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アデリーネの場合 3

「「……っ入れ替わってねーし(ないし)!! 」」



その叫びに巫女達も慌てて飛び起きた。昨日の祈りは魔力でも使ったのか、随分とぐっすり寝ていたらしい。っと、そんな事はどうでも良い。


あーくそっ!! 薄っすら思ってたよ! 多分神頼みじゃ無理かも知れないとは!!


「やっぱり、どちらかが曰く付きの血筋じゃないと駄目か……? 」


「曰く付きって……それなら私も古い血筋だよ。ある意味曰く付きでしょう」


ぼそっと呟くと、ダンが突っ込んで来る。確かに、王族は龍の血が入ってるとか何とか……。由緒ある血統を駆使しても駄目なのか?! ならば次の手!


「巫女様方、貴方方の様に選ばれた力を持つ方が他に居るかご存知? 」


朝食の準備をしている巫女達は、俺の質問に手を止めて少し思案した後、思い当たったのか二人で顔を見合わせて頷いている。その内黒髪の少女が、俺の方に近付いて来た。


「私達はこの霊山を主神とした神へ仕える者ですが、他に、大陸を統べるドラゴンの番が、選ばれた者と言えるかも知れません」


なんだそれは。初めて聞いたぞ?!


「ドラゴンの番? 」


「はい。ドラゴンは人と関わりがございませんが、龍脈と言う大地の霊力が流れる川の、特に力が集中する場所を守護しているそうです。番になる者は種族関係なく、力の強い者が選ばれるとの事。私達人族はドラゴンには決して会えませんが、番には条件さえ合えば会える者も居る……と聞いた事がございます」


うーん、本来ならドラゴンに直に会いたいんだけど……。仕方ない、神は当てに出来ないんだし、これはドラゴンの番に頼んでみるか……?


「そうですか。どうすれば会えるか知っていて? 」


「ここよりずっと東にある活火山、エインテルに、ドラゴンの番となった魔女が居るそうです。山へ赴けば、自然と会える方と会えない方が選択されるとか……」


「成る程……」


何かゲームのイベントっぽいな? 俺が会いに行っても平気だろうか? まあ、会えなければ会えないでそれで終わりだろうし、行ってみる価値はあるよな?


「ですが、僭越ながら申し上げますと、宮廷魔術師様も充分お力が強いかと思われますが……」


駄目だろ、手伝ってくれるどころか頭おかしいと思われて婚約破棄されるのがオチだ。婚約破棄なら入れ替わってからで良い。兎に角、今は実行出来そうな魔法や手段があるかが知りたい。


「ふと思って聞いてみただけですわ。貴重なお話をどうもありがとう」


にっこりと微笑んで見せれば、年端もいかない巫女は、顔を真っ赤にして頭を下げた。ふぅ、俺(顔面)の魅力半端ないな。そんな事より、意外と良い情報が手に入ったし、気持ち切り替えて朝食にしよう!


「お引止めしてしまって申し訳ないわ。ダン様、お腹が空いてますでしょう? 私も手伝いましょうか? 」


俺だって前世では簡単な料理ぐらいしていた。パン焼くとか。が、巫女二人とダンにもやんわりと止められ、渋々身繕いをして座って待つことにした。

公爵令嬢とはなんとも堅苦しい身分だとつくづく思う。ダンが横で『次はエインテルかぁ……』とぼやいていたが、聞こえない振りをした。遠いんだよな、エインテル。




それから俺達は聖域から無事戻り、護衛達と王宮のある王都へと帰路へ着いた。さて、なんと言ってエインテルへ赴けば良いのだろうか? 帰りの馬車の中、どう言い包めようか考えてみたものの、良い案は思いつかなかった。


更に最悪な事に、王都へ帰るとそんな事を考えている暇が無かった。

前から準備はしていたものの、王宮で婚約お披露目パーティーが開催され、その後正式に公の場に俺の名前が広まったものだから、お茶会や音楽会やら絵画鑑賞やらの誘いが引っ切り無しに舞い込んで来て、捌いても捌いてもきりが無い。




「もう一生分お菓子食べた〜。もう無理! 勉強の時間も削られる程の社交って必要?! 」


忙しい中を縫う様に設けられた勉強時間の更にその合間。息抜きのダンとのお茶会で、俺はついつい愚痴ってしまう。ダンは相変わらずの優雅な所作でお茶を飲んでいる。くそぅ、余裕こいて。ジト目で睨めば、ここ二年で定番になったいつもの苦笑いが返って来た。


