第十二話『未完成な世界、フィオーレ・オンライン』
「お前がこんなところで死んでどうする!」
目の前には、イオスの剣と自分の剣で花龍の攻撃を受け止めるウェネームがいた。
ウェネームの声が自分の中に入る、受け止めるウェネームの負担を減らすためにエトワは自分の力を使い、横から花龍に攻撃する。
「星の騎士たちよ、花龍に向かえ!」
だがその攻撃は、何度しても効いていない。
それどころか、攻撃をされた花龍は怒り力を増すばかりだ。
「うっ……僕の力じゃ倒せないのか」
エトワが後ずさりする。
格の違う花龍に、エトワとウェネームは攻撃を防ぐことにばかり集中してしまう。
「おい、何をしているんだパテル!」
「パテル、僕達と一緒に戦って」
今度は二人の声が自分の中に入ってくる。ライフゲージの減っていく二人を見て、助けなければいけないという気持ちがこみ上げてくるが、足は動かない。
すると、花龍の後ろにいるコウヤが、
「おいおい、何をしているんだいパテルくーん?このままじゃ、二人とも死んじゃうよ」
そんなことは分かっている、だけど何故か足が動かない。
花龍は強大な力を持ち強いが、そのことに怯えているわけではない。コウヤを倒すということに、躊躇しているわけでもない。
それじゃ何故、俺はここから動けない。
「パテルっ!」
ウェネームの声がした。
「パテル!」
エトワの声がした。
「パテルくーん?」
コウヤの声がする。
目を見開き目の前を見ると、そこにはアーラが立っていた。
アーラは、俺の前に立ち厳しい表情をしていた。
「何で何もしないのパテル!」
「……分からないんだ俺にも」
そう答える俺に、アーラは手を差し出す。
差し出せれた手を握ると、今まで起きたすべてのことが流れていく。記憶の中を遡るようなその世界では、自分以外の記憶もあった。
毒の民の記憶やエトワの記憶、それ以外にも多くの記憶が自分の中に入ってくる。
「アーラ、これは一体何なの?」
「パテルも理解している通り、みんなの記憶だよ……」
「何でみんなの記憶を俺に……?」
目を見て笑うアーラ。
その表情には、何の濁りもない純粋な気持ちしか含まれていなかった。
「それはねパテル……この世界は不安定で脆くて、まだ未完成だから。パテル貴方にまたこの世界を再構築してほしいの?」
「ど、どういうことアーラ!それじゃ丸で、この世界が終わっちゃうみたいじゃないか」
無言で頷くアーラ。目には涙を浮かべ悲しげな表情も浮かべている。
涙を拭い、アーラは、
「その通りだよパテル、花龍を倒したらこの世界は崩壊してしまう」
「えっ花龍を倒したら?」
「そう……まだ花龍が存在していなかった時は、花龍に頼ることはなかった。だけど花龍の出現により、このフィオーレ・オンラインの世界は花龍に頼ることを選んだ」
フィオーレ・オンラインが花龍に頼っている。
それならと、頭の中ですぐに思いついた考えをアーラに言う。
「花龍を倒したら崩壊してしまう……それなら花龍を倒さなければいいんじゃないか?」
「そんなことは分かってるよパテル。だけれど、貴方達が倒さないでも花龍はいずれ消滅する日が来る。だから、貴方には新しいこの世界を作ってほしい!」
新しいこの世界……その言葉の意味を理解はしたくなかったが、この状況では理解せざる終えなかった。
アーラの願いに頷くと、笑顔を見せて喜んでいた。
「それじゃ、パテル。私を思う存分使って、そうじゃないと花龍も倒せないしコウヤにもきっと敵わない」
「なあ一つ聞いてもいいか、アーラ?」
何かと思いアーラは不思議そうな表情をする。
俺が口を開く、
「コウヤは一体何者なんだ、アーラは知っているのか?」
首を横に振るアーラ。
否定した後アーラは、
「彼については私もわからない、だけれど私と同じで彼もまたイレギュラーな存在なのかもしれない」
「そう……なのか。コウヤもきっと倒すことになるんだよな」
「大丈夫、どんなことがあっても最後まで私は一緒にいるよ」
というと横にアーラは並び、手を繋ぐ。
前を向き二人で目を閉じて、開くとそこには花龍がいた。花龍の横には、倒れるエトワとウェネームがいた。ライフゲージは何とか残っている程度だった。
「うっ……僕死んじゃうのかな」
花龍がエトワに噛みつこうとしたところで、
「ごめん遅くなってエトワ」
花龍の牙を、聖剣・青薔薇で砕く。牙を折られた花龍は暴れ、咆哮する。
暴れている隙に、エトワとウェネームを担ぎ安全な場所に寝かせる。
横にした後、すぐに花龍のほうへ向かおうと立ち上がると、エトワは自分剣を差し出し、
「イフェイオンを持っていって……」
「な、なんでこれは君の大事な剣だろ?」
「そう……だけど。少しでも役に立ちたいの、だから持っていって」
頷いて返事をすると。
エトワは、笑みを浮かべた。
急いで花龍のところに行くと、コウヤが俺のほうを見て、
「何か吹っ切れたみたいだけど、実力は変わってないんだから花龍は倒せないよ」
コウヤの問いに無言を貫き通した後、花龍の右前脚を切り落とす。
周りの自然に血が吹き飛ぶ、攻撃が聞いていることに驚くコウヤ。そのコウヤに俺は、
「確かに実力は変わってないかもしれない、だけど俺の決意は変わった!」
驚き続けるコウヤを尻目に、花龍に傷を与えていく。
花龍の悲しき悲鳴が聞こえるが、その手を緩めることはない。
速さに追いつけずに、叫び続ける花龍はとうとう倒れその場で暴れだした。
「これで終わりだああぁぁぁあ!」
花龍の心臓を貫き、止めを刺すと辺りには血飛抹が飛び散った。
その地はやがて、赤から緑に変わり自然となり多くの花を咲かせた。
花龍を倒されたコウヤは、その場で跪き顔は曇っていた。コウヤに向かい剣を向けて、
「花龍は倒した、これで最後にしようコウヤ」
花龍を倒した事で不安定になり、フィオーレ・オンラインの世界は揺れ、崩壊が進んでいた。
揺れるこの世界で、コウヤとの最後の戦いが始まる。