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164 遥佳はデートして、カディミアは模様を描かれた


 マジュネル大陸でも南の方にある緑蛇の里の周囲には、赤や黄色、橙色やピンクと、とても色鮮やかな花が咲き誇る森が広がっている。

 そこの居住区である洞窟ハウスも、とても楽しい。

 遥佳達は、緑蛇新聞社長・ルイスの姉であるリリアの家に滞在していた。洞窟といっても、窓もあって普通の家の壁が岩でできているような感じだ。

 こうしてお茶を淹れてリリアとお喋りするのも楽しく、遥佳は思ったよりも大蛇一族の生活に馴染んでいた。

 今日はお寝坊さんのリリアを待たず、朝から近くのお店へ買い物に行ってきたのだ。帰りは通りがかった緑蛇のお兄さんが送ってくれた。


「ハールカちゃんも慣れたもんだわねぇ。最初は尻尾からじゃないと乗れなかったのに」


 遥佳の淹れたお茶を飲みながら、リリアはしどけない姿で微笑んだ。

 薄手のシルクガウンを軽く羽織っただけの格好は、普通ならばだらしないとされるものなのだろうが、リリアならばとても色気が漂い、眼福だったりする。

 ただ、昨夜のお客さんだった男の人のお茶は出さなくていいのだろうかと、そこが最初は気になった遥佳だったが、なんだかへろへろになった男の人達が、毎朝、洞窟ハウスの外に転がっているのを見る日が続いて、今となっては「気にしない」というスキルを習得していた。


「尻尾の先から乗る方がもっと大変って学んだんだもの。リリアさん、マーコットの石、とても似合ってるわ。その黒髪がとても神秘的だから余計に似合うのね。素敵」


 あまりにも緑が濃くて黒にしか見えない髪を軽く結い上げて、ピンクやオレンジの色合いが混じった赤い石の簪でまとめているリリアは、シルクのガウンと共に情事の名残りを感じさせる色っぽさだ。


「ありがとうねぇ。せっかくだから(かんざし)にしてみたのさ。そう言ってくれると嬉しいねぇ」


 最初はあまりにも性的に乱れているような気がして気絶しそうになった遥佳だが、全く遺恨のない男女関係だったものだから、思ったよりも受け入れるのは早かった。

 蛇の一族は嫌がる相手に無理強いすることをせず、遊びの内はあっさりとしたお付き合いを心がけているらしい。ただし、本気になったら別である。


(私、頑張ったわ。ちゃんと蛇に乗れるようになったんだもの)


 木々が生い茂る中を移動する際、大蛇の背に(またが)って移動してもらえば楽で速い。言うまでもなく、遥佳はなかなか跨ることができなかった。

 仕方なく尻尾の先からうんしょうんしょと頭の方まで跨った状態で移動し続けて座るようにしていたのだが、さすがに時間がかかりすぎることに気づいたのだ。

 今では、「えいやっ」と、崖の上や階段の上といった場所から低い位置で待機している大蛇の背中に全身を使って飛び乗り、寝そべった状態からどうにか跨るようにする方法を習得したのである。

 

「だけど、この鱗って本当に便利ね。誰もがここまで連れてきてくれるもの」


 首にかけておいても相手が気づいてくれなければ意味がないだろうと、遥佳の為に額を飾る輪っかが作られて、そこにルイスの鱗がペンダントトップのように吊り下げられた。だから、遥佳の額には緑蛇の鱗がゆらゆらしている。

 これから遥佳があちこちに行くと聞いて、そこの行き先によって、その輪っかにその種族のものをつければ大丈夫だろうと、そんな感じだ。


「この辺りは色々な蛇がいるからねぇ、お互い様さね。で、今日はヴィゴラスの兄さんはどうしたんだい? いつもハールカちゃんにべったりなのにさ」

「それがね、・・・ひどいのよ。信じられる? ここの人達、たとえ大人でも一定以上の体力がある人にしか手を出さないって知ったら、私は確実に安全だからって、恋愛遊戯(ラブゲーム)講習会に行っちゃったの。信じらんない。いくら、いくら蛇さん達が愛の必殺射手だからって」


 つい遥佳だって涙ぐんでしまう。最近のヴィゴラスはあまりにも自分の言葉を聞いてくれなさすぎる。

 グリフォンが大蛇の色気と口説き方を学んでどうするというのか。


「ああ、まぁねえ。あたしらの場合はどうしても相手の体力や精力や気力、そして相手の好悪の情を見極めないとお話にならないしねぇ。だけど、いいことじゃないのかい。男女の機微に疎いより、そこは上手な方がいいだろ、ハールカちゃんだって」

「そういう問題じゃないと思うの」

「そういう問題さね」


 これも勉強と思ったらしく、ラーナとリリアンも行ってしまった。

 ドラゴンは蛇とも近い性質を持つらしいが、蛇のように相手の精気を絞りつくすといったことはしないそうで、だからこそ特別に参加できるとなったら学んでおこうと思ったらしい。

 サフィルスはただの好奇心である。


「ハールカちゃんも可愛いのに、恋愛に臆病すぎるんだねぇ。今の内に何度でも失敗しておかないといけないってのにさ」

「失敗って、・・・それもどうかと思うんだけど」


 最初から失敗前提の恋愛とはどういうことなのか。

 遥佳は眉毛をへの字にしてしまった。


「別に一生添い遂げる相手と最初から最後まで恋愛相手は一人だけなんて決まってないもんさ。一発で失敗のない恋人の選択をしろと言われちゃあ、誰もが困っちまうよ。それにねぇ、ハールカちゃん。本当はもっと愛せる男に会ってないだけかもしれないだろ? だけどいるかいないか分からない相手を初めから知っておくのも無理ってもんさ。だから人は時に別れて新しい恋をすんだろ」

「そう、なんだけど・・・」


 理屈ではそうなるのだろう。だけど自分はきっと恋に破れることも、心変わりすることも耐えられない。

 だから臆病になる。普通の人間づきあいですら怖じ気づく自分にとって、あまりにも強い感情が付き纏う恋愛は震えが止まらなくなる程に怖い。

 遥佳は、俯いた。


「あまり真面目に考えるこたぁないんだよ、ハールカちゃん。恋も愛も、ただの人間づきあいの延長さ。特別に思いすぎると大事なものを見失っちまうよ」

「そんなにも強くなんて、・・・なれない」

「そんなことはないさね」


 リリアは、その白く長い指で遥佳の頬をそっとなぞった。


「何かを失くすと思うから怖いだけさ。だけどねぇ、ハールカちゃん。心と体を触れあわせたところで、失うものは何もないんだよ」

「・・・リ、リリアさんはそうでしょうけど」

「大丈夫さ。ハールカちゃんだってその気になれば簡単なもんだ。覚悟を決めた女は強いもんだよ」

「はあ」


 そんなものだろうか。


「マーコットちゃんだってそうだろ? カイトの兄さんも弟のつもりが、結局は捕まっちまったんだろうしねぇ。・・・だけどマーコットちゃんはそれがどんな結果になろうと後悔しないだろ。いつかカイトの兄さんが心変わりしたとしても、その恋が間違いだったなんて思わないさね」

