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116 優理は金貨をあげた



 ギバティールにドレイクは幾つかの建物を持っている。その内の一つと言っても、四つの建物を一つにしただけだが、その一部をディッパやウルティード達の宿泊用として提供していた。

 だが、それ以外の場所にある土地や建物をこっそりと売りに出している。とはいえ、こっそりというのはなかなかに面倒なものだった。

 

「お前はどうしとんのや、レイス?」

「もう全て売れた」

「なんや、そん速さ。手際(てぎわ)良すぎやろが」


 自分達がギバティールに戻ってきて、まだ大した日数は経っていない。


「簡単なことだ。ギバティールへの進出を狙ってる奴らに、幾つか迂回して売りつけた」

「なら俺んも売ってや」

「駄目だ。お前の持ち物はほとんどこっちの世界じゃ知られてる。売りつけるなら素人だ。俺のはまず知られてないから大丈夫だが」

「差別や。なんで俺ばっか苦労しとんの」


 ドレイクはぶつぶつ言いながらも、「それしかないわなぁ」と、ぼやく。

 全て金に換えたと知られたら、どんな厄介なことになるか分からない。自分達が姿を消すその日まで知られないことは大切だ。


「特に厄介なのがキースヘルムだ。あいつには絶対に知られんように動けよ、ドレイク」


 これまでの付き合いを持ち出されて安く買いたたかれたのではたまらない。

 安売りする気もないくせに、レイスはそんなことを言う。


「せやな。なあ、やっぱ声掛けたんは(まず)かったか?」

「いや。悪くない判断だった」


 状況的にあの手のタイプも抱え込んでおいた方がいいと、レイスはあえて自分達と違うスタイルのそれをも組み込むべきだと、その自論を展開する。

 自分が突発的に持ちかけた話だったが、レイスの冷静な判断にドレイクもほっとした。


「なあ。キースヘルムどうすんやろな」

「さあな。別に乗ってこなくてもかまわん」

「ちょい待てぇやっ。さっきまでのセリフ、何なんっ!?」


 ドレイクだって叫ぶ。

 何故だろう。たまにレイスのことが見えなくなるのは。


「ああ、すまん。つい心の声が出たんだ」

「あんなぁ、そこんとこビジネスライクに考えてぇな」


 ドレイクは疲れた声になった。


「そうだな。どうにか振り落とすか」


 それなのにレイスは明後日の方向な結論を呟く。


「もっとひどい方へ行っとるやんっ」

「あいつは邪魔すぎる」

「それが本音かいっ」


 そこで、珍しくレイスが爽やかな笑顔をみせた。

 それこそ墓場が似合う暗闇に生きる男が、一転して青空を背景に白い歯が似合う笑顔をみせたという感じで。


「なあ、ドレイク?」

「な、なんや?」


 その優しく穏やかな呼びかけに、ドレイクもドキドキしてしまう。

 日頃からつまらなそうな顔をしているから根暗だの何だのと言われているが、レイスは顔立ちも整っているのだ。

 明るい笑顔を見せるだけで、ターゲットの周囲にいた女性達の方が先に陥落したこともあった。おかげでその女性が現場不在(アリバイ)を証明してくれたりしたものだ。

 まさかその女性も自分を抱いた男が、僅かな時間で殺しに行ったとは気づかなかったにしても。


「お前なら分かる筈だ、この俺の気持ちを」

「え・・・」


 過ぎ去った昔の美しい思い出が胸に蘇り、ドレイクは頬を赤く染めて照れた顔になる。

 勿論、ドレイクも鈍くはない。レイスの気持ちは分かっているつもりだ。

 何と言っても自分達はかけがえのないパートナーなのだからして。


「そう、邪魔なユーリに薬入りの菓子を食べさせようとしたお前なら」

「・・・え」


 忘れていた思い出のアルバムを持ち出され、ドレイクは酢を丸呑みしたような顔になる。

 勿論、ドレイクも馬鹿じゃない。レイスの執念深さは知ってるつもりだ。

 何と言っても自分達は全ての苦楽を共にした仲間なのだからして。


「分かるよな? この俺の気持ちをお前だけは」

「・・・なあ。未だに根に持っとったんか?」

「当たり前だろう」

「・・・ほんなん」


 そんなスカッとするような笑顔で言われることなのだろうか。

 ドレイクは目の前にある机にのの字を書き始めてしまう。心が切なすぎた。


「なしてこんなにも尽くしとる俺をないがしろにされなあかんの。ユーリユーリて、俺よりあん小娘がええんかい」


 そう言いながら、優理に一番何かとお金を使っているのはドレイクである。


「拗ねるな、ドレイク。馬鹿だな、そんなこと」

「せやかて・・・」


 幾つもの死線を共に乗り越えた仲間だった筈なのにと思えば、恨み言の一つも言いたくなるドレイクだ。


「男同士の友情なんざ、女を前にしたら波打ち際の砂の城だろ」

「・・・・・・」


 レイスはいい奴だ。そりゃ口うるさいところもあるし、キースヘルムが言う通り根暗かもしれないが、安心して背中を任せられる。

 自分の為に命を()けてくれる男だ。だから自分もレイスの為なら命を懸けるだろう。

 そうドレイクは思っていた。今だって思っている。


(の筈なんやけど・・・)


 何故なのだろう。たまにそんなレイスの心は、自分の瞳にかくれんぼを仕掛けてくる。

 まるでドレイクの目に、「さあ、私を見つけてごらんなさぁーい」と、悪戯好きな少女のような魔法をかけてしまうのだ。


「いや、我慢や自分。せやな。レイスはちょぅ意地っ張りなだけやもんな」


 そうだ。これはレイスなりの照れ隠しなのだ。

 ドレイクはちょっと頬を赤らめて自分に納得させる。


(本当に器用だな。鼻の先をぴくぴく動かせるってのは)


 レイスはそんな相棒の顔をじーっと眺めていた。

 ただ、鼻の先をぴくぴくさせられたところで何の役にも立ちそうにないものだから、全く羨む気にはならない。


(いつも思うんだが、なんでユーリもドレイクも俺の性格だの嗜好だのを勝手に決めつけるんだ?)


