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巻き込まれるのは知らぬ間に。

五日目~中刻 ※第三者視点含みます。


 エッジが女性に集られた。



<ビオント南東~ツルガの森>


フレンチトーストはやっぱり美味しい。バターを使うと尚、美味しい。


今回は、何故かメリルさんが材料を一通り用意していたので、皆…ギルドの女性職員の方々…で食べました。女性に囲まれて幸せと思う方もいるでしょう。が、しかし。肩身が狭い思いをしたくなければ、あれは避けるべきです。喧々囂々とした空間の中で、きっと自然と苦笑いの達人になっていることでしょう。


…ちなみに、皆さん綺麗だったり可愛かったりと華がありました。


これは個人的な見解だけど、外人さんで髪の色とか目の色が違うだけで、それだけでも可愛く見えたりするある種のパッシブスキルなんじゃないかと思う。日本人って基本黒一色だからなぁ…。



「エッジは狩りは得意?」


回想に耽っていたら、レジーナさんが森に入る手前でそんな事を訊いてきた。


「狩自体が初めてですよ」


画面の中なら竜種だって狩れるけどね!


「そう。やっぱりヒューマはあまり狩りをしないんだね」

「皆さんは得意なんですか?」


3人の顔をそれぞれ見てみる。


「私は普通」

「あ、あの、私はちょっと苦手です」

「…狙った獲物は逃がさない」


最後のはなんだろう。

逃がさないけど、跡形も無く消し飛ばしてそうな光景しか浮かんでこないよ?


「ヤハネさんのは狩りではなくて殲滅とかじゃないですよね?」

「…そうとも、言う?」


魔法は自重してもらおう。


「私達が狩るから、エッジはシャリンの実を先に集めてていいよ」

「んー、そうですね。狩りの素人は邪魔になりますし、僕達はシャリンを目指しましょう」

「…わたしはくろう…

 「さ、行きましょう」

  …と………むー」


ヤハネさんの手を引いて、シャリンの木があるという方向へ歩き出す。

聞いた話では森に入って右側との事だった。



「…エッジは楽しい?」


黙々と歩いていたら、ヤハネさんが呟くようにそんな事を言った。


「概ね、楽しいですね」

「…そう」


…なんだろう?表情からは何も読み取れない。


「エッジはいい子」


あ…ちょっと微笑んだ…?


「急にどうしたんですか?」

「…わたしはエッジのお姉さん」


お姉さんというよりは妹だし、年齢的にはおば…


「…嫌な空気を感じる」


「いやぁ、こんなに素敵なお姉さんだと僕は困りますよー!もっと色々と頑張らないとなりませんね!」


「…ん、エッジは解ってる」


ヤハネさんは褒められると喜ぶよね。


ちょっと単純だけど可愛い所でもあるんだよなぁ…これで表情がもう少し豊かになると、更に可愛いと思う。そうだ、マッサージついでに表情筋を刺激するのもありかも…。




しばらく進むと、少し様相の違う場所へと辿り着いた。

木々の間隔が多少広くなり、地面は草が少なく土が広く見えている。


「…あった」

「…え?…あ、おおー…結構でかい?」


ヤハネさんの指が示す先に、赤いリンゴ…のようなメロンがあった。いや、大きさがね、メロン一玉くらいあるんだって!スイカよりは小さいけど、リンゴよりは確実に大きい。なんだこの光景は…樹高が凡そ5メートルで、太い枝が幹の半分の高さくらいから伸びている。そしてその実は枝の上に付いているのだ。畑の南瓜がチラッと頭に浮かんだよ…。


「ところで、あれはどうやって取るんですか?」


てっきり、手で普通に捥ぐのかと思ってたんですが。


「…登る?」


ですよね。


「…倒す?」


何を!?


「…焼く?」


大惨事!!


「なんで果実を相手に殲滅しようとしているんですか…。ここは普通に登りましょう」


見た感じでは取っ掛かりがあるし、行けそうな気はする。

それに、木登りってワクワクするよね!