「どうなのかしら」


 あの真琴ではカイトが心変わりしたとすれば、ストーカーと化して何かをやらかすような気がしてならない。後悔するのは真琴ではなく、真琴に纏わりつかれる相手ではなかろうか。


「まあ、あの兄さんが心変わりするとも思えないんだけどね」

「それは言えるかも。カイトさん、優しすぎるのよ」


 カイトと真琴が一緒にいる様子を思い出し、リリアと遥佳もお茶を啜るように飲んでしまう。

 何故ならカイトは真琴をとても可愛がっているからだ。必要以上に甘やかされ過ぎだと、遥佳ですら言いたくなる程に。


「何も考えないでいられたなら、きっと後悔しないでいられるのかもしれないわ」

「さあねぇ。だけど後悔のない人生なんてないもんだからね」


 リリアの言葉に、遥佳はそうかもしれないと思う。


「ヴィゴラスを止める前に、私が強くならなきゃいけないのね」

「まあ、ぼちぼちさ。安心おしな。ハールカちゃんは誰からも愛される子さね」

「ありがとうございます、リリアさん」


 だけど自分は知っている。自分は誰からも愛されるわけではないことを。

 遥佳は、そっと斜め下に目を落とす。


(私はただ、嫌われにくいというだけだわ。本当に愛されるのは、人の感情をこそこそと(うかが)っているような私じゃなく、自分に嘘をつかない優理や真琴なの)


 自分はただお情けで皆がいてくれるだけなのだ。

 イスマルクのように。


(それでも良かったの。ずっと変わらずにいられるなら)


 男と女として考えるより、家族として恋愛感情など排除して暮らしていたかった。

 それが、自分の我が儘だと分かっていても・・・。






 マジュネル大陸の、緑蛇の里がある森は、とても色鮮やかな花が咲いている。緑の色も濃くて、原始の森とはこんな感じだろうかと、そんな気にさせられた。


「だけど虫も多いのよね。イスマルクの虫除けがあってくれて良かったわ」

「ハールカは肌も繊細でいらっしゃいますもの。ちゃんと塗りつけておいてくださらないと」


 同じ獣人や魔物達には警戒される大蛇一族だが、遥佳は弱すぎる子だから精気を吸い取るなんてことをしたら大変だと、どの蛇獣人達も見かけたら真っ先に保護してくる。

 おかげでちょっとした散歩でも見かけた蛇獣人が案内をしてくれたり、絶景スポットを教えてくれたり、小さな崖など危険な場所がある時には付き添ってくれたり、とても面倒見がいい。

 そうと知ったラーナ達は、安心して遥佳を一人で外出させていた。今も微笑んで、虫除けの入った小瓶を差し出してくる。


「補充は大丈夫ですから、たっぷりつけておいてくださいな、ハールカ。それで今日は青蛇の男の子とデートですの?」


 リリアンも遥佳の頭を可愛らしくお団子にまとめて、ピンクのリボンを結んでくれた。


「デートなんかじゃないわ。だけどね、お買い物を手伝ってくれたお礼をしようとしたら、綺麗な花が咲く場所を案内してくれるって言ってくれたの。だけどそれって、全く私がお礼できてないわよね?」

「そんなことないわよぉ。ハールカ、可愛いもの。男の子だって、一緒にお花畑に出かけられたら、そりゃ嬉しいわ。楽しんできてね」


 サフィルスは窓枠に腰掛けて、赤い果実を(かじ)りながら応援の構えだ。


「別にハルカは今から具合が悪くなるのではないか? 無理して行かなくていいのだ。顔色だって今日はよくない」


 室内では一人だけ、不貞腐れながらブツブツ言っている存在がいる。


『そういうことをやってる限り、ヴィゴラスの兄さんはそこ止まりだろうねぇ』


 だが、リリアにそんなことを言われ、本来は完全阻止したい蛇獣人の男の子とのデートを阻止できずにいた。


「何を言ってるのかしらね、この駄幻獣は。ハールカの顔色は全く悪くありませんわ。あなたの決めたことが全てですわ。好きになさっていいのですよ、ハールカ」

「ありがとう、ラーナ。・・・お花、楽しみにしていてね、ヴィゴラス。じゃあ、行ってきまぁす」


 いつも優しいドラゴン達にぴったりな綺麗な花があると嬉しい。お弁当を入れてあるバスケットに、帰りには花を摘んで帰ってくる予定だ。

 ()ねているヴィゴラスの頬にキスすると、遥佳は慌てて部屋を出た。


(というより、早くここを出たいわ。ヴィゴラス、すっごくすっごくどす黒い空気を撒き散らしているんだもの)


 遥佳だって考えたのである。ちゃんと自分も踏み出すべきだと。


(リリアさんの言う通りだわ。友達関係だって喧嘩したり後悔したり反省したりしながら、思いやりとかを身につけていくものだもの。私だって頑張れば男の子とも普通にお付き合いできる・・・・・・こともないかもしれないけど、そういうこともないかもしれないし、だからそういうこともないかもしれない・・・あ、駄目だわ。わけ分かんなくなっちゃった)


 蛇の獣人達は、少年少女の内から、あまり生命力のない相手には手を出さないようにと徹底して学ばされるそうだ。

 人間の遥佳では、10才の子供蛇ですら親切に面倒をみてくれようとするので泣けてくる。だが、相手の精気を吸い取ると言われる程に蛇獣人は濃厚なスキンシップが通常仕様である以上、仕方ないのだとか。


(それってちゃんと自分達のことを理解し、コントロールが出来ているってことなのよね。自分達の特性に目を逸らさず真正面から向き合っているから、前向きに取り組めるんだわ)


 自分はそれができていただろうか。心が読めてしまうことに怖じ気づき、結果として他の誰よりも自分が自分に向き合っていなかったのではないか。

 遥佳は改めて反省した。

 だからこそ、ここで自分は色々な人と交流してみるべきなのだ。大人の余裕で自分を大事にしてくれるような、年上の人ばかりではなく。

 同世代の10代の男の子とのデート。考えてみれば、初めてではないだろうか。


(リリアさん、ありがとう。ラーナとリリアさんって、ヴィゴラスを黙らせられる最強(ベスト)同盟(タッグ)ね)


 半袖のベージュ色のシャツに茶色のズボンをはき、その上から色鮮やかな刺繍をほどこされた裾の長いポンチョみたいなものを羽織った遥佳は、額に緑蛇の鱗をつけて待ち合わせの広場へと向かった。その黒髪にピンクのリボンを揺らしながら。