「だって、私とハーフス家の婚約だし。今は外交も問題無く、第一王子の私にこれ以上ない後ろ盾も出来て、弟との継承争いも皆無。皆お祭り騒ぎになるのもしょうがないかな」


「そうだけど、そうだけどー! 二年も我慢したのに、結局振り出しだと思うとー! 」


因みに、こんなにごねても平気なのは、盗聴防止の魔法が使える様になったから。一番に覚えたのはこの魔法だ。俺達には必要不可欠だし。が、俺の見た目はごねてるとは分からない程の笑顔を保っている。遠くでも侍従達が見てるからな。


「正直面倒の方が多いけど、アディを着飾るのは楽しい。この前のベッティーナ夫人の茶会のドレス、凄く可愛かった。アディのプラチナブロンドの髪と合ってて」


「ま、毎度毎度褒めなくても良いから! 俺の美しさは俺が一番分かってるから! 後、いくら王子だからって、ぽんぽんとプレゼント買わんで良いからな?! 」


「えぇ……アディを着飾るのが私の趣味みたいなものだし……婚約者へのプレゼントは紳士として当たり前だよ? 」


「多いんだって! 半年でドレスも宝石も揃えてっ! 何れはダンの所有になるからって、使い過ぎじゃね?! 」


ドレス三着に宝飾品一揃えは多いよな? あれ、普通か? でも十三歳になる子供が出す金額ではないよな? ダンはきょとんとして俺を見ている。成長しても、こういう所はあざと可愛いと言うか何と言うか。


「私のものになる……考えてなかった」


「えぇ……それで予算食い潰そうとしてるのかと思ったぞ」


「仕方ないね、着飾らせたくなるアディの可愛さが悪い。うん。思い切り王子予算使っちゃう」


「それ、入れ替わったら俺の小遣い無くなってるとかだろ?! 勘弁してくれ……」


せっかく王族になった途端に貧乏とか……悲し過ぎない? だと言うのに、ダンはうふふと笑うだけで、何一つ確約してない。こいつ、マジか。マジで予算使っちゃう気じゃないよな?!


「早くエインテル行きたい……」


もう突っ込む気力も失せて、俺は遠くを見た。エインテルへは馬車旅でも三週間ぐらい掛かる筈。こんなに忙しくて、往復六週間とか空く訳無い。転移魔法欲しい。ちょっとぐらい可哀想な俺にチートな力を授けてくれても良くないか?


「暫くは無理だねぇ。王宮図書室の魔術書も読み漁ったけど、それらしい魔法は見つからないし……」


「後は閲覧禁止の図書だけだけど……」


「読むのは成人した王族じゃないと無理だしね。私が読める様になるのは後三年後? 」


二年待ったから、後三年待つのも吝かではない。けど、やれる事があるならばやっておきたい。


「何とか王族権限の転移魔法使えないかなぁ……」


「うーん。あれも陛下と宮廷魔術師長の許可が居るし。こじ開けるには膨大な魔力が要るし。いくら私達が人よりも魔力があるからって、こじ開けたら罰は免れないし……」


「悪戯で済まされる歳でもないしな……」


思わず溜め息が出てしまう。何か良い手がないものか。魔力は流石と言うか何と言うか、俺もダンも人一倍有るのに。使わないと勿体なくない?


「……うーん。暫くは我慢しようよ。発表直後だから、落ち着くまで時間掛かるだろうし。そうだ、今度アベーヌの森の泉にピクニックに行こうよ! 妖精が居るらしいよ? 」


「妖精か……ちょっとでも力になりそうなものは調べておいて損は無いよな」


「相変わらずブレないよね」


そう言って、ダンはまた苦笑いを浮かべる。


いやいや、何を言ってるやら。俺のこの世界での目的はダン、お前の体だぞ?! 寧ろ生きる目的と言っても良い。だから脇目を振る訳が無い。まぁ、最近は本当に何処へ行っても色々ちやほやされるから、ハーレムは無くても良いかな? とは思ってるけど。ダンにクズとか思われるのも嫌だしな……。


ダンは元々の性格か、若さ故の潔癖か、結構真面目な性格だ。ここ二年の付き合いで、ハーレムはあいつの地雷以外の何物でも無いのは分かっている。俺はそれを踏み抜く勇気は無いのだ。

前世含めて素性が分かっているからか、二人で居るのは家族と居る時よりも楽しいし。うん、一人一人と誠実に付き合えば良いんだ。人間、先ずはそこからだよな。そうだそうだ。


