御都合的な流れに乗って。
初日~
ギルドにてトラブル。
ユフィエスさんについて3階に来ました。
ちょっと、空気感が違うので嫌な汗が手に滲んでおります。
コンコン
「連れて来ました」
「おう、入れ」
低い声がドア越しに響いた。いかにも威厳がありそうな声。
間違いない、ギルドマスターだこれ。
「失礼します」
中に入ると、そこは十畳程の広さで、真ん中にテーブル、その周りにソファが四つ置いてある、シンプルな部屋だった。向かいのソファには、厳つい目付きの男が座っている。タンクトップみたいなシャツからモリモリマッスルを見せつけているよ…。その上半身に坊主頭は、ある意味お約束ですよねー。
「おう、アルセラ、久しぶり?」
「1ヶ月ぶりくらいじゃないか?」
「そうかそうか。…ほぅ、お前か…アルセラに拉致られたんだってな?」
「違うっつうの!!」
「はっはっはっ。おい、小僧、物好きも大概にしとけよ?確かに良い女だが…怒らすと、首が飛ぶぜ?」
「重々承知しております」
「はっはっ!こいつはいい!アルセラよ、随分面白そうな奴を拾ったようだな?」
「くだらん話はいい、早く本題に入ってくれ…」
アルセラさんが早速お疲れですよ。
「おお、おお、すまんな。どれ、とりあえず座っとけ。メリルが来たら始めるぞ」
一呼吸間を置いてドアがノックされた。
「失礼します」
部屋に入ってきたのは…
「美人秘書きたーーーーっ!!」
ブロンドのサラサラボブに、膝丈スカートのスーツ!※そういう風に見える服。そして、黒ぶちメガネ!瞳は澄んだエメラルドブルーで神秘的!更にスタイルは抜群だ!…この世界、スタイル良い方が多いんじゃないかな?
「美人だが、あまり怒らせるなよ?アルセラよりも怖いかもしれん」
美人秘書の一睨み!
静まるおっさん!
そして視線は僕の元へ!!
「この少年ですか?」
すんごい冷静…。声はやや低めで落ち着いた感じだな。
「そうだ。…まずは自己紹介といこう。俺はここのギルドマスターをやっているアルベルトだ」
「副長のメリルです」
「拾われてきたエッジです」
「それじゃ始めるか。メリル、何か分かったか?」
「はい。言語通訳に関しては、ワタリトが持つスキルですね。あとは全く情報がありません」
…ワタリトってばれてーら。
「ワタリト…って!?ええ!?」
ユフィエスさんがめっちゃ驚いてる…。
「声が大きいですよ」
「あ、すいません…」
「なるほどなぁ、それじゃ神器の故障じゃあないんだな?」
「はい。ワタリトということであれば…」
美人秘書と視線を交わす。
次にアルセラさんと視線を交わす。
アルセラさんは一つ首肯したので、僕も返す。
「えーっと、バレてしまったので正直に話します」
「…何故隠すのです?」
「いや、国の面倒事に巻き込まれたくないので…」
「…は?」
美人秘書のキョトン顔ゲットです!
「いや、バタバタするのは嫌なんです。国の保護って言ってますけど、確実に自由に動けなくなりますよね?監視も付くでしょうし…」
「…つまり、それを見越して、黙っていようと?」
「…はい。…あの、なんかまずいですかね?」
…メリルさんは目を閉じて、顎に手を持っていった。
様になる仕草だなぁ。
「いえ、特に問題は無いですね。特にあなたの場合、英雄の資質も勇者の資質もないようですしね」
何それ?そんなスキルあるの?
「ふーむ。確かになぁ、スキルが大したことないなら報告するのも微妙か。…しかしなぁ、今年に入ってからお前で五人目だぞ?」
ワタリトフィーバー?
「そいつらは何かしら強力なスキルと加護を持っていたから、見つけた国が丁重に保護してるらしいが…。その点、お前は大したことないからな!はっはっはっ!」
おっさんめええぇぇ!!
気にしている事をぉぉぉ!!
「マスター、その辺りには触れない方がよろしいかと。本人も自覚しているようです」
美人秘書めぇぇー!
…眼福だから許す!
「それじゃ登録は普通に出来るんだな?」
アルセラさんがマイペースだ。
「おお、そうだな。大丈夫だろ。んで、アルセラよ、本当に徒弟にするのか?」
「ああ、そう決めた」
「ふっ…そうか。やり過ぎて死なせないようにしろよ?」
「一応そのつもりだ」
アルセラさん。
一応、というのはこの場合不適切ですよ?