 待ち合わせの広場に行くと、青の大蛇一族だというジェドはもう来ていた。遥佳を見つけて、軽く右手を挙げてみせる。

 彼は短いパンツを穿き、上半身はやはりポンチョみたいな物を羽織っていた。


「ハールカ。おはよう、そんなに慌ててこなくてもいいのに。転んじゃうよ」

「ごめんなさい、ジェド。もう来てくれていたのね。おはよう」


 ジェドの切りっ放しのような髪は肩甲骨ぐらいまである。青い髪なのだが、その青が濃すぎて黒い髪にしか見えない。そして黒い瞳をしていた。

 肌の色は白くて細身だ。


「ハールカってば本当に体力なさそう。来るの見てて、バスケットに振り回されて飛んでいくんじゃないかって思ったよ」

「ひっどぉい。そんな意地悪言うなんて。私、頑張って走ってきたのに」

「ははっ。ウソだって。さ、それ持つよ。楽しみにしてたんだ。人間の女の子なんて、ここまで来ることはまずないしさ。僕が一番に案内するだなんてとても嬉しいよ」


 遥佳が持っていたバスケットを左手でひょいっと持つと、ジェドは右手を差し出してくる。遥佳も左手を差し出して、手を繋いだ。


「じゃあ行こうか」

「それだけ奥地にあるんでしょ。私もそんな場所に行けるだなんて嬉しい」


 歩きながらドキドキしてしまうのは、照れ臭いからだ。


(こうして考えると、本当にヴィゴラスって男の人なのね。ジェドより手が大きいもの)


 ジェドが頼りないわけではない。やはり遥佳より大きな手だ。それに遥佳より筋肉質で力強い。

 だが、ジェドにはまだ完成されきっていない年頃の危うさがある。それでいてもう子供ではない。


「ジェドってば手も大きいのね。羨ましいわ。私もそれぐらい大きくなりたい」


 自分よりも背の高いジェドを見上げた遥佳は、唇を尖らせてしまった。


「食べて鍛えるしかないかなぁ。だけどハールカは小さくて可愛いし、それにハールカより僕の方が小さかったりしたら、それはそれで落ち込むよ」

「そうかしら」


 自分より年上だと分かっている幻獣や獣人や魔物達に子供扱いされてもしょうがないと思えるけれど、やはり自分より年下の少年だと思うと、遥佳も年上としての矜持が少し頭をもたげてきてしまう。


「ハールカってば可愛いね」


 そのことに気づいたらしく、ジェドはちょっと立ち止まって、軽く額にキスしてきた。

 そうして何ごとも無かったかのようにまた歩きだす。


「本当はさ、ハールカを乗っけて行こうかと思ってたんだけど、こうして手を繋いで行くのもいいね。なんだか楽しい。あ、だけどハールカがよっせよっせって尻尾からよじ登るのを見てるのも楽しいから、帰りには乗せてあげるよ」

「んまぁ。言っとくけど、これでも私、乗るの上手になったのよ。少し高い場所からジャンプして飛び乗れるようになったんだから」

「えー。いや、地面から飛び乗れない時点でどうしようもないんじゃないかと」


 少し高いところからジャンプというが、ほとんど同じ高さだったことをジェドは知っていた。

 ジェドも突っ込みたくなってしまう程に、遥佳はとても頼りない。


(人間ってかなりプライドが高くて面倒だって聞いてたけど、そうでもないんだな)


 緑蛇の鱗を額で揺らめかしながら全く蛇の気配がしない彼女は、緑蛇の里の客人だ。

 最初に見かけた時はあまりにもか弱そうで、だからちゃんと生きていけるのかと心配になったけれど、話してみたらそうでもなかった。

 弱くて運動能力も低いけれど、彼女はちゃんと前を向いて生きている。


「こうして歩いていると、上にある葉の間から差し込んでくる光がとても煌めいて見えるわね、ジェド」

「そうだね。ハールカの髪は真っ黒でとても綺麗だ。他の色が混じってない」

「私にしてみれば、あなた達の黒髪こそ、青や緑の陰影が浮かんでとても神秘的に思えるわ。マジュネル大陸の人達ってとてもカラフルで夢があるのよ」


 同じように頭に光を受けて浮かび上がる天使の輪でも、遥佳なら普通に白っぽいものだが、ジェドなら青いものが浮かぶのだ。リリアなら緑だ。

 

「夢かぁ。そんなものかなぁ。だけどさ、これで自分が嫌いな色に当たったら悲しいことになるんだよ。僕の友達の薄桃色した毛並みの猫獣人なんて、本人はそれが嫌なんだってさ。もっと枯れたような色が良かったってぼやいてる。僕は似合ってるって思うんだけどね」

「そうね。とても優しい色合いなのに。だけど本人が渋い色合いが好みなら、やっぱり悩んじゃうのかしら」

「だろうね。外見は可愛いタイプなんだけど、性格はとってもキッツイから」


 そんな話をしながら目的地に着けば、その盆地にはとても綺麗な色とりどりの花が風に揺れて咲いていた。


「うわぁ。とても綺麗だわ」


 同じ草花でも、南の花は葉の緑がとても濃い。だからだろう、あまりにもコントラストが鮮やかで、遥佳はつい歓声をあげてしまった。

 風にそよぐ花びらも大ぶりだし、茎も太めで力強い。

 既に先客がいて、誰もが思い思いの場所で寛いでいる。楽しそうにはしゃいで走りまわっている子供達もいた。


「ハールカ、日当たりに弱そうだし、少し木陰になっている場所がいいか。ここの花は心がゆったりする効果があるから、夜、眠れない場合に摘んでいって部屋に飾ったりするんだ」


 二人は、持ってきた薄手の絨毯をちょうど良さそうな場所に広げる。絨毯といっても、屋外用のシートだ。


「そうなの。眠り過ぎたりしない?」

「それはないなぁ。あくまでイライラする気持ちが安らいだり、ムカムカしていたのがどうでもいいかって気持ちになる程度さ。だけど夜泣きする赤ん坊にはぴったりなんだ」

「うふふ。ジェドってば、いいお父さんになりそうね、いつかの話だけど」

「そ? ありがと。ハールカもいいお母さん、・・・いや、子供が何だかハールカを守ってくれそうな感じになりそうだな」

「ひっどぉい。そんなことないもの。これでも私、かなり頼りになるのよ?」

「そうなんだ?」


 面白そうに笑いながら、近くにあった樹にするすると登ってしまったジェドは、しばらくすると、黄色い果実を持って降りてくる。


「これ、甘いんだ。せっかくだから食べよう」

「よく鳥に食べられなかったわね。とても甘い香りがしてるわ」


 どさっと遥佳の隣に座るジェドは、それを遥佳に差し出した。

 熟れて食べごろだと分かる果実だ。渡された遥佳も、くんくんとにおいをかいでしまう。甘い香りが果実全体から漂っている。

 あちこちで(さえず)っている小鳥達はどうして食べなかったのだろう。

 遥佳が首を傾げれば、ジェドがニヤッと笑った。


「こういうのはさ、青い実の時点で誰もが自分の名前を書いた袋をかぶせておくんだ。だから鳥にも食べられない。いい方法だろ?」


 パチンと片目を瞑ってくるジェドは、してやったり感満載で、つい遥佳も笑い出してしまう。


「なんて賢いの、ジェドってば」

「そうだろ。あ、ハールカのお弁当、先に食べてもいい? 何だかとっても美味しそうな感じがする」

「美味しいわよ。ちゃんとジェドに食べさせようと思って、とびっきりのハムを使ってるんだから」

「やったぁっ」


 遥佳よりも背が高くて大柄だが、ジェドはまだまだ色気より食い気だった。

 あけっぴろげに笑うジェドは、とても爽やかで屈託がない。


「なんか面白い物が入ってる。この黄色いの、何?」


 ぱくっとサンドウィッチを摘まんで、遥佳に尋ねた。


「卵よ。だけど薄焼きだから、普通はあまりしないかもね」

「卵なら、ゆで卵をカットして入れると思ってた。ハールカ、料理、本当にできたんだ」

「しっつれいねっ」


 本気で言っていると分かる。

 だからプンッと怒ってみせれば、そんなやり取りがとても新鮮だった。


「ごめんごめん」


 ジェドはへらっと笑って、遥佳の頬に仲直りのキスをしてくる。


(は、恥ずかしいと言えば恥ずかしいんだけど、普通にやるから怒れないわ)


