ビオントそしてギルドへ。
初日~
走った。
ビオントは大きいぞー!
町を囲う壁がまず、凄い。高さはおよそ20メートルくらい。横の長さは町を囲っているんだからキロメートル単位だろう。壁の厚さは10メートル。まさに絶壁…!門は観音開きの開閉式で、基本的には開きっぱなしらしい。有事には閉ざすんだろうけど。それにしても、建築技術は中々のものではないだろうか。石を積み上げて造られているんだけど、石の大きさはちゃんと一定で、隙間も無いと言える程だ。
「凄いですね…」
「ああ、氾濫を防ぐ要だからな」
はんらん?
「おっと、門で受付があるから、お前は黙ってあたしに付いてきてくれ」
「あ、はい」
扉を抜けると右手側に、受付窓口みたいな所があった。
「おー、アルセラじゃないか?昨日出たばかりなのにもう戻ったのか?」
「ああ、運良く討伐対象がすぐに見つかってね」
「そいつぁ良かったな。…んで、後ろのガキンチョはどうしたんだ?」
「ああ、あたしの徒弟だよ」
「…は?」
「外域で拾ったんだ。従順な奴だから都合が良いのさ」
「そ、そうか。…あー、じゃあ身分証なんかは無いか」
「ああ。ギルドで作るさ。…それじゃ、行くぞ?」
「…お、おう、まあ、頑張れよ」
…何だろう?受付のおじさんの視線が、明らかに曇ったぞ…?
…あ、目が合ったら一つ頷かれた。
眉毛が八の字になってるんだけど。
え?なに?なんでこんな見送られ方をされているの!?
「…ふぅ。ま、うまくいったな」
しばらく歩いて、石造りの建物が少なくなった所で、アルセラさんはこちらを見ながら口を開いた。
「あの、どういう事だったんですか?」
「外域にはな、はぐれ者がいるんだ」
「はぐれ者?」
「そう。家が無いとか、親がいないとか、様々な連中さ」
スラムみたいなものか…?
「お前はそこから拾ってきた事にしたんだ。そうすれば深い事情は聞かれないからな。見た目も丁度誤魔化しやすかったしな」
そーゆーことですかー。
「まあなんか誤解は生じるだろうが、気にすんな。あたしが分かっていれば大丈夫だろ?」
「いやもう、アルセラさんにお任せしますよ。僕としては分からないことばかりですからね。下手に口出しして失敗したら嫌ですし」
「…お前ってほんと、理解が早いというかすぐに納得するというか…あたしは楽だけど、ホントに大丈夫か?」
「え?大丈夫に決まってるじゃないですか。アルセラさんの事を信じてますから」
「お、おう…そ、そうか」
それにしても、この辺りは木の建物ばかりだな。
「アルセラさん、町の造りが違うようですが」
「ん?…ああ、この辺りはもう町だからな。店とか宿とか…ああ、あそこの高い建物がギルドだ」
なに!!ギルド…遂に、ギルドに来たーーー!!!
「ギルドは…石造りですね?」
「ああ、しっかりした造りじゃないと、色々まずいからな」
…色々ってなんだろう?
「ギルドは基本的に24時間開いてる。受付は夕方で終わるから…今日はまだ大丈夫だな」
時間は地球と同じなのかな?…そういえば何時なのか全然気にしてなかったな。
日…太陽っぽいのがあった…の傾き具合からすると夕方前15、16時くらい…?
「あれ?アルセラ、もう戻ったの?」
「ん?ユフィエス?…お使い帰りか?」
「うん、備品の補充…ん?…ねえ、その子誰?」
ギルドの扉の前で、アルセラさんの知り合いらしき人が話しかけてきたわけで。
なんだかまじまじと顔を見られているわけでして。
っていうか、この女性も顔立ちが整っています!
大学のミスキャンパスに選ばれそうな感じだ!
「あーっと、こいつはあたしの徒弟にする予定だよ。討伐を終えた帰りに拾ってきたんだ」
「…は?」
「いや、外域でさ、丁度良いのがいたから」
…よくよく考えると酷い話だなぁ。
でも、この世界じゃそんなに変な事ではないんだろうな…
「いや、ダメでしょ!?」
あれー!?
「この子の意思はどうなるのよ!?」
なんか怒り出したよー?アルセラさんがちょっと焦り始めたし…。
いや、こっちを見られても…。
「あなたね〜、流石に無理矢理徒弟にするのはまずいでしょう?そりゃね、新人があなたに教えを請うなんて、何年、いえ、何十年待って一人来るかどうか…でもね、だからといって手段を選ばないのはどうかと思うの。私もね、アルセラの事は分かっているつもり。だから…せめて、無理矢理じゃなくて、ちゃんと付いて来てくれる子を探しましょう?」
「いや、ちょっと待てー!なんであたしが無理矢理連れて来たって前提なんだよ!?」
「だって…ねえ?」
いや、だから、こっちに振られても困るんですけど。
「おい、エッジ!お前から言ってやれ!!」
いや、アルセラさん、それだと脅されているように見えるかと。
…でも、ここは一言伝えておくべきか…。
「あのー、僕はアルセラさんと一緒にいたいんです」
「ほら、な?」
「…」
ほら〜、薄目でじっとり見ているじゃないですかー。
「あ、あたし、そんなになのか…?」
ああっ!遂にアルセラさんが弱気に!
