昼ご飯から個人レッスン。
二日目~昼頃
チュー○ュートレインに突っ込みを入れて町に戻った。
ギルドに戻って来ました。
入手したものを換金すると、全部で480シェルになった。
ちなみにキュリィ草を10本集めると、100シェルだった。
その他は、胴長兎、ぐるぐる蛇、野犬…数種類の野良犬なんだけど、野犬で一括りにされているそうだ…を、数匹アルセラさんが仕留めていた分が上乗せされている。胴長兎は食用、ぐるぐる蛇は薬に、野犬は毛皮を利用するそうだ。
さて、結局の所、地球時間で2、3時間程かけて、1人240シェル。
悪くないと思う。
「それじゃ、先に飯にするか?」
アルセラさんは現金で受け取った貨幣を袋に入れると、そう提案した。
「はい、お任せします」
「隣に食堂があるから、そこ行くぞ」
「はい」
ギルドを出て右に行くと、それはあった。
「荒くれ者が夢の跡…?」
「ああ、ここの店主はな、昔冒険者だったんだが、足に怪我を負って、冒険者を断念した。そしてその後に店を開いたんだ」
「それで…」
「ああ。あ、それなりに美味いぞ?」
「楽しみですね」
ギィ…カランカラン
扉はノブが無く、押し開けるタイプだ。
出る人と入る人がぶつかりそう…。
「いらっしゃいませ、お二人ですか?」
店に入ると、左側がカウンター席、右側にテーブル席というシンプルな造りが目に入ってきた。
声の主は、カウンターの中で、こちらに笑顔を向けている。
「ああ二人だ。カウンターで頼む」
「あ、え、あ、アルセラさん…こ、こ、こいびとですかあぁぁっー!?」
「…と、て、い、だ!!」
…このやり取りは何度繰り返されるのだろう。
「とていさん…ですか?」
「徒弟!弟子だよ!言っておくが、エッジはあたしを選んだ上でそうなったんだぞ!」
あ、先制攻撃。
「ええっ!!そうなんですか!?…あ、あの、大丈夫ですか…?」
めっちゃ心配されてる…。
「大丈夫も何も、アルセラさんはとっても優しいですよ?僕はお世話になりっぱなしなので、いつも感謝しているくらいです」
「そ、そうですかぁ〜。あの、アルセラさんが男の人を連れているのを初めて見たので、混乱してしまいました…ごめんなさいです」
ぺこりと頭を下げた女性は、やっと落ち着いたようだ。
「カウンター使うぞ?」
「へ?あ、どうぞー」
女性は、オレンジの肩までの髪をふわふわさせている。瞳はエメラルドグリーン。顔立ちは丸い感じで動物的な可愛さがある。体型はふくよかな印象だ。20歳前後かな…?
「あ、そうだ、親父に兎持って来たんだ」
「あ、ありがとうございます。おとーさーん、アルセラさんが持ち込みだよー」
少し間を置いて、スキンヘッドの親父がやって来た。
…なんだろう。娘さんに似ている。いや、逆か。
「アルセラか。兎か?」
「ああ。そら、こいつだ」
徐にアルセラさんは、袋から頭無し胴長兎を取り出した。
「おう。すぐに調理しよう」
「頼む」
…む、視線がこっちに来た。
「まあ、頑張れ」
…キョトンとしてしまった。
こんなに普通に声を掛けられるなんて思ってなかった。
…っていうのもなんかアルセラさんに失礼か。
「が、頑張ります」
親父さんは頷くと、兎を持って奥の厨房らしき所に引っ込んで行った。
「あの、えと、私、エミィです!」
突然の自己紹介である。
「あ、エッジです。アルセラさんの徒弟です」
「あの、エッジさんも冒険者なんですか?」
「はい。昨日なりました」
「ほわぁ〜すごいですね〜。その歳でしっかりされて…」
あ、このパターンも来るのね。
「いやぁ、24!歳ですし、普通ですよ〜」
「…?」
エミィさんと見つめ合うこと30秒。
「ほぇ?と、と、歳上ですかぁぁぁっ!?」
アルセラさんと一緒に苦笑ですよ…。
話を聞いてみると、エミィさんは18歳で独身。ずっとお父さんのお手伝いをしているそうだ。お母さんは早くに亡くなったらしい…。娘さんは元気ですよ〜。
「エッジさんは戦うのは怖くないですか?」
「怖いんですけど、意外と冷静というか、なんとか動いてますね」
…未だに現実味が薄いからかもしれないけど。
「そぉですかぁ…私なんか外域も怖くて、歩けないですよぉ…」
「あー、でも、僕はアルセラさんが一緒だから大丈夫なんだと思います」
「なるほどぉ…アルセラさんですもんねぇ」
2人でうんうん頷いていると、アルセラさんは微妙な表情を浮かべた。
「…褒められているのか?」
「「もちろんです!」」
しばらく雑談をしていたら、ご飯が到着。
「兎肉のステーキと、柔パンとトマトスープです」
おおー肉がうまそーだ!
