ハーモニクスメロディア
毒電波というのは要するにふとした瞬間、レットイットゴーが実は戦場のメリークリスマスのパクリではないのかという疑念に憑りつかれるようなことではないのか。
世の中には天才という奴がいる。
「では先ず、くるみ割り人形より花のワルツ……」
幼い頃から、抜群のセンスを持った、或いは英才教育の賜物、もしくはその両方。凡人に出来ることは限られている。僕に出来るのは、それを応援することだけだ。
「兄さん、どうだった?」
「ああ、上手だったよ」
「そう? 二分三十四秒の所のアクセントがちょっと弱かったと思うけど」
「そうだったかもしれない」
「やっぱり? 後で一緒に確かめてね」
「…………うん」
凡人には高尚過ぎて、理解できないのだけれど。嘘を吐くことは幼児でも出来る。僕は喋る置物なんだ。そんな置物に出来ることがもう一つあった。
降りかかる災厄の盾になること。例えば、トラックに轢かれるだとかそんなの。
「兄さん! 私を庇ったばっかりに」
「レクイエムを聴かせてよ、モーツァルトの、未完成」
「嫌だ、いやだ! 死なないでよ!!」
「んじゃ、天国と地獄」
「それも駄目」
「別れの曲を」
「…………うん」
それで、妹はついに折れ、別れの曲を奏でた。とても美しい旋律、ホ短調の悲しみ、別れを描く。中盤に差し掛かったあたりで、もう死んでもいいかな、なんてふっと思い。僕を生に唯一繋いでいた糸が切れ、僕は死んだ。
そうして今に至る。
「カナデ」
僕の周りに鍵盤が展開される。触れる、ドの音が響くと同時に炎が小さく出現する。音楽の魔法だった。音楽は魔法だった。音楽こそ魔法だった。確かめるように情熱大陸を始める。それは喜びだった。長い間逃げ続けていたのだから。妹の才能に甘えていた。数年ぶりに叩く電子オルガン。
「ハーモニクス」
僕の意思に反応してオルガンが一部ギターに変わる。ハープのように爪弾くと音色が弾ける。そのまま流す右手、”楽器”はまたもや変形しビブラフォンへ。左手でそれを行い、右手はピアノ。両足を踏み鳴らしてベース、振り上げるごとに鳴るティンパニ。僕だけの音色が確かにそこに。
「あっ……」
とここで魔力が尽き、”楽器”が消失し思わず尻餅。疲労感はあったが、満足感がそれを上回っていた。僕の音、今ここにある。と、僕は自己満足に浸っていたのだが、周りの反応というものを失念していた。
「神童だわ!」
ここから始まる僕のミュージック……いや、マジカルミュージックライフ。
ド火 レ水 ミ土 ファ雷 ソ光 ラ闇 シ風
といったような感じで。魔法使いは楽器を展開し奏でることによって魔法を発動する。タイトルに深い意味はないです。魔法を音階という七つのパーツを属性としてシャープフラットアクセントスラークレッシェンドアレグレットワルツボサノバノクターンラプソディークラシックオーケストラなどなどなど適当に並べただけでも使えそうな要素が沢山。ところが、精々歌(詩)魔法だとか○○のサンバとかレクイエムだとかを使う演奏家・吟遊詩人。呪いの楽器とか歌詞の意味とかどうでもいいんで、音そのもので魔法を使うのが見たい。せめて和音がどうのこうの。
575には失望した…………無念。