第十話『イオスの決意』
朝になると、外では話し声が聞こえた。
聞いていると、昨日約束した花龍のことについてリヌスが話しているらしい。
横にいるエトワも興味津々で聞いている。
「みんな聞いてくれ、花龍について話がある」
ざわざわとする、毒の民たち。だがリヌスは騒がしくなる、民たちの興奮を抑えると、話そうとしていたことを話し出す。
「騒がしくなるのもわかる……突然のことで済まない、私が今までいなかったのは花龍について調べていたからなんだ」
花龍について調べていたと聞いて、またざわつくが一人の少女が手を挙げた。
その少女とはイオスで、何か質問があるようだ。
「どうしたんだい、イオス?」
「師匠は花龍について調べたといいましたが、何かわかったんですか?」
笑顔で頷くリヌス。
リヌスの表情を見たイオスは、尊敬の眼差しで見ていた。
「花龍のことについては色々とわかったが、私たちにとって一番重要なことは花龍を倒すことで、このポワゾンフィールドに自然が戻るといった情報だけだ」
自然が戻る、そう聞いた瞬間に喜びの声が上がる。
歓声の中、そのまま話を続けるリヌス。
「みんな!この後が本当に聞いてほしいことなんだ。花龍を討伐しに当初は私が、行こうとしていた。だが、パテルという私たちにとっての客人が、倒しに行くと名乗り出たのだ」
驚きを隠せない毒の民たち。
一人の男は、何か疑問に思ったのかリヌスに向かい言う。
「それは、花龍について無理矢理押し付けたわけじゃないですよね」
強めの言葉に、リヌスは顔が曇る。
その言葉を皮切りに、他の人も疑問に思ったのか多くのやじが飛ぶ。
「み、みんな落ち着いて。私はただ……」
リヌスの言葉を無視して騒いでいる。
その様子を見ていたエトワが立ち上がり、俺の方を向くと言った。
「いつ倒しに行くなんて約束したか知らないけど、僕たちが出て行ったほうがいいんじゃな?」
無言で頷くと、エトワに手を引っ張られそのまま外に出る。
転びそうな感じで出ていくと、全員の視線が此方に向く。
しょうがないと思い、リヌスと目を合わせた後、
「リヌスさんの言っていることは本当です。俺は自ら、花龍については任せてくれといいました」
周りにいた人間が驚く。
するとすぐに誰かが、俺のほうを向き、
「それは本当か?だとしたら君たちに何の得がある?」
「そもそも俺たちが来た理由が、花龍について知りたかっただけなので。花龍についての情報も手にいれ、直接花龍を倒せるならそれだけでいいんですよ」
そう言い切ると、納得した様子で頷いた。
再びリヌスが話し出す。
「と、いうわけだ以上が話したかった事だ。みんな朝早くからありがとう」
そういわれると少しづつ、人が離れていく。
そんな中でイオスだけは一人立ち止まり、リヌスに近寄り、
「どういうことなんですか、パテル達に任せるなんて!」
「済まないなイオス」
答えになっていない言葉をかけて、リヌスはイオスの頭に手を置く。
リヌスは手を置いたまま、俺たちのほうを向いて花龍についてまとめられた紙を渡す。
その貴重な髪を受け取ると、リヌスは、
「私はついていった方がいいかい?」
「いえ、大丈夫です……俺たちが何とかするので。それじゃ早速行ってきます」
花龍のいる場所について書かれた地図を広げて、何処にいるか見るとポワゾンフィールドの奥地、もっと北に向かった方角にいるらしい。
集落を後にして、歩いていこうとする。集落の出口を出ようとしたところで、イオスが走ってきた。
「待って、僕も行く」
息を切らせながらもそう言った。
何故行きたいかはわからないため、とりあえず理由を聞く。
「何で行きたいんだ?」
「元々花龍については僕たちが解決しないといけないからだ。だから僕が毒の剣の民の代表としてついていく」
決意の眼差しを向けられて、止めても無駄そうだと思う。
エトワに視線をやると、笑顔で頷いた。
「どうなっても知らないが、それでもいいんだな?」
「うん……だって僕はあのイオスちゃんだよ」
満面の笑みでそう答えた。
それ以上はついてくることに、何も言わずに歩き始める。
しばらく歩き、進むと周りの景色は変わっていく。
朽ち果てた自然のない砂漠のような場所から、段々と自然があふれる場所になってきた。
エトワはその自然を見て、
「ポワゾンフィールドには自然がないんじゃないのか?」
「リヌスから貰った紙には、こう書いてある」
ー花龍の近くには自然が溢れるため、自然がない場所から移動していきなり自然豊かな場所が出現した場合は、近くに花龍がいることを意味するー
「ていうことは、ここの近くに花龍がいるってこと?」
とエトワがその話を聞いて言った。
だがその問いに答えたのは、俺でもなくイオスでもない、ある人物であった。
「ふっ、その通りだ。待ちくたびれたぞエトワ」
その声はウェネームだった。
三人が驚いて見ていると、すぐに声をかけたのはイオスだった。
「こんなところにいたんだねウェネーム、僕達と一緒に花龍を倒しに行かない?」
イオスが言うと、その言葉を無視して視線はエトワに向く。
エトワはその視線に対し、
「何を恨んでいるかは知らないけど、僕たちは忙しいんだ。この先に早くいかないと」
「ふはは恨んでるわけじゃない、ただ私はお前に負けた借りを返しに来ただけだ」
そのまま、ウェネームは勢いよく毒の剣・カルミア・ラティフォリアを出し、その剣をエトワに向ける。
前よりも素早く何も反応できずにいたエトワは、剣を出そうとしたところで間に合わないと悟る。
「これで借りを返せる!」
毒の剣・カルミア・ラティフォリアを突き刺そうとしたところで、エトワを守るようにしてイオスが目の前に現れる。
目の前に現れたイオスの、お腹に剣が突き刺さる。
「な、何でお前は……こいつのことを守ってるんだよ」
イオスの行動に、ウェネームは驚愕していた。
静かな自然の中で、イオスのお腹からは血が止めどなく流れていた。