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第三話 救い

 森の外は草原が広がり、家なんてものは何もない。

 あるのは、森と草原に止まってる一台の馬車と、武装した騎士と馬が大勢いた。

 

 キュールが少年を担いだまま馬車にまで歩き、私はその後ろについて行った。

 

「では姫様。私はこの少年を馬車にまで送ったあと、ザブラッド殿に報告してきます。姫様は馬車でこの少年を介抱して下さい」


 振り返って、姫に告げた。

 キュールが馬車の近くまで行き、姫の侍女に少年を預けて事情を伝え、馬車から少し離れた馬と騎士の一団にまで歩いて行った。

 

 

 

 姫が馬車の中に入ると、少年は既にふかふかな座席で横になり、侍女が介抱していた。

 

「この子は大丈夫?」


「大丈夫だと思いますよ、姫様。今は疲れて眠っているだけだと思うので、このままにしておけば目覚めると思います。では私は、これで」

 

 侍女は姫にお辞儀し、馬車から出て行った。

 姫は横になっている少年を見ていると、ちょっと保護欲がそそられ、頭を持ち上げて膝枕して、髪何度も、優しく撫でた。

 



 騎士の集団は二つのグループに分かれていた。

 

 一つは馬を一ヶ所に集め、騎士の少数が馬の世話をする者。

 もう一つは、騎士の大半が集まり、木の机を中心に集まっていた。

 

 机にはこの辺りの地図を広げ、他の騎士より立派な白銀の鎧を着た騎士、聖騎士が手を机に預け、前のめりになっていた。

 

 ただし、聖騎士の周りにいる騎士の大半は騎士見習いであり、彼らは騎士が身に着ける甲冑ではなく、革の防具を身に着けていた。

 騎士見習いは普通ならこんな場所には来れないが、騎士学校の授業により、騎士の仕事を体験するため色々な騎士団に派遣される。


 騎士に囲まれた中心にいる聖騎士は赤髪で、短く刈り揃えられ、目がいつも鋭く小顔。

 名はザブラッド。

 姫の盾であり、矛である。

 

「どうだった?」


 ザブラッドが、後ろから近づいて来たキュールに聞いた。

 その声は低く、たじろいでしまうほどだ。

 

「魔物となった狼が姫様を、そしてその近くで倒れていた少年を襲おうとしていたので、斬りました」


 普通の騎士ならばザブラッドの声を聞いて、たじろいでしまうが、一緒にいるのが長いキュールは、怖いという感情はなかった。

 何故なら、彼女もまた聖騎士だった。


「アジールは?」


「いませんでしたよ。いつもの癖だと思います。それに、狼は元々少年を追って、少年が姫様の前に出てきた感じだと思います」


「それは事実か?」


「分かりません、私の予想ですし。ただ、そういう風に考えるのが妥当では? まあ、聞くのは少年が起きてからにしましょう。それと、姫様はいつもの癖で彼のことをお気に入りになっちゃいましたし」

 

 周りの騎士が二人の会話を遠くから眺めていると、時間が長く感じて手に汗が溜まっていた。

 

 ザブラッドが、ため息を吐いた。

 

 それが合図となり、周りにいた騎士は緊張を解いた。

 

「それで、キュールは人食い狼は倒した、ということでいいのか?」


「そういうことです。ザブラッド殿。まだ生き残りがいるかもしれませんが、それはアジール殿が帰ってくるのを待ちましょう」

「ああ。そうだな」


 ザブラッドは頷き、アジールが帰ってくるのを待つ。

 しかし、帰ってくるよりも先に、少年が目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、花のような香りが鼻を擽った。

 とても良い匂いだった。


 目を瞑ったまま、その良い匂いを気づかれないように匂いを嗅いでいると、頭を撫でられるような感触があった。

 

 その手は柔らかく、壊れ物でも触るように丁寧に撫でていた。


 その行為が少年に安心感を与え、ばれない程度に目を開けた。

 

 視界に広がるものは、狼に襲われそうになったときに、助けてくれた少女だった。

 かわいいな、と一目見て思った。

 

「あ! 起きたんだ」


 目を開けたのがばれてしまったらしい。

 もうちょっと、その可愛らしい顔を見たかったというのは秘密だ。

 あれ、今の僕ってただの変態じゃ……。

 気のせいだよな。うんそうだ。そうに違いない。

 

