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第八話 騎士の素質

「二人とも、もう終わりだ。そろそろ夕方になる」


 空はまだ日が昇っているが、ここにいるのは騎士だけではなく姫であるアーシェもここにいる。

 もしも万が一の事があれば、只事ではなくなる。

 

 そのため、万が一の事を起こさないためにもザブラッドは夕方までには王都に帰ろうと考えていた。

 ただし、そこには問題児一人と問題児に汚染された問題児予備軍が一人いた。

 

「えー、もうちょいやろうぜ。いけるいける」


 そう答えたのは、剣を子供の玩具のように軽々と振り回すアジールだ。

 駄々っ子のように要求し、どんな理由があっていけると言っているのか、ザブラッドは知りたかった。

 

「お願い、もうちょっとだけ。もう少しで何か分かるんだ」


 次に答えたのは、汗だくになりながら地面に仰向けで倒れ、息切れしているシグレイだった。

 何が分かるんだ。分かるのは貴様の性癖だろ。

 

 頭の中で考えていたスケジュールが二人の問題児に崩されるのを考えると、ザブラッドは怒りがわらわらと燃え上がった。

 

 返答がないことにアジールが子供っぽく、やっていいかーやっていいかー、と聞いているとザブラッドが無言でアジールに早歩きで近づく。

 

「おい、なんだ……いてっ! 痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い──」


 ザブラッドの右手によるアイアンクローが炸裂し、アジールを持ち上げた。

 最初は痛いと連呼していたアジールだが、途中で何一つ喋ることなく、ザブラッドの右手に抵抗していた両手がだらんと力なく垂れる。

 

「何か文句があるか?」


「いえ、ないです!」


 アジールにアイアンクローをしたまま、こちらに顔を向けて尋ねたザブラッドの顔は怖すぎて、シグレイは首を高速スピンでもするように横に振る。

 

「そうか、なら帰るぞ。準備しろ」


 トコトコと近づいてくる馬にザブラッドはアジールを乗せる。

 その乗せ方は荷物を乗せるような乗せ方で、明らかにアジールに意識がないことが分かった。

 

 ザブラッドにはあんまり逆らわないでおこう。

 

 アジールの残酷な姿を見たシグレイは、ザブラッドに顔を背けたまま心に誓った。

 

 シグレイはザブラッドに言われた通りに帰る準備をしようとした時、身体が止まった。

 

 そういえば、俺は何も荷物もってないや。

 荷物はアジールから借りてる剣だけだし、なら準備もしなくていいかな。

 帰る方法は……どうしよう。

 騎士になるとはいったけど、馬車にはまだ乗れないからなあ~。

 

 武刀が考えながら暇を潰すために周りを見ていると、キュールがこちらに来いと右手を振っていた。

 

 なんだろう?

 

 シグレイはキュールに呼ばれ、彼女の元に近付く。

 キュールはいつもならアーシェのすぐ傍にいるのだが、今は離れていた。

 その事にシグレイは全く気づいていなかった。

 

「な……」


 シグレイが喋ろうとした瞬間、上着がキュールによって一瞬にして脱がされた。

 

「へ!?」


 女性に服を脱がされ、突然のことにシグレイの頭はパンクして変な声をだしてしまった。


「へ、じゃない。身体を拭く!」


 上半身裸になったシグレイに渡されたのは、タオルだった。

 

「そんな汗臭い身体で姫様と同じ馬車にいるつもりか!」


 流石に汗臭いのは嫌われな。

 僕はアーシェと同じ馬車で帰るのか。

 

 キュールに言われた通りに身体を拭いていると、汗臭いから身体を拭いているなら、その臭い汗を吸収した僕の上着はどうるんだろう、と疑問に思って尋ねた。

 

「僕は上着はどうなるの?」


「乾かすわ。大丈夫、炎と風の魔法があればなんとかなるから」


 キュールが右手の親指を上に伸ばしてガッツポーズをすると、遠くの、騎士の方へと歩いて行った。

 シグレイのキュールの言葉を信じ、身体を拭く事に集中した。

 

