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幼馴染

作者: ちゃと

初投稿です。宜しくお願いします。この話の男性版も別途投稿します。

彼とは幼馴染だった。

近所に住んでいて、最初に会ったのは、多分保育園の入園式だ。

それから、小学校も、中学校も、高校も一緒だった。

クラスが離れたこともあったけど、あまり会わない時期もあったけど、道で会えば挨拶をして、話しをして、そこで、同じ映画に興味があれば、次の休日に一緒に行った。わからない問題があれば、教えあった。テスト勉強を一緒にしたり、街のお祭りに一緒に行ったり。それは、あらかじめの約束じゃなくて、その場の流れだったり、気分だったり。でも、そんな風に、彼とは縁が切れることなく、ずっと友達だった。



大学はさすがに違った。

でも、方向は一緒だったので、たまに駅で会うこともあった。

彼は背が高くて、やせ形で、スポーツができた。だから、容姿は普通だったけど、女性に人気はあった。

キャーキャー騒がれるわけじゃないけど、ちょっといいよね、と、複数の人に言われる、そんな感じの人だった。

私は彼の単なる幼馴染。でも、彼が褒められるのは嬉しかった。

彼はいつでも笑っていた。

冗談を言ったり、ふざけたり、いつでも私の前では笑っていた。



だけど、大学2年の春に、私たちの関係は終わった。

「どうしてそんなことを言ったの」と、彼は言った。

昼下がりの喫茶店。

彼はわざわざ私の大学まで来て、学校近くの喫茶店に私を連れて来た。

「俺の彼女に、近づくなって言ったんだって?」


私は思い出していた。と、言っても、たった3日前のことだ。

彼の恋人、と、言う女性が、やっぱり同じように大学に来た。

その人は、彼と同じ学校で、付き合っている、と、言っていた。

彼はとても優しくて、とてもうまく行っている、とも言った。

彼女は毎日幸せだった。

ある日、彼がスマホにつけているマスコットが気になった。

小さなクマのマスコット。それは、とても汚れていて、腕のところが取れそうになっていた。

彼女がそのことを指摘すると、彼は、腕をちゃんと付け直さないとな、と、言った。

汚れているから捨てたら?と、彼女が言うと、彼は笑って、「これは思い出の品だから」と、言った。

私のスマホにも、色違いの同じクマがぶら下がっている。

その時に思い出した。

ああ、彼はずっと笑っていると思っていたけど、そうじゃなかった。

中学三年生の時、私よりずっと頭の良かった彼は、進学校を受験するはずだった。

彼の両親は、彼の頭の良さが自慢だった。

だから、彼は受験勉強をすごく頑張っていた。

彼のおかあさんは、勉強ばかりな彼を、たまには、と、言って、遊びに誘った。行き先は遊園地だった。

彼は苦笑して、「親と行くような年じゃないよ」と言った。おかあさんは、私も誘ってくれて、結局3人ででかけた。

おかあさんは、ほとんどカフェみたいなところでお茶していて、私と彼は遊びまくった。

帰りに、おかあさんが、クマのマスコットを買ってくれた。彼と、色違いで。

「今日の記念」と、言って、おかあさんは笑った。

その数日後、おかあさんは倒れて、入院して、亡くなった。

癌だった。もう、死期が近いことはわかっていたと言う。

彼はショックで、第一志望校の受験で、何も書けなかったと言った。

私と同じ学校を受験する時、同じ教室だった。私は、試験中以外はずっと、彼の側で、彼の手を握った。

彼は合格した。

彼の学力からしたら、ずっと下の学校だった。

だけど、私は、彼と同じ学校に、あと3年通えることを悦んだ。


「あのマスコット、あなたと同じなんでしょ。彼は絶対捨てないって言う。思い出の品だからって。ひどいでしょ。だから」

そう言って、彼女は、彼のマスコットを私の目の前に出した。

「…どうしたの、これ」

彼女は、繕ってあげる、と、言って、預かった、と、言った。

預かったものは、返さなければいけない。だけど、幼馴染の女と、お揃いなのは許せない。

だから、あなたが捨てて、と、彼女は言う。

「あなたが捨てないなら、どこかに失くしたことにして、捨てる。」と。

「やめて。それを大事にしてるのは、私とお揃いだからじゃない。おかあさんが買ってくれたものだからだよ。」と、私は言う。

「…そうだとしても、おそろいは嫌。だから、あなたが捨てて。あなたは別にいいでしょ。自分のおかあさんは元気でしょ。だったら、持ってる必要ないでしょ。」

「それは、あなたに関係ない。私のマスコットを、私のスマホに付けているだけ。」

「じゃあ、このクマ、私、捨てるわ。」

彼女の目は、なんだか普通じゃないな、と、私は考えていた。

恋をするとこうなるのか。