「…わたしは待機?」

「そうですね、下で…これ、落ちたら割れますよね?どうしよう…あ、空気のクッションだ」


「…?」


「えーっと、落とす位置に上昇気流を発生させておいて、緩やかに着地させる感じです」


「ん、解った。強過ぎず弱過ぎず?」

「はい。その感じですね」


さて、シャリン採取開始だ!




<ビオント北西~深淵の森>※第三者視点


「くそっどうなってんだ!?」

「トルケリアじゃなかったのかしら?」

「いや、兆候はあっちだったが、誤差の範囲かもしれない」

「くそ…この感じだと夕方にはビオントに…」

「とにかく、急いで戻ろう。まだ俺達の方が早いはずだ」


「いや…俺達は背後を取るぞ」

「…本気なの?」

「ガランド…危険過ぎる」

「どうせやり合うんだ。だったらでかい獲物を狙う方がいいだろ?」

「…ま、私はどっちでもいいわ」

「…お前が決めろ…」

「カポラとゼームは決まりだな。…お前はどうする?」

「…危険だが…悪くはない、か」

「じゃあ、行くぞ!」

「待て、少し回り込もう」


四人の男はビオントへ向かう大軍を少し迂回しながら、その背後を狙う。

その胸の内には野心や好奇心、多少の不安を秘めながら…。




<ビオント北~深淵の森>※第三者視点


その流れはただ進むのみである。それらにある意思はただ一つ、捕食する、それだけであった。先頭を行くは漆黒の狼、続くはヒトの子供ような姿の魔物。後方にて歩を進めるは、ヒトよりも大きな体を持つ二足歩行の異形と四足歩行の獣である。


先頭はそれなりの速度で進んでおり、中部から後方は一定の速度を保っている為その間は徐々に離れてきている。しかし、その事に何かを思う事は無くそれらはただ只管に進む。


そう、流れる川の如く押し寄せる津波の如く、ただ進むのであった。




<トルケリア北西~深淵の森>※第三者視点


アルセラはビオントの東部に位置するトルケリア方面へと進んでいたので、ビオントへ迫る氾濫に気付かずにいた。調査主体なので身体強化で走って、目的の領域まで一気に到着した事も気付かない要因となっていた。


「軽く休んでから始めるか」


アルセラの調査範囲はビオントの北東、つまりトルケリアの北西部が主となり中域にまで及ぶ。この辺りはビオント付近よりも木が多く、より多くの魔獣や魔物が存在する場所である。しかし、アルセラはこの領域に来るまでは害獣の類しか確認していなかった。それが氾濫の兆候の一つ、と言われればそれまでの話なのだが、アルセラの中には奇妙な違和感が芽生えていた。


「…全体的にもやっとするのはなんだ…?」


氾濫の兆候としては、魔物や魔獣が近場で見かけなくなるという事が一番分かりやすい。引いて押し寄せる津波のような感じなのだ。今回もその兆候があり、その期間や以前の統計からどの程度の規模の氾濫が起こるかは予測されていた。それはトルケリア付近で数千規模の魔物や魔獣が押し寄せるだろうというものであった。


しかし、その予測はすでに外れておりアルセラの感じた気配はそこからくる危険信号、または死線を越えてしまった事による悪寒というのが真実である。


「あたしの役割は調査…事実確認…突っ込む必要は無いんだ」


アルセラは自分の役割を思い出し、より慎重に周囲を警戒し、無理をせずにやばくなったら撤退すると改めて決意した。




<ビオント南東~ツルガの森>※第三者視点


「レジーナ、あれ」


小声で伝えながら、ラーシアは前方へ視線を流す。

レジーナは一つ頷き小さな弓を袋から取り出した。

狙う標的は地鶏である。


「…っ!」


凡そ20メートル程の距離を、矢は瞬く間に飛び抜けて地鶏へと到達した。


「…なんか、変?」


嫌にあっさりと仕留めた事にレジーナは疑問が浮かぶ。

ラーシアも違和感を感じて周囲の警戒を強化する。


「…!!」


二人はその地鶏に近付くものを見た。


「お、オーク?」


ラーシアは我が目を疑いながらもその正解を導き出した。

どうやら同じ獲物を同時に狙っていたらしい。

レジーナはその言葉を聞いて、思わず視線がラーシアとオークの間を往復していた。


(気付かれてない…?)