 大した意味はないと分かっていても、遥佳は赤くなってしまう。やはりキスはハードルが高かった。

 自分からやるヴィゴラスへのキスと違い、遥佳が油断している時に不意打ちでされてしまうそれは、心の準備ができていないからこそ唐突で、だからドキドキしてしまう。

 そんなジェドと遥佳の様子を、かなり遠くの崖の上にいるヴィゴラスはとても不機嫌そうに、そしてサフィルスはご機嫌な様子で眺めていた。


「あー、初々しいわぁ。そう思わない、ヴィゴラス」

「全然思わない」


 グリフォンの姿なら、尻尾をバタバタさせて地面に八つ当たり出来たのに、人の姿はとても不便だ。

 ヴィゴラスだって頬を膨らませて、気持ちはうだうだモードである。


「ばっかねぇ。そんなことで不機嫌になってるんじゃないわよ。あ、だけど今日はハールカに近づくの禁止よ、ヴィゴラス」

「なんでだ」

「そんな不機嫌な気持ちをぶつけられたらハールカが可哀想でしょお? ちゃんとハールカの気持ちを考えてあげなきゃ。年下の女の子の気持ちを踏みにじって、嫉妬している自分の機嫌をとらせようだなんて考える時点でダメダメな男じゃない。半人前以前のロクデナシね」

「・・・別に俺は、ハルカの気持ちを無視してはいない」


 何も考えず自由気ままに生きているようなサフィルスだが、全く何も考えていないわけではないのだ。


「心を感じ取るってことは、それだけ自分に向けられる悪意ばかりか咎めてくる気持ちにも敏感になるし、臆病にもなるってことじゃないの。あなたがハールカを傷つけようとするなら、私達だってそれを止めるのは当然なの」

「俺はハルカを傷つけたりなんかしない」

「体だけじゃ駄目なのよ、ヴィゴラス」

「・・・なんてことだ」


 ヴィゴラスは空を見上げて溜め息をついた。


「やはりハルカがハルカだということに気づかなかったことにして、さっさと連れていけばよかった」

「諦めなさいな。時間は巻き戻せないのよ。巻き戻せたなら、私達こそが真っ先にハールカとマーコットを保護してたわ」

「む」


 ああ、どうして遥佳は宝石で生まれてきてくれなかったのだろう。

 ヴィゴラスだって嘆きたくなる。

 もしも遥佳が宝石で出来ていたならば、誰にも見せずに自分だけのものにできたのに。

 そう悔やまずにはいられないヴィゴラスの視線の先で、遥佳はジェドと仲良くお弁当を食べていた。






 マジュネル大陸で、ルイスが経営している緑蛇新聞社は、ほとんど経済的なものを中心に扱う新聞を作っている。

 過去に発行されたそれらを見せてもらいながら、ラーナは感心していた。


「商売の始め方まで特集しているだなんて。何も知らなくても、こうやって新聞を読むことで学び、取りかかることができますのね」


 大きな簡易机に幾つもの新聞を積み上げ、向かい合わせに座った二人は、ルイスが幾つかの新聞をさっと見ながら取り分けていき、それにラーナが目を通している。


「ああ。それでもほとんどは、とっくに商売を始めている人達が購読者だ。だから定期的に他の大陸のことも扱うし、変わったやり方などを特集した時には購買数が伸びる」

「だからこっちにはジンネル大陸のことまで取り上げられているんですのね。その為にリリアさんがギバティ王国に行かれていただなんて。さすがですわ」


 遥佳がもらってきていた過去の新聞に、それらは含まれていなかったのだ。どうやらルイスは、あまりにも真面目な号は抜かして遥佳に渡していたらしい。

 色が濃すぎて黒にしか見えない緑の髪、闇の瞳といった特徴は同じなのだが、薄幸そうな雰囲気で男を次々と射落としていく姉のリリアと違い、向かいに座って新聞を凄い速さで(さば)いていくルイスにはぶっきらぼうな雰囲気があった。


「恐縮だ。だが、リリアにはその分、かなりの謝礼を払わされてしまった。どうやらジンネル大陸では姉の御眼鏡(おめがね)(かな)う相手がなかなかいなかったらしい」

「ほほほ。それは仕方ありませんわ。それでも女性一人、ジンネル大陸まで行って情報を集めていらしたなんて凄いことですもの。リリアさんも大変でしたわね」

「人間が一番貪欲さを持つことはたしかだ。ならばと思ったのだが、リリアにとってはムカつくだけのギバティ王国だったらしい。帰りの船旅は楽しかったそうだが」

「あら。ですがマーコットならカイトさんべったりじゃありませんでしたの?」


 面白そうに新聞から目を上げたラーナが尋ねる。


「そこが見ていて楽しかったと聞いている。最初は男の子だと、そのカイトさんも思っていたとか。まあ、晴れて恋人同士になれたなら良かった。・・・時間の問題だと誰もが思ってたらしいが」


 ルイスが姉の話を思い出しながら相槌を打てばラーナも頷き、新聞に再び目を落とした。


「かなり遠い地域でも販売なさっていらっしゃいますのね。それだけ購読者がいるものを作れるのは素晴らしいことですわ」


 ああと、ルイスも頷く。


「そうじゃないと発行部数がはけない。また、多少のタイムラグが発生しても問題ないものばかりを取り上げるようにしているのはそこがある」

「あらま。本当に収益を考えていらっしゃいますのね」


 ラーナが笑えば、ルイスはどこか諦めたような顔になった。


「それは仕方ない。我々、蛇の一族、金稼ぎは好きだが、いかんせん、汗水垂らして働くというのが(しょう)()わないときたものだ。おかげで色々と工夫しないと一族が存亡の危機となってしまう」


 色々とルイスも苦労しているらしい。


「もしかして、ルイスさんってあまり蛇の獣人らしからぬ性格とかでいらっしゃいますの?」

「実はその通り。蛇は怠惰な一族でもある。その中からまだ真面目な奴を探し出し、稼いでいかないと、まさに昼寝してばかり一族になってしまうときたもんだ。しかし、何かをしようと思ったら先立つものが必要なのが世の常、獣人の常」


