クラス転移復讐物とスマホに対する仄かな反感が辞書への愛着へと繋がらない
「かくかくしかじかでお前ら異世界行け」
「えー!?」
「色々と心配だろうが大丈夫だ、お前らが行く世界は普段住んでいる世界の一段下だから、お前らはその一段上の住人、つまり天人となる。もっと具体的に言えば上から下に落ちたものはエネルギーを得る。そのエネルギーによって、例えば身体がとても強くなる」
こうして僕を含むクラス全員が転移した。
「おおっすげえ! ジャンプで滞空していられる!」
こうして僕らは超人に、いわばチート能力を得る。僕もそのお零れに与った訳だが、僕と他のクラスメイトでは違う点が一つ。
「あー、お前スマホ持ってなかったよな」
「時代遅れだよな、ほんと。お前を除くクラス全員が持ってるぞ?」
「一人だけ魔法が使えないとか」
エネルギーを得るのは落ちたもの、例えば衣服。破れないし、汚れない。そしてスマホは超絶ハイスペックスマホになりありとあらゆる機能が使える。僕は唯一人、スマホを持っていなかった。
「くそっ!」
「ああ、何でだよ!」
「お前だけスマホを持っていないせいでワールドラインに参加しそびれたんだよ」
スマホにはワールドラインという機能が備わっていたらしい、僕にそれは当然ながら使えない。だから……疎外される。一人だけ違う、イジメの格好の標的だ。僕は悔しくて悔しくて仕方が無かった。そして次第にエスカレートする。こっちに来た瞬間から超人だ、教師は来ていない、誰も傲慢な彼らを止められない!!
「何だ、お前知らなかったのか。魔法はこうやって発動するんだよ!」
「(え……?)」
僕に残されていたのは、スマホ代わりの紙の辞書。
「やっぱりそうだ、神ペディアは必ずしも真実とは限らない」
スマホによってありとあらゆる情報を検索することが出来る。神ペディアに書いてある、でもそれが真実とは限らない。神の主観が入っている。僕の持っている辞書は、ただ真実だけを記す信頼性のある辞書。
「お前が、殺したんだな」
「そうだよ、みんな馬鹿だよな! 俺がワールドライターを持っているとは知らなかったんだ。神ペディアに、強くなる方法って、薬……本当は毒薬だってのに! 唯一お前だけは始末出来なかったが、そんなの些細事だよな。だって俺にはスマホがある、更にだ、スマホを二個持てば二倍の戦力。ここで問題だが、俺は今何個のスマホを手にしていると思う!?」
「じゃあこっちも言い返してやる。この辞書には何が書いてあったと思う?」
「は?」
「この辞書には、自動で魔法を発動してくれる機能なんてない。唯、魔法の使い方が書かれていた。ありとあらゆる魔法についての記述! お前らはスマホばかり弄って気付かなかったかもしれないが、俺らの身体は本当にチートだ。そんな奴が、死ぬ気で魔法の修行をしてみたら、どうなると思う?」
「知るか、そんなの!」
「同感だ。あとお前が持っているスマホだが所詮電撃に弱いぞ【サンダーボルト】」
「勇者一人が全ての魔を率いる魔王に勝てるのか?」
「勝つから勇者なんだよ」
「そんな、ジショ一つでか」
「たぶん大丈夫だ、【永久】そして用例より【永久凍土】」
「遂に神まで辿りつくか、予想外だ」
「元凶ってのは始末されるために存在するから、当然だ」
「はっ、随分と自分本位な考え方だ。でもさ、魔王を打ち破ったところで神には勝てないよ。辞書にはそんなこと書いてなかったかな?」
「その通り。辞書に書いてあることは信用できるから絶対だ。神でさえこの辞書に縛られる」
「なら……」
「その辞書を改変できたとしたら?」
「まさか!?」
「ワールドライター」
ウィキペディアはともかく、私はなろうで執筆する際によくインターネット上の辞書を使いますが。信用できるものと出来ないものを見極めるのは重要ですよね。