小声で確認するラーシアだったが、レジーナが頷いたので口を閉じて息を殺して身を潜めた。


周囲の気配も特別警戒していたが、特に囲まれているという事は無さそうである。


(どうしよう…?)


目で会話をする二人だが、二人の中では共通の意思は持っていた。

それは相手の数が分からない以上、こちらから戦闘は仕掛けないという事である。


彼女達の知識では、オークという魔物はほぼ単独で動く事はないという認識なのだ。況してやここは森の中であるから、状況の把握が難しくなる。例え森が自分達にとっては慣れた場所であっても、相手は魔物で高い攻撃性を持った敵なので慎重さを欠かす訳にはいかない。


こうしてオークが逆方向に向かったのを確認してから、二人は慎重に合流地点へと引き返したのだった。




<ビオント南東~ツルガの森>


「むう…これは……美味!」


無事にシャリンを三つ採ったので、一つを試食する事にしました。皮は軽く布で拭いてそのまま齧ってみると、リンゴを食べる時のようなパキッとした皮の硬さの後に、つぶつぶ繊維がシャリシャリと歯によって砕かれる音が心地良い食感です。味は酸味と甘さがあって、やや酸味が強いけど嫌な味わいではなく、さっぱりとした後味。


「この大きさに齧りつくのがまた良いですよね〜」


反対側をヤハネさんが齧りついて、ポッキーゲーム的な絵面です。

…うん、凄く良い解釈をしましたよ。無理矢理過ぎたかなーとは思いました。


「シャクシャクおいしー」


「これは…シャリンパイを作らねばなりませんね!熱を通したらどうなるかも気になりますが不味いわけがないと僕のテイストセンスが囁いています!」


「…急にどうしたの」


ヤハネさんに冷静に突っ込まれた…。

敗北感が凄いんですけど…。



「「…!?」」


黙々と果実に齧りついていたら何故か妙な気配を感じて、ヤハネさんと同時に辺りを見回してしまった。周囲20メートル程の距離は魔力感知できるようにしていた…たぶんできているはず…けど、それじゃない何かを感じた気がする。


「ヤハネさん、二人と合流しましょうか」

「…それがいい」


何やら見えないものに嫌な予感を身体に塗りこまれているような…そんな気がする。


すぐにリュックにシャリンの実をしまって、二人と別れた地点へと引き返す。

ヤハネさんもどこか真面目な雰囲気なので、同じような考えなのかもしれない。




<ビオントギルド3階>※第三者視点


「監視塔から緊急報告です。こちらに向かって魔物の大群が進行中です」

「…こっちだったのか」

「…どうやらそのようですね」


椅子に座るギルドマスターへと報告をする秘書…副長…の図である。


「メリル、警備兵の配置はどうなる?」

「現存の兵力だと…門を固めて迎え討つ防衛陣ではないでしょうか」

「まあそんなもんか。しかし………この状況、偶然か?」

「…意図的なものを感じると?」


「上級の冒険者は国に駆り出され各地に散って、その他も高給を目当てにワタリト捜索で各地に散っている。氾濫の兆候はトルケリア側にあったから向こうに兵力が流れた…この状況でこっちに来るか?」


