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氾濫~ビオントの防壁は伊達じゃない(後)

五日目~下刻~夜刻


 エッジの魔法は凄かった。

 警備兵は真面目に働いていた。

<ビオント南 避難砦>


慌ただしい。

人がざわざわ、バタバタと行き交う。


僕達は現在、食料や毛布などの生活周りの備品を運んだり配ったりしています。

砦の近くに倉庫があってそこから砦に必要な分を運んだりと、雑用肉体仕事という感じです。


「やー、エッジ君のお陰で助かったよ~」

「そうですか?」


「言われた通りに動いてくれるだけじゃなく、自分で考えて仕事をこなしてくれる…そんな冒険者いないんだよ?」


「そうなんですか~」

「殆どが、なんで俺様がこんな事をしなきゃならん!みたいな感じだもん」


…冒険者って、そんな典型的なヒトばかりなの?

ユフィエスさんから聞く冒険者の印象が毎度ろくなもんじゃないよ…。


「エッジは変わってるもんね」


レジーナさんの僕の評価が変で固まりつつあるのは納得いかないですよ?


「で、でも、エッジさんは多才ですよね!」


多才というより、知識と経験によるものなのであんまり持ち上げないでいただきたいのです。


「あ、そうだ。食料の運び込みが終わったら夜まで休憩になるけど、エッジ君はどうする?」

「えーっと、僕達は夜警にあたるんですよね?」


僕達に割り当てられた時間は6刻から7刻までで、砦周辺と大通りの警備が主な仕事となる。一応、賊の警戒をしなければいけないと聞いた時には、火事場泥棒は何処にでもいるんだなぁとちょっと悲しくなった。


「うん、そうだよ。エッジ君達は比較的楽な範囲になるのかな?…門の付近だと戦闘に巻き込まれちゃうからね~」


「そうなんですか…でも油断はできないですし、一応仮眠とかした方がいいんですかね?」


ここで目線をラーシアさんとレジーナさんに合わせて、それとなく聞いてみる。


「私はどっちでも大丈夫だよ」

「あ、あの、私も平気です!」

「…んー、それでは状況の推移も気になりますから、このままギルドに戻って待機します」


「んふふ~。それは良かった」


ユフィエスさんがニンマリしていますよ?


「じゃあ、私は肩と足をお願いね!」


…ああ、そーゆー事ですか~。

ユフィエスさんは、緊張感を何処かに置いてきたんですね?


「やー、多分あんまり休めないからさ、エッジ君の手腕に期待してるよ!」


ハードル高いよー。


「エッジ、私も足を少しでいいからして欲しい」


…レジーナさんの足には非常に興味があります!


「ぁ、ぁわ、わた…しも…」


もちろんラーシアさんのお願いも聞き届けますよ~。


「それじゃ、早く戻ろう!」




<ビオント北~深淵の森>第三者視点


ガランド達は木の上で息を潜め、それが過ぎるのを待っていた。

それを最初に確認したのは、斥候役であるゼームである。


「!?…まずい、隠れろ」


その一言で四人は一斉に木を登り、気配を消して隠れたわけだが…


(アレはヒュドラ!?)


四人の目に映ったのは、胴回りが丸太のように太く頭が3つの蛇だ。魔物の中でも1級に分類され、その再生能力と複数の属性を使い数多くの冒険者を葬ってきた存在の一つである。


(まじ…かよ…いや、しかし…聞いてたのよりは小さいか?頭も3つだし)


ガランドは恐怖の感情を抑え込むように相手を解釈していく。


(デカさは全長10mくらいか?太さ(直径の事)は2mもないし1匹か)


ガランドの思考は基本的に都合の良い方へと流れる傾向にあった。その為、間違いに気付かずに失敗が多くなるのだが、それを回避させるのがアーナクという男の存在である。しかし今回、ガランドは自己完結していた為にアーナクの訂正が入る事なく事態が進み、それが回避される事は無かった。