「あの!僕、これでも24歳なので、自分の事は自分で決められますよ?だから、本当に望んでアルセラさんに着いて行くと決めたんです」
「…へ?…24?…14じゃなくて!?」
「そんなに、童顔ですか…」
「ええ!?うそ!?歳上って!?あなたが???」
「いや、もう、勘弁して下さい」
なんかもう、謝ったもん勝ちだーい。
そしてそのまま…
「あのー、とりあえず、中に入りませんか?」
促すの術。
「あ、そ、そうだな。ほら、ユフィエス、行くぞ」
「ひぇ?あ、はい」
ユフィエスさんて…ちょっと面白いかも。
見た目、160センチ前後、ふわふわショート、スタイルは普通…僕の中の一般的なライン…顔立ちは丸っこくて人懐っこさが前面に出ている可愛い感じ。悪い印象がほとんど無さそうだ。やはりギルド関係者は美女揃いなのか…!?
なんて事を考えながら、いよいよギルドの中…おお!一階は吹き抜けだ。三階建てかな?真ん中に二階に続く階段があって、右手側は受付の窓口がある。左側には椅子やテーブルがあって、待合所みたいな感じで、壁側には…掲示板だ!依頼が貼ってあるっぽい。しかし、奥行きもあるし、かなり大きな建物じゃないか…流石と言うべきか。
「アルセラ、ちょっと待っててもらえる?すぐに受付に入るから」
「ああ、頼む」
ユフィエスさんは奥の扉の向こうへ去って行った。
アルセラさんと僕は、受付側の長椅子に腰を掛けて待つ事に。
ギルド内を見回すと、冒険者がちらほらと歩いていたり、待合所みたいな所でたむろしている姿があった。あ、あれは、獣人じゃないか!?獣耳が付いてる!人の姿に近いタイプか…これは楽しみだ…!!
ふーむ。見た感じ服装は布系、革系が殆どかな。中世ヨーロッパの雰囲気だから、その辺は王道っぽい。僕は今、ジーンズにTシャツにパーカーとスニーカーという出で立ち。…浮きまくりなんだよね。
「あの、アルセラさん、服とかって幾らぐらいで買えますかね?」
「んー?服は、そうだな…安いのだったら100シェルくらいで買えるんじゃないか?」
シェル…さっぱり貨幣価値が見えない!
「あの、お金ってどんな感じですか?」
「あ、そうか、分からないんだったな。えーっと、まず、単位がシェルで、1シェルは銅貨1枚だ。銅貨が10枚で大銅貨1枚。大銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で大銀貨1枚、大銀貨10枚で金貨1枚。金貨が10枚で大金貨1枚、大金貨10枚でミスリル貨1枚。この上にもあるけどまあいいだろう」
ふむふむ。となると銀貨1枚で服が買えるのか…。
銅貨1枚=1シェル=10円くらいかな?
「ちなみに、宿は大体、一泊150シェルだな。食事がいるならその分増える。一食は大体30〜50シェル前後かな」
「それは一般的な価格ですか?」
「そうだな、普通はそんなもんだ。安い所だと…50シェルとかもある。高級宿だとそれこそ、1000シェルもあるぞ」
ふむふむ。感覚としては1シェルは10円くらいでいけそうだ。
細かい所は慣れるしかないよね。
「アルセラ!お待たせー!」
お、受付にユフィエスさんがいる。
…順番待ちとか大丈夫かな?
「よし、先に報告と買取を終わらせるか」
周りにちらほら冒険者がいるけど…
「アルセラさん、順番待ちとか良いんですか?」
「ん?…ああ、その辺のは買取待ちだろ。査定を待ってるだけだから気にしなくていい」
なるほど。
…そうか、この時間から依頼を受けるなんて、あんまりないか。
「さて、アルセラは…キングベアの討伐依頼だったよね?じゃあ、証明書を出して」
「ほら」
ん?証明書…?
「はい、少々お待ちを〜」
ユフィエスさんは証明書の上に手をかざすと、
「ナカニオサメシモノヲアラワシタマエ」
と呟いた。
すると、証明書の真ん中から赤い宝石みたいな物が浮かび上がり、その上に収まった。
「おおっ!」
解体の時にゴソゴソやっていたのはこれだったのか!
証明書に証明する物を収納させる、という事か〜。
便利グッズだけど、技術的にかなり高度な感じがするぞ…!
でも、呪文みたいな言葉がいまいちハッキリと聴こえなかったのはなんでだろう?
「…アルセラ?これ、違くない?」
「…あ。それ、フレイムリザードだった。こっちだ」
…アルセラさん、ドジっ子属性持ち!?