「どうしたの?」


「う、うんうん。なんでもないよ」


 変な想像をしてしまって、焦ってすぐに起き上がって早く喋ってしまった。

 

「本当に?」


「う、うん」


「よかった。ねえ、身体は大丈夫?」


「身体?」


 少女に言われて、さっき狼に襲われそうになったのを思い出した。

 同時に、目の前の少女に助けられたのも思い出した。

 

 両手を座席に押し付けて身体を浮かし、正座して頭を下げた。

 

「助けてくれて、ありがとう」


「いや、私は!」


 頭を下げられてお礼を言われ、唐突のことに焦って両手を横にブンブンと振った。

 そして落ち着くと、シュンッ、と静まり、頬を赤くしながら答えた。

 

「ど、どういたしまして?」


 お礼を言われることが少ないため、照れてしまった。

 

「お名前はなんて言うの?」


 身を前のめりにし、姫様は聞いてくる。

 

「僕の事は……なんだっけ?」


 思い出せない。

 無理矢理にでも思い出そうとすると、頭から激痛がする。

 

「うぐっ」


「大丈夫?」


「う、うん」


 頭痛により考えるのをやめたが、頭痛はまだ残っている。


「私はアーシェ、よろしくね」


「分かったよ、アーシェ……さん」


 少年は呼び捨てをしようとしたが、途端に恥ずかしくて最後に、さんを着けてつけてしまった。


 その様子がおかしくて、アーシェは笑ってしまった。

 

「ねえ、あなたはどこから来たの?」


「僕は……」


 喋ろうとした。

 だが思い出そうとすると、まだ頭痛がする。

 しかし、何故か知らない感覚だけが思い浮ぶ。

 それは既視感に似たものだ。

 頭痛を味わいながらも、思い浮かんだ感覚を言葉にした。

 

「僕は、ここから遠い所にいたんだ。けど、何か大きな物にぶつかって、それで気が付いたらあの森の中にいた?」


「そうだったんだ、大丈夫? 痛い所はない?」


「うん。大丈夫だよ。ありが……」


 少年が喋っている最中に、馬車の扉が開いた。

 

「起きていたか……」


 扉にいたのは、ザブラッドだった。

 後ろには、配下の騎士が二人いた。

 

 少年はザブラッドを見て、怖くて後ろに下がろうとしたが今まで話していた少女がいる事を思い出し、我慢して動かなかった。

 

 ただ単に、かっこつけたいだけだ。

 

 ザブラッドの目は少年を捉えていた。

 しかし、見下ろすような、天敵にでも見られるように感じ、本能恐怖を。

 

「姫! この少年を借ります」


 ザブラッドの大きな右手が少年を鷲掴みし、馬車から出ていく。

 

「ちょ、ちょっと!」


 突然のことに、アーシェは対応が遅れてしまい、ザブラッドが馬車から離れたときにやっと動き出した。

 

 そして、少年は頭が割れるのではないかと思えるほど強く掴まれ、必死に抵抗をするが、子供には何もすることが出来なかった。

 

 頭の痛みに耐えていると、気が付くと投げ飛ばされた。

 地面に何度も転がって起き上がると、騎士に囲まれていた。

 

 騎士達は突然少年が転がってきたのに気づき、好奇心の籠った目で見た。


 その次に、転がっていた方向に目を向けると、そこにはザブラッドがいた。


 ザブラッドに気が付いた騎士や見習い騎士達は、慌てて姿勢を正して直立した。

 

 少年は身体を起こし、周りを確認する。

 周りは騎士に囲まれている。

 それが少年には、敵に囲まれているようにしか思えなかった。

 

「貴様は何者だ? どこから来た?」


 ザブラッドが少年を観察しながら近付く。

 

 黒髪で顔は幼いが、この辺りでは見ない顔だった。

 この国ではそんな顔は見たことない。

 となると、この国の者ではないということになる。

 

 どうしてあの森にいたのか、と考えていると。

 

 後ろから可愛らしい足音が聞こえ、アーシェがその輪にに乱入し、少年の横から抱き着いた。

 少年が座っているため、彼の顔の左側面がアーシェの胸に当たっている。

 