「ユフィエス、手続きを終わらせてきてください」
「あ、はい。ギルドカードの表記が変でもそのまま通して大丈夫なんですよね?」
「ええ、そのままでいいです」
ユフィエスさんが去って行く…。
「それで…加護についてなんですが」
メリルさんの視線が、ドキドキものです。
「あ、それなんですけど…」
「なんと書いてあるか分かるのですか?」
「時空神は気になっている、と書いてあります」
「…は?」
綺麗に三人がハモった。
「なんか、加護っていうか、注釈みたいなので、僕にもよく分からないんです」
「メリル、時空神って聞いた事はあるか?」
「いえ、創世の女神に連なる神々には、そのような名前は…」
「前の世界の神様なんじゃないのか?」
「えーっと僕の世界でも聞いた事はないです」
「…時空神というのがどういうものかはさて置き、気になっているというだけならば、大きな問題では無さそうですが…なんというか、あなたの扱いに非常に困りますね…」
困った顔も綺麗ですが、何気にサクサク刺さる言葉を使用されるのは仕様なのでしょうか…。
「ふーむ。なんとも言えんな。まあ、しばらくは冒険者として働いてもらおうじゃねーの。アルセラがついてるなら大丈夫だろう?」
「…こっちに丸投げしたな?…だが、元々そのつもりだしな。エッジもそれでいいんだろ?」
「あ、はい。アルセラさんと一緒ならそれで構いません」
「…アルセラ、どんな調教したんだ?」
「してねーよっ!!」
「エッジさん、何かあったら私の所まで来て下さい。辛くなったら時には退くことも大事ですよ」
「メリル、お前もか…」
「えっと、ワタリト関連はメリルさんにお任せして大丈夫ですかね?」
「ええ、承りました」
「よし、じゃあエッジ、お前はアルセラが拾ってきた徒弟って事で通すからな」
「すいません、お手数おかけします」
「…なんつうか、お前は腰が低いな。他の冒険者になめられないようにしろよ?」
「頑張ります…。あ、ところで、魔法って誰に教わればいいですかね?」
「あー、一応、あたしの知り合いに頼もうかと…」
「アルセラよ、まさか、暴走魔女か?」
「…まあ、うん」
名前が既にオチてるんですが。
「…やっぱ、まずいかな?」
「お前な…徒弟が空の彼方に飛ばされてもいいなら止めはしないが…」
「アルセラさーん?僕、初心者です!!」
「…そ、そうだよな」
「アルセラ、私が手伝いましょうか?」
メリルさんとアルセラさんの視線が交差する。
「…いや、でも…」
おや?
…なんか二人の間に微妙な空気が…?
「そうだな!メリルは教えるのが上手い。初歩ならそんなに時間も取られんだろう」
マスターが割って入った。
…何だろう?
「い、いいのか?」
アルセラさんが様子を窺うように聞いてる…。
「ええ。ワタリトに興味がありますし、丁度良いでしょう」
「そうか。…それじゃ、頼むよ。でも、空いてる時間でいいからな?」
「ええ、そのつもりよ」
ん…少し雰囲気が和らいだかな?
「それじゃ、エッジ、ビオントへの貢献を期待しているぞ!」
「はい。よろしくお願いします」
「では、戻りましょうか」
メリルさんの言葉で僕らは立ち上がったんだけど…
「…あの…その前に、少し気になったんですが、メリルさん、肩に違和感があったりしませんか?」
メリルさんを見ていて気付いたんだけど、何か肩の周りにモヤモヤしたものが見えるんだよなぁ。目がボヤけたのかと思ったけど、メリルさんがドアに向かう後ろ姿を見たら、やっぱり肩周りに見えてしまった。フレイムリザードの時みたいな、白く淡い感じだ。
「…肩、ですか?そうですね…最近疲れが溜まって…?……どうして、分かったんですか?」
「え?なんか、肩の周りにモヤモヤが見えるんですけど…アルセラさん、見えませんか?」
「ん?………いや、特に見えないぞ?アルベルトはなんか見えるか?」
「いや、何も見えんぞ?…ホントになんかあるのか?」
「…んー、なんていうんですかね?魔力の線を…こう…薄く歪ませたというか…」
「そういや、エッジは魔力が見えるんだよな。フレイムリザードの火炎放射も完全に見えてたし、スキル発動も見えてたんだよなー」
「…おい、アルセラ、それ、凄いんじゃねぇか?」
「…あぁ、スキル発動のタイミングが分かるから、巻き添えにしないで済む――」
「――いやいや、それよりも、魔法士泣かせだぞ?そんな事ができるならな…お前、本当に見えたのか?」
「えっ?見えたらまずいものなんですか?」
…むぅ…無駄な能力かと思いきや、使えなくもない…?
「…見えただけでは、それ程脅威ではありません」
メリルさーん!?
速攻で落としに来るのかー!?