「…って!?え?フレイムリザード??…でもこれ、7角形なんだけど…」
確かに正、とまではいかないが、7角形の結晶のような感じだ。
「ああ、変異種だったからな」
「は!?ちょっ、そんなの出たの!?え?だって中域の浅い所でしょ!?」
「いや、なんか出たんだよ…」
…結構大事なのか…?
「えー?もー、マスターに報告しなきゃだよ〜。めんどいなぁ」
あー、仕事が増えるから嫌がってるだけだこれー。
「いや、仕事だろ。さっさとしてくれ。この後、登録もあるんだからな」
「はいはい。やりますよ〜。あ、じゃあ、今の内に、これ書いといて」
物凄い軽い感じで、1枚の用紙を渡された。
…何故読める。
これ、文字はなんだろう、中東とかのうねうねした感じの文字みたい。
でも、何故か、その文字の上に平仮名が出てる…。
やっぱりこれ、なんかの能力だよね〜。
さて、読むのはいいとして書くのは無理だよなぁ。
…うん。めっちゃ日本語。ここは、一つ代筆を…。
「あの、アルセラさん。文字が書けないです…」
「ん?あ、そうか、んじゃあたしが書くよ」
「お手数おかけします」
「えっと、名前はエッジ、歳は…本当に24だよな?」
「嘘ついてどうするんですか…」
「いや、うん、すまん。…出身地は不明、技術も特に無しでいいから…後は、魔力登録だな」
「魔力登録?」
「ああ、個人で波長が違うから、冒険者は必ず登録しなきゃならないんだ。…その辺の事は、後で説明があるだろう」
個人で波長が違う…指紋とかDNAみたいなものか。
一般の人は登録はどうしてるんだろう?
「えーっと、キングベアの結晶はこれでオッケーで…あ、魔力登録はちょっと待ってね。えーっと、マスターに報告はこっち…」
何やら、ユフィエスさんはテキパキと仕事を進めている。
仕事が出来る女、みたいな雰囲気ですな。
「…と、じゃあちょっと待ってね〜」
「あ、ユフィエス、フレイムリザードは現金で頼むな」
「はーい」
現金以外もある…?
「んー、そういや、エッジって、武器は何か使えるのか?」
「いえ、正直、戦ったことないです。武器も…オモチャを振り回すくらいしか…」
「そうか…それじゃ、防具だけでいいか。手持ちで間に合わせて、動きを見て合わせていくか…」
アルセラさんは、どうやら修業の計画を立てているらしい。
やる気は充分という感じかな。
こういう所を見ると、やっぱり真面目で良い人なんだよなぁ。
「お待たせー。あ、キミ、これに手を乗せて」
ユフィエスさんが、丸い水晶を持って戻って来た。
水晶は台座に載っていて台座はコードみたいなものが付いている。
「乗せるだけでいいですか?」
「うん。…エッジ君…24…ねぇ……ん、こんなもんだね。さて、魔力登録…??」
ユフィエスさんは水晶に繋がる四角い端末みたいなものから出てくる紙を覗き込んで、眉間に皺を寄せている。…何かまずかったのか…?
「ねえ、これ、何?」
「ん?…んー??」
覗き込んだアルセラさんも、同じ顔になった。
…どうした…!?…あれ?スキルの欄に…何故か…漢字と英語でふりがな?が見える。
なんだ?言語通訳、魔法LOVE…?
「は!?」
言語通訳は分かるとして、魔法LOVEってなんだ???
いや確かに、魔法が好き過ぎて色々な黒歴史はありますけれど!?
スキルじゃなくない!?
「エッジ、読めるのか?」
「あ、はい。文字化けしてるみたいですが、何故か読めます。…恐らく言語通訳のスキルが関係しているかと。もう一つはちょっと…」
訳分からないモノを説明するなど、無理な話。
「…そんなスキルがあるのか。そうなると、故障じゃないようだな?」
「そうよね…何語か分からないけど、あなたに分かるなら、どっかの文字なのかしらね。それにしても、こんなの初めてだわ」
「…登録出来なくなったりしませんよね?」
「ん、一応、副長に確認してみる」
副長?…マスターとは違うのか。
「…もうちょっと待ってね」
「なんか、面倒な予感がするな」
アルセラさんが微妙な表情になっちゃった。
渋い、渋いですよ…。
「…ん?」
件の用紙を見ていたら、スキルの下の方に、加護という欄がある事に気付いた。
そこも文字化けの様な状態で…
「…は?」
そこには、※時空神は気になっている、とだけ書かれていた。
…え?
ただの補足説明!?
加護じゃなくない!?何これ?
あれー?これって…よくよく考えてみると、やばくない?
スキルは二つで片方は言語通訳、片方はただの宣言。
加護はなんか注釈………。
戦う能力はどこぉーーーー!?
いや、いや、落ち着け。何かしらチートがある…
いや…いつからチートが当たり前だと思っていた…?
「ちょっとー、お二人さん、こっち来てー」
一人で悶々と考えていたらお呼び出しですよ…。
「行くぞ」
「はい…」
どうしよう?
定番の流れです。




