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第六話 騎士の戦い

「ルールを説明する。まず、本気は出さない。次に殺しはしない。いいな?」


「ええ。問題ない」


 アジールとキュールは向かい合い、二人の間に間隔が開いている。

 キュールはショートソードを右手で持って中段で構え、左手は肘を曲げて胸の前で構える。

 

 アジールはキュール同様にショートソードを持ち、両手で持って構えて剣先をキュールに向け、突き刺すように上段で構える。


 ショートソードの大きさとアジールの巨体はアンバランスで、見た者誰もが似合わない、と心の中で呟く。

 アジールはロングソードや大剣、両手槍を扱うのだから、似合わないと思うのは当り前だ。

 

 キュールはアジール構えを見て、攻撃を予測して対策を考える。

 アジールは魔法を使うことが出来ない。

 その分、攻撃が絞りやすく対策もしやすい。

 

 だが、楽に勝てる相手ではない。

 アジールは魔法なしで聖騎士になったのだ。

 それがどれだけ難しいことか、聖騎士になってやっとキュールは理解できた。

 

「行くぞ!」


「はい!」


 キュールは緩んでいた気持ちを締め直し、剣を持つ右手を握り直す。

 

 ふう、とアジールは軽く息を吐きだした後、左足を前に出して地面を蹴り、一っ跳びでキュールの眼前にまで進んだ。

 

 進むアジールに、キュール後ろに跳んで下がりつつ左手を広げてアジールに向けた。

 

「ファイアボール」


 野球ボールほどの大きさの火球が、一つ、二つ、三つと放たれる。

 火球が小さな孤をえがき、アジールに当たる。

 

 目の前に迫る火球を、アジールは剣で突いて真っ二つになり左右に分かれる。

 二つに分かれた火球はアジールの横を通り、熱を感じた。

 

 二つ目の火球は突いた剣を持ち上げ、上段から振り下ろした。

 火球は一つ目同様に真っ二つとなる。

 

 三つ目の火球は、振り下した剣を火球の高さまで持ち上げ、左から右に斬り火球は上下に分かれた。

 

「どうしてあなたは魔法を斬ることができるんですか!?」


 魔法を斬る芸当、普通の人間はしない。

 するのは馬鹿かアホのどちらかだ。

 アジールはどちらかというと、前者に値する。

 

 火球を斬ったアジールは、またキュールへと走って近づく。

 魔法で時間稼ぎをされ、間合いがまた開いた。

 

 アジールは離れた相手を攻撃する方法は、投げる以外にない。

 しかし、それは今回の目的である騎士の戦い方とは全く違ってくる。

 

 故に、アジールは攻撃するためには接近するしかない。

 

 キュールはさっきと同じように、左手をアジールに向ける。

 自分が剣術でアジールに勝てないことは、よーく知っている。

 

 だから、アジールが使えない魔法で戦うしかない。

 

「ファイアボール」


 アジールにファイアボールを斬られたが、キュールは挫けずに同じファイアボールを放つ。

 ただし、さっきよりも数が増えていた。

 

 最初は走りながら火球を斬っていたアジールだが、途中で火球の量が多く足が止まった。

 アジールの剣は高速に動きそれが残像のように見え、目で捉えることはできなかった。

 

 しかし、火球を斬って減らすよりも、次第にファイアボールを生み出す方が多いように、アジールは感じ始めた。

 

 ファイアボールを連射するキュールに対し、分が悪いと認識したアジールは火球を斬ったあとすぐにこの弾幕から左に逃げた。

 

 弾幕から抜けようとしたアジールだが、その際にも火球に襲われ走りながら斬り払った。

 

 キュールはアジールの動きに合わせて左手を、身体を動かして火球を放つ。

 火球はアジールを襲う。

 しかし、肉体一つで戦ってきたアジールには飛んでくる火球を躱すことは造作もなく、火球よりも速く動いた。

 

 その結果、火球は少し遅れてアジールがいた場所の地面にぶつかる。

 それが四、五発繰り返し、キュールは別の魔法を唱えた。

 

「ファイアバレット」


 ファイアボールより小さい高速の火球が四発、アジールを襲う。

 一つは、アジールの前、移動先を封じる。

 残り三つは、アジールの後方、左、上空を。退路を封じる。

 

 四つのファイアバレットによりアジールは身動きが封じられ、逃げる場所は一つしかなかった。

 右へ。

 

 ただし、その方向には聖騎士キュールが待ち構えていた。

 彼女は、アジールに剣術で勝てないことは知っている。

 

 だから、魔法がある。

 足りないものを補うために、自分より格上と戦えるようにする魔法が。

 

「強化!」


 キュールは叫んだ。

 自身の肉体を強化魔法で強化し、アジールへと突き進む。

 二人はの距離は短くなり、剣が届く範囲に達すると二人の剣戟が舞う。

 

 アジールが突き、キュールが上から振り下ろして弾く。

 右から左の薙ぎ払いを、キュールは反対からの薙ぎ払いでぶつかって受け流す。

 

 二人の剣戟は残像のように見え、目では捉えきれない。

 気が付けば、何十も打ち合っている。

 アジールは攻め入り、キュールはなんとか凌ごうと必死に守りに入っている。

 

 二人が鍔迫り合いとなる。

 剣と剣がぶつかり合い、力が互角なのか動きはせず揺れるだけだ。

 

 しかし、徐々にだがキュールは押されていき、剣を引いて後ろに下がった。

 それと同時に、


「炎鞭」


 キュールの剣先から炎の鞭が伸び、剣を振ることで炎の鞭はキュールの思い通りに動く。

 追おうとしたアジールだが、炎鞭に邪魔をされて動けなかった。

 

 炎鞭はアジールを狙って襲い掛かるが、アジールは剣を器用に使って炎鞭を受け止めて外へと受け流す。

 

 炎鞭が外側に受け流されたことで身体ががら空きになり、アジールは炎鞭を受け止めたまま走って接近し、

 

 パチンッ!!