 僅かにおどけてみせるルイスだが、手の動きは止まらない。基本的に真面目なタイプなのだろう。

 あらまぁと、ラーナはくすくす笑った。


「ですけどねえ、ルイスさん。お仕事も大事でしょうけど、サフィルスにはちゃんと口説かないと全く通じませんわよ?」


 ぴたっと動きを止めたルイスは、そろりとラーナを見る。


「何故、それを・・・?」

「見ていれば分かりますわ」


 あちゃーと、ルイスは片手で両目を覆った。

 その微笑にラーナが確信していることを知ってしまえば、下手な言い逃れもできない。


「参ったな。ばれてないと思ってたんだが」

「肝心の本人には、ばれていませんわよ?」

「なら、そのまま何も言わないでくれると助かる」

「どうしてですの?」


 諦め混じりの悟った風情で、ルイスは手に持っていた幾つかの新聞をトントンと揃えて綺麗に畳み直した。


「ハールカちゃんの周りにここまで幻獣がいるとなれば察するものはある。大事な役目に就いていると分かっている相手を口説くだなんてことは許されんさ」

「あら。そこまで厳密な意味合いはありませんわよ?」


 いつでも代わりになろうと手薬煉(てぐすね)を引いて待ち構えているドラゴンやペガサスは多い。

 本当は遥佳と真琴の二手に分かれるという時点で悩みはしたのだが、さすがに今度は男のドラゴンとペガサスがやってきそうで、そうなるとあまりにもとんでもない事態を引き起こしそうだと、結論づけるしかなかったのだ。

 けれども自分達は何を強制されているものではない。ただ、好きで遥佳や真琴といるだけなのだ。

 だが、ルイスは静かに唇の端だけをあげて微笑んだ。いや、笑ったように見えはしても笑ったわけではないのだろう。

 ルイスはいつでもそういった表情を浮かべているところがあると、ラーナは思った。


「マーコットちゃんは帆柱(マスト)をするするとよじ登って帆桁(ヤード)で逆上がりするぐらいに運動神経も良かった上、既に一緒にいたい獣人がいたのだから問題ないだろう。だが、ハールカちゃんはとても、・・・大人しい子だ。子供の内はいいが、大人になった時、恋人がいないとあれば、自分の本意ではない相手に気に入られてしまうこともあり得るだろう。本人が素性を明らかにしておられない以上、心配する気持ちは分かる。気に入った娘を手に入れる為なら、その周囲に幻獣が数人いたところで(ひる)まぬ魔物や獣人は存在する」

「・・・その通りですわね」


 だが、ルイスが知らないこともある。遥佳は自分に向けられる感情に反応するということを。

 たしかに遥佳は弱いが、自分に強い感情を向けてくる相手を見つけるのは早い。そうなれば自分達も対処はできるのだ。

 そこまで考えたラーナだが、

(そうでもないかしら。ハールカ、あれでヴィゴラスの感情に困り果てながらも拒絶できない方だもの。結局は信頼していらっしゃるんでしょうけど)と、考え直す。

 いくら自分に強い感情を向けてくる存在に敏くても、本人に抵抗する気がない場合は意味がない。

 ルイスは、不要と判断した新聞を抱えて立ち上がった。


「それらは持ち帰ってゆっくり見てくれ。今から戻れば、ハールカちゃんの帰宅にも間に合うだろう。ジェドはまだ11才。成人するまで約一年ある。子供の門限を考えれば、もうそろそろ帰宅の途に就いている筈だ」

「こっちは門限まであるんですの? 二人とも仲良く遊びに行ったようでしたから少しぐらい帰宅が遅れてもと思っていたのですけど」


 かなりジェドの方が年下なのだが、傍目(はため)には18才の遥佳と11才のジェドはとてもお似合いの初々しいカップルである。

 ラーナも、遥佳がそういったデートを楽しむのはいいことだと思っているので、多少のことは目を瞑るつもりだった。


「緑蛇の村における客人相手に、ジェドも無分別なことはしないだろう。これが同じ獣人同士となったら羽目を外すこともあるだろうが、他の種族のお嬢さん相手だ。蛇の誇りにかけて礼儀は守る」

「素晴らしいことですわ」


 どこぞのグリフォンに聞かせてやりたいと、ラーナは思った。


「ありがとう。だが、それを言えるのもここがほとんど蛇獣人で構成される村だからだ。よそには違う種族同士で作り上げている村もある。そうなると統一性はない。いいかげんな村はいいかげんだ」

「分かる気がしますわ」


 それは痛い程に、このマジュネル大陸に来て感じている。


(大体、自分の子供を取り換えていても気づかない時点であまりにもおかしすぎるわ、ここの獣人)


 所詮はマジュネルだものねと、ラーナは思いながら立ち上がった。






 マジュネル大陸にあるリリアの家は広い。

 ルイスの家も広いのだが、やはり女性が多い一行だというので遥佳達はリリアの家に泊まっているのだが、おかげでヴィゴラスの肩身は狭い。


(しかし、俺一人だけルイスの家に行けと言われるのも困る)


 遥佳のいない男だけの家か、遥佳はいるが悪鬼のような女達もいる家か。

 究極の選択だ。


(マコトが戻ってきたら女達も意識が分散されるだろうと思っていたし、実際に分かれてくれたのはいいのだが、状況が全く改善されていない。これは何としたことなのか)


 こんなことがあってもいいのだろうか。

 孤高に生きる完全無欠な幻獣グリフォンが、こんなにも他者に気を遣って生きていかねばならないとは、この世界における最悪の悲劇だ。


「いいわね、ヴィゴラス? ハールカには決して不満そうな顔を見せちゃいけないし、心の中でブツブツ文句言うのも駄目なんだから」

「分かっているというのだ。・・・仕方ない。ハルカを泣かせたいわけではない」

「そうね。だけど普通のまともな男は、少年のうちからそれが出来ているものなのよ」

「なら世界の大多数地域で、まともな男は存在していないことになるな」

「・・・一理あるかも」


 世の中に嫉妬しない男女は少ないし、色恋が絡めば拗ねたりもする。

 サフィルスも納得してしまった。


「まあ、いいのだ。たとえどんな奴が出てきても、ハルカにとって特別なのは俺だけなのだ」


 そんな会話をサフィルスと交わしつつ、ヴィゴラスも強がってみせる。

 どんなに見た目は初々しいカップルであろうと、ジェドと遥佳に恋愛感情がないのは分かっていた。


「それならイスマルクも特別な男の人だと思うけど?」

「あいつは下僕第一号(せわがかり)だから男じゃないのだ」

「だけど恋人じゃないだけで、マーコットのカイトさんと、ハールカのイスマルクって、それ以外は似たような感じだと思うわよぉ。生活全般に気を遣ってるところ、一緒じゃない」

「む・・・」

「じゃあ、いつかハールカにとってのイスマルクは、マーコットにとってのカイトさんみたいな存在になるかもねぇ」

「むむっ・・・」


 一つ言えば、十の口攻撃を仕掛けてくるような女達がいる中、孤高のグリフォンは耐え忍ばねばならないのである。

 きっと自分は世界で一番不幸な目に遭っている幻獣だろうと、ヴィゴラスも悟らずにはいられない。


(いいのだ。ハルカさえ帰ってくれば)