「やるぞ」


ガランドはそう呟き、真下を通らんとするヒュドラに剣を突き刺す為にその場から飛び降りた。


「っ!?」


アーナクはまさかの行動に身体の反応が遅れ、カポラは眉を顰めながらも槍を構えて、ゼームは懐のナイフを構えてヒュドラの頭部を見据えた。


「はあっ!!」


ガランドの剣はヒュドラの胴体に突き刺さり、被害を与えたかのように見えたが…


シャァァァッ


風を切り裂くような振動音が鳴り響くと同時に、ガランドの身体にヒュドラが巻き付こうとその巨体をうねらせた。


「ぐっ」


剣を引き抜いたガランドが身体を飛ばすのと、ゼームのナイフが頭の一つに刺さるのは同時であった。


「ちょっと大人しくしなさいよっ!」


カポラの槍が、ヒュドラと地面を縫い付けるためにその胴体へと食い込んでいく。


ヒュドラはそれを嫌がるように頭の一つをそこに向けて一鳴きした。


「えっ」


風の塊が、カポラを吹き飛ばす。


「カポラ!」


ここでアーナクも参戦してヒュドラの頭部に風魔法を叩きつける。ガランドは胴体に斬り込んでいるが、斬られた場所が徐々に塞がっていくので被害を与えているのか微妙な所である。


(まずい…俺達だけじゃ火力が足りないぞ!?)


アーナクは頭部から放たれる火と闇の玉を躱しながら状況を分析したが、好条件が見当たらない事に焦りが募る。辺りの暗さが増してきているのもその要因の一つだろう。


「よくもやってくれたわね!!」


怒りを露わに、カポラが胴体に何度も槍を突き入れていく。


「はっ!いけるぞ!!」


ヒュドラが四人の攻撃で徐々に動きを鈍らせている事に、ガランドは内心でやっぱり大したことがないと考えていた。しかし、それはヒュドラという存在を甘く見ているからこそ出せる結論なのだ。ヒュドラは多頭蛇系に分類されているが、この蛇の一番の特徴は脱皮にある。この事を彼が理解していれば、もう少し未来は変わっていただろう。


「!!」


ヒュドラの体が一瞬うねったと彼らは知覚したが、次の瞬間には四人が三人に減っていた。


「ゼームっ!!」


アーナクはその一連の流れに呆然となってしまった。飛び掛かってくるヒュドラと、自分を押し飛ばすゼーム。視点が低くなりながら、視界にゼームの体がヒュドラに重なって消えていくのが映ったのである。


「っ…フキヌケルハカゼノヤリツキヤブリタマエ!」


アーナクは尻餅をついたままに、魔法を放った。

風の槍でヒュドラの頭を貫こうとしたのだが、それは予想外に呆気なく目的を達した。


「!?」


ヒュドラの頭の一つに穴が開いて、ヒュドラの動きが止まったのだ。

ガランドは思わず…


「やったか!?」


と叫んだが、その希望はすぐに絶望へと変わっていく。


シャァァアァァッ!!


ヒュドラの体が一瞬光って、辺りを眩い程の光量が照らす。

三人は咄嗟に目を閉じるが、辺りの暗さに目が慣れ始めていたので視界が白に染められてしまった。


「くそっなんだっ!?」


ガランドが喚きながらも警戒するが、視界の情報を処理しきれずに、剣を構えたまま屁っ放り腰で体の向きを変えるだけという姿を晒しただけだった。


「うぐぁぁっ!」


その叫びはアーナクのものだった。

声のした方へと顔を向けて、まだボヤけてはいたがガランドの視界がそれを捉える。


「アーナクっ!!」


それは、頭が四つの蛇に下半身を呑み込まれているアーナクの姿であった。


「くそおっ!!」


頭の一つに狙いを定めて、ガランドは技を放つ。


裂空斬れっくうざん!!」


空を切り裂く刹那の斬撃。

それはヒュドラの頭を斬り飛ばすのに十分な威力だった…

…頭が三つの時であれば。


「なんっ…!?」


ヒュドラの頭は半分程斬り裂かれただけで、それはすぐに元に戻ろうとくっつき始めた。


「うおおおおっ!!!」


しかし躊躇している暇など無い。

アーナクは今にも呑まれようとしているのだ。


「裂空斬!!」


立て続けにスキルを放ち身体が急激な喪失感に襲われ脱力するが、ガランドは更に斬りつける。


「おおっ!」


フラフラになりながらも、頭の一つを斬り落とす事に成功。

ドロリとした黒い液体が切断部分から溢れ出ている。


「くっ」


アーナクはその間に何とか身体を動かして自由を取り戻したが、噛まれた所から感覚が失われている事、それに対してどうしようもない不安や恐怖を感じてしまった事が重なり、それ以上動けない状態になってしまった。


