森から町まで。
初日~
熊と蜥蜴を倒した。
それから、あーだこーだ言われながらも解体を手伝って、収納袋に突っ込んで…収納袋はなんと中身は亜空間で一軒家くらいの容量なんだって!…帰路に着いたわけだけど…。
「よし、この辺で一旦休憩だ」
「はぁはぁはぁはぁ」
決して興奮しているわけではない。
なんせ、1時間くらい走りっぱなしだったんだから!
なので、現在は森を抜けて平原の様な場所にいる。
「水飲むか?」
「はぁはぁはぁはぁ」
「…この程度でそんなに疲れるとはなぁ…お前、冒険者ではなさそうだな」
「はぁはぁはぁはぁ」
その通りですよ〜。一般人ですよ〜。
でも、あのペースに着いて行けたんだから、少しは褒めて欲しいですよ〜。
「取り敢えず、ここからは歩いてでも間に合う。日が暮れる前には街に着くはずだ。…ほら、飲めよ」
「はぁはぁはぁはぁ…あり…が…と」
ぷはぁー!
うまい!もういっぱい!
あ、ちゃんと口がつかないように、水筒の飲み口を離して飲んでるんだよ!
「ふぅ〜〜」
「そういや、まだ名前聞いてなかったな」
「そう、です、ね」
息切れはまだ治らない…
「…先に言うぞ?あたしはアルセラ、準2級冒険者だ」
「アルセラ、さん、助けていただき、ありがとう、ございました。…えーと、僕は悦司です」
「えっじ?」
「いえ、えつじです」
「えっじ?」
「え、つ、じ」
「え、っじ?」
「…んーと、じゃあそれで」
発音しにくいらしい…って!あれ!?
そういえば今、何語を話しているんだろう??
んー、でも、通じているし、気にしたら負けな気もするな…。
「それで、エッジは、どこから来たんだ?」
ここで少し、アルセラさんの目が鋭くなった。
警戒されてるのかなぁ…いや、それは当たり前か。
「えーと、ですね。説明が難しいんですが…何処から来たかは分かるんですが、どうしてここにいるかはさっぱり分からないんですよ」
アルセラさんは首を傾げている。
ちゃんと理解しようとしてくれているのかな?
「日本という国を聞いたことはありますか?」
「…いや、ないな」
「ちなみにここはなんていう国ですか?」
「ワンダレル王国だ。…おい、まさか、連合国を知らないのか?」
「…はい」
「ホントかよ…森を囲む五大王国だぞ?」
「いやもうさっぱり」
ほほぅ。森を囲む王国は五つあって、連合国となってるのか。
何か森が関係しているのかな?
「お前、余程遠くから来たのか?…いや、でも森の中にいたっていうのがよく分からんな」
「いやぁ、多分、考えられないくらい遠くから来たと思います。それこそ、世界が違うくらいに」
「お前…!」
あれ?なーんてね、って言おうとしたらアルセラさんが真剣な顔になっちゃったぞ?
「まさか、ワタリトか…!?」
「ワタリト…?」
一瞬、火の攻撃魔法を思い浮かべた僕はダンジョンRPGが好きなんだよ!
「…異世界からの渡り人の事だ。そう言えば、お前、服装が見慣れない格好だな。…なる程。そういうことか…」
なんだか納得されちゃったけど、もしかして珍しくはないのかな?
「あの、ワタリトって他にも結構いるんですか?」
「いや、数十年に一人、二人、くらいだぞ」
うん、微妙だね。
「あんまり、ワタリトって言わない方がいいんですかね?」
「そうだな…一応国で保護する事になってたはずだぞ。なんかスキルが凄いらしい」
むむ…所謂、チートかな?
しかし、国かぁ…バタバタするのは嫌だし…
「あの、ワタリトっていうのは無かったことに…」
「…はぁ?国に保護された方が得だと思うが…」
「いえ、目立ちたくないですし。争い事に巻き込まれたくないですし。何よりアルセラさんに恩返ししたいです!」
「はぁ?」
アルセラさんがキョトンとしている!なんか可愛い!
「いや、別に、恩返しとかいらないよ。キングベアは偶然だし、フレイムリザードはお前がいたからなんとかなったわけだし…そんなに気にしなくていい」
「ダメです!」
「ええ!?」
「ちゃんと恩返しするまでは、離れたくないです!」
「いや、ホントにいらないから」
あれー?凄くつれない返事だよー?
「迷惑…ですか?」
「…いや、ちょっとな」
ふむ…何かワケありっぽい。
んー、でも、アルセラさんにはちゃんと恩返ししたい。
っていうか、もっと一緒に居たいし…
「アルセラさんと仲良くなりたいなぁ…」
「おまっ!いきなり何を言ってんだ!?」
声に出してしまった!
「ごめんなさい。思わず本音が」
「…変な奴だな、お前…」
呆れられているようです。
…シクシク。
「…そろそろ出発するぞ」
「はい…」
微妙な空気のまま、二人で歩き出す。
「と、ところで、エッジは魔力が見えているのか?」
少ししてから、アルセラさんはぎこちなく口を開いた。
気を遣わせてしまったようだ…。
「えっと…魔力というのは?」
「いや、お前、フレイムリザードの火炎放射が来るのを分かっていただろう?」
「ああ、あれですか。はい、白っぽい線が見えましたよ?」
「あたしでも見えなかったから、相当隠蔽されていたと思うんだが…それが見えたって事は、お前は凄い奴なのかと思ったんだ」
「…そういうものなんですか?」
「そういうものだ」
「あの、もしかして魔法ってあります?」
「…当たり前の事を聞かれるって、なんかどう答えていいか分からなくなるな…」
「おおー!魔法だぁぁあ!」
やったね!やっぱり魔法があるんだ!