 もうすぐ遥佳は帰宅する筈だ。あとは一本道なのだから。

 そうして絶対に不機嫌な気持ちを振り撒かないと約束して、やっとヴィゴラスはリリアの家で遥佳を出迎えることを許された。


「ただいまぁ。あのね、ルイスさんとラーナ、そこで会ったから一緒に帰ってきたの。・・・あれ? リリアンは?」

「リリアンならゲンブ様の所まで報告に行ってるのよ。それより楽しかった、ハールカ? うふふ、とっても甘い香りがするわぁ」


 サフィルスが遥佳を抱きしめる。


「その香りでどこに行ってきたか分かるな。きっと今夜は安らかな気持ちで眠れる筈だ」

「すぐに持ち帰った花は水揚げしてあげますわ、ハールカ。ちょっと待っててくださいね」


 遥佳の後から入ってきたルイスが持ってきた差し入れの牛肉をテーブルに置き、ラーナは持ち帰ってきた新聞の束をまずは自分が使っている客室へと置きに行く。


「とても香りがいいのよ、この花。ヴィゴラスにもちゃんと傷が全くない綺麗な色のを探してきたんだから。あ、サフィルス達の分もちゃんと持って帰ってきたの。色はさまざまだけど、どれも心が落ち着く効果があるんですって」

「そこまで気を遣わなくていいのよ、ハールカ。だけど綺麗だわぁ。色とりどりの花なんだもの。食事用のテーブルに置いておくといいかもね」


 うふふと笑いながらサフィルスがこれ見よがしに遥佳の頬にキスすると、ヴィゴラスがショックを受けた顔になった。


「あ、それがね、寝る部屋に置いておくといいんですって。ジェドがそう言ってたの。愚図(ぐず)る子もすやすや寝ちゃうし、気持ちが鬱々としていた人も気が楽になるんですって」


 遥佳が得意げにバスケットをサフィルスに差し出す。


「ふぅん、愚図る子がねぇ」


 サフィルスはヴィゴラスの方をちらりと見る。


「俺はハルカに傷がなければそれでいいのだ」


 思ったよりもヴィゴラスが不機嫌ではないので、遥佳も安心してヴィゴラスの頬にキスすれば、ぎゅっと抱きしめてきた。


(そう、でもないのかしら。何だかヴィゴラス、かなりダメージを受けている気がするわ)


 しょうがないので、ぽんぽんと背中を撫でてあげれば少しずつヴィゴラスの気分が上昇してくる。


「何かあったの、ヴィゴラス? 元気がないわ」

「そんなことはない。俺はいつも元気だ」

「・・・そお?」


 そう言いながらも、ヴィゴラスの心は千々(ちぢ)に乱れていた。


(自分からキスしてもいいのだろうか。だが、ハルカはそういうのを恥ずかしがるから嫌がる筈で、だから人の目がない時で、しかもハルカが流されてくれる時を選ばないと駄目な筈で・・・。なら、なぜサフィルスも、あのジェドとかいう奴もハルカにキスしているのだ。しかも何故ハルカは嫌がらないのだ。なら俺もしてもいいのだろうか。しかし、それでハルカを怒らせてしまったら、このペガサスに追い出されてしまう)


 頭にキスするのは見えていないからか、遥佳はあまり嫌がらないし、諦めてくれてはいるのだが、顔とかになると、一気にハードルが高くなるのだ。遥佳の心が落ち込んでいる時を狙って、更に二人きりというシチュエーションが必要になる。


(分からん。ここはやっていいのか、やってはいけないのか)


 当たり前のように遥佳の頬にキスしていたジェドやサフィルスが羨ましいものの、これで遥佳に変な反応をされてしまえば遥佳が滞在しているこの家から追い出されてしまう。

 ヴィゴラスにとって、踏み出すにはリスクが大きすぎた。


「どうかしたの、ヴィゴラス? 何か、もやもやしてるの?」


 腕の中から遥佳が顔を上げてくる。その額に揺れている緑蛇の鱗は気に入らないが、遥佳は可愛い。


(しょうがない。この宝物は自分で出歩いてしまうのだから)


 そうなると、迷子札は必須だ。額に揺れるのはグリフォンの羽でいいと言いたいところだが、それでは迷子になった遥佳が戻ってこない。

 はぐれている子供は見つけた大人が保護して自分ちの子にしてしまうマジュネル大陸だからこそ、ヴィゴラスも受け入れるしかできないことはあった。


「なんでもないのだ。ハルカが楽しかったならそれでいい」

「ふふ、ああいうデート、ちょっとドキドキしちゃった。あ、ヴィゴラス、手、出して?」

「んむ?」


 遥佳がヴィゴラスの手を取る。そうして自分の手と重ね合わせるようにして長さを測ってきた。


「やっぱりヴィゴラス、手が大きいのね。私よりもずっと」

「グリフォンになったらもっと大きい」

「そうね。グリフォンになったヴィゴラス、とても大きいもの」


 重なり合った掌を少しずらし、ヴィゴラスは指と指とを交差させるようにして軽く握る。


「ヴィゴラス?」

「こうしてずっとハルカが一緒にいればいいのに」

「だけど手を繋ぎっぱなしだと、ご飯を食べられなくなっちゃうわよ、ヴィゴラス」


 まるでダンスのようだと、遥佳は思った。

 それもいいかもしれない。きっとヴィゴラスなら、練習したらすぐに踊れるようになりそうだ。


「それは困る」

「そうでしょ。だけどこうやって手を繋いだら仲良しな気分になるわね、ヴィゴラス」

「仲良しだからいいのだ」

「そうね」


 真面目に話し合っている二人を放置して、ラーナはバスケットの花を水揚げしに行った。


「俺としては、やはり煙の出にくいシンプルな塩だれがいいと思うんだが」

「だぁめだめ。ここは豪快に煙もくもくで行くべきよ。ゴマと唐辛子は必須ね」


 ルイスとサフィルスは、夕ご飯は焼き肉にするとして、それは何味のタレにするべきかを話し合っている。


(何だかねぇ。こっちが気恥ずかしくなっちまうような初々しさだわねぇ、誰も彼もが)


 気だるげにそれらの様子をソファに体を預けながら見ていたリリアは、小さな欠伸を一つした。






 ジンネル大陸でも最古の王国ではないかともされるパッパルート王国。砂漠の王国とも呼ばれている。

 パッパルート王宮は大忙しだった。

 デューレとカディミアの新居となる黎明の宮を総出で調えている。

 衣装係にしてもデューレの幾つかの正装にあわせ、カディミアの衣装を大慌てで用意していた。衣装係ではなくても、裁縫が得意な女官達は全てそちらに振り分けられている。


「あの、・・・本当にデューレ様がなさるんでしょうか」

「何か問題でも? 一番、手が空いているのは私です。ならばカディミアのそれも私がすればいいだけでしょう」

「さ、さようでございますか」


 連れてこられたカディミアも、きょとんとしてしまう。


「えーっと? 私、今日は徹底的に身を清められたんだけど、何かの儀式なの、デューレ兄様? あ、デュー様?」

「儀式ではなく用意ですよ、カディミア」


 ここ数日、女官達の手で徹底的に体を磨かれ、カディミアは手入れをされてきた。無駄な産毛ひとつ生えていないと言いきれる。

 女官達はカディミアの体があまりにも手入れの行き届いていることに驚いていたが、それもその筈だ。なんと言ってもカディミアは、かつてこのパッパルート王宮でそれを受けて以来、徹底的に努力してきたのだから。

