感じるか? 」
まぁ、それもこれもひっくるめてこれが相棒のいいところであり、俺もそこが気に入ってこんな訳のわからない世界に転生させられても、何とか希望を失わずに生きてこれてるんだけどな……
「それは結果論、あといくらクライアントが小さな女の子だったとしても報酬の話はしろ、俺たちはボランティア団体じゃないんだぜ」
「リョウ、お前鬼だな…… まぁ、とりあえず聞き込みとか始めようや。リョウはマックスに連絡とって猫探索アプリをインストールしとけ」
俺は本日二度目のため息をつきながら、オフィスでインストールの準備をする。
俺は、正直この世界のことが好きじゃない。簡単に命が失われ、常に国家から監視を受けて、すべてが効率良く機械に計算されて人間が動かされている。自由に恋愛をすることも国家から禁じられており、機械が計算して最適な人間をマッチングさせ計画的に子を『作る』。その人間の有能度合で作っていい子供の数が決まっている。
俺はインストール完了を確認し、右上のタブレットに猫の特徴を入力する。
「おい、相棒、聞こえるか? 猫は三番街のハイネさんちの屋根で日向ぼっこしてる。迎えに行ってやれ」
相棒からの応答はない。
俺は相棒の位置をディスプレイで確認し、何かと戦闘中なことを確認する。
この世界ではこんなのは日常茶飯事だ。
だが、俺も久しぶりに戦闘をしたくなったので手伝いに行ってやろう。そう思い立ち、戦闘用アプリを開き目にコンタクトを入れる。
これが今の日常。これが現実。
不定期更新になるとは思いますがぜひよろしくお願いいたします。