「いただきます」
ふむ、一口サイズに切られた肉をまずは…む、むむ、程良い弾力。これはアレだ、ホルモンと赤身を足して2で割った、そんな肉だ!かなり独特な感じだけど、塩胡椒だけと思われる味付けで変な臭みも無いし、あの兎…やるじゃないか!伊達に胴が長い訳じゃないって事だね〜。
「んぐ、やっぱり、焼き加減が絶妙だな〜」
「やっぱり…?」
「ん、胴長兎の肉は焼き加減を間違えると、只々硬くなるんだよ」
「そうでしたか…」
「なんだっけ、均一に程良く焼くとか?なんかコツがあるんだ」
「そぉなんですよ!だから、うちは持ち込みが多いんですよぉ」
エミィさんが、えっへん、とでも言う様に腰に手を当てて大きく頷いた。
微笑ましいなぁ。
「しかしなんだな、柔パンは美味いけど、噛みごたえが無いのが惜しいよな」
ん?そういえば、やわぱんって…
んぐんぐ、あ、柔らかい食パンみたいなパンだ。
こういうパンもあるんだ…。
「スープにつけて食べると美味しいですね」
染み込みんで、口の中でジュワァだ。なんだろね、ジュワァって美味しいよね。
それにしても、昨日今日と、この世界の料理は調理自体はシンプルだけど、完成度が高くて美味いっていうのが嬉しいな〜。やっぱり食は大事だもんね。
「…はー、これで気合入れて動けるなー」
「アルセラさん、午後の予定は…?」
「ギルドの訓練場だ。あと、メリルの都合で魔法に関してだな」
「…おお〜遂に魔法が!」
「エッジさんは魔法士なんですか?」
「いえ、超見習いです」
「…えと、あの…ごめんなさいです」
何故に謝られる?
「あーその、エッジは遠い田舎から来たんだよ。だからこの歳でも魔法に疎いんだ」
「あ…そうでしたかぁ…エッジさん、頑張ってくださいね!」
「え、あ、はい」
よく分からないままに、食事を終えて会計をして…持ち込みの分安かった…ギルドへ向かう。
その途中にて…
「あー、さっきのはな、エッジがその歳で見習いっていうから、エミィが色々気を使ったんだ。二十歳過ぎて魔法を知らないなんて、普通じゃないからな。過去に色々あったんだと想像するに難くない。だから、謝ったんだよ」
「あー…無駄に気を使わせてしまったんですね…。後で気にしないように言わないと」
「その為にも、基本を早く覚えないとな」
「はい!」
ギルドに着いて、メリルさんに話を通してもらうと、あっさり面会となった。
「薬草の採取は如何でしたか?」
現在、会議室?に通されて、テーブルを挟んで向かい合って座っているわけですが。
「あ、そうですね、思ったよりも見つけやすく、アルセラさんがいてくれたので、楽に終える事が出来たと思います」
「そうですか。外域程度であれば、アルセラが遅れを取る事はまず無いでしょう。彼女の強さは本物ですから」
「はい。頼りになり過ぎて、甘えないように気を付けたいくらいです」
「そうですね。その心構えを無くさないようにしていただければ、と思います。…さて、私からエッジさんには、魔法の基礎を指導する事になります。出来る限り分かり易くお伝えしたいので、分からない所は、すぐに仰って下さい。ここで遠慮をされると、後々に響きますので」
「はい。よろしくお願いします」
「では、始めましょうか」
…現在、この部屋はメリルさんと僕だけ。
アルセラさんは訓練場へ。
僕はマンツーマンでの個人授業。
ええ、つまり、密室に二人っきり!
…たまりません。このシチュエーション、たまらんぞぉぉぉぉ!!
※興奮中につきお見苦しい点があります。
「では、魔法の基礎概念から始めます」
魔法とは?
魔力により現象を生み出す術法である。
…というのが現在の一般的な認識なのだそうだ。しかし最近、研究者によって、新しい認識も出てきていて、活発に議論されているらしい。思ったよりもちゃんと体系化されていない?