 自分は何も言っていないのに、勝手に決めつけてそれを事実であるかのように認識するのだ。

 またかと、レイスは思った。


「そうだな。お前のその(無駄な)前向きさを愛してるよ、俺は」

「え? ほんまか?」

「ああ」


 そこで、「勝手に立ち直ってくれる分、手間がかからない」といった要らぬセリフを、レイスは言わなかった。


「それよりギバティールにいた奴らの誰を連れて誰を置いていくか、だ。ザンガで俺達が分裂したのはもう伝わってる。怯えてあいつらも今は何も言えん状態だ」

「そりゃ皆殺しにした言われたらそないなるやろ。やけん、女おる奴ぁ置いてったりたいわ」


 女は男と違う。土地を離れられないと言い出すことは多いのだ。

 引き離さなくても、そういう地に足の着いた幸せだってあるだろう。


「甘いな、ドレイク」

「せやかてな・・・」

「いい、分かってる」


 そんな二人は何だかんだとうまくやっている。




 ほほほほほと、高笑いが止まらないのは優理だ。今や可愛らしい小瓶はほとんど完売。

 まだ精油はあるので、次は男性向けの香水を売り出す予定である。こっちはシンプルな小瓶で構わないからだ。

 女性用の香水は、引き続き量り売りだけを続ければいい。容器は持参してもらうか、最初に売り出した程ではなくてもそこそこ可愛い小瓶を用意しておいて。


「すっげぇ儲かってないか、ユーリ姐」

「全くだよ。これならユーリさん、占い師やめて雑貨屋するといいぜ」

「まさかこんなにもこの店が売り上げを見せる日が来るなんて・・・!」

「泣くなよ。夕日に照らされた俺達に似合うのは涙じゃねえ。皆の明るい笑顔じゃないかっ」


 少年達も感無量だ。

 既に優理が戻ってきてからの売り上げは金貨15枚に達している。


「まあ、そうでもないけどね。だって仕入れ価格が高かったもの。未だに仕入れに使った金額には追いついてないわ」

「は・・・?」

「あのね、あなた達。物を売る以上、仕入れの値段は考えなきゃいけないのよ。仕入れ価格と交通費などの雑費、売り上げからそれらを差し引いたものが初めて売り上げになるの。まだまだこれから頑張らないと仕入れに使った金額には到底及ばないわ。・・・元手のかからない占い師をしているのはそこもあったのよ」


 偉そうに言う優理だが、少年達にも考える頭はある。


「ちょっと待ってくれよ、ユーリ姐。だって金貨10枚以上売り上げて、まだ仕入れ費用に追いついてないって、どんだけ金持ってってたんだよ」

「そうだよ。あんなドヘタクソ商売してた姐御がそんな大金持ってたわけねえだろ」


 優理に言われるまでもなく、少年達だってその程度は十分に知っている。

 占い師では食べていけないからこそ、何でも屋をしていたのだ。その稼ぎだって、生活費で消えていたことぐらい、少年達だって理解していた。

 そこで、一人がはっと身を震わせる。


「まさかっ」

「・・・嘘だろ、嘘だと言ってくれ。ああ、姐御。いくら金儲けが好きでもそこまでしないと思ってたのに」


 何人かが顔を蒼白にさせたものだから、優理は眉間に皺を寄せて尋ねた。


「何よ、それは」


 だが、青年へと移り変わる時期の少年達は既に体も大きく、優理だと見上げるのに首も疲れるのだ。だから優理は彼らの表情とアイコンタクトを見逃してしまった。

 油断している間に、彼らの手が優理の肩にぱんっと置かれる。


「変な男達を連れて帰ってきたと思ってたけど、まさか自分を売って金を作ってただなんて・・・!」

「は?」


 未来を深く考えていない者には、よくあることなのだ。

 自分自身を担保に、大金を借りる。期日までにそれを返せれば良し、返せなければ・・・。


「あんな奴ら、すっげぇ高利で取りあげてくのは有名だろうがよ。何でそんな馬鹿なことしたんだ、姐御」

「そうだよ。ぼろぼろにされてそのまま路地裏に転がる運命しか待たないんだよ、ユーリさん」

「え? ちょっとちょっと・・・」


 儲けが見込めると思えばこその大博打(だいばくち)。しかし、それで一発逆転できる人間はとても少ない。

 有名なのはそれで一大財産を築いた商人リットラックだが、あれこそ奇跡だ。だからこそ有名なのである。ほとんどの人間は闇から闇へと消えていった。


「だが、それでも俺達はまだ見捨てねえよ。な、姐御(あねご)? ・・・頑張ろう、早く売り上げてしまえば利子もそこまでぁ高くならねえ」

「ああ。まだ挽回のチャンスは十分にある」

「あの、ちょっと待ってよ。ね? 私、借金だなんて・・・」


 そんな優理の言葉は誰にも届かない。

 何故ならこれでも彼らはエリート学生達なのである。様々な人達の転落人生を見聞きし、そういった人間が苦し紛れに嘘を言うこともよく知っていたからだ。

 今の優理の言葉は、枯れ葉一枚程の重みも説得力もない。


「あれだけ俺達に心配かけて、そしたら顔が若返りしただけならともかく、体とおつむまでお子様になって戻ってきただなんて・・・!」

「おいっ。そりゃ単に今までニセ胸入れてただけだろが」

「え? マジかよ」

「そうなのか? 俺、てっきり腹を痩せさせようと思ったら胸が痩せた失敗例かと・・・」


 そんな会話が優理の頭上で交わされていく。

 別に自分に胸がない理由は十分に分かっている優理だ。だから口惜しくは思わないのだが、何だかとても不本意な流れであることには変わりない。


「あのねえ、あなた達・・・!」


 けれども波に乗った彼らの会話は止まらなかった。


「まずは売れ筋とそうじゃない物を分けていこう。立体的に商品も並べればもっと置ける筈だ」

「ああ。俺達もコーナーを利用してそれぞれで会計していけばもっとはかどる」

「そうだな。ちょうど休み中で良かったよ、ユーリ姐。毎日誰かは来ることができるし」

「あのね、だからね、・・・私の言う言葉を聞いてほしいんだけど、な?」


 何だか自分がとてもダメダメ扱いされているようでとても悲しくなってくる優理だ。

 さっきまで褒め称えられていた自分はどこへ行ってしまったのだろう?


(なんで私がこんなにも馬鹿にされなきゃいけないの・・・!)


 この怒りを誰にぶつければいいのだろう。


「な。頑張ろう。やっちまったことは仕方ないさ。大丈夫、まだ勝算はある。ほら、飴やるよ。ユーリ姐。甘いの、好きだろ?」


 スティック状の小さな飴が優理の口元に差しこまれる。


「あ、これ美味しい」


 ふわりと優しい甘さが口の中に広がっていく。キャラメルの甘さが混じっているからかもしれない。


「そうだろ。な、頑張ろうな」

「うん」


 現金なものだが、それで、ま、いっかと、優理の機嫌が直る。

 大前提を訂正しようとしていたことも忘れて、優理は飴をカリカリと齧り始めた。






 そんな優理を置いて、ディッパやウルティード達は同じギバティール内ながらも少し離れた街にある王宮や大神殿のある場所まで出かけていた。

 勿論、ディッパとウルティードは王族だ。王宮や大神殿を訪れたことはある。けれども一般民衆に紛れて見ることはなかった。


「昼と夜、表と裏の顔の差がここまで激しいとは・・・。さすがギバティール、全てが集まると言われる都だけはあります」


 メッティが感じ入ったようにカッティムに対して話しかける。


「そうだな。表通りはこんなにも華やかなのに、小さな路地に入りこめば、その落差はとても激しい」


 カッティムも頷く。だが、それはどこの都市でもあることだ。

 ただギバティールは聖なるギバティの王都。ゆえに全てが富に満ち溢れ、神官の祝福が行き届いているという先入観があった。だから余計に強くがっかりしてしまうのかもしれない。