「しぃねやぁぁぁっっ!!」


カポラの絶叫が響き渡る。


「乱れ突きぃぃっ!!」


槍の攻撃スキルが蛇の胴体に複数の穴を開けるが、時間と共に穴は塞がっていく。


「なんなのよこいつはっ!?」


カポラは悪態をつきながらアーナクの元に走り込み、その身体を抱えて間合いを取った。


「頭が増えるなんて聞いてねえぞ!」


ガランドはちまちまと牽制しながら二人に合流、それからどうやって止めを刺すかを考える。


「ガランド…カポラと一緒に町へ急げ……」

「ダメだっ、ゼームの仇を…

 「無理だ…火力が足りん…」

  …っ………くそ…」


三人に迫るヒュドラはそれぞれの頭から細長い舌をちろちろと出しながら、静かな威圧をかけていく。それはまるで、ご馳走を目の前にいただきますと挨拶をしているかのように彼らの目に映った。




<トルケリア北~深淵の森>第三者視点


アルセラは暗くなってきた時点で一旦中域と浅域の境目辺りに戻り、木の上に寝床を確保していた。深淵の森で野営をする場合、寝床は木の上に作るのが一般的で、特に10m級の木が安全とされており、中域より深くへ向かう際には必須の技術である。


「この周辺は特に無し、か」


蓑虫のように枝から寝袋を吊るして準備を終えると、アルセラはその枝に跨がりながら報告書に記入した。


「さて…明日は……ん?」


その音が聴こえたのは早かったのか遅かったのか。


「…来たか」


大地が揺らぐのと振動音を感知して、アルセラは確信した。


氾濫が迫っていると。




<ビオント北防壁>第三者視点


「総員構えっ!!」


防壁上部で弓と杖を構える兵士達。

日が殆ど沈み辺りが薄暗くなった時に第一波はやって来た。

防壁上部で立ち並ぶは総勢800名程の弓兵、魔法兵である。

彼らは防壁と共に押し寄せる魔物や魔獣の波を堰き止める事が役割だ。


そして今、防衛戦開始の合図とも言える号令が発せられようとしていた。


「放てぇっ!」


第一波の狼系と小鬼系の集団に向かって、矢と魔法の玉が放たれる。

爆発音、刺突音、擦過音、打撲音が周辺に広がり土埃が舞い上がった。


「次!構えっ!!」


視界が悪くなっているが、指揮官はそれに構わずに号令を発して機をうかがう。

その様子には一切の焦りも驕りも無いようだ。


「射程距離目算20!!」


土埃を抜けてこちらに向かってくる集団に目標を変えて、指揮官の声は響き渡る。


「放てっ!!」


先程よりも手前に破壊の奔流が流れ込む。


「次ぃ構えっ!!」


一斉掃射でどれだけ減らせるかでこの後の戦いは大きく変わってしまう。

幸い防壁上部をまとめる指揮官は、二度の氾濫を経験しているのでそれを良く理解していた。


「射程距離目算30!!」


魔物の目は赤く光っているので、多少の暗さでも判断しやすい。

遠距離攻撃を仕掛ける方としてはありがたい的である。


「放てっっ!!」


この時点で、凡そ数百の魔物達が消え去っていた。

これは戦果としては十分なのだがこれは前哨戦に過ぎないので、指揮官は次に備えて気を引き締める。


「第二波まで凡そニ息、地上の掃討が終わるまで待機!!」


第一波と第二波は間が空いていた。


監視塔からの報告では、20分から30分程と推測されていたが、その間に地上で残党狩りと魔石の回収などを行う予定である。地上部隊は北防壁に幾つか設けられているスライド式の小さな門から出撃するのだが、ここからは主に警備兵だけで、冒険者は東防壁と西防壁の門から出撃して補完防壁の後ろで陣を敷いていた。




