漫才「漫画の主人公」
幕が上がると、一本のマイク。
行ってみよー!
ツッコミA
ボケB
A「はいどうもー」
B「はぁ……」
A「何やいきなり」
B「いや、今更になって、芸人になって良かったんかなって」
A「重たいな急に」
B「俺、本当はもっとなりたかったモンあってん」
A「そうなん!?何になりたかったん」
B「主人公」
A「?」
B「漫画の主人公になりたかったわ」
A「何ゆーとんねん。お前はお前と言う人生の主人公やないか」
沈黙
B「ええこと言うたつもりか?」
A「俺今ふつうに恥ずかしい」
B「とにかく漫画の主人公や」
A「お前の言う漫画の主人公ってどんなんよ?」
B「そら、スポーツに打ち込んどんねん」
A「なるほど。少年漫画の王道、スポーツ部活モノやな!」
B「そんで、淡い恋心を抱く女子マネージャーがおってやな」
A「はいはい」
B「部活を頑張って予選だとかインターハイや何やで、最後にその女子マネと結ばれんねん」
A「はいはい……あれ?」
B「どうした?」
A「そんなん漫画やのうても、現実に誰だって出来るやん」
B「……は?」
A「俺野球部やって、マネージャーと付き合うてたもん」
沈黙
B「お前……漫画の主人公やったんか!」
A「違うわ!っていうか、そんなんよくある話過ぎひんか?どこにでもある青春やんか」
B、鬼の形相。
A「怒んなや」
B「お前みたいなもんの心ない言葉のせいで多くの少年は大人になっても救われへんのや」
A「いちいち話が重いわ!分かった、お前、実は主人公なんか別になりたないんちゃう」
B「え?」
A「青春がしたいだけや」
B「心の芯えぐって来るなや」
A「やっぱそうやん。ところでお前の青春どんなんやった?」
B、崩れ落ちる。
A「大袈裟やな」
B「嫌なことばっかりやった……」
A「俺も嫌なことめっちゃあったで!でも高校の部活と恋愛だけがいい思い出やねん。俺の青春はそれだけや」
B「?」
A「つまりやな、ダメダメな青春の中にも、いいとこひとつくらいあったやんか?そこ引き伸ばしたら青春したことになるわけや」
B「その前向きさ……お前、やっぱ漫画の主人公やったんか!」
A「やめろふつうに恥ずかしい。ほら、何かええ思い出があるはずや。思い出してみよう。高校のクラスに可愛い女子とかおらんかった?」
B「まあ、そらおった。キヨミちゃんていう」
A「その子とした会話とかない?」
B「……ないわ」
A「じゃ、目が合ったとか」
B「ああ、目は良く合うたわ」
A「それ青春の一頁になりそうやん!それなのに話はせんかったんや?」
B「いや、あっち日本語喋られへんかったから」
A「外国人女子か!どういう子やったん?詳しく聞かせて!」
B「いや、あの子は俺なんか眼中にないで。子持ちやったし」
A「は?どういうこと!?」
B「乳も揉ませてもうたし」
A「風紀乱れすぎやんその高校!」
B「毎日乳絞らなアカンし」
A「……は?」
B「絞らな乳腺炎なるからな」
A、悩ましげに目を閉じる。
A「……牛か?」
B「言わんといて」
A「農業高校で飼うてる牛の話なら初めからそう言えや!」
B「それを言うたらアカン!」
A「何でや!」
B「キヨミを女ではなく雌牛と認めたら、引き伸ばす予定の青春の種全部なくなる!」
A「……全部!?」
B「俺が女子と接したのは雌牛と雌鶏だけや」
A「お前……」
B「どうした」
A「生き物との触れ合い……それ、よう考えたら結構青春しとらんか?」
B「お前、ホンマにそう思うとる?」
A、目をそらす。
B「ほーら見てみぃ。これや。みんな綺麗事ばっかりや。俺の、漫画の中に逃げたい気持ちがよう分かるやろ」
A「……フッ。馬鹿野郎」
B「何や急に」
A「青春すんのに女子の話なんか要るか?」
B「……はぁ?今までのやりとりは何やったん?」
A「俺と青春やろうや!今から!」
B「どうやって」
A「俺と漫才やって、天下取ろうや!」
B「お前……」
見つめ合う二人
B「天下取るならまずは相方から変えな」
A「どーゆーことや、いい加減にしろ!」
ありがとうございましたー!