「本当に意外だったな。まさかザンガよりもギバティールの方が女人を使い捨てているとは」


 ディッパもそこには驚いた。勿論、本来は見せてもらえない舞台裏を見せてもらった以上、自分達はそれに対して非難するようなことはしていない。

 同時に、ここまで薄着だったり露出的だったりする一般女性が出歩いていても襲われたりすることが少ないのはその為だと言われてしまえば、返す言葉もなくなる。


「皆で痛みを分け合うか、それとも誰かにしわ寄せをいかせることで表面を綺麗にしていくか。そういうことなのか。ジュウカ、どう思う?」

「難しい問題です。けれども比較に意味はありません、ディー様。我が国の女人はここまで自由にはできぬとも、それでもまだ守られていました」

「そうだな」

「ですが、自分で何かをやろうと思う女人にとって我が国は辛い場所だったでしょう」

「そうだな」


 公園のベンチに腰掛けながら、ディッパは道行く人々を眺める。

 為政者としては、それでもこのやり方が正しいのだろうと言わざるを得ない。

 実際に食べていけない人間が食べていこうと思えば、その手段は限られる。


(だからその為の底上げをしようと、ユーリ殿は言ってたな)


 避けられないのであれば、せめて最初にきっちりと最低限のボーダーを設けようと。

 そうすれば、どんなに傷跡は残っても、人はまだ希望をもって生きていけるからと。


(その為、まずはパッパルートをか)


 その為の独占権を寄越せと優理は言う。

 代わりにパッパルート王国に緑をもたらそうと。


(恐らく彼女ならできるのだろう。見ていれば分かる)


 本当に賢い人間というのは、どの分野でもそうだが、一般人とは違う思考回路がある。

 たしかに優理は馬鹿なこともやらかしているが、それでいて常識に囚われずに物事を考え、そして実行できる柔軟さを持ち合わせていた。


「なあ、エミリール殿。ユーリ殿をどう見る?」

「ユーリちゃんですか。・・・とても興味深い存在です。上手くは言えませんが、何かやってくれそうなものがあるんですよね」


 本当は優理の出している店も手伝ってあげたいのだが、やはりキマリー国貴族としてはウルティードを放置はできない。

 そしてウルティードはディッパと共にいることで、国王としての視野を学び、いい影響を受けているようだった。

 共にいるエミリールにとっても、その時間は得難(えがた)いものだった。ただの一貴族として仕えるのではなく、王の見る視点でもってそれを支える気概が生まれてくる。


「たしかにユーリって話してると楽しいよな。俺、あのくるくる回る冷たい麺が楽しすぎて笑った」


 流し素麺(そうめん)をしたくても、ギバティールに素麺の概念はない。だから優理は細い麺を水と共に流しながら、それをフォークとスプーンの二本立てて掬い取り、ドレッシング仕立ての調味料で食べるというのをやってみたのだ。

 それは特に、砂漠の国に暮らすディッパ達一行に感動をもたらしていたが、面白さからウルティードにとっても印象深かったらしい。


「そうだなぁ。確かに、次は何をやらかしてくれるんだろうという楽しさがあるな」

「我が王。そこであまり影響を受けないでください。ユーリさんは楽しいお嬢さんですが、振り回されたらとんでもないことになるお嬢さんでもあるんですよ」


 パッパルート王宮でやらかしてくれた過去を都合よく忘れないでほしいと、ニッカスがぼやく。

 あの頃はとても胃が痛かった。


「いいじゃありませんか、ニッカス殿。どうせここは本国じゃありません。ディー様にもこういう時間は大切ですよ」


 穏やかにリビームが取り成すのは、ずっと頑張り続けていたディッパを知ればこそだ。

 国王として振る舞わなくていいディッパの表情は、とても柔らかくなっている。


「それは言えますな。我が国であればディー様は失敗すら許されない時もありましょう。ですがまだ、小粒に納まるには早い」


 エンセもそれに頷いた。


「何だか気を遣わせてるな。だが、出てきて良かった」


 ディッパは面映(おもは)ゆそうな顔になりながらも、そんな顔を見られたくなくて、つい薄い水色の空を見上げてしまう。

 ああ、本当にここを照りつける太陽は何と弱々しいことか。

 あの照りつける厳しさを忌々(いまいま)しく思っていたのに、離れてしまえば懐かしく思える。

 あの国を自分は救えるのだろうか。


「歴史に名を残す愚王か、それとも・・・」

「そう悲観的に考えずとも大丈夫ですよ、我が王」


 その気を紛らわせようとするかのように、ニッカスが明るい口調で軽く肩を叩いた。


「歴史に名を残すお茶目王を目指せばいいんですから」

「それ、もっと情けないだろっ!?」


 するとウルティードがげらげら笑い出す。


「分かった。じゃあ、キマリーでもそれを後押ししてやるよ。ディーの治世はキマリーにも鳴り響く程のお茶目さがあったって。だーいじょーぶ、他国の歴史に記載されてりゃすっげぇ信憑性(しんぴょうせい)出るからさっ」

「ティード、それ、歴史の捏造(ねつぞう)ですから。駄目ですからね、やっちゃ駄目ですからね」


 自分だって反対の立場なら面白がってやっただろうエミリールも、さすがに義兄にあたる第一王子ケイファストのことを思えば良識的な意見しか言えない立場だ。

 もしも姉ラヴィニアが違うところに嫁いでいたら、きっとエミリールも加担しただろうに。


「まあまあ。そう固いこと言うなよ、エミリール。な? 大丈夫、俺達は共犯だ」

「勝手に共犯設定しないでくださいよっ」

「ハハ、それいいな。その代わり、パッパルートでもキマリーの歴史を一つ捏造しといてやるから」

「なんでここで裏取引に走ってるんですか、ディーッ」


 愕然とするエミリールの顔が面白くて、ディッパは声をあげて笑った。

 そんなディッパ達の視察旅行は、もうすぐ終わりを迎えるだろう。

 だから考えずにはいられないのかもしれない。自分達がパッパルートに戻った時、何が起こるのかと。


(デューレ。お前は一体何を考えている?)


 ギバティールにいる大使の所へ顔を出せば、何でも弟王子のデューレはルートフェン国に行っているとか。

 しかもルートフェン国の第一王女カディミアと、このギバティ王国のラルース王子との縁談が持ち上がっていたというのだからびっくりだ。


(ルートフェンなんざ格落ちだろうに。しかもデューレは何をやってんだか。その縁談を邪魔してんのか? 後押ししてんのか? あいつ、ほんっきでわけ分かんねえよなぁ)


 どちらにしても全てはパッパルートに戻ってからのことだ。


――― 我が王国は、(あがな)いの罪を背負う。


 そんな一節が、ふと心に浮かんだのは何故なのか。

 自分の心に浮かんだその気弱さを、ディッパは振り払った。


「さ、そろそろ休憩を切り上げよう。次は簡易神殿から見ていくか」


 優理お手製の観光地図は、無駄のないルートや立ち食いできる美味しい軽食屋と、全てが網羅されているのだが、泣けてくる程に庶民的だ。

 まさにディッパが王族として案内されたかつてとは全く違う観光ルートだった。


「なんつーか裏路地観光って感じだよな。ある意味、すっげぇ勉強になるけど」


 そんなウルティードの声は彼らの気持ちを代表するものだったろう。

 けれども大神殿の裏側にある門を使えば行列に並ばずとも入れるとか、こっそり料金を払わずに入れる方法とか、すべてにおいてせこい。

 ルートも大通りじゃなく路地を使ったものばかりだ。


『なんであのユーリさん、こんな地図を出してきたんでしょうね』

『大通りだと人が多いからとか言ってたが、どう見ても立ち食い地図だな』


 そんなことをエンセとジュウカがこそこそと囁き合う。

 ディッパやウルティードやエミリールにとっては新鮮だったが、初めてギバティールを訪れている他のパッパルート王国人にとってはせこすぎて、その荘厳な雰囲気に感動とか、煌めく城の壮大さに心打たれるとか、そういうものを全く感じられない観光でもあった。