「魔力というのは、基本見えない力で、生物に内包されるものとされています」
「生物以外には無いんですか?」
「…現在、魔力は長い時間を掛けると、鉱石などにも蓄積し、変質させる事が分かっています。…この辺りは未だに議論されていますので…取り敢えずは、生物に宿るものと考えていただければ良いかと思います」
魔力は、基本的に見えないものなので調べるのが大変らしい。
…普通に見える僕は、異端?
「あの、どれくらい魔力があるかは分かるんですか?」
「はい。魔力計測器があります。神器の一つなので大きなギルドには大体置いてあります」
「あの、じんぎ、というのは?」
「神器とは、神より賜った機器の事ですよ。分かりやすく言いますと、魔物や魔獣に対する、ヒト属の為の便利な道具ですね」
そう言えば魔力波長のアレも神器って言ってたっけ。
って言うか物質的に神様が助けてくれるんだね〜。
「もしかして、神剣とか聖剣みたいな物があったりしますか?」
「はい。聖剣はありますよ。他国の国宝として保管されているので…本末転倒なのですけど」
「…あー…使うに使えないという感じですか」
「一応、その国に勇者がいる時は貸し出すようですが…現在は宝物庫でお休み中でしょうね」
色々あるんだろうけど…まさに持ち腐れ。
「…と、話を戻しますね。魔力ですが、計測してみますか?」
「え?できるんですか?」
「ええ、少々お待ち下さい………どうぞ、こちらの水晶に触れて下さい」
メリルさんは、テーブルの上に透明な水晶玉を置いた。
これ、あれだ、占い師が使うやつ。
「こちらに手の平を置いてください」
ドキドキの測定タ〜イム。
「では…」
水晶玉に手を置く。
んー…?
水晶玉の中が濁ってきた。これは何をどう計測しているんだろう?
「…!?」
段々と様々な発色発光をし始める。
鮮やかな原色から淡い色合いまで、次から次へと変わっていく。
「こ、これは…」
メリルさんが声を絞り出すように呟いた。
やがて、水晶玉が全体的に真っ白な光で満たされると、その幻想的な一時が終わった。
「…こんな事が…?…いえ、彼はワタリト…あり得ない話ではない…?」
「あの、メリルさん?これはどう解釈すればいいんですかね?」
「…しかしこんな事例は…上に報告…」
「あのー、メリルさーん?」
「え?…あ、す、すみません!ちょっと混乱しておりました。…えー…何と言うか、あり得ない結果です…」
「え!?」
「…説明致します。まず、色は属性を表すのですが、エッジさんの場合、恐らく全属性に適性があります。…これは、前例がありません。通常、相反する属性はどちらか強い波長しか表れないのです。例えば、火の属性が得意であれば、赤く光りますが、相反する水属性の青色は表れません」
…もしかしてチートきた?
「しかも、属性色は個人では2色、多くても3色までしか確認されておりません。それをあれだけ色とりどりに見せられると…故障かと疑う所でした」
うーむ。
神器を疑うのは神様を疑うのも同義だろうしなぁ…。
「挙げ句の果てに…」
言葉が痛いです、メリルさん。
「…水晶玉を埋め尽くす光、これはおよそ、256人分の魔力を持っていると考えられます。ちなみに、私の場合ですと、水晶玉の中心部から半分くらいの大きさで発光しますので、およそ16人程度の魔力量となりますね」
…これはもうチート決定?
「…エッジさんの魔法能力は、史上最高になるかもしれません。…資質無しでこの結果は、想定外過ぎますよ…」
メリルさんがこめかみに手を当てて、首を振っている。
…やれやれだぜ、的な?
「あのー、これって凄い事なんですかね?」
「…凄い、という言葉で言い表せない程の凄さです…」
これは…
「無かった事に…」
「無理ですね。私の立場上…見逃せない事実なのです」
「そうですか…。うーん、故障じゃ済まないですよね〜」
「…普通、誇るべき所なのですが…エッジさんは本当に嫌そうにしますよね…」
メリルさんがなんとも言えない表情だ。
呆れているような、納得いかないような、苦笑しているような。
「僕としては、アルセラさんと一緒にレムリア山を目指したいので、余計な柵は作りたくないんですよ」
「レムリアですか!?…あの、本気で…?」
「目標、ですよ?アルセラさんも乗り気だったし、僕も未知の領域に行ってみたいので」
「そうですか…」
メリルさんは、少しの間目を閉じて表情を消した後に、ゆっくりと口を開く。
「分かりました。報告はしますが、大事にはならないように手を回しておきましょう」
「…いいんですか?」
「今はまだ、あなたは無力ですから」
…なんでそこで微笑を浮かべるんだぁぁぁ!!
