プロローグ
全世界ユーザー数約百万人の、VRMMOフィオーレ・オンラインは花の世界をモチーフとしている。
無名の企業が突如として出したフィオーレ・オンラインは、何故か瞬く間に話題を呼んだ。
敵モンスターなどはあまり存在せず、オンラインプレイヤー同士での戦いが主な戦闘だ。
その戦闘スタイルは、自分の剣を使いライフゲージがゼロになったら負けという単純な作りになっている。
だが人気を呼んでいる理由は、特徴ある剣にあった。フィオーレ・オンラインにある剣は、それぞれユーザーによってデザインが全て違う。
人の性格であったり想いが反映されたものが、自分の剣となり実態として現れる。剣のモチーフは花で、女性にも人気のゲームである。
このゲームに目的はなく、プレイヤー自身がこの世界に降り立ち自分で目的を決めるというのが、一つのコンセプトで、中には伝説の花龍を探し討伐しようと、目論む集団がいたりする。
と、まあこんな感じのゲームを俺は今、目の前にして緊張している。なんと言ってもVRMMOのゲームはこれが初めてだから、高校の合格が決まったら始められるように用意しておいた。
そして目の前にあるVRに電源を入れ、頭部に装着する。椅子に座り楽な姿勢になると、意識を失うようにゲームの世界に入り込む。
白い世界が広がり、自分の周りを見ても何もない。すると目の前に妖精が現れる。
小さな身体を一生懸命動かし、飛んでいる。その妖精に俺は、
「初めてやるんだけど、どうしたらいいかな?」
妖精はその声に気付き、畏まった口調で話しだす。
「貴方は新規プレイヤーの方ですね?それなら、まずはユーザーネームを登録してください」
「ユーザーネームか……じゃあ"パテル"で!」
ユーザーネームを入力すると俺は決定して、次に妖精が口を開き言った。
「それでは次に見た目を決めてもらいます。特徴だけ入力してオートで決めてもらうのと、自分ですべてを決めることができますが何方にしましょう?」
「キャラクターメイクか、このままの見た目で少しいじってもらうことはできるか」
自分のことを指さしながら妖精に言うと、首をコクっと縦に振りしばらく待つと、
「これでどうでしょうか?」
髪の色は紺色に近い色で、それ以外は自分の体とほとんど同じで変わらなかった。
「それで大丈夫だよ」
キャラクターメイクが終わると、妖精は姿を消した。白い世界に取り残された俺は、そのまま突っ立っていると何処からか声が聞こえてくる。
-貴方の手に握りしめられた種を上に向けてください。
そう言われ自分の左手を見ると、いつの間にか手には植物の種が握りしめられていた。言われた通りに手の平を上に向ける。
ーそれでは貴方の今まであったことを目を瞑り思い返してください。
目を瞑り自分が今まで経験したことを思い返す。
土の感触が手に広がると、その次は水の冷たい感触が広がり手のひらの上が重くなる。
-目を開いてください。
目を開くと目の前には、青い花が咲いていた。
-貴方は青い薔薇を咲かせました。世にも珍しい花です、右手でその花を掴んでください。
手の上に咲く青い薔薇に右手を近づけて、その花を優しく掴む。
掴んだ瞬間に、その花は美しい剣に変わった。その剣は、青く輝き柄は黒と白の幾何学模様をしていた。
「少し細い剣だな、さっきの薔薇がそのまま剣になったみたいだ……」
-その通り、先ほどのあなたの気持ちによって作られた花が剣へと変貌を遂げたのです。その剣を大事にしこのジャフダンワールドで過ごしてください。
「ジャフダンワールド?」
-貴方が降り立つ世界のワールド名です
「そうだったんですね、わかりました」
-それでは、良い旅を
そう言われると目の前が暗くなり、一度目を瞑り開けると、そこには溢れるほどの花の世界が広がっていた。
ここが、『フィオーレ・オンライン』。