 ギバティールにある街、ティネル。

 そこで市場に店を出している優理はにやにや笑いが止まらなかった。

 くふふふふ、えへへへへと、放っておいても笑いが出てきてしまうのだ。仕方ない。

 今日も今日とて夕食を食べにドレイクの建物までやってきているキースヘルムは、その不気味さに正直なところを伝えた。


「あのな、ユーリ。嬉しいのは分かったからいい加減にその気持ち悪い笑い方を止めろ」

「文句あるならあっちに行ってちょうだい、キース。ま、私のこの才能に嫉妬する気持ちは分からないでもないんだ・け・ど」


 ほほほほほと、鼻高々(はなたかだか)な優理は完璧に調子に乗っている。

 今日はとっても機嫌が良いのだ。

 あまりにも機嫌が良すぎて、市場の帰りには奮発して丸ごとの鶏を10羽も買ってしまった。それらは詰め物をして美味しく窯で焼きあげ、現在、皆のお腹の中へと消えている最中だ。

 ちなみに購入代金は後程、ドレイクより支払われることとなっている。


「誰がんなもんに嫉妬するか」

「あっほやなぁ、キースヘルム。ほんなん同じ土俵に上がる奴がおるかい」


 こんがりパリパリな皮の部分をいち早くゲットして食べているドレイクは、さりげなく一番大きな鶏を選び取って切り分けていた。

 ドレイクの仲間達も、優理の手料理は悪くないと、用事があっても先に食事だけここでありついてから出かける有り様だ。


「まあまあ。ユーリちゃんも見る目があって賢かったってだけだよな。いい目利(めき)きだもんな」

「やっぱりカイネさんが一番分かってるぅ」


 うふふふふと、カイネに頭を撫でられてご機嫌な優理は、自分の耳に心地よい言葉だけを選抜する能力に優れていた。


「で、結局、どれだけ儲けたんだ? これだけの短期間で売りきったのは凄いが」

「そうでしょそうでしょ。もっと褒めてちょうだい、レイス」

「ああ。で、どれだけ儲けた?」


 そこらへんはシビアなレイスだ。


「じゃじゃーん、聞いて驚きなさい。なんとっ、金貨729枚っ。純利益でねっ」


 さすがに聞いていた全員が驚く。


「すっげぇな。やっぱユーリって凄すぎだぜっ。賢い賢いと思っちゃいたがさすがじゃねえかっ」

「ウルティードの見る目程じゃないけどね」


 謙遜(けんそん)しているようで、全くしていない優理だ。


「さすがだね、ユーリちゃん。ただ、よくそれだけの儲けを掠め取られなかったね。そこまで儲けている気配があればやっぱり(ろく)でもないことを考える奴は出てきそうだけど」

「やっぱりエミリールは目の付け所が違うわね。そうなんだけど、男の子達の口が軽かったおかげで助かったの」

「どういうことだ? いずれこっちも手伝いに行こうと思っていたのに、こんなにも早く売り切るとは思わなかったぞ。凄い荷物の量だっただろう」

「そうね、ディーさん。あなたになら教えてあげてもいいわ」


 優理はディッパに対してかなり心が広い。

 というのも、ディッパは国王という立場にありながら女神に対して並の神官よりも敬意をはらっていることが判明したからだ。


「これはね、市場の中における来客数も関係するのよ」


 そもそもこの短期間でどうしてここまで仕入れてきた全てを完売することができたのか。

 それは、少年達の熱意と、優理の仕入れに関する目利きが合わさった結果だった。

 まず、優理は持ち前の好奇心であちこちに出かけていた。だからギバティールで扱っていない小物ばかりを選んで買ってくることができたのである。それは希少性、つまり他では手に入れることができないという価値がつく。


「そう。私のこの細やかな感性が憎くなる程よ。外国から買いつけてくる商売人はね、手っ取り早く仕入れるものなの、手に入りやすい物を。

 だけど私は違う・・・! あまり知られていない産地に足を運び、そうして(とっても安く)仕入れてきていたわけ。何故なら、私には分かっていた。

 このギバティールでどんな物が売られていて、どんな物が売られていないかを・・・!」


 尚、それは普通の人と違い、空飛ぶ幻獣という交通費ゼロ、護衛代金ゼロ、宿泊費も安上がりという要因がかなり大きく影響していた。優理にとってどんな悪路も関係なかった上、宿屋がなくて野宿になっても全く体に負担を与えるものではなかったのだから。

 通常の商売人であれば、交通に要する費用だけでもそれなりに出ていくとあれば断念することは多い。


「そうして、ギバティールでまず見たことのないデザインや売れそうな物ばかりを買ってきたの。しかも買い付けに行った先では、

『こんな辺鄙(へんぴ)な場所にまで来てくれて、しかも大量に買ってくれるとは・・・! よっしゃ、これ全部でこんだけにしてやるっ』

と、安くしてくれた。

 それは私の日頃の行いがいいせいだと、私には分かったわ」


 ほうっと、夢見る乙女のように天井を見上げる優理だ。

 きっと彼女の瞳にはそこに金貨がキラキラと浮かんで見えているのだろう。


「なあ。それ、日頃の行い、関係ねーだろ? 単に売れねえで困ってる所に行って、札束でほっぺたペチペチしただけだろ?」

「しっ。そういうことを言うもんじゃありません、ティード。女の子の恨みはしつこいんですよっ」


 そんなウルティードとエミリールの突っ込みは無視する。

 優理はうっとりと何かを思い出すような瞳になった。


「そうして人件費。普通、人を雇えばお金は出ていく。だけど私のお店を手伝ってくれている彼らは学生さんで(情報屋の)臨時仕事があればバイト代を出すだけでいい。しかも彼らは私の占いではほとんど儲けがないことを知っているから、大抵は軽食だけ出しておけばいいよって言ってくれる。

 そして私がいない間の生活費の保障もしなくていい。そこに普通のお店とは違う強みがあった。

 私には、人件費が最小限という強みが・・・!」


 そこでしらーっとした空気が流れたのは、様々な手下達を抱えるドレイクとキースヘルムのテーブルだった。

 どちらもそこら辺には苦労しているからだ。次から次へと儲けになる何かを考えて投資し、そうして回収していかねば一家が潰れてしまう。


「なんやろな。なんか人生、不公平やわ(おも)てもたわ」

「全くだ。なんで俺らが野郎共のケツ蹴っ飛ばして働かしてあくせく稼いでんのに、あんな幸せな奴がいていいんだ?」


 不機嫌そうにドレイクとキースヘルムは互いのジョッキにエールを注いで飲む。

 勿論、そんな二人の感情に対し、優理は鈍感力が優れていた。


「彼らの、私が自分の体を担保に金を借りたという誤解のおかげで、彼らは私の商品を売ろうと噂を広めてくれた。とても珍しい物ばかりが仕入れられていて、しかも売り切れ御免なのだと。

