1.プロローグ 68番目の恋
たとえば世の中に藤倉君を好きな女の子が100人いたとしたら、わたしが彼を好きになったのは68番目くらいだろうと思う。
これが1番目なら、まだ誰も気付いていない彼の魅力に真っ先に気付いていた人間となるし、2、3番目でもまだ優勝決定戦への参加権はあるような気がする。10番以降は駄目だろう。
いや、恋に順番は関係ない。他の面から行こう。
たとえ好きになったのが100番目でも、特別な関わりがあれば別だ。席が隣、家が近所、委員会が一緒、ふたりだけの関係が何かひとつでもあれば、他と少しちがうと言えるだろう。
しかし、藤倉君には幼馴染の女の子もいるし、彼に想いを寄せる子の中には同じクラスの優等生の学級委員長も、中学から一緒の元気な同級生も、校内で目立つ美少女先輩だっている。可能性が有りそうなほとんどの枠は既に埋まっている。
わたしはクラスもちがうし、委員会もちがう。家も知らない。現段階で、彼と話したこともない。友達ですらない。
顔が格好良くて、声が格好良くて、スタイルが良くて、成績が良くて、運動ができて異常にモテて目立っていた彼の噂を聞いて、どんな人だろうと見ているうちに好きになったミーハーなモブでしかない。関連度でランキングしたところでやはり68番目くらいでしかないだろう。でもクラスは隣だし、学校も学年も一緒だからそこより後ろでは無いと思う。
わたしが通っているのはそこそこ生徒数の多い高校で、もちろん校内には他にも男子はたくさんいる。藤倉君がいくら格好良くても、恋愛をしたい女の子達みんなが同じ人を好きになるわけではない。だから藤倉君もさっさと誰かと付き合ってしまえば、あるいは状況も沈静化したのかもしれない。
けれど数々の美少女、美女、才女達が次々と当たって砕け散って行ったせいで、美少女でも美女でも才女でもない子達にも人気が広がり、余計にモテは加速してしまった。
藤倉君がモテることはブームのように広がって、モテるから余計にモテるようになっていった。
こうなると我こそは難攻不落の城を落としたいと猛者達も立ち上がる。もはや勲章になった彼女の座を手に入れたいのだ。
最近だと本物のアイドルのように追いかけ回されていることすらあった。あんなの、漫画の中だけのことかと思っていた。
こうなるとしがないNo.68には話しかけることも出来ない。挨拶をすることすら不可能。
追いかけ回してるのは多分70番代以降のやつらだ。68番目のプライドとしては、一緒に追いかける気にはなれない。
たとえ好きになったのが68番目でも、わたしはちゃんと彼のことが好きだった。虫取り網で蝶々みたいに追いかけまわす、そういう対象じゃない。
でも、どうすることも出来ない。彼とわたしには接点が無さすぎるし、友達ですらないわたしが勝算なく無謀に当たってみたところで砕けるのは目に見えていた。
だから校舎裏でひとりゲロを吐いている彼とわたしが遭遇できたのは、神様がわたしに与えてくれた本当にたった一度の奇跡的な好機だったのだろう。