「いいか、お前らは美味しい所を頂くんだ!自分に見合った獲物を残さずに狩れ!!3級以上の冒険者は、優先的にタイタン系を狙え!」


ビオントギルドマスターのアルベルトは、大きな声と不敵な表情で冒険者を鼓舞するように怒鳴っていた。


こちらは東側で、4級から2級の冒険者を中心とした150人程の集団である。警備兵とは違い、ユニット単位で各個撃破を目的とした戦力となっている。中には単独で動く者もいるが、それは勿論実力者であるが故で、最低でも準2級以上の実力がなければ務まらない。


「マスター、掃討開始の合図が来ましたよ」

「おう、キースか。…そういや、お前、外に出るのどれくらいぶりだ?」

「私ですか?…そうですね、ここ数年は壁の外に出た事は無いですね」

「…窮屈にならんのか?」

「はあ、特には」

「…そうか」


このキースという男はビオントギルドのもう一人の副長で、元3級冒険者の魔法士である。メリルと違ってギルド運営の事務専門というような立場なので、基本的にギルドの一室に籠っていた為にこのような会話になっていた。


キースとしてはそれは別に苦ではなく、好きでやっているので心配されてもどこ吹く風なのだろう。


「よーし!お前ら!きっちり蹴散らして、きっちり儲けるぞ!!」


「「「おおおっ!!」」」


氾濫を防ぐと、国から報酬が支払われる。その金額は氾濫の規模や、戦果、それぞれの階級により変わるが、大体半年は暮らせるだけの報酬は手に入るので、その日暮らしの冒険者にはかなり良い収入となる。


命懸けの報酬としては微妙かもしれないが…冒険者というのは、そんなものである。この世界では特に、深淵の森という脅威が目の前にあり、命のやり取りは当たり前になっているのだから。


言うなれば、生と死の奔流に翻弄されながら、その日その日を一喜一憂するのが冒険者なのである。




同時刻、西側ではメリルが冒険者達に指示を飛ばしていた。こちらも150名程の人数だが、5級も混ざっている為戦力的には東側よりも劣る。その分、ユニットを集めたグループを組ませて、集団で確実に撃破させるようにしているのだ。


「合図が来ました。皆さん、それぞれの役割を全うして下さい」


「「「うおおおおっ!!!」」」


メリルは諸々の注意事項を説明していたので、細かい事を嫌う冒険者達は待ちに待った出撃となり、大声で応えた。


「ここからですね」

「ふくちょ~、私はふくちょ~に着いていれば良いですか~?」

「…語尾を無駄に伸ばさないの」

「はい~」

「…カルーラ、貴女は支援です。光源や回復、できますね?」

「分かってます~。明るくして~、ほわほわ~って治すんです~」

「ほわほわではなく、きびきびと治して下さいね?」

「は~い。頑張ります~」

「…頼みましたよ」


メリルは、この独特な話し方をする職員が苦手である。彼女はカルーラというヒューマで18歳になったばかり。とある伝でメリルが面倒を見る事になって半年程が経過しているが、未だにその根本を掴みきれない存在であった。


カルーラ自身は特に深く考えていないのでメリルが悩む必要は無いのだが、メリルの性格が災いして無駄に気を使う結果になっているというわけである。


「…魔法の素質はあるけれど…あのふわふわした雰囲気はどうにかしたいわね。…エッジさんの方がまだ解りやすいと思うのはどうなのかしら?」


メリルはここ最近で一番に気になる存在を思い浮かべて、表情を緩めた。


「ふくちょ~が楽しそ~」

「!…カルーラ、早く行動しなさい」

「は~い」


カルーラはメリルの威圧に特に怯えることもなく、のほほんと歩いて行った。


「気を引き締めないと、ね」


メリルは小さく呟くと、凛とした表情で歩き出す。


彼女はこの後、防壁上部の魔法支援に加わり、そこで相棒となる残念エルフと合流するのだ。


「それにしても今夜がムーンで良かったわ」


メリルが空を見上げながら言ったのは、この世界の月の事である。


この世界の月は二つあり、一つはムーンと言い白い月で地球の月と似た感じのものである。もう一つはアーテと言い、青い月となっている。二つは交互に現れるので毎日どちらかの月が見えるのだ。そして青い月の場合、幻想的な雰囲気を味わうには良いが光源としては期待できない。最も、支援の光魔法で光源を確保できるのでそこまで大きく変わらないかもしれないが…。


