触れらぬ太陽
最後まで読んで下さると幸いです。
手を伸ばす。
なにかに触れてみたくて。
誰かに触れてみたくて。
習慣みたいになっていた。
でもその手は空を掴むだけ。
何も掴むことは出来ない。
分かってる。
何も触れられないことぐらい。
分かってる。
誰にも触れられないんだって。
だってオレは太陽。
何かに触れた瞬間。
誰かに触れた瞬間。
オレの意思とは関係なく燃やしてしまう。
それは皆から恐れられ。
何も。
そして。
誰も。
オレに近付く事はしなかった。
そのせいでオレは孤独だった。
いつも誰にも話し掛けてくれさえされない。
孤独の存在だった。
だから自分の上に何もしなくても月や星が集まってくる夜が羨ましかったし。
少し意地悪を言ってしまった。
それから元々暗かった夜は、塞ぎこむように空の隅に行くようになったらしい。
悪いことをした。
月からも冷たく睨まれた。
でも良いじゃないか。
夜には月がいるし。
口は悪いけど星たちもいる。
オレはどんなに頑張ったって1人だ。
自分が嫌いになったことなんて数え切れないぐらいある。
太陽は地上の人には必要な存在。
それだって分かってる。
でも近付き過ぎると。
人を病気にさせてしまうし。
最悪殺してしまう。
オレは…
いつになったら本当の意味で必要とされるのだろう。
オレはそして又手を伸ばす。
そうすると厚い雲がオレの下に集まって地上に雨を降らせた。
まるでそれは雲たちがこれ以上、地上に近付くなと牽制しているかのように。
消えたいのに。
これ以上の孤独。
耐えられない。
なのにそれを許さないモノ達がいる。
わからない。
どうして?
太陽なんて役目。
オレ以外にしてくれ。
そんな気も知らず体は容赦なく、熱く燃え続ける。
泣きたいのに。
涙さえ炎に掻き消されてしまう。
涙を流すことすら許されないこの体を酷く憎んだ。
「……太陽さん…大丈夫ですか?」
と。
近くで声がした。
オレは顔を上げて必死に声の主を探す。
「太陽さん…とても悲しい顔をしています…大丈夫ですか?」
そこにいたのは。
そう……そこにいたのはいるはずもない小さな星だった。
星は本来太陽から離れる習性がある。
何故なら太陽の近くでは明るすぎて自分たちが輝く事が出来ないから。
「……何でお前…だって…」
星は口をパクパクさせて驚いているオレの言葉の続きを理解したのか、控えめに笑った。
「だって太陽さん…元気無いから…いつも本当は、皆にダメって言われましたけど…遠くから見ていたんです。でも今日は我慢出来なくて…内緒で近くまで来ちゃいました」
その現実が中々受け入れられなくて。
オレはつい目を逸らす。
「……お前…オレが恐くないのか?」
星はオレの言葉がわからないといった風に首をかしげた。
「どうしてですか?恐いはず無いです」
どうして?
そんなのオレが聞きたい位だった。
「太陽さんの炎は暖かいです。」
「……誰にも触れられない…触れると燃やしてしまうのに?」
星はそのまま笑っていた。
「……誰かに触ることだけが触れると言うことなのでしょうか?」
「……は?なに言って………」
戸惑うオレが可笑しいのか星はオレを見続ける。
「私は太陽さんに触れてもらっています。いつも心に暖かさを貰っている。太陽さんの火は優しいです。」
優しい。
そんなことを言われたのは初めてだった。
火は危険で。
恐れられ。
忌み嫌われる。
そして。
何より。
誰にも触れることが出来ない。
なのに星は。
オレの全てを。
一瞬でひっくり返した。
「……太陽さん。私ずっとここにいて良いですか?」
星が優しくオレに問いかける。
オレはその提案に驚きを隠すようにあくまで冷静を装った。
「……オレの側じゃ星は輝けない」
嬉しいけど。
それは星の存在意義を無くしてしまうと言うこと。
「……輝けます。太陽さんの近くの方が。」
「はっ?」
「というか、もう決めちゃいましたから!私これからずっと太陽さんの隣にいます!」
星は悪戯っぽく笑って。
嬉しそうにオレの隣にいる。
「変なやつ」
そんなことを良いながらオレは嬉しさで涙が出そうだった。
それからもこれからもきっとオレはヒトビトにとってきっと元気の象徴として扱われる反面、恐れられる対象のままなのだろう。
それでも。
これ迄とは違うのは。
大きな太陽という存在を。
小さな星が支えてくれる。
心に触れてくる。
ゆっくりでいい。
ゆっくりでいいんだ。
自分を好きになる努力を。
自分を知る努力を。
これからしていこうと。
心に思った。
――――fin
最後まで読んでくれてありがとうございました。
どうか皆様の心に触れられるものがありますように願っております。