 少女の胸に頭が当たり、みんなに見られて恥ずかしく、そして、心の底では少し嬉しくて、その上、少し育っているのか、柔らかい感触もあり、心の中でガッツポーズをしていた。

 

 そんなことは露知らず、アーシェは口を尖らせて、ザブラッドに言った。

 

「この子は私の物なの。だから、ザブラッドにはあげない!」


 え? いつ物になったの? だけど、この感触を味わえるならいいかも。

 

「いえ、俺はいらないです。ただ、姫は彼のことを知ってますか?」


「うん。知ってるよ」


 アーシェは馬車での、少年と会話の一部を話す。

 

「そうですか。となると、奴隷、いや、奴隷痕がないから盗賊に誘拐されたのか……いや、それよりもこの少年をどうする……」


 ザブラッドが考えていると、その後ろからキュールが近寄って耳元で囁いた。

 

「アジールが? 分かった」


 頷くと、ザブラッドは離れて行った。

 その様子をアーシェは少年を抱き着きながら、少年は僅かに育っている胸の感触を楽しんでいた。





 

「アジール、今まで何していた!」


「聞かなくても分かるだろ? 狼を狩っていた」


 アジールは騎士達が集まっている所から、少し離れていた所にいた。

 草原にポツン、と存在する大きな石に座っていた。

 

 アジールは身体が全体的に大きく筋肉で身体が盛り上がっており、ザブラッドの白銀の鎧とは反対の黒い鎧を身に着けていた。

 髪の色は茶色でオールバックだが、真ん中の一部の髪が前に出ていた。


 目は碧色で少し濁っており、顔付きは山賊の頭領にもいそうな野蛮さがあるが、清潔感があるため厳ついがどこかカッコ良さがある、そんな男だ。

 

 アジールとザブラッドは雰囲気では、正反対だ。

 だが、二人は同期で気軽に話せる仲である。

 

「どうして戦いに行った? 貴様の役目は姫を守ることだろう」


「早く終わらせたかったんだよ。嫁も待っているしな。それに、あんな浅い所じゃ魔物は出てこないだろ」


「それが出てきたぞ」


 ザブラッドが事実を告げると、水を飲んでいたアジールは驚いて飲んでいた水を吹き出し、咳き込んだ。

 

「本当か!?」


「ああ。少年が魔物に追われている所に出くわしてたようだ。キュールが助けに来てくれたお蔭、事なきを得たようだ」


「そうか。俺のせいだな。それで、少年のほうはどうだ? 無事なのか?」


「無事だ。だが、その少年の顔はここではあまり見ないような顔だ。それに、姫の悪い癖が起きた」


「そうか。子供にあの悪い癖か、……さすがの王様も許しはせんだろうよ」


「それは俺も分かっている。だが、教会に預けたとしても、姫は会いに行くだろうからヤバい所は駄目だろうし、ザブラッドは大変だな」


 アジールは他人事のように言う。

 なにせ、本当に他人の事だからだ。


「そう思うなら、手伝ってくれないか?」


「俺がか! 俺は頭より身体を動かすほうがましだ」


「それを言うなら俺も同じだ。いっそのこと、お前達夫婦の子供にしたらどうだ? お前は種無しなんだし、一生子供できないだろ」


 今までの苦労が積み重なり、アジールに八つ当たりするように、皮肉を言う。

 

「ふっふっふっ、種無しだからこそ、気にしないで中に出せるんだよ」


「知るか! 偉そうに言うな! それで、養子にしないか?」


「それ以前に、その少年を家に帰すことは出来ないのか?」


「そうしたいんだが、少し事情が違うらしい」


「どういうことだ?」


「少年が言うには、何か大きな物にぶつかったら森にいた、だそうだ。身体の見える範囲には、奴隷痕はない。首輪もだ」


「なら、転移魔法ということか」


 ザブラッドの頭の中にある一つの推論を、アジールが当てた。

 

「そういうことだ。だから、少年の家に戻ることも出来ないだろう。それで、アジールに養子はどうだ、というわけだ」


「そういうことなら、まずはその少年を見させろ! 見ない段階で決めるわけにはいかん。それに、少し二人で話をさせてくれ」


「分かった。なら来い!」


 ザブラッドはアジールを連れて、少年の元に、少年の元に向かった。

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