 すると様々な人が押し寄せたわ。それで市場の管理人さんも、

『市場の入り口でここまで人に押し掛けられたら、他の店に買いに来た客が入れんだろうっ。特別に市場の一番奥の催事場を貸してやるからそっちで売ってくれっ』

と、言い出してきたの。

 だけど私には、そんな場所を借りるお金なんてない。だって貧乏なんだもの。

 そうしたら、今回は特別に無料で貸し出ししてくれたの・・・!」


 らーら、らららーと、歌いだしたいぐらいに優理はハッピー気分である。


「なんて素晴らしいのかしら。この世界は」


 夢見るお花畑を体現している優理の器用な点は、話しながらも食べ続けることができることだ。嚥下と発声を上手く交互に切り替えているのだから凄い。

 そこに感心するのはエミリールだった。


(ユーリちゃんって、ホント、どこでも生きてけそうな子だな。やっぱり面白いんだよねえ)


 どうせ仕入れてきたのは全て雑貨なのだから、ゆっくり売っても構わない。だから借りるお金がないとか言って、のらりくらりと優理は場所代を出さずにすませようとしただけだろう。

 ただ、市場の管理人には最奥の展示場を優理に貸すことで、それに押し掛けた人達が他の店でも買い物をしてくれることを期待する気持ちもあった筈だ。

 そのあたりをエミリールは見抜いていた。


「勿論、客の中には他の商売人もいたわ。それこそまとめ買いをしようとしてくる商売人達が。

 だけど私の使命は、様々な人達にあの珍しい商品を届けることにあった。だから一人につき3個までと、それは明記してあったの。

 そうして彼らは、何回も何回も来ては買うことの手間より、

『まとめて買わせてくれ、その代わり少し多めに出すから』と、そう交渉することを選ぶしかなかったのよ」


 つまり、客は一般人だけではなく同業者もいたということである。


「なあ。様々な人に珍しい物を届ける使命はどこに行ったんだ? 結局、そっちにまとめ売りした方が儲かるからそっちに売ったってことだよな?」


 ウルティードの指摘に、優理はニッと笑ってみせた。


「任せてっ。まだ店頭に出してない物を全てその人に売る代わりに、売り値予定の5倍価格で買い占めてくれたわっ」

「えげつねえっ。売り値の5倍価格って、何だそりゃあっ」

「それが商売というものよっ」


 ()()るウルティードに、ほーほっほっほっほと、高笑いする優理はいいコンビだ。


「ま、要はアレだな。昨日あったもんが今日はもう無い。そういうのを繰り返すことで、二度と手に入らないという付加価値をつけ、そうなると毎日やってくる客がどんどん増える上、誰もが知人友人を連れてくるもんだから一気に売りさばくことができた。そんなとこか」

「そっのとーりっ。カイネさんにはやっぱり分かっちゃう?」

「そりゃな。俺達は一通り見てたからな、中身を」


 たしか優理は一般庶民が買うような廉価品と、かなり値が張る高級品とを買ってきていた。恐らくその高級品を商売人に売りさばいたのだろうと、カイネにも見当はつく。

 そうなると最終的な購入者は貴族や豪商レベルだ。

 優理が市場で一般人に売ろうとしていた値段の5倍で買い取ったところで、十分に儲けが出る金額で売りつけられるだろう。

 実際、自分達が土産にもらった物も、正規で購入しようとしたらかなりの金貨が飛んでいくものだった。


「あまりの売れ行きに、市場の管理人さんも、そういうことならと、私から使用料を取ろうとしたの。最初の約束を破って。だけど、そこでみんなが食ってかかってくれたわ」


 少年達にしてみれば、若い娘が自分の身を担保にしてヤバイ所から金を借りた場合、その利子はまさに雪だるま式と知っている。

 どんなに儲けようとも、その9割以上が持っていかれてしまうのだと。


『ひでえよっ、管理人さんっ』

『そうだよっ。この売り上げのほとんどを渡さないと無傷じゃ帰れないんだぜ、ユーリ姐はっ』

『あんな閑古鳥(かんこどり)な占い屋がここまでの金を作るやり方なんて限られてるって分かるだろうがっ』

『自分の娘ぐらいな相手を地獄に突き落として、それでも人間かよっ』


 だから少年達は、強く市場の管理人に抗議したのだ。


(ま、まさか。そう言えば、以前にも変な奴らに攫われたことがあったな、ユーリさん)


 その時、管理人の男の目に浮かんだ優理は、どんな破綻街道まっしぐらな暗黒状況に置かれていることになっていたのか。

 優理は知らない。知りたくもない。

 だが、愚かな小娘を哀れむような顔で見下ろした市場の管理人は優理の肩をポンと叩いた。


『命さえあれば、・・・やり直せるんだぜ』


 彼は、ぽつりと呟いた。


『あ、はぁ』


 勿論、優理だってそこで本当の事を言おうと思わないわけではなかった。

 それは借金した金ではないのだと。だからそんな怪しげな契約はされていないと。

 けれどもそこで優理の中に囁く悪魔がいたのである。


――― いーじゃん。このまま誤解してもらっときなよ。そうすりゃ全てはアンタのもん。

――― そうそう。大体さぁ、普通に行って帰ってきたら儲けにならないからどこも買いつけに行かないんだろ? それをしてきてやったんだぜ? 当然の対価じゃねえか。


 勿論、優理の中には天使だっていた。


――― こんなにもあなたを信じてくれる人を(あざむ)き続けてもいいものでしょうか。真実を明らかにし、顔をあげてまっすぐ彼らの汚れなき瞳を見つめる自分で居続けたいと、そう思いませんか?

――― そうです。彼らはあなたを大事に思い、そうしてこんなにも案じてくれているのですよ。


 だが、悪魔の方が数は多かった。


――― けどよ。これが全部儲けになりゃ、今までちょっと躊躇(ためら)ってたもんも買えちゃうよな。なあ、いざという時の資本力があるのとないのとって、・・・人生変わるぜ?