 

 大きな柏手が辺りを木霊し、アジールとキュールは戦いをやめた。

 

 アジールは剣で突き、キュールの炎鞭を解いた剣を横にして腹で受け止めようとし、柏手により二人の動きは止まった。

 

 彼らはゆっくりと、音の鳴る方に向いた。

 そこには、シグレイの左で立っているザブラッドがいた。

 

「馬鹿共! 何をしている」


 二人に待っているのは、ザブラッドの怒声だった。

 

 

 

 


「いや、騎士の戦い方を教えようと思ってな」


 子供が父親に怒られた時のように、アジールはザブラッドから顔を反らしていた。


「馬鹿が! お前らみたいな超人の戦いを見たって何も理解できないだろ!!」


 うん、動きが速すぎて何も見えなかったよ。

 聖騎士同士の戦いを見させてもらった。

 最初は見えた。

 が、途中で動きが速すぎて何を参考にすればいいのか分からなくなった。

 

「俺が教える。いいな?」


 アジールが教えることに不向きだと判断したザブラッドは、自分が教えることに決めた。

 

「いや、でも」


「なんだ? 不満か?」


「ないです」


 ザブラッドが圧をかけると、アジールは容易く屈した。

 アジールは圧力に屈し、力なく項垂れた。

 

「来い」


 シグレイを呼んだザブラッドは、後ろの方へ、待機している騎士達の元に向かった。

 その後をシグレイは追った。

 

「エンリヒ騎士見習い。ここに来い」


「はいっ!」


 騎士見習いと呼ばれたエンリヒは、男性でありながら高い声で返事をし、身体はガチガチに固まって非常に緊張した様子を見せた。

 

 騎士といえば甲冑のような物を着ている姿を想像するが、エンリヒは革で作られた防具を身に着けていた。

 

「エンリヒは暇だな?」


「はい。暇であります!」


 エンリヒは両手を身体の横に置いて伸ばして気をつけをし、顔から尋常じゃないほどの汗が流れている。

 

 凄く言わされている感がする。

 

 シグレイはエンリヒを不憫に思うが、何も言わない。

 父であるアジールが圧力に屈する程の男、何か言ったら目を付けられそうだ。

 

 そんなことをシグレイは思うが、既に目を付けられていると知らない。


「エンリヒ。剣を抜いてコイツの向かいに立て」


「はっはい!」


 アジールの言われた通りに、エンリヒは剣を抜いてシグレイの向かいに立った。

 

 正面から見ると、エンリヒの姿が良く分かる。

 髪は茶髪で天然パーマ。兜を身に着けていないので髪が回転し、目は濁った金色のような少し黒みがある色をしている。

 

 まだ大人じゃないのか大きくないが、シグレイからすれば大人のように大きく見えるが、大人からすればまだ成長途中で、ぶつかったりでもしたらどこかに吹き飛びそうだ。

 

「エンリヒ、少し待て。コイツ、シグレイに説明をする」


「はっはいィ」


 凄く緊張しているのだろう。

 声が震えている。

 

 ザブラッドがシグレイの目の前に立つ。

 シグレイの両手には、アジールから渡された剣を持っている。

 

「シグレイ。彼はエンリヒ騎士見習いだ」


「騎士見習い?」


「ああ。彼は騎士学校に通って授業で騎士団の仕事を体験するのがあるらしくてな。それでここに来ている」


「騎士団?」


「もう後にしろ。聖騎士になるなら、どうせ勉強するんだ」


 分からないことを質問するシグレイだが、ずっと質問してきそうなことを予想したザブラッドは今の会話を中断した。

 

「戦い方を今から教えるが、それは人によって違う。アジールとキュールの戦い方を思い出してみろ」


 アジールは一切魔法を使っていない。

 使えないのかもしれない。

 彼は自身の肉体と剣だけで戦い、魔法を使う者達との戦いも慣れていたように感じた。

 

 キュールはアジールと違って魔法を使っていた。

 魔法を牽制に使ったり、おびき寄せたり、色々な使い方があった。

 

「二人は得意分野が異なるため、戦い方も異なる。だが、剣を使うことになるのは確実だ。だから俺が教えるのは剣だ。ただし、振り方では持ち方、構え。あとは自分で考えろ」


「はいっ!」


 シグレイは今まで、ザブラッドの苦手意識があった。

 しかし教えてくれる姿を見て、その意識はなくなった。

 

「まずは剣を持て」


「はい」


 シグレイは剣を両手で持つ。

 あまり持たない物、人を殺す道具を持つためか凄く緊張する。

 

「利き足はどっちだ?」


「右です」


「なら右足を半歩後ろに下げろ」


 言われた通りに右足を半歩下げた。

 

「緊張してるな。肩の力を抜け、一度深呼吸してみろ」


 深く深呼吸をして緊張を解きほぐすと、肩の力が抜けて上がっていた肩は下がった。

 

「それが魔法を使わない場合の構えだ。槍、弓、短剣と構えが違うから注意しろ」


「はい。分かりました」


「なら次はエンリヒ見習い騎士と戦え」


「は……えっ!?」


 初めて剣を持ってすぐに戦え、とシグレイは予想しておらず、驚いた。

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