ちくしょー!早く魔法覚えて見返してやるぅぅっ!!※被害妄想中
「では、魔力の話に戻ります」
「…はい」
魔力には、波長がある。
波長は人によって変わるのでそのパターンを計測して記録する事で個人を特定したりできるわけだ。
波長によって、得意属性、不得意属性が出てくる。例えば火属性の波長に近い人はそれが得意属性となるが、相反属性である水属性が苦手になる。波長が合いにくくなるので、制御が難しいとの事。全く使えないわけではないし、練習すればそれなりに使えるみたいだけど、その時間を得意属性に向けた方が、余程役に立つと、一般には認識されているそうだ。
「それで、現在の魔法属性は…」
基本として、6個の属性がある。
火…火を点ける、物を燃やす、爆発させる。
水…水を発生させる、水を降らせる。
土…土を固める、土を操作する※砂状も可。
風…風を起こす、吹き飛ばす、風で切りつける。
光…闇を照らす、光線を放つ。反射障壁を張る。
闇…光を閉ざす、影で隠す、減衰障壁を張る。
それから、特殊属性として…
冷凍…凍らせる、氷を発生させる。
雷電…雷を発生させる。
空間…空間を制御する?
時間…時間を制御する?
特殊属性は、氷と雷電以外は神器の情報からなので、扱える者は現在はいないそうだ。
使えないから調べようも無くて、保留状態なんだってさ。
…僕は使えるのかな?
それから、活力属性として…
回復…体力を回復させる。
再生…傷などの修復。
強化…身体能力の強化、補助。
とあるそうだ。
回復はあくまでも疲労の回復なので怪我の治療ではないとの事。
治療は再生魔法で行う。
強化魔法はスキル発動にも関わるそうだ。
こうしてみると、系統がそれなりに分かれていて、目移りするけど…
「僕の場合は、何から始めたらいいでしょう?」
「エッジさんは不得意属性が無さそうなので、好きなようにできるかと」
「…そうなると、やっぱりまずは、火ですね!」
「何がやはりなのかはさて置き、イメージしやすいですから、妥当かと思われます」
「…お願いします」
「まずは、魔力操作です。身体を巡る魔力を手の平に集めるようにイメージしてください」
…むむ…手の平に集めるイメージ。
ん、手の平が温かくなってきた?
「どうですか?温かくなってきましたか?」
「はい」
「…流石ですね。では、テーブルの上に手の平を上にして置いてください。そして、チイサキトモシビヲアラワセ、と唱えてください」
あ、また、なんかこもったような言葉だ。
「あの、もう一度お願いします」
「チイサキトモシビヲアラワセ、ですよ」
「チイサキトモシビヲアラワセ…」
おわっ!?
手の平から、ロウソクの火みたいなものが浮かび上がった。
ゆらゆら揺れてる…。
「…できちゃうんですねぇ…」
あら?メリルさんが無表情ですよ?
「普通は一月掛かるものなのに…」
なんだか、じとーっと見つめられてる。
こんな表情、レアじゃない?
「あはは…まあ、ワタリト補正という事で」
「………。いいでしょう。では、次にその灯火を維持したまま、大きさを変えてみてください」
大きさ…となると魔力の出力調整か。
大きくなるイメージを…
ボワッ
「…できちゃうんですねぇ…」
「あはは…は…」
メリルさんがまた無表情だよぉぉ!
「数日かけるものを一瞬ですか…」
どうしよう、自重した方が良いのかな?
っていうか普通を知らないんだから、どうしようもなくない?
「エッジさん、休憩しましょう。このままだと私が持ちません。…二息程入れたら再開しますので、またここにお戻りください」
「はい…ご面倒おかけしてすいません…」
「え?あ、あの、エッジさんのせい…ではありますけど、エッジさんが謝る事ではないですよ。私自身の問題ですから…」
少し慌てるメリルさんが可愛いので、僕は満足です。
「で、では、後程…失礼しますね」
可愛いメリルさんが去ってしまった。
ちなみに、二息って、一息入れるの2回分の事で、時間的には30分くらいと考えていいみたい。
アバウトだけど砂時計で測れるから意外と細かい。
「さて…折角だから、アルセラさんの様子を見に行こうかな」