 優理の心がどちらに揺れていたかは言うまでもない。


――― 大事なことはここで市場の管理者達の懐を温めることじゃねえさ。あんたにゃまだ大事な夢がある。その為に金は持っておきなよ。(くじ)けそうになった時、皆で水を啜るしかない極貧生活より、挫けそうになっても腹にたまるステーキがありゃあ、明日に向かって立ち上がる根性も出てくるってもんさ。


――― いけません。清く正しく美しく生きずして、どうして良心に恥じずにいられるでしょう。たとえ空腹に耐えなければならない時がきたとしても、あなたの誇りは誰にも汚されることなきものであったと胸を張って生きていたいではありませんか。


 というわけで。

 優理は管理人に言った。


『金貨数百枚の利子が、・・・今、どれくらいかなんて、分かりません。だけど、・・・私、これさえ持っていけば助かるって、・・・そう、思ってるんです』


 罪悪感に(うつむ)き、途切(とぎ)れ途切れになってしまう口調は、かえって信憑性を高めただけだった。


『いるんだよ、そういう夢を抱く奴ってのは。

 自分は大きなチャンスをものにしてみせる。だからここで一発逆転をしてみせるんだと。

 だがな、ユーリさん。彼らはその後、姿を消すんだ』

『・・・・・・はい』

『だが、まだそこまで時間が経ってないなら、望みはある。・・・必死に頼めば許してくれる筈だ。誰か、そういう交渉に強そうな心当たりはあるのかい?』

『・・・一応は』


 ズキズキする罪悪感が、優理の声を小さくさせてしまう。

 けれどもそれは、市場の管理人、市場に出店している他の人達、そうして少年達の心に、確信をもたらしただけだった。

 そういうわけで。

 優理が我が身を売ってヤバイところで作った金で仕入れてきたという話は市場中に巡ったものだから、その売り上げを(たか)ろうとする人は全く出なかったのである。

 だが、そこまで話を聞いていたなら、ドレイクとキースヘルムにも思うことは出てくる。


「なあ、ユーリ。ほんなんどうでもええねんけど。で、どっちなんや?」

「え?」


 ドレイクは自分達のいるテーブルに(ひじ)をつきながら、優理を見据えて言った。


(いま)ん話や。うちとキースヘルム、どっちがお()はんに金貸した方で、どっちが交渉してくれそうな親切な人や()うてきたんやろなぁ? ほれ、正直に言うてみぃ?」


 笑っているドレイクの瞳は、決して笑ってはいない。

 キースヘルムもこうして楽しく飲む分にはいい相手だが、やはりきっちりとどっちが上かははっきりさせておきたいのだ。優理の中ではどうなのかを。


「え。えーっと・・・」


 えへへと笑って誤魔化(ごまか)そうとする優理だ。

 言えない。二人が揃っているこの場では絶対に言えない。


「それは俺も是非聞いておかんとな。なあ、ユーリ? 俺はお前にタダで200枚くれてやった親切な人のつもりなんだがな」

「えへへへへ」


 そんな優理に助けの手を差し出す人はいなかった。

 何故ならキースヘルムとドレイク、どちらも優理に何かと金を使っているのを、皆が知っているからである。

 優理の額にも汗がたらーりと流れてしまう。


「あ。そーだったっ。私、お部屋にご用事がっ」

「お前な、ユーリ。ここで逃げても明日とっ捕まるだけだぞ?」


 レイスが親切な忠告をしてみる。


「すぐ戻るからっ」


 だが、ばたばたと優理はここで使っている部屋へと駆けていってしまったものだから、それを見送ってレイスは、ドレイクとキースヘルムに視線を向けた。


「その程度のことで根に持つな。あいつは基本的に誰のことも嫌ってはいない」

「ほんなん分かっとるわ。せやけどな」

「ああ。やっぱりそこは大事だろ」


 ドレイクとキースヘルムに退()く様子はない。

 けれどもしばらくしたら優理が二つの箱を持ってやってくる。


「はい。ドレイク、キースヘルム。これあげる。今回の売り上げで買えるだろうと思って注文してあったの」

「なんや、これは」

「えーっとね、ペンダントにする奴?」


 ドレイクとキースヘルムが箱を開けると、中には金貨が入っていた。しかし普通に金貨として流通している丸いタイプではなく、四角い形の物だ。


「こりゃ高額金貨か? なんや、そうそうお目にかかるもんでないで」

「本物か? あれは普通の金貨よりも純度が高い筈だが、この輝きは・・・」


 それを聞いて、どれどれと他の男達も集まってくる。

 ディッパが横から、

「失礼」と、それを一つ取り、火の所に持っていって何かを確かめるとそれをキースヘルムに返した。


「本物だな。その特殊な刻印は間違いない。ギバティの高額金貨だ」


 貧乏国でもその辺りはきっちりと仕込まれている国王だ。これを扱えるのはどの国でも王宮だけと決まっている。


「あのね、それね、ちゃんと枠をつけて、革紐とか通せるようにしてあるの。普通の金貨10枚の価値があるんでしょ? だからね、普段は身につけておいて、何かあった時にお金に換えられるから使って? 二人とも仲間もいるし、心配な人にそれあげたらお守りになるでしょ?」


 一つの箱に入っていたその高額金貨は20枚。つまり通常の金貨200枚分だ。

 二人に渡したのだから金貨400枚分。

 枠の加工賃を入れたら総額で金貨440枚は払っているだろう。

 純利益とやらの金貨729枚中、半分以上をこれに使ったことになるではないか。

 ドレイクとキースヘルムは顔を見合わせた。


「多すぎやわ、ユーリ」

「いいの。どうせドレイク、いつか私に積もり積もってそれぐらい使いそうだもの。先払いよ」

「せっかく儲けたのに、これじゃ馬鹿すぎるぞ、ユーリ」

「構わないわ。だってもらいっ放しは心苦しいしね。だけどそれならいつか困った時に、みんなの命を救う手段になるかもしれないでしょ?」


 首から提げておけば、いざという時にそれを金貨10枚に換えられる。そうすれば生き延びることもできるだろう。

 優理のそんな思いが込められているような気がして、二人はしょうがないなと肩を竦める。


――― 女に金使(つこ)うたことぁあっても、使われたんは初めてや。

――― 言われてみりゃ俺もそうかもな。


 だが、せっかくの気持ちだ。突っ返す必要はないだろう。


「きゃっ」


 キースヘルムがひょいっと自分を抱き上げたので、驚いて優理は小さな悲鳴を上げた。


「なんだ。俺から騙し取ったの、少しは気にしてたのか?」

「気にしてなんかいませんよーだ。ばーかばーかばーか、女ったらしー」


 だが、そんな憎まれ口もこうしてみれば可愛いと思える。

 キースヘルムは、日頃の傲慢な態度が嘘のように屈託(くったく)のない笑顔をみせた。


「いいさ。有り難くもらっておこう。ま、使う日は来ないだろうがな」

「備えあれば憂いなしって言葉知らないの? ちゃんといざという時の為に備えておくのは大事なのよ」


 偉そうに優理がキースヘルムに説教してみせるのを横目で眺めつつ、ドレイクは苦笑してそこにいたレイスやフォルナー、カイネ、ロドゲス達に一つずつ渡していく。


(20枚ってんは、俺達ん数見て決めたんやろか)


 それは、この建物に集まっているドレイク達幹部の数でもあった。






 ギバティールに戻ってきても、あの自分の借りている家ではなく、こうしてドレイク達の建物で過ごしていると不思議な気分になる優理だ。


(なんだか、ここまでくると合宿のノリなのかしら。それとも大家族?)