「…しかし、魔力操作ができるなら…魔法士、魔物の天敵になるかもしれません」
むむっ!なんか良い感じの御言葉を頂戴しました!!
「でも、エッジはまだ何もできないだろ?」
ぐはぁ…伏兵にアルセラさんがいたとは…。
しくしく。
「あの…魔力操作というのは、こんなわたくしでも、練習すればできるようになりますでしょうか?」
「だ、大丈夫ですよ。全く使えない方は今までいませんでしたから」
メリルさんがちょっと焦っているのが、カワイイ。
「おお、そうだ!お前、試してみたらどうだ?」
「試す…?」
「メリルの肩にモヤモヤがあるんだろ?それを取り除いてみたらいいじゃねーか?」
「…今ですか?」
メリルさんはやや厳しい視線を、おっさんに向けている。
眼鏡越しにこの冷たい感じ…確かに怖そうだ。
「どうせ手続きにもう少しかかるだろうよ?」
ふむ。
せっかくだし、メリルさんに合法的?に触れられるし…
決して疚しい事は無いのだ!ここは一つ。
「魔力操作ができるかは分かりませんが、肩周りの違和感はある程度取れるかもしれないですよ?」
「…?」
「えーっと、メリルさんの肩をマッサージさせてもらえれば、なんですけど」
「まっさーじ?」
メリルさんとおっさんがハモった。
綺麗なハーモニー。
「あー、疲れがどうこう、ってやつか?」
「はい。アルセラさんにも後で、って言ったやつです」
「メリル、ワタリトに興味があるんだろ?物は試しじゃねーか?ん?」
ここぞとばかりに、おっさんがメリルさんに促す。
「…それ程時間は取れませんが…それでもよろしいですか?」
「はい。…では、どうぞお座りください」
「…失礼します」
さて、メリルさんの後ろに回って、肩をじっくり見てみる。
近くで見たら、やっぱりモヤモヤが肩周りに張り付いて…いや、違うな…内側にも埋まっているような…?
「えっと、メリルさん、失礼しますね」
両肩に手を置いて、軽く握りこんでいく。
…硬い。表面の張り、筋肉の硬さ、これはかなり凝っているぞ。
「刺激が強いと感じたら、すぐに教えて下さいね」
とりあえず、肩甲骨周りを、じわじわと指圧していく。
「っん」
メリルさんから漏れ出た小さな甘い声で、おっさんの目が見開かれている。
…そんなになのか?
おっと、集中集中。表面の張りを取るように、じんわりと攻めていく。背骨のラインに沿った、脊柱起立筋群への刺激を受ける度に、メリルさんが甘く切ない声を漏らすので、おっさんの顔が、段々とニヤニヤしたものに変わっていく。…ギルドマスターだけど、僕の中ではもう、只のおっさんだ…。
張りが取れてきたところで、所謂、ツボを探す。大体の場所はあるけれど、人によってポイントが違うのだ。その為、目を閉じて指先の感覚を研ぎ澄まし、ポイントを探る。すると、指先の感覚がやたらと鋭くなり、逆に痺れるような感覚が広がるのが分かった。
「ぁんんっ…い、今のは…!?」
「あっと、メリルさん痛かったですか?」
「い、いえ、ぞわぞわとしたものが急に奥の方まできたので…」
はて?特に強く押したつもりは無いんだけど…
「こんな感じですか?」
「んんっ!」
わぁ〜。可愛い声だー!
…って、そうじゃなくて、これ、なんだろう?気?みたいな感じ?
…いや、魔力なのか!?
目を開けてみると、モヤモヤが薄く、小さくなっていた。
うーむ。よく分からないけど、このまま揉んでみよう。
肩周りのモヤモヤは、マッサージを続ける事で無くなっていき、明らかに凝りが取れたと感じた所で、モヤモヤも消え去った。大体、10分程だろうか。
「メリルさん、如何ですか?モヤモヤは無くなりましたが…」
メリルさんはゆっくりと肩を上下させてから、腕を上げたり回したりして、その動きを確かめている。そして、首も回したりして動かしてから、最後に上半身を伸ばすと、僕の方に顔を向けた。
「驚きました。…とても軽くなっています。回復魔法ではなさそうですが…これは一体どういう事ですか?」
「んー…回復魔法に関しては分からないですが、このマッサージというのは、凝り固まった筋肉をほぐして流れを良くしたり、本来のリラックスした状態を取り戻すものなんです。メリルさんは疲れが溜まり込んだ事で、悪い状態になっていたんだと思います」
「…そうですか…。これは、色々と意識を改める必要があるかもしれないですね…」
「いやぁ、でも、良かったです。こんなにほぐれるとは思いませんでした」
「…ふーむ。何かしら持っている、というわけか。エッジよ、良いもの見せてもらったぜ!…しかし、メリルもあんな声が出るんだなあ…」
うわっ、ぞくっときたー!!