 遠くから、

 

「シーン。貴方風魔法使えたわよね。ついてきなさい」


「いや、見習い騎士達を森の中で引率してきたんで、少し休ませて」


「いいから来る!」


「ああ、どうしてうちの聖騎士様達は人を困らせるんだろう……」


 という悲しい声が聞こえたがシグレイは聞かなかったことにした。

 

 十分後ぐらいして、キュールは乾いたシグレイの上着を持って来た。

 来てみると、確かに匂いは少しはするが気にするほどではなかった。

 

 

 

 

 

 キュールがシグレイの服を乾かした頃には、既に騎士達の訓練も終えて持って来た道具類を撤去し、去る準備をしていた。

 

 シグレイは既にアーシェの乗る馬車で一緒に帰ることが決定事項らしく、アーシェに手を引かれて馬車の中に乗った。

 

 馬車の横に長い座席は二つあり、その一つにはアーシェと隣にシグレイ。

 向かい側にはアーシェの侍女が二人座っていた。

 

「アジールと戦うのどうだった?」


「凄く強かったよ。だからかな、色々と学べたよ。弱い所だったり戦うために必要な部分とか」


 今にして思えば、僕は凄く恵まれているんだろうな。

 剣を教わる相手が聖騎士だなんて、他の人にはあんまりないことだろうし。

 

 こんなにも恵まれてるんだ。

 絶対に騎士にならないと。

 

「それは良かった。絶対に聖騎士になって私を守ってね」


「なれるかは分からないけど、頑張るよ」


 確証がないため絶対にとは言えないため、シグレイは頑張ると伝えた。


 アーシェがこんなにも期待してくれてるんだ。

 ならなくちゃ。いや、なるんだ。聖騎士に。 

 

 




 馬車はゆっくりと進む。

 周りには騎士が隊列を組んで一定を速度で進み、守るべき存在、馬車の中には姫であるアーシェを護衛している。

 

 外側には騎士が円のように囲み、内側には見習い騎士達が馬を操ることに集中している。

 

 さらに内側には馬車の周りを三人の聖騎士、ザブラッドが先頭にアジールが左側、キュールが右側で三角形の形のようにしていた。

 

 アジールは馬に乗り左手は手綱を握り、ザブラッドにアイアンクローされた頭の痛みを逃すため、右手を頭に添えて左右に振りながら、苦痛の表情を浮かべた。

 

「まだ痛い。……流石に茶化しすぎたな」


「馬鹿やってるからでしょ」


 キュールはいつも同じ事を言うアジールに、既視感を抱きながらも呆れていた。


 アジールはザブラッドと同期だ。

 故に、いつも以上に気安く接しているためかザブラッドの怒りが超えて今日のようなことが起きてしまう。

 

 その光景をキュールはいつも見ていた。

 

「少しは真面目にやろうとは思わないの?」


「一度やったさ。そうしたら、大丈夫か!? 病気か? と疑われたよ」


 アジールは悲しそうな顔を浮かべた。

 

「それはそれで酷い」


 そう言うキュールだが、一度真面目なアジールの姿を思い浮かべる。

 

「私もやっぱり病気か疑うな」


「お前ら酷いな。俺をなんだと思ってる!」


「馬鹿で戦うのが好きで、能天気。あとHな事が大好き」


「否定できない自分がいる」


 悔しがるアジールだが、キュールの言った事が事実であり否定することができなかった。

 

「そういえば、シグレイ君はどんな感じ?」


「そうだな~。初めて剣を持ったらしいからな、まだ何とも言えないが……ガッツはあるな。倒れても何度も起き上がるし、それだけやる気があるということだし、いいんじゃないか」


 アジールはまだ初めて剣を握ったシグレイに対し、騎士にやるような訓練はしていない。

 しかし、子供にやるような訓練の量ではない。

 

 それでもシグレイは挫けず、嫌そうな顔を何一つせず真剣に挑んでいた。

 普通なら声には出さないものの、嫌そうな顔をするものだが。

 