 ドレイク達の仲間もこの四つに分けられている建物の中で寝泊まりしたり、違う場所で夜を過ごしたりと、好きにしているらしい。

 ディッパ達一行とウルティード、そしてエミリールは、まとめて一つの建物を提供されている。

 本当は優理と同じ建物にいたかったらしいエミリールだが、ウルティードの護衛を優先するしかなく、そうなればディッパ達との同居になるのは仕方ないことだった。


(だけど朝ご飯も夕ご飯も一緒だし、中庭が通路になっちゃってるからあまり建物が違うって感じしないのよね。寝る部屋が違うだけだし、これ、大家族的な同居よね)


 ディッパ達パッパルート一行とウルティード、エミリールは夜遅くまで色々と議論している様子だ。色々と書きなぐった紙が散らかっている中で、寝落ちしたりもしている。

 朝、優理が起こしに行けば、なんだかミミズがのたくったような字になっていたりもするから、程々にしておけばいいのにと、思うこともざらだ。


「どうした、ユーリ? 眠れないのか?」

「んー。そうじゃなくて。なんかディーさん達、頑張ってるなぁって」

「ああ。今日もまだやってるな」


 窓から見える灯りを確認し、同じ寝台にいたレイスが頷く。

 このレイスが管理している建物を使っているのは優理とカイネ、ロドゲス、ヴィオルト達だ。ドレイクは向かいの建物を何人かと使っている。

 優理にはレイスの隣の部屋を与えられたが、何となく夜になると優理はレイスの寝室に来ていた。


「レイスは他の人達みたいに出かけなくていいの?」

「別に。・・・安心しろ。いざとなりゃお前で楽しませてもらうさ」

「ふーん」


 その気もないくせにと、優理は思う。


「いらん心配せず、子供はさっさと寝ろ」


 背中ごと引き寄せられて、優理はレイスの胸に顔を埋める。

 その胸に揺れている高額金貨に気づいた優理が少し顔を上げれば、レイスが見下ろしていた。


「エミリール達には渡さなくてよかったのか?」

「うーん。どうせ持ってそうだし。多分、服の間とかに仕込んでそうな気がするのよね」

「ま、そんなところだろうな」


 高額金貨は使いにくいことを考え、あえて普通の金貨や銀貨を縫いこんであるに違いない。

 それに彼らは、どの国に行こうとも王宮関係に連絡を取ればすぐに保護される身分を有している。

 あげたところで意味がなかった。


「なんでキースヘルムにも結局金を返したんだ?」

「返したって言うか、あれはちょっとしたお仕置きだったわけだし」

「ほう?」


 面白そうにレイスの赤茶けた瞳が瞬く。


「人を馬鹿にしてくれたから、仕返しでちょっと騙しただけだもの。反省したなら返してあげるぐらいするわよ」

「そうか」


 優理の背中を撫でてくるレイスは、それでもキースヘルムに嫉妬しているわけではないらしい。

 彼は一体何を考えているのだろうと、優理は思った。そして自分も。


「ねえ。レイスのお父さんとお母さんの話、して」

「うちの両親? 別に普通だな」

「それでもいいわ。レイスがどんな子供時代だったか聞かせて」

「どうした? 親が恋しくなったか?」


 そうかもしれないと、優理は頼りなく視線を揺らした。

 キースヘルムがあんな風に自分を抱き上げてきたからだろうか。もう、あの腕はないのに。

 誰よりも自分達を大切に抱き上げてくれていた父の腕は、もう永遠に失われたのに。


「俺の親なんぞ聞いても楽しくないぞ」

「いいの」


 更に引き寄せられてレイスの鼓動を感じれば、その温もりすら懐かしい。


「俺の父親は、・・・そうだな、祖母に育児放棄されて育っていたな」

「は?」


 (しょ)(ぱな)からコメントに困る話だった。優理も自分の無神経さに体がフリーズする。


(どこが普通なのよっ。それっ、全然普通じゃないからっ)


 だからレイスだけは信用できないのか。それとも、・・・だから甘えてしまうのか。


「父方の祖父母は昔からとても仲が良かったらしい。祖父は神官だった。祖母は身よりのない孤児だったと聞く。出会いの場所がどこかは知らんが、祖父が一目惚れして逢瀬を重ね、結婚したそうだ。その為、祖父は神官としての出世が断たれたとも聞いている」

「やっぱり出世の近道は上司の娘さんとの結婚なのね」

「かもな」


 どうでもいいと言わんばかりのレイスだ。


「だが、孤児だった祖母は育児について全く知識がなく、父を産んだはいいが、育てるのはとてもヘタクソだったらしい。見かねた祖父が父を神殿についている孤児院に放りこみ、そこで育ててもらったぐらいだ」

「はあ。両親健在で孤児院・・・」

「おかげで父は、普通、子供というのは孤児院で育ち、そうして時々両親が会いに来てくれるものだと思っていたそうだ」

「うわぁ」


 不憫になってきてしまうのは自分だけではないだろう。

 優理は見たこともないレイスの父親をとても可哀想に思った。


「だが、父も成長するに従って、自分の母親が悪い人ではないのだがちょっとおかしいことに気づき、・・・最初は何かと荒れたようだが、途中で諦めたらしい。暖簾(のれん)に腕押し、という奴だ」

「えーっと・・・」

「両親が揃っているのに子供を孤児院に放りこむとは、それが親のすることかと、詰問したこともあったそうだ。だが、祖母はとても浮世離れした人でな。


『まあ。どうなのかしら。親ってなったことないから分からないわ』

『俺を産んだ時点で親だろうがっ』

『まあ。じゃあ私もこれで立派な母親ね。感動だわ』

『育ててねえだろっ。立派な母親ってのは、子供を育ててから言うもんだっ』

『そうなの? じゃあ、今から育ててあげる。良かったわね。さあ、母の所へいらっしゃい、愛しい坊や。あら、だけど育児ってどうすればいいのかしら』

『その前に、料理の一つぐらいできるようになってみやがれっ』

『あら。お料理は他の人がしてくれるから私はしなくていいのよ?』

『違うだろっ』


 まあ、そんな感じだったらしい」

「・・・あはは」


 なかなか奇人的性格保持者(エキセントリック)な祖母だったらしい。


(普通じゃないっ。私もそこまで様々な家庭を知ってるわけじゃないけどっ)


 自分の引き攣り笑いをどうすればいいのか、優理は悩んだ。


「なんであんな女に俺を産ませたのかと、祖父を責めた父だったが、祖父も祖父で真面目に答えたそうだ。


『子供は愛に付属してくることもあるが、それが目的ではない。私達は愛し合った。それだけだ。その結果の一つとしてお前は産まれたが、愛に包まれて誕生したことだけで他に何を望もうか』

『産みっぱなしじゃ意味ねえだろっ』

『ちゃんとここまで親と話し合いができる程に成長したではないか。父は嬉しいぞ』


 そういうわけで、父の気持ちは全く祖父母に通じず、お話にならなかったらしい。反面教師として、父は祖父と同じ神官を目指しはしたが、決してああにだけはなるまいと、強く決意していたそうだ」

