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一大事!  作者: JUN
相続でござる
22/25

急死

 その報に、佐奈達は走った。

「義姉上!」

 スパーンと障子を開けて飛び込んだ佐奈を、今日ばかりは咎める者はいなかった。

 兄嫁の遺体は既に整えられ、薄く化粧をし直されていた。

 嫡男である兄源之丞と佐奈の間には兄がもう4人いて、源之丞と佐奈の年齢は一回り以上開いている。その兄の妻由利と佐奈は10も離れていて、幼い頃にはもう母親がいなかった佐奈を、可愛がってくれたものだった。

 その由利が突然、息ができないようになり、あれよあれよという間に亡くなったのだという。

 しかも、一緒にいた源之丞も同様の症状を見せ、こちらはどうにか息がまだあった。

「一体何があった?」

 訊くが、誰も答えられる者は無い。

 その目が、ふと、片付けられようとしていた皿に気付く。

「待て。それは何じゃ」

「カステイラでございまして、南蛮より――」

 侍女が動揺のままに答えるが、それを遮る。

「そんなのもの、見ればわかる。

 それは、兄上と姉上が食していた物かと訊いておるのじゃ」

 ハッとしたように秀克が言った。

「毒か」

 侍女は皿を取り落としそうになったが、危うく堪えた。

「落ち着かぬか!

 申し訳ございません。確かに、お二人でこれを召し上がっておいででした。その後、このような事に……」

 古株の侍女が若い侍女を一喝した後、佐奈に頭を下げて説明した。

「これはどういたしたものだ?」

「はい。若殿様が午前中に大島家へ行かれてお土産に頂いていらしたものです」

「大島家。兄上と仲のいい方だったな。もめごとも思い当たらぬ。だが、調べた方がよいな。

 桔梗。これを調べてくれぬか」

「はい」

 音もなく付き従っていた桔梗が、食べかけのカステイラ2切れを懐紙に包み、姿を消す。

 それで次に、源之丞の所へ行く。

「兄上」

 源之丞の顔色は悪く、唇は紫色をして臥せっていた。

 枕元に座ると、まぶたがピクピクと痙攣したが、開くまではいかない。

「今、医者を呼んでおります」

 付いていた家臣が悲痛な顔でそう告げる。

 佐奈は源之丞にもよく遊んでもらい、国許に帰ってしまう父の代わりに、父親代わりを務めてくれたようなものだ。

「……さ、な……」

「はい、兄上!」

 源之丞はうっすらと笑い、そのまま眠った。

「先生が参られました!」

 慌ただしい足音が近付いて来る。

「佐奈、出ていよう」

 秀克に促されて、廊下に出る。

 そこで、いつも源之丞に付いている側用人に目を向けた。

「今日、大島家へ行ったとか」

「は!あちらの若様がお風邪を召されたと聞き、お見舞いに」

 青い顔をしながら答える。

「その際、カステイラをお土産に頂いたとか」

「は!弟君が御見舞いにとカステイラを差し入れられたのですが、食欲がないとの事で、よかったらと勧めていただきました。

 まさか!?」

「まだわからぬ。軽はずみな事は言えぬ。調査中じゃ。

 そうか。大島家か……。

 楓」

 楓が、スッと頭を下げ、

「即刻調査に向かいます」

と言い、姿を消す。

 そこへ、別の家臣が現れて佐奈に頭を下げた。

「佐奈様、上戸様。殿がお呼びでございます。すぐにお越しくださいますよう」

「わかった」

 佐奈と秀克は、急ぎ足で、本宮の前へ急いだ。


 宗二郎と光三郎は、佐奈の部屋で話して待っていた。

「もしカステイラに何かが入っていたとたら、本当の狙いは大島家の若様だったって事かな?」

「そうなりそうだな。まさか、見舞いの品が見舞客の手に渡るとは考えまい」

「そうだよね。

 楓さんと桔梗さんの調査結果で、何かわかるといいね」

 言って、溜め息をつく。

「そうか。宗二郎も若様とは」

「ええ。佐奈と一緒によく遊んでいただきましたよ。優しくて、おっとりしていて、悪い事をしたら、よく言って聞かせるんですが、これが地味に効くんですよねえ。こう、困ったような穏やかな顔のままでさとされると……」

 宗二郎は苦笑を浮かべ、光三郎は頷いた。

「頭ごなしに叱られるよりも効く事があるよなあ、そういうの」

 本宮家の世子であるという事もあるが、それを抜きにしても、助かって欲しいと願うばかりだった。

 そうしていると、佐奈と秀克が戻って来た。

「佐奈、秀克」

「殿のお話とはどうであった」

 佐奈と秀克は座り、浮かない顔のまま話し始めた。

「万が一の時は、養子を迎えるか私が婿養子を取るかするそうで、一応そのつもりでおれと言われた」

 言葉を無くす光三郎と宗二郎だったが、秀克は頷いて言う。

「まあ、お家の存続を考えねばならぬからな。当然の事だ」

「いいのか、それで」

「武家とはそういうものだろう、光三郎」

 光三郎は渋い顔で頷いた。

「まあ、それは後の事。兄上が持ち直してくだされば、その用もない。

 それよりも、楓と桔梗の調査結果じゃ」

「ああ。当家がとばっちりを受けたのかも知れんな」

 4人は沈鬱な表情で黙り込んだ。


 しかしその夜遅く、源之丞も妻の後を追ったのであった。







お読みいただきありがとうございました。評価、御感想など頂ければ幸いです。

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