……決して、ダンお得意の『笑顔で怒るの』が怖いからとかじゃないからな。



お互いのスケジュールは把握済みなので、一週間後にアベーヌの森へ行く事にして、また勉強するべく俺達は王宮へ戻った。






ーーーーーーーーーー







一週間が過ぎ、俺達はアベーヌの森へ向かう馬車の中に居た。婚約が公になった今、馬車の中は俺とダンの二人きり。ダンは疲れた様子で、溜め息を吐いた。俺が何かあったのかと問えば、くしゃりと顔を歪ませてこっちを見てくる。珍しい表情だなと思いながら、俺は話すように促した。


「婚約も正式発表したし、そろそろ側近を選べと言われていて……」


「あー……」


何だか間抜けな声が出てしまった。だってほら、側近と言えばあれだ。定番の。


「ほら、乙女ゲームには王子の側近が攻略対象者だって前に言ってたでしょう? 紹介されたのも、確かに地位が高い家の子息ばかりで、勧められるのはしょうがないんだけど、私……」


「何が問題なんだ? 」


「仲間内で泥沼演じるかもと思うと、選びたくもないし、側にも置きたくないって言うか……」


ダンはそう言って、遠い目をした。俺もついつい頷いた。


「そりゃそーだな」


納得である。そんなの、俺も嫌だ。え? 入れ替わったらダンの代わりに俺が泥沼処理しなきゃなんないの? えぇ、ちょっと嫌かも知んない。


「だって、逆ハーレムエンドだと、一人を皆で愛するんでしょ? そもそもそれって愛なの? 実際そんな事態が起きたら嫉妬の嵐が巻き起こるの間違いないよね? お互い腹の内を隠して笑顔で牽制し合う未来しか見えないんだけど。というか、皆で一人を分け合うとかって、その時点でその人の事がそんなに大切じゃないって事じゃないの? 大奥とかさ、時代劇でも何でも、女の嫉妬渦巻く……みたいにあまり良い印象じゃないよね? そりゃ、食いっぱぐれないから当時の女性にとっては大奥へ入る人も働く人にも返って良かった場合もあるかも知れないけどさ、貴族間の話だと衣食住とか関係ないし、どう考えても心穏やかに居られないよね? 男性だからって嫉妬しない訳でもないだろうし」


おっとハーレムに対してここまで言うのか?!


うん。やはり俺、ハーレムは辞めとくよ。ダンの言いたい事も分かるよ。妄想と、現実は違うよな? 流血沙汰待った無しだよな? 怖っ。何、これは俺が改心する為の転生か何かだったの? 手間かけ過ぎじゃない? いや、ハーレムはさぁ、こうロマンじゃん。取り敢えず言いたいじゃん?


「そこは魅了魔法使われるのか、強制力が働いて頭馬鹿になるかは分かんないけどさ。じゃあ、取り敢えず俺が面談しようか? 」


「え? 何で? 」


ダンは首を傾げて、俺を見つめて来る。

大きくなっても何だかあどけなさが残ってて、これはこれで可愛いと思うから、俺はどうにかなってるかも知れない。何だろう、弟に思えてるかも。こう、頭をうりうりと撫でたくなるから困る。


「将来的には俺の側近な訳だし、もしゲームの影響力が働いてるとしたら、俺に対して嫌悪を向けるかも知れないだろうし。そこを見極めて人として問題が無いなら、まだ起こってもいない未来の為に断るのは流石に可哀想だろう? 」


「えー……アディに会わせるの……? うーん……」


「いや、ダンの未来への不安は分かるぞ? けど、問題無かったらせっかくの使える人間を手放す事になるし、何なら俺達で逆ハーエンドを回避出来るかも知れないし。最悪、誰か一人が籠絡されるかも知れないけど」


「それって婚約者を捨てて……でしょう? 」


そうなんだよなぁ。


「そうしたら、その婚約者は慰めて新しい出会いを提供すれば良いし、アホな行動した奴はクビ切れば良いんじゃないのか? 」


「うーん……分かった。それで手を打つ」


「まぁ、ダンだってうかうか出来ないし、もしかしたら俺にも言えるかも知れないからな、最初から決め付けたりはしないでおこう」


「私達は大丈夫。こっちの魂じゃないんだし」


「何その自信。そう言われたら頼もしいけど」


そう言うと、ダンはえへへと笑う。王宮では絶対見せない腑抜けた笑顔だ。それが俺は気に入ってるけど。



取り敢えず、忙しいのに更に面談なんて入れちゃって、自分で自分の首を絞めた感にこっそりと溜め息を吐いておいた。





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