メリルさんから冷たい空気が立ち昇っているんですが!
「マスター、耳がおかしくなったようですね?塞ぎましょうか?」
「…い、いや、幻聴だったようだ。うむ。なんにも聞こえなかったぞ?」
おっさん…。
メリルさんをからかうのは、相当な覚悟がいるようです。
「ところでエッジさん、泊まる所などはもう決めてありますか?」
「あ、その辺りはアルセラさんにお任せしてます」
「そうですか…」
何やら思案顔のメリルさん。
目を閉じて静かな雰囲気のメリルさんは、凛としていて綺麗だなぁ。
「分かりました。…こちらでも色々と考えますので、明日、またギルドまでお越し下さい」
「はい、よろしくお願いします」
それから二人と別れて受付に戻ると、ギルドカードが出来上がっていた。スキルと加護の欄はやはり、文字化けしている。ちなみに、スキルと加護の表記は本人の魔力を通さないと、見れないようになっているそうだ。確かに、意識しないでカードを持つと、その部分の表記が消えていた。なんなの、この高等技術?
「えーっと、カードの説明はどうする?」
「あたしがやっとくよ。そろそろ、買取で混んでくるだろ?」
確かに、ちらほらとヒトが増えている。
うわ…鎧がボロボロ…あっちのヒトなんか汚いぞ。
返り血とか泥?いかにもな冒険者だなー。
「それじゃあ、アルセラに任せるね。諸々の説明よろしくね〜。…あと、これ、フレイムリザードの買取分ね。全部で8850シェル…大銀貨8枚と銀貨8枚と大銅貨5枚ね」
8850という事は88500円…。
「うん?魔力結晶か?」
「うん、不足気味だからねー。それに、結構大きめだったみたいよ〜」
1日辺り200シェル前後とすると…44日分?山分けでも20日は暮らせるわけか。
…臨時収入としては十分だよね?
「そうか。…運が良いのか悪いのか悩むところだな」
「そうね〜。変異種なんてそうそう逢わないもんね」
「まあ、これで助かるのは確かだから、前向きに考えるか。…それじゃ、また明日な」
「はーい。またね〜」
「ユフィエスさん、ありがとうございました」
「うん、エッジさん、頑張ってね」
さてさて、ギルドを出て町を歩いていますよ。
「アルセラさん、これからどうするんですか?」
「お前の防具を買うぞ。それから宿に行って、飯だな」
「おおっ!防具…やはり、最初は皮鎧ですかね!」
「んー?別に皮じゃなくてもいいんだぞ?まあ、でも、軽めにはなるだろうなー」
アルセラさんは僕の身体を一瞥しながらそう言った。
…うん、170センチで痩せ型だからね。強そうには見えないよね。
うん、知ってる。…知ってるよ…チクショー!
哀しみと悔しさに悶々としていたら、石造りのごつい感じの建物の前に辿り着いた。
看板に、防具一筋ディフズ防具屋とある。専門店というやつかな?
「ここだ。腕は一流だが、ちょっと偏屈なオヤジだから気を付けろ」
「了解です」
頑固オヤジか!定番だね!
カランカラン
扉を開けると、そこには鎧と盾が整然と並んでいた。通路は一人分、あとは鎧が綺麗に、しかしぎっしり並んで、壁一面には無駄な隙間は無く、びっしりと盾が飾られている。
「す、すごい!あ、これ、フルプレートメイル?おおー!金属鎧が並んでいると壮観ですね!これは…皮鎧?仕上がりがこんなに綺麗になるんですね〜。おっ、これは…細かい作業も丁寧にしてある…!…この丸みとか歪みが無い…これってすごい技術じゃないのか?うわぁ…これ、鎖帷子だー!編み込みが綺麗だな〜。ふむふむ、盾も一通り…お、奥のカウンターの方に、小手とかがあるのか〜」
「…お、おい、エッジ、急にどうしたんだ!?」
「あっ!すいません、防具を見て興奮してしまいました」
「そ、そうか」
「おい!小僧!中々見る目がありそうじゃないか!」
嗄れた声が店内に響いた。
声の主を見ると、髭面のハゲオヤジがいた。
「ドワーフキター!!」
「お、おう!ワシはドワーフだ!…ん?アルセラじゃないか?修理か?」
「いや、買いに来たんだが」
「よろしくお願いします!」
「お、おう!…で、誰だこいつ?」
「あたしの徒弟だよ。こいつの防具を買いに来たんだ」
「…はあ!?」
ドキドキワクワクの買い物タイムが始まるぜ〜!
定番のドワーフ。