 そして今日は厚めな生地でできた衣装を着せられているのだが、それは幾つかの結び紐を解けば脱げてしまうもので、軽やかなサンダルと相まって、これから何かをすることだけは分かる。


「私の額にも模様が描かれているでしょう、カディミア」

「ええ。ディッパ兄様とはちょっと違う模様よね。だけどどちらも鮮やかで綺麗だわ」

「あなたの額にも描くのですよ。あなたは私の妃になるので、花の模様になりますが、(はす)でも黄緑色を中心とした白と青の蓮になります」

「え? そうなの?」

「ええ。これらはまず下絵の線を描き、色を塗っていきます。ですがその色も数日で落ちてしまうので、婚姻の儀が終わるまでは何回か色の補修を行います。ですが兄上が、カディミアはこういったものに慣れていないから、最後のぎりぎりまで描くのを遅らせてやれと言うものですから」


 どうやらそこが不満らしいデューレの様子に、カディミアは、つい笑い出してしまった。


「ディッパ兄様らしいわ。だけどそれぐらい、私だってどうってことないのに。で、もしかしてデューレ兄様が描いてくれるの?」

「そうおっしゃるのですわ、カディミア様。ちゃんと私共、女官がやると申し上げておりますのに。デューレ様は、ディッパ様の許可までとっておしまいになりましたの」

「カディミア様も、お嫌ですわよね?」

「殿下がなさることではありませんのに」


 女官達が困ったような顔になってそれを言いたてる。


「別に私、デューレ兄様、あ、デュー様でかまわないけど? 他のことを優先してちょうだい? もうすぐ他国の大切なお客様が来るんだもの。模様を描くのはデュー様でも大丈夫だけど、おもてなしの用意はそうもいかないわ。私のことは気にしないで」

「聞いての通りです。では下がりなさい」


 ドモロール新国王の初めての外遊先となるのだ。滞在するであろう客室等の点検や発注に忙しいことを知っているカディミアが思いやれば、デューレも言葉を重ねる。


「かしこまりました、デューレ様」

「それでは失礼いたします、カディミア様」


 そう言って女官達は心配そうな顔で下がっていった。




 考えてみれば、どこまでディッパやデューレの体にも模様が描かれているのか、自分は確認していなかったと、カディミアは思った。


「しっ、信じらんないっ。デューレ兄様の馬鹿っ。背中や腕や足にも描くなら描くって最初に言ってよっ」

「言ったじゃありませんか」

「女官が下がる前にってことよっ」


 まさか羽織っていた衣服を肩から落とし、背中や腕や足にまで模様の下絵を入れられるとは思わなかったのだ。カディミアだって恥ずかしさに赤くならずにはいられない。


「わっ、私っ、婚姻前に兄様の前で服を脱いだと思われるじゃないのっ」

「別にそんなの大した問題じゃありませんよ、カディミア」


 婚約する前までは徹底的にカディミアの醜聞に配慮したデューレだが、自分と結婚するとなれば話は別である。

 婚儀の数日前とあっては醜聞になる筈もなかった。


「どんな顔してこの部屋から出ていけって言うのよっ」

「その涙が滲んだ顔でいいでしょう。まさに婚姻前だというのに婚約者に体を見られてしまった王女の恥ずかしさが表れていていいと思いますよ」

「馬鹿っ」


 立ったままの姿勢で、カディミアの背中や腕や足には下絵が描かれた。

 自分の体をとても細い筆がなぞっていき、それをしているのがデューレだということに、更に羞恥を誘われる。

 デューレが真剣に模様を描いていればこそ、カディミアはほとんど涙目になっていた。


「いっ、今から女官に換えてっ」

「やめておきなさいと言っておきましょう、カディミア。あなたの為にね」


 下絵が乾くのを待っている間、カディミアは立った状態でせいぜい脱いだ服を前で抱きしめることしかできない。

 恥ずかしさに全身を朱に染めた婚約者を、椅子に座ってデューレは楽しげに眺めていた。


「だから兄上も私がやると言ったら反対はできなかったのですよ、カディミア」

「どういうこと?」

「我が王室に嫁いできた妃が離婚に至ったことのない理由。それは様々な所に隠れているということですよ、カディミア」


 椅子からデューレが立ち上がる。カディミアに近寄り、デューレは恥ずかしさに震えている唇にキスをした。


「どうやら下絵も乾いたようだし、色を塗っていきましょうか。背中から。さあ、そこに行って」

「デューレ兄様。説明がまだなんだけど」

「描きながら説明してあげますよ」


 幾つもの柱が立っている四角いスペース。そこは柱の中に空けられた幾つもの穴を使って、色々な角度の棒が渡せるようになっている。その中にカディミアは渋々入った。


「両手を伸ばして、その先にある棒を握ってください。それに合わせて肘の下にも支えを入れます」


 デューレが先程と同じ姿勢になるように要求してくる。


「ちゃんと腕が疲れないよう、棒を通せるようになっているのよね」

「本来はもっと時間がかかるものですからね」


 カディミアの姿勢にあわせて、幾つもの棒をセットして体を支えたり、掴まることが出来たりするようになっているのだ。長時間の体勢でも疲れないように、こういったものがあるらしい。

 両手を真横に伸ばしても、二の腕や肘の下にデューレが棒を交差させ、力を抜いても手が落ちないようにしてくれた。


「これを女官がやる場合、かなり恥ずかしいですよ。どんな花の模様が似合うかとか、どの模様を入れるかとか、あなただけがこんな格好で服を着た皆に相談されながら描かれるのです。私はあなたに似合う模様を前もって選んでおきましたが、ドレスを選ぶどころじゃない騒ぎで肌に色々な模様を描かれたり消されたりするのは、かなり精神力をごりごり削られます」

「もう、欠片も残ってないぐらいに削られたわ」


 背中に何の模様が描かれているのか、カディミアには見えない。デューレは幾つもの色を用意し、かなりの数の色筆をカディミアの背で踊らせた。

 どうやら花と何かの印をモチーフにしたものらしいが、分かるのはかなり鮮やかな色で描かれているということだ。手の甲にまで、太陽や月をモチーフにしたような模様が明るい色彩で描かれているのだから。


「元々、我が国のあの全身の手入れにしても、そしてこの模様を描かれることにしても、それを全く経験したことのない姫君が受けたらどうなると思いますか?」

「・・・立ち直れないかも。あのお手入れ、かなりハードなのよ」


 初めて受けた時は、疲労しきって寝込んだことをカディミアは思い出した。


「それでも君は、我が国の王女みたいなものだ。だから手入れ程度で済んだのさ。今更、我が王室に対して従順にさせる必要などないわけだからね」

「え?」


 その口調の変化に気づいて顔だけ振り返れば、デューレがカディミアの顎を捕らえて軽く口づける。


「体を手入れされる際、嫁いでくる姫君は女官達によって徹底的に磨き上げられる。体の全てを何人もの女官達によって点検され、肌や髪や爪を美しく磨き上げられ、疲れきって抵抗もできないまま、従順さを教え込まれるんだ。毎日ね。君は髪や肌、爪の手入れだけだっただろうが、手入れを欠かさない君と違い、通常の姫君なら自尊心は粉々になるレベルで激しいものが行われる。最後にはこうして女官達にめでたい絵柄や模様を全身に描かれ、従順な妃になるのさ」