「分かる気がするわ」


 きっとレイスの父親は若かりし頃、思ったのだろう。

 どんなに同じ道を通っても、自分の父親とは違う未来に辿り着いてみせる、そうしてそんな自分を両親に見せつけてやるのだと。

 優理はうんうんと頷いた。


「そうして祖父の失敗人生とは違う道を行ってみせると決意した父は神官になり、・・・そうして祖父とは違った婚姻をした。つまり上司の娘との結婚だ。それが俺の母親だな」

「なら、本来はレイスも神官になっていたかもしれないのね。そこまで一族が神官ばかりだと」


 けれども結果はこうである。人生とは分からないものだ。

 レイスが神官だったらと、考えてしまった優理は軽く首を横に振った。

 有り難い説法をした、その舌の根も乾かぬ内に無言で他者の命を刈り取る暗殺者稼業の神官。怖すぎる。


「俺の母は、俺が産まれた時、この目を見て忌避(きひ)したらしい。

 どこの馬の骨とも分からぬ、孤児だった祖母と同じ色の瞳をしているだなんて気持ち悪すぎる、下賤の者である証拠だと。

 俺の弟妹は父や母と同じ色の瞳をしているからそうでもなかった。だから第一子ではあったが、俺は母に疎まれて育った」

隔世遺伝する(そふぼににる)ことなんて普通にあるわ。その程度で・・・」


 レイスの母親は、姑であるその人をそんなにも嫌っていたのか。


「父は俺の目の色なんてどうでも良かったらしいが、神官として家を空けることは多かった。だから俺は、父方の祖父母の家でよく寝泊まりしていた。

 その頃には神官としての仕事を減らしていた祖父も家にいたし、祖母のとんでもない家事に関しては、祖父と俺とが手伝えば何とかなったこともある。通いの家政婦もいてくれたが、やはり通いだと育児まではこなせるものじゃなかった」


 だから父に関しては仕方なかったのだとレイスが説明する。


「そっか。レイスはお祖父ちゃんお祖母ちゃんっ子だったのね」

「かもな。祖父は俺に色々なことを教えた。だから神官としての道には進まなかったが、そこらの神官程度の知識は身についている。おかげでどこかに入りこむときにはかなり重宝した」

「そういうことに使うもんじゃないからっ」


 小さく叫んでしまった優理は悪くないだろう。

 つまりレイスは神官になりすますことも可能なばかりか、それを利用していたということではないか。


(ああ。だからレイスって、どこか変に哲学的だったり厭世(えんせい)的だったりするのね)


 そこは納得できたけれど。

 母親に疎まれて育つとはどういうことなのだろう。だけど祖父母に愛されたならそれは代わりになるものなのだろうか。


「今、お父さんとお母さんはどうしてるの?」

「さあな。生きてるとは思うが、どうでもいい。別に会いたいとも思わん。憎んでいるわけではないが、母は父を常に馬鹿にするところがあった」


 そう呟くレイスだ。

 思うに母親の出身が知れないということで夫を低く見下げる妻だったのだろう。


「両親の家はそのせいか、使用人達も俺にはどこかよそよそしかったしな」

「お祖父さんとお祖母さんは?」

「亡くなった」

「いつ?」


 ややレイスは躊躇(ためら)った。


「俺が13か14、そんなあたりの頃だったか。祖父がいきなり亡くなった。突然死というものだ。苦しまなかった様子なのが救いだ。だが、それを知った祖母は祖父に取りすがり、そして生き返らないと知って、・・・その場で自殺した」

「え・・・」


 顔を上げてレイスの顔を見ようとした優理だったが、自分の背中に回されているレイスの腕が揺らぐことはなく、その瞳を覗きこむことはできなかった。


「俺はそれをただ茫然として見ていた。葬儀は父が行ったが、やがて俺は家を出た。それ以来、帰っていない。二度と帰る気もない」

「・・・レイス」


 もしかしたらレイスはかなりいい家のお坊ちゃまだったのではないだろうか。そう思う優理だ。

 勿論、知る気になったらすぐに自分は知ることができる。

 だけどそれはしてはいけないようなことのような気がした。


(少なくともレイスは今も最初の契約を守ってくれている。私がズルする人(アンフェア)であっちゃいけない)


 だけどこういう時、自分は何と言うべきなのだろう。


「お祖母さんはお祖父さんを愛していらしたのね」

「そうだな。祖母にとって祖父以外は最初からどうでもいい存在だったんだろう」

「そんなことは・・・」

「孤児だったが、祖父が一目惚れしたのも当然の、いつまでも若々しく童顔な、母よりも若く見える祖母だった。しかも美人だった。

 だから俺の弟も祖母に憧れて家にやってきたことがあって、祖母も喜んで風呂に入れてやったりして世話をしようとしたんだが・・・」

「ちゃんと孫息子のお世話をしてあげる、いいお祖母さんだったのね」


 息子の世話はできなかったが、たまにやってくる孫息子の世話ぐらいはできたのだろう。

 優理は好意的に解釈した。

 同時にレイスの母親の気持ちも分かる。夫の母親が自分よりも若く見える美女だっただなんて、かなり屈辱的な話だ。姑の方が自分よりも若く綺麗だなんて、そりゃ女性なら嫌うというより、悔しくて近寄らなくなるのも当然だろう。


「どうだろうな。そこへ祖父が帰宅した途端、祖母は弟を風呂に入れていたことも忘れ、そうして弟が来ていることすら失念して祖父とお喋りし始め、2人で出かけることになってしまい、・・・忘れ去られた涙目の弟は俺がその風呂の続きをしてやる羽目になった」

「・・・・・・えーっと」

「言っておくが、知能に問題はなかった。祖母もあれで様々な知識を有していたからそれに間違いはない。ただ、祖母にとって祖父以外の人間は道端に咲いている花のようなもので、(いつく)しみはするが、何かあればそのまま道端に捨てていっても気にしない、その程度のものだったというだけだ」

「よく理解してるのね」

「観察する時間だけは十分にあったからな」


 そしてそんな祖父母の家に出入りしていた長男(レイス)は、親の家(じたく)に帰る場所をもう持たなかったのだろう。


「そのお祖父さんの家で、レイス、暮らし続けられなかったの?」

「ああ。その家には、今、父が一人で暮らしている筈だ」

「え? 一人で?」

「離婚はしていないだろう。プライドの高い母だったからな」

「・・・えーっと」

「愛のない夫婦だった。いずれそうなるだろうと誰もが思っていた」

「・・・・・・そ、それは」


 重すぎる。

 一番可哀想なのはレイスの父親のような気がしてならない。


「ほら、もう寝ろ。人の育った環境なんて人の数だけある」

「ん」


 もぞもぞと動きながら、優理は寝るのに最適な姿勢を探した。

 結構レイスの脇の下が気に入っている。腕枕は硬いから嫌なのだ。

 低い布製枕(マイまくら)をそこに置いてしまえば、レイスの体温が一人じゃないと伝えてくる。


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 毎日が慌ただしくて疲れているからか。

 寝ようと思ったら、一気に眠気が優理を襲ってきた。


――― 生き返らないと知って、・・・その場で自殺した。


 その言葉に何かを思い出しかけている。

 そうだ。そこまで強く愛したのは・・・。

 優理の心が全てを理解し、納得していった。

 自分は知っている。その深く身勝手な、そして純粋な愛を。


(ああ。だから、レイスはそうなのね)


 やがて優理の意識はそのレイスの温もりに包まれて、闇へと落ちていった。



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