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ヒロイン彩香の場合 2

ブクマやポイント頂いてありがとうございます(*´ω`*)


十話過ぎてしまいましたので、紹介文を弄るのと、題名詐欺めいて参りましたので、改名を考えたり……そんな感じの緩さですが、宜しくお願いします。

「まーたこんな所に居る」


学園の裏庭は目立った花も無く日当たりも良くないので、生徒はあまり近寄らない。けれど、私は少し一息吐きたい時にふらふらと惹かれる様にこの場所へ訪れていた。


そこで出会ったのが、彼だ。

私よりも青光りする程の黒髪と、赤茶色の瞳を持った、私にはほっとする色合いの持ち主。


恐ろしいくらいの美形なのに、その先入観のせいなのか彼を前にしても身構える事は無い。

それに彼は気付くといつも寝ているのだ。ここでも、授業中でも。なんだかマイペースで羨ましくて、けれど寝ている姿は微笑ましいから、寧ろ猫を愛でる慈愛みたいな感情になってしまう。あのキラキラな美形の人達と比べたら、怖い筈がない。


話しかければ愛想は無いけど言葉を返してくれて、異世界人の私にも特に何か思っている風でもなく、淡々と接してくれる彼の周りの空気が心地よくて、こうしたお昼寝に最適な場所に来るとつい姿を探す様になってしまった。


私の学園入学は、最初こそ騒がれたものの、今ではクラスの皆は良くしてくれている。


マナーは対処法程度には、まあまあ頭に入ったけれど、この国の勉強なんて出来る筈もない。王族預かりで特別枠で学園に入っているけど、クラスは一番下の庶民の勉強出来る子が入るクラスに、お情けで入れて貰う結果になった。


でも、貴族相手にビクビクしなくて済むし、クラスの子はおおらかで優しいし、魔法も初歩的な私でも付いて行けるぐらいだったから、何とかやれている。

選択授業だから、とにかく生きる為の数学と魔法。それから家政を取って、刺繍やらパッチワークやらレース編みやらを習う。

……私、そこまで器用ではないんだけど、背に腹は変えられないよね。


そうやって日々がむしゃらに過ごしていると、ふと疲れている自分に気付いた。


友達だって出来た。魔法だってまあ、違和感があるけど何とかモノになっている。

けど、たまに『この世界で私は一人なんだ』という事実が襲って来て、落ち込みたくなる。


無理に明るくするより、自分が納得するまでいじけてしまおうと一人になる為にわざわざ不人気な場所を選んでいるというのに、高確率で彼が居る。


最初は何で居るんだ! なんて理不尽に思ったりしたけれど、彼の方が先に居て、私がストーカー並みに現れてるんじゃないかと思ったら、逆におかしくて、それから彼の秘密のお昼寝場所にお邪魔するようになった。




「……今日は泣いてないのか」


木の太く伸びた枝の上で器用に横になっている彼は、薄眼を開けて私を確認すると、失礼な事を言って来る。


彼の前で泣いたのは一度だけ。


まだ魔法も不安で、縫い物も全然出来なくて、将来を考えて不安になっていたから。彼は黙って側に居たけれど、それ以来こうやってたまに聞いて来るのだ。


それも、私が泣きたい時に限って。


「だからー、もう泣かないよ、恥ずかしいもん」


「……泣いても恥ずかしい事は無いと思うが」


「……泣かないよ」


彼は、『そうか』と言って、それ以上は聞いて来ない。それがとても心地良い。それに、泣く訳にはいかないのだ。ついさっき、第一王子殿下と廊下でぶつかりそうになっただけだから。


学園に入ってからは寮生活になって、あの宮殿から解放されたけど、王子殿下もアデリーネ様含めやんごとなき身分の方々も学園に通っているのだから、避けても避けきれない時がある。


どうして、特権階級だけ通う学園は無いの? この階級社会で身分ごちゃ混ぜとかおかしいよね? 本当にここはゲームの世界なんじゃないの。性懲りもなくそんな事を考えてしまう。


始めこそ、ゲームの世界だとか私がヒロインかもとか思っていたけど、間違いなく私もこの学園の人達も生きていて。それでゲームだとか斜に構えてはいられない。

とにかく生きて行かないといけないのに、現実に対して世界の設定の背景なんて気にしてる場合じゃないというのが現状だ。


只一つだけ私が絶対に侵さないのは、王子殿下とその周りの人達に関わらない事だけ。


少しだけ姿が彼らの視界に映ってもいけない。射る様な視線が向けられるから。私の行動如何では、本当に首を絞めかねない。そしてそれが酷く恐ろしい。


王子殿下やこの国には世話になっている恩がある。でなければ私は今頃どうなっているか分からない。優しくだって、配慮だってされている。けれど、向けられる感情は余りに理不尽だ。


王子殿下の眼差しを思い出して、背中にぞくりと嫌なものが走る。払拭したくて、頭をぶんぶんと頭を振った。


「……何をしているんだ? 」


「えーと、厄除け? 」


彼が残念なものを見るかの様に見下ろして来たので、笑って誤魔化した。私は周囲を伺うと、彼の寝ている木に手を掛ける。


「おい、まさか……」


「んー、低そうに見えるのに、難しいっ」


木登りはした事は無いけど、今は気分転換にちょっとでも高い所に登ってみたくなった。彼の寝ている枝は私の手が届く程に低い筈なのに、足を掛ける所が無くて難しい。


「……諦めようかな」


そうしてしがみついていた手を離そうとしたら、右腕を掴まれてぐん、と体が浮き上がった。


「わっ! 」


そのまま背中を支えられて私は無事に木の枝、覆い被さる様に彼の上へと辿り着いた。


「…………っ」


彼の何を考えてるのかいまいち分からない赤茶色の瞳が直ぐ目の前にある。睫毛が私よりも長いなぁ。肌もきめ細やかで…………。


「って、えぇ?! あっ! 」


慌てて体を起き上がらせると、途端にバランスを崩してぐらついた。


落ちる!


ぎゅっと目を瞑ると、落ちる予定の方向とは逆に腰を引かれて、私は突然温もりに包まれた。


「木の上で暴れると落ちるに決まってるだろう、気をつけろ」


「あ、暴れてなんて、」


あれ、凄く良い匂いがする。しかも、彼の声が何だか耳に響いてて……。


だ、抱き締められてる?! 覆い被さるどころか、今、絶対すっぽりと彼の胸に耳を押し付けてる! そりゃ、声も響くよね?!


「あの、もう大丈夫だから」


「…………本当か? 」


「ほ、ほんとに本当っ」


だから離してぇっ!! 恋人でもない異性にみだりに触れてはいけないってマナーで! というか、進んで触りに行く女子なんて少ないんじゃ……あぁ、上手く思考が回らないっ。


「……じゃあ、そろそろ午後の授業が始まるが、自分で降りられるな? 」


「はぇっ?! 」


そうだ、もう休憩が終わってしまう! 登る事だけ考えて、降りる事を考えてなかった……。私は意を決して顔を上げ、赤茶色の瞳をまじまじと見つめた。そう、今は恥ずかしがっている場合じゃないんだ。


「…………どうやって降りたら良いの? 」


すると一瞬赤茶の瞳が見開いて、そして視線をゆっくりと逸らされて…………。



「ぶっ」



最大に吹き出されてしまった。





笑いを堪えて肩を震わせる彼が先に木から降りたんだけど、私がうだうだと覚悟を決めるのに時間が掛かってしまって、彼の胸に飛び込む形で木から降りた時には、とっくに午後の授業が始まってしまっていた。




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