「しかし、氾濫を意図的に起こすなど…誰がどうやって?」

「それは知らん。…が、何かしら嫌な気配がチラついてんだよ」

「マスターの勘となると聞き逃せないですね」


「ワタリトの事も含め、深淵の森で何かが起こっているのかこれから起こるのか…ギルド会議の招集も急いだ方が良さそうだな」


「珍しくまともに働いていただけるのですね」

「…え?いや、オレ働いてるだろ?」


「…」


「なんで首を傾げてんだよ!」

「疑問に感じたものですから」

「素直に答えてんじゃねえよ!」

「では、警戒体制を発令してきます」

「いやいや、急に真面目か!…ってお前…なんか変わったか?」

「…さあ?どうでしょうね」


「…ふん。まあいい。それより忙しくなるから職員に覚悟しておくように伝えておけ」


「士気は問題無いと思いますよ。…ご褒美がありますからね」

「………は?」

「では、失礼します」

「お、おう………褒美なんてあったか?」


1人部屋に残されたギルドマスターことアルベルトは、自分が何か用意していたかを考えたがそんな気の利いた事はしていなかった。腕を組み首を傾げて思考を続けるが元来頭を捻って考えるという行為をしないので、ものの数秒でそれは停止する。


「…まあいいか」


余計な考えは無駄と切り捨て、目の前に迫る脅威に意識を向ける。


「さて…久し振りに暴れるか」


氾濫という森からの脅威。


小規模なものはアルベルトには数回の経験があるが、そのどれもが限界まで力を使い切ったギリギリの戦いであった。今回も、遊撃隊として冒険者を引き連れて討って出る事になるだろう。


「…腰が持てばいいがな」


アルベルトには不安が一つあった。それは腰痛持ちという事。気持ちでは最前線で大剣を豪快に振るうイメージだが、実際は指揮をしながら小剣と盾で堅実に戦うしかできない状態である。


「そういやエッジのあれは俺にもできんのか…?」


メリルの身体の調子がすこぶる良いというのは、その姿を毎日見ていたアルベルトにとっては明白な事実であった。どうも肩、背中をやって貰った後にはあまりにもスッキリした為に、訓練場で何人かがそのとばっちりを受けて死に掛けたらしい…模擬戦の疲労で。


「後で聞いてみるか」


アルベルトは知らなかった。

すでに、それが数日間は予約で埋まっている事を…。




<ビオント南東~ツルガの森>


「良かった…」


その言葉はラーシアさんとハモるように出たものだった。

さて、無事にお互い合流できたわけですが…


「…ラーシアさん達も何かあったんですか?」

「えっ?え、エッジさん達も見たんですか!?」

「…見たって何?」

「お、オークがいたんです!同じ獲物を弓で同時に狙っていたらしくて…」


何やら偶然が重なって凄い当たり?を引いたらしい。

…いやそれよりもオークって、あの、所謂オーク?


「どうして魔物が…」


ヤハネさんが呟き、何やら思考に意識を移してしまっている。


「あの、オークって豚みたいなヒト型の…?」

「豚というよりは猪。かなり凶暴。複数で行動して連携もとるから厄介」


うーむ、この目で見るまでは先入観は捨てた方が良さそう。


「それで、魔物ってこの辺にも出るものなんですか?」


てっきり深淵の森以外には出ないかと思ってたけど。


「出なくはない、けど…」


レジーナさんは言葉を止めて、ラーシアさんとヤハネさんを見ている。


「魔力異常が起こると魔物は発生すると言われている。それは基本的に何処でも起こりうるけど、深淵の森はその頻度が異常に多い。だから魔物は森からやってくると認識されている。でも、魔力異常が発生したならそこに魔物が発生する、だからここにいてもおかしくはない」


スイッチの入ったヤハネさんが流暢に説明をして、一息ついてからまた続ける。


「それでも、この状況でここに魔物がいるのはどこか変。それに…オークの数が数十とかなら………まるで挟み撃ち?」


あれ…なんだか嫌な流れ?


「ど、どどどうしましょう!?」

「…町へ戻る」


カンカンカンカンカーンカーンカーンカーン


戻ろうと四人で歩き出そうとしたタイミングで、遠くから何かを報せるような鐘の音がぼんやりと聞こえてきた。


「緊急警報…」


「「「えっ?」」」


三人でハモりながらヤハネさんを見つめる。


「…氾濫が来る」


あれ?


…えっ?こっちなの!?



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