「何一つ油断できない…氾濫は甘くないのだから」




<ビオントギルド>


「…ぁん…んっ……はぁ~」

「痛くはないですか?」

「初めてだけど…凄くいいよ……」


…はい、マッサージです。


女性の身体を只管揉んでいます。

疚しい気持ちは全くありません、とは言えませんけど。やっぱり異世界というか、皆さん可愛いしスタイルも良いのですよ。8頭身がスタンダードと言えるくらいで、モデルだらけと言ってもいいくらいな感じです。体型ってそれぞれ個性があってそれぞれに可愛らしい所が見られるから、見ていて飽きないですよね~。


「やー、すっごい癒された~。良かったわー」


喜んでいただけたなら、幸いです。


「とりあえず、ギルドの方はこれで終わりですね」

「うん。ありがとね。今度何かお礼するから!」


ユフィエスさんのお礼…楽しみです!


さて、現在五刻も過ぎて夜の時間です。

あ、夜は夜刻ヤコクと言うそうです。

上刻、下刻の区別はなくて夜は夜という事でしょう。


「はぁ~…今頃防壁の前はごちゃごちゃしてるのかなー」


背伸びをしながら、ユフィエスさんが暢気に呟いていますけど、緊張感無さすぎじゃないですか?


「そういえばユフィエスさんは氾濫の経験はあるんですか?」


「私?…一回あるよ。でも、その時のは避難砦で1日過ごして終わったから、あんまり実感は無かったなぁ」

「規模は毎回変わるんですか?」

「みたいだね。大氾濫が起こると国がやばいって言われてて、中規模だとそれなりの被害、小規模だと要塞でなんとか防ぐって感じ?」


「ちなみに今回は…?」

「小規模って言ってたよ。2、3千だろうって報告が来てたし。順調にいけば明日中には片付くんじゃないかな?」


ふむ…そこまで心配しなくても良いのかな?

いや、でも何が起こるか分からないしリスクマネジメントは大事って言うからね。


「エッジ、そろそろ時間」


レジーナさんが左上腕部をツンツンしながら話しかけてきた。

実はマッサージをした後、心なしかレジーナさんとの距離感が縮まった気がするんだけど、気のせいじゃないといいな~。


あ、それと足を揉む時にうつ伏せになってもらって施術するんだけど、その最中に服の下で尻尾がぴょこぴょこ動いててとても可愛いと思ったり。…生尻尾はいつ見られるかなぁ。