「このまま続ければ、きっと騎士になる。だが、聖騎士になるには分からんな。シグレイの成長次第だろう」


 このまま続けば、シグレイが騎士になれるほどの実力を持つことは予想できる。

 しかし、聖騎士になれるかは別の問題だ。

 聖騎士になるには、色々な難題がある。

 

 強さ、礼儀、知識、常識、騎士としての必要な物、色々ある。

 馬に乗ることだって、騎士として必要な物だ。

 

「聖騎士になるよう、しっかり育て上げないとな」


「頑張って。私も手伝うから」


 アーシェがあれまでシグレイを可愛がっているのだから、キュールもかなり協力的な姿勢を見せた。

 

 その二人の話題となっているシグレイは、右肩にアーシェが頭を乗せて寝ており、その上にシグレイも頭を預けて眠っていた。

 

 アーシェは久しぶりの外出やシグレイと出会ったことではしゃぎ疲れ、シグレイはアジールとの訓練による疲労が思いの外酷く、疲れて眠っていた。

 

 

 

 

 

「起きて、着いたよ」


 身体を揺すられ、シグレイは目を覚ました。

 

「んぅ?」


 寝ぼけ眼を右手の甲で擦り、シグレイは身体をゆっくりと起こした。

 

「あれ? 寝てた?」


 起きてすぐ、自身が何時の間にか寝ていたことに気づいた。

 

「うん、ぐっすり寝てたよ」


 シグレイを起こしたのはアーシェだった。

 アーシェもシグレイと同じように寝ていたが、王都に入って王城に着く頃に自分で起きた。

 

 ハッと身体をビクつかせるように、アーシェは起きた。

 自分だけ寝ちゃったと思い起きたアーシェは、左にいるシグレイの方を見ると、座席に座りながら横になって寝ていた。

 

 アーシェがシグレイの左肩に頭を乗せ、さらにその頭にシグレイが頭を乗っかり寝る、という構図だった。

 しかし、アーシェが身体をビクつかせるように起きたことで、シグレイは左に倒れたのだ。

 

 王族が乗る馬車というだけあって、普通の馬車の座席と比べると硬くはないが、それでも左に倒れれば眠って入れも目が覚める。


 しかし、シグレイはアジールに扱かれた事でかなりの疲労が溜まっていた事もあり、目が醒めなかった。

 

「寝てたの、全然気が付かなかった」


 まだ残っている眠気を散らすため、両手を組んで真上に向かって伸ばして身体を解す。

 

「ん~。よく寝た」


 眠ったことで疲れがすっかり消え、目もバッチリ醒めた。

 

「お待たせてしました。アーシェ様」


 シグレイが伸びを終えてすぐ、馬車の右側面の中央にある扉が開いた。

 開けたのは外にいる騎士で、扉を開けた騎士と向かい側に騎士の二人が立って待っていた。

 

「ありがとう」


 アーシェはお礼を言って馬車から降り、その後を二人の侍女が追って降りた。

 二人の騎士はアーシェが降りてその先を歩き、アーシェを守っていた。

 

 シグレイも降りると、目の前に大きな城があった。

 

「おっきい」


 下から上を見るように顔を上げて城を眺め、次に首を左右に動かして周りを眺める。

 城はとても大きく、コの字をしていた。

 

 コのへこんでいる中央に城門があり、壁は白色で石造りと容易に壊せないようにできている。

 壁の一定間隔には窓もあり、城の四方には塔のようなものまである。

 

 シグレイが呆然と城を見ていると、襟を掴まれた。

 

「立ち止まってないで行くぞ。んじゃ、ザブラッド。あとは頼むわ」

 

「早く戻って来いよ。今回だけだからな」

 

 アジールが右手でシグレイの後ろの襟を掴んで左手をザブラッドに向けて言うと、ザブラッドは釘を刺した。

 

「分かってるよ」


 城門に向かいながら、後ろにいるザブラッドにアジールは左手を左右に振って別れを告げる。

 そのザブラッドを、後ろ向きに連れて行かれるシグレイはアジールに引きずられながら見ていた。

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