母親の形見すら許せないのか。…ああ、違うな。許せないのは、きっと私なんだろう。

ここで、わかった、と、言えばいいのか。

わかった、捨てる、と、言って、穏やかに別れればいいのか。

どうせ違う大学で、多分住所も離れている。わざわざ会おうと思わなければ、遭遇することもないだろう。

しばらくの間だけ、マスコットをはずして、ほとぼりが冷めたら、またつければいい。

…だけど。

もう、忘れていたけど、おかあさんが亡くなった夜に、彼は泣いた。

いつも笑顔だったなんて、嘘だ。

おとうさんが葬儀の準備やなんだで忙しい中、彼はうちに来て、泣いた。

私は言った。

「おかあさんの買ってくれた、このクマ、大事にするね。…ずっと忘れないよ」と。

それは約束だった。ぜったいに破ってはいけない。

「…そのクマ、返してあげてください。」

そう言って、私は頭を下げた。

「…なんなの、それ。」

彼女はちょっと、びっくりしたように言った。

「私のクマは捨てられない。だけど、そっちのクマは、彼にとって、大事なものなの。だから、捨てないで、返してあげてください。お願いします。」

そう言って、もう一度頭を下げた。

「…何様なの。あなた。」と、彼女は言った。

「何様でもないよ。ただの幼馴染です。だけど、友達だから、彼に悲しんでほしくない。」

「…」

「あなたはどうなの。彼が悲しんでもいいの。彼が泣いてもいいの。彼のおかあさんとの思い出を踏みにじってもいいの。…そんなふうに思っているなら、彼に近づいて欲しくない。」

「…なんなの、それ。」

「彼には笑っていて欲しい。だから、悲しませるような彼女なら、近づかないで。」

そう言った時。

「!」

パシャン、と、音がした。

彼女が水をかけて来たのだ。

遠目に見ていた店の人が、あわてておしぼりを持ってくる。

「お、お客様、大丈夫ですか? …あの、これ」

私が店員を見ているうちに、彼女は席を立った。

クマも持って行った。

あのクマは、どうなるのだろう。…彼に返してあげてほしい、と、そう思った。


「…そう。」と、彼は言った。

「多分、彼女の話と違うと思うけど。…でも、どっちを信じてもいいよ。それは、あなたの選択だから。」と、言って、私はアイスコーヒーを飲んだ。今日はミルクも、シロップも入れていない。少し、苦い。

「…クマは返ってきたよ。ちゃんと、繕ってくれた。」

「そう。」

彼は少し笑った。私も笑い返す。

「スマホにつけるのは止めた。しまっておくことにした。」

「…そう。」

「…彼女はね、偶然、街で君に会って…、クマのマスコットを見て、それは自分の友人のものだ、あなたが盗ったの?と、言いがかりをつけてきた、と。それで、話しをしたら、幼馴染だとわかって…。クマを盗るような人は最低だ、近づくな、って、言われたって。」

そう言うと、彼は目を伏せた。

「…この近くの喫茶店で話したから、お店の人は覚えていると思う。話の内容まではわからないだろうけど、興奮して話していたのは彼女の方だし…、その辺は覚えているかもしれない。」

「うん。」

「まあ、彼女の話を信じるならそれでもいいけど。」

「いや、…きみの方を信じるよ。」

そう言われて、私は顔を上げた。

彼も顔を上げていて、私の顔を見ている。

「…だけどさ、やっぱり、大事なのは彼女なんだよね。結構わがままだし、こんなくだらない焼きもち妬いたりするけど…。それも、かわいいと思ってる。」

「…うん。」

「だから、もう、きみとは会わない、って、約束した。…ごめんな。」

「…そう。」

私は笑った。それが、彼の選択なら、仕方ない。

ただ、私を信じてくれたことだけで、私は満足すべきなんだろう。

「わかった。」

私がそう答えると、彼は頷いて、席を立った。

「…きみも恋をしなよ。そうしたら、もっと幸せになれる。」

「…そうかな。」

「そうだよ。」

それなら、あなたがさびしそうなのはどうして?

出て行く背中が悲しそうなのはどうして?

しあわせそうに見えないのはどうして?

喫茶店の扉のベルが、チリン、と、鳴った。

彼は出て行った。

この喫茶店から。

それから、幼馴染の関係からも。



いつか、彼が、彼女か、あるいは他の女性を連れて家に来る時に、偶然見かけるかもしれない。

そんなことがなければ、もう会わないのか…。

そう思ったら、悲しい、と、思った。

彼のおかあさんが亡くなった時も、私はすごく悲しかった。

だけど、彼が泣いていたから、私は泣かなかった。

でも、今日は。

家に帰って泣こう。

あの、彼が一晩中泣いていた夜のように。

そうして、涙と一緒に、いろんなものを流して、私も恋ができればいいな。

彼視点を後日投稿します。

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