「えーっと、集合場所は避難砦の前でしたっけ?」

「そ、そうです。えっと、六刻の鐘が鳴る頃に交代するって聞きました」

「それじゃ行きましょうか」

「頑張ってね~」


三人揃ってギルドを出発。


なんか他の冒険者に見られていた気もするけど気にしない。

気にしないったら気にしない。




しばらく、南へ大通りをまっすぐ歩いていたら背中に悪寒が走った。


「っ!?」


振り向いてみると、何も無い。


「どうしたの?」


レジーナさんとラーシアさんは右側に並んで歩いていた。


「何か…感じませんでした?」

「………あっ」


レジーナさんが何かを探るように辺りを見回していたら、何かに気付いたらしい。


「防壁の上…!?」


言葉通りに視線を送ると、防壁の上で赤い光や白い光が線を描いたり、花火のように散ったりするのが見えた。


「…何かと戦ってる?」


僕の視力…1.5くらい…ではこの距離は厳しい。

数百メートルある上に暗いのだ。


「ゴースト…かも」

「ゴースト…って幽霊ですか?」

「ゆうれい?ゴーストはゴーストだよ?霧みたいな魔物」

「あ、あのっ、剣などの武器が殆ど効かない魔物です!魔法か付加スキルが必しゅでしゅ!」


ラーシアさん、最後惜しかったね。

あゝ、そんな俯かないでー。

それに付加スキルって初耳なんですけどー。


「あの、付加スキルってどんなものですか?」

「魔力を武具に纏わせたりする。冒険者の5級からは付加スキルが絶対条件。…知らなかった?」


おお…そうなんですか…勉強になります。


「あれ?でも、魔法でも良いんですよね?」

「魔法が使えるなら付加スキルも使えるようになるよ?」


ほほう、僕もできるという訳ですね。

しかしそうなると、魔法とスキルの関連性が気になる。


「あっ、こっちに来る!?」


目を凝らして見ると、黒い何かが上空からこちら側へ広がるように散っているようだ。


「って、これ、まずいのでは!?」

「どど、どうしましょう!?私達まだ使えないですよっ!?」


手が出せないとなると、逃げの一択…ってこっち来てるし!!


ええい、こうなったら…

黒歴史の中でも聖、闇の項目は一際悶絶する部類なんだけど…


…だけどやるしかないっ!


「ゴーストなら、浄化!つまりは悪霊退散、聖十字光セイクリッド・クロスレイ!!」


聖なる光、闇を打ち払う光をイメージして、空中に指先で十字を切る。すると淡い光が十字を型取り、やがて強く白い光になると、それは暗くなった空間を打ち払うように前方に向けて白光を放射した。


「!?」


それはまるで巨大な光の扇を広げてゆっくり閉じていくかのような光景だった。


やがて空は静寂を取り戻し、動く影も見当たらなくなった。


「エッジ?今のはなに?」

「魔法?ですよ?」

「…そう」


危なかった…角度間違えたら防壁を巻き込んでたよこれ…。

まさかこんな風になるとは思ってなかったよ?

アーメン的な感じでふわっと消えるかと思ったらめっちゃ光線的な魔法でした。


「す、すす凄いですよっ!?こんな魔法見た事も聞いた事もないですよっ!?」

「とりあえず落ち着いて下さい」


ラーシアさんの両拳がブンブンと上下に振られているのが可愛い。

いやほんとにこの子は可愛いなぁ。


「ゴースト…全部消えたみたいだね」


レジーナさんの言う通り、防壁上部も静かになっているようだ。

…まさか今ので全滅とかないよね?…ね?


「…防壁上部のヒトがみんなこっちの方を見てるよ?」


あ、レジーナさんは見えるようです。

猫系だからかな?


「なんか気まずいので、行きましょう」

「そうだね」

「は、はいっ」


さーて、警備頑張るぞー。※棒読み。




<ビオント北防壁上部>第三者視点


「今の…絶対エッジ」

「…何故か、私も確信しています」


ゴーストが大量に現れた防壁上部では混乱があったのだが、メリルとヤハネの活躍でなんとか持ち堪えていた。そこへ更にゴーストが町へ拡散してしまい被害を覚悟していたのだが、そこへあの光が広がったのである。光は闇とゴーストを打ち払い、静寂を残して消えた。


「今のって光の魔法…?…こんな凄い魔法があるなんて…」


近くにいた魔法士が呟いた。


「………」


ヤハネとメリルは沈黙したまま、魔法が凄いというよりも使った者が凄いおかしいんだと密かに訂正していた。


「…あとで教えてもらう」

「私もご一緒しましょう」


この呟きの後に、エッジが悪寒を感じたかどうかは定かではない…。



ヒュドラ…1級の魔物に指定されている。多頭蛇系で太い蛇の身体に頭が3つ以上くっついている。その身体は硬さはないが、再生力に優れ圧倒的な火力で攻撃しなければ損傷を与える事はできない。頭を切られるとしばらく再生できないが、時間と共ににょきにょき生える。一番の特徴は脱皮にあり、脱皮する毎に頭が増えてその強さを増していく。


ゴースト…5級の魔物でゴースト系に分類される。ヒト型の怨念という感じで霧状のもやっとした見た目である。物理的な攻撃は殆ど効かないので、魔力を纏わせた攻撃ができないとどうにもならない。


光の魔法…光線系の魔法は一応あるが、それは一筋の光であって大したダメージを与える事ができない。この世界では光を攻撃的に使うイメージがあまり無いからと考えられる。実際光の球を放つ魔法もあるが目くらましくらいで使う程度である。これをやるくらいなら火の玉をぶつけた方がましという事なのだろう。


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