「・・・はい?」


 カディミアはデューレを、表情が抜け落ちた顔でまじまじと見直してしまった。


「体の手入れと称して、その姫君は徹底的に躾けられるということだよ。嫁いできた姫君が、実家の為にパッパルートを裏切って情報を流したりするのは困るからね。パッパルートにこそ忠誠を誓うように幾つもの段階に分けられた教育が行われる。

 こんなにも凄い効果が出るような肌の手入れや鮮やかに描かれる模様など、嫁いでくる姫君の侍女がこなせるものじゃないだろう? だから誰も口出しできず、割りこめない状態で腹心の侍女達からも引き離され、姫君はパッパルート王族に仕える妃として従順になるよう教育されるんだ。こういった背中の模様を入れられる時には、最終的にどんな模様を入れるのかを選ぶのも婚姻相手の王族だったりする。通常の慎み深い姫君がどれ程に恥ずかしかったと思う? 豚を描かれるか、ゴキブリを描かれるか、それとも美しい花を描かれるか。それは姫君の教育結果が反映される」

「ちょっ、ちょっと待ってっ。背中っ、何を描いたのっ!?」

「カバだけど? だって君、生意気だからね」

「・・・! いやああっ」


 あまりの衝撃にカディミアは(うずくま)ってしまう。

 カバが描かれた背中を、これから自分の世話をする人達に見られるだなんて耐えられない。


「嘘だよ。さすがにそんなもの描いたら、女官達から兄上に報告されるじゃないか。何より私のセンスが問われる。ちゃんと吉祥模様を組み込んだ木々の葉と花々だよ」

「・・・ひどすぎる」


 なんだかなぁといった顔になってしまうのは仕方あるまい。

 カディミアは、かなり疲れきってしまった。心が。


「私は描くのが早い。兄上の体でもかなり練習した。だから、これを描き終えても十分に時間はあるよ。今までの婚姻前の姫君がどんな恥ずかしいポーズをとらされたか、一緒に試してみるかい?」

「に、兄様? 本気じゃ、・・・ないわよね?」

「安心していいよ。誰もが今の時間、君はもう私にどんなイタズラをされているかも分からないと思ってるさ。兄上も含めてね。どうせ人には見えない部分の模様なんだから、君の背中には犬小屋と可愛い小犬を描くって言って、君専用の首輪も用意したのを兄上もご存じだ」

「馬鹿ぁっ」


 どんな顔をして今夜、夕食の席に着けばいいのだろう。

 いつもディッパやデューレと一緒なのに。


(だからさっき心配そうな顔してたのねっ、ディッパ兄様っ)


 カディミアを案じつつも、どうせ結婚するならばもう一生デューレから逃げられないと思って、ディッパも放置したのだろう。その流れが、こうなると見えてしまう。


「離婚するっ、結婚前に離婚するっ」

「嘘ですよ。そんなの描くわけないでしょう。大体、首輪なんて用意したところで使わないじゃないですか。無駄な買い物なんてしていません」

「に、・・・兄様なんて、大っ嫌いっ」

「私は好きですけどね。だけどそういう憎まれ口も可愛いですよ、カディミア」

「・・・ずるい」


 本気で(ずる)いと思う。そう言われたら、何も言えなくなる。

 カディミアが黙りこめば、慰めるかのようにデューレの指先がカディミアの唇を優しくなぞっていった。


「君に用意してあるのは薔薇だと言いませんでしたか? そもそも私はふわふわした手触りが好きなんです。首輪なんて用意するわけないでしょう」


 どんなに意地悪そうなことを言っても、手つきも何もかもが自分を大切そうに扱う。

 だから流されてしまうのだ。こうして二人きりになってしまえば、他は何も見えなくなる。


「愛してますよ、私の王女」


 恨めし気な瞳でいても、その唇に何度も触れるだけのキスを繰り返していくから・・・。


(それでも、兄様のキスはいつも優しいのよ)


 思わず、カディミアはデューレに抱きついた。

 乾いていない背中に触らぬようにとの配慮からか、その頬をデューレの手が包みこむ。


「本当に、カバとか犬小屋とか描いてないわよね?」

「ご希望とあればいつでも追加しますよ」

「しないからっ」


 あとで女官達にたしかめようと、涙が出そうな気分で決意する。

 カディミアが瞳を静かに閉じれば、瞼の上を柔らかな口づけが落ちていった。






 そうして全てが終わって鏡の前に立てば、たしかに見事なものだと思う。

 デューレはどの模様がどういう意味合いを持ち、どの花がどういうことを意味するかをも教えてくれた。

 こうして背中に描かれた模様を合わせ鏡で映されてしまえば、なんて素晴らしい発色と精緻な模様なのかと、カディミアも感心する。


(だけどっ、どんな顔で出ていけばいいのよーっ)


 これを描いたのがデューレであることを、皆は知っているのである。少なくとも国王ディッパと女官達は知っているのである。


(今日から、一人で誰にも会わずに生活したいって言ってもいいかしら)


 手の甲だけではなく、背中の隅々まで描かれた模様は、それだけじっくりとデューレが描いたことを意味するのだ。

 未婚の王女が、まさか王子に背中を見せただなんて。


「ああ、そうだ。カディミア。婚儀の日まで、入浴は私か女官の監督下でしなくてはなりませんよ?」

「え?」

「当たり前でしょう。この染料はなかなか落ちませんが、それでも色落ちしたところは修復していかねばなりません。まあ、兄上の所にも染料はあります。その背中や手足を見せて修復してもらうのは、兄上と私と女官。誰でもいいですよ?」

「・・・それなら、女官を」

「女官がそれらの色を出せればいいですけどね。大切な王女の為、私はかなり苦労してそれらの色を作り上げたのですよ?」

「それって、私に・・・、選択肢はあるの?」

「さあ?」


 もうすぐ夕食の時間だ。

 ディッパは、自分がデューレによって背中に模様を描かれたことは把握しているだろう。どんな顔で出ていけばいいのか。自分は未婚の王女なのに、まさか王子に背中を・・・。

 カディミアは、ディッパが帰国した時の言葉を思い出した。


――― そういえば本気かどうか知らんが、デューレがお前と結婚するとか言ってたぞ。よしよし、嫌なら嫌って言えば逃がしてやるからな。


 考えてみれば、何がどうして「逃がす」だなんて単語が出てきていたのだろう。

 この弟の性格を、兄として把握していたからか。


――― 問題はあいつがパッパルート王族ってことだと思うんだがな。


 妃が王室を裏切らないよう、嫁ぐ前に徹底的に教育するというパッパルート王宮。ディッパが知らなかった筈もない。


――― 相手がデューレなら大事にはされるだろうが、俺としてもあいつの妃がよりによってお前というのは複雑なんだ。


 ディッパは自分達を本当の妹のように可愛がっていた。ならば複雑な気分にもなるだろう。

 恥ずかしすぎる。しかも、この後も・・・。

 カディミアは本気で泣きたかった。


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