魔法に憧れて二十数年!ここはやはり異世界でした!!ビバ異世界!!!
「…だ、大丈夫か…?」
はっ!?
アルセラさんがドン引きしている!
「す、すいません、僕のいた世界には魔法が無かったものですから…」
「…は?…それでどうやって魔物と戦うんだ?」
「いえいえ、魔物もいなかったですよ」
「…まじかよ…」
「僕が住んでいたところは平和でしたね」
「信じられない話だが…ワタリトっていうんなら嘘ではないんだろうな…」
「ところで、魔法は誰でも使えるんですか?」
「ん?…あぁ、魔力操作を覚えれば、誰でも程度の差はあれ使えるようになるぞ」
「24歳からでもですか?」
「んー、年齢はあまり関係無かったと思うが………え?…今なんて?」
「いえ、24歳からでも…」
「はあっ!?おまっ!?え?14歳じゃなくて!?」
「すいません。僕、一応24歳なんです…」
「いや、お前、その顔で…いや、何ていうか…おさな…わ、若いんだなっ!」
アルセラさん…幼いをかろうじて言わないでいただきありがとうございます…。
ふ、ふふふ…童顔だとは言われてきたけど…流石に中学生に間違われるとか…切ないよ。
「…あの、ちなみにアルセラさんは…?」
「あたしは26だぞ」
「…えっ!?歳下かと思ってたら歳上だったー!?」
な、なんだよ〜。アルセラさんだって若いじゃないか!
20歳前くらいかと思ってたのに。
「そ、そうか?年相応だと思うが…」
「僕もそう思っていますが?」
「…」「…」
この話は終わりにしよう。
華麗なる話題転換だっ!
「あの、アルセラさんに迷惑をかけない程度で、何かできることってありませんか?」
「えっ?…あー…んー…そうだな………あっ」
アルセラさんが何か思い付いたみたいだけど…何やら難しい表情を作って逡巡している様子。
「あの、僕が言うのもなんですけど、遠慮なく言ってくださいね?」
「んー、そう…だな。…一応、そういうものがあると聞くだけでもいいからな?」
「はい」
「あたしは今、準2級で2級に上がるのを保留にしている状態なんだ。ちなみに2級ってのは冒険者の一つの目安でさ、2級に上がると周りからも一目置かれる様になるし、報酬も良くなる」
「ふむふむ」
「で、なんで保留中かというと、条件の一つが達成できていないからだ」
「条件、とは?」
「指定ランクの魔物と魔獣の討伐、護衛の依頼の成功回数、ギルドマスターの推薦。そして、新人冒険者の育成だ」
魔物と魔獣の違いも気になるけど…
「育成というのは?」
「ん、それなんだ。…要は使える新人を一人でいいから育てろって事だ」
「師弟…みたいなものですかね」
「んー、まあ、そんな感じだろう」
「それがどうして達成できないと…?」
「…あたしは、まず、教えるっていうのができない」
「…断言しましたね」
「それに基本、ソロで動く。共闘が苦手だからな。新人なんかと一緒に戦ったら、確実に巻き込むだろうな…」
「…そ、そうですか」
「そこで、だ。お前、魔力の流れが見えるだろう?恐らくだが、スキルの発動も見えていたんじゃないのか?」
「あ…そういえば、淡く光ってました」
「…一応、悟られないようにしているんだがな…」
「そう…なんですか?」
「あのなぁ、そんなに簡単に見れるものじゃないんだぞ!相当訓練して、それでも意識してやっとだ。特に発動時の魔力の流れなんて一瞬だぞ?それが見えるなんて、凄いとしか言えないぞ?賢術士だってできる奴がいるかどうか…」
おお…怒りながら褒められている…!?
しかし、結構普通に見えていたけど、そんなに見えるものではないのか…これってなんかの能力かな?
「まぁ、とにかくだ。スキルが分かるなら下手に巻き込む事は無くなるだろう?お前なら、あたしにもできそうな気がしたんだよ」
「なるほど…」
ふむ。これは中々良い提案ではなかろうか。
右も左も分からない世界で、素敵な女性に教わりながら冒険者になれる、こんなチャンスはラッキーとしか言えないのではないか!?
「あの、頑張るので、是非、お願いします!」
「え?…い、良いのか?あたしだぞ…?」
「むしろ、アルセラさんが良いです!」
「な、なんでだよ!?」
「出会って間も無いですが、アルセラさんはすでに僕の中では師匠ですから!」
「なんでっ!?」
「なんだかんだ言って今こうしている事が、答えだと思います」
「いや…それは…」
アルセラさんはそれ以降口をつぐみ、頭を掻いたり腕を組んだりして、何か悶々と考えている様子だ。
しばらく足音だけが響いていたが、アルセラさんがこちらを見ながら、一つ首肯すると、ゆっくりと話し始めた。
「あたしは手加減とか苦手だから、かなりきついと思うぞ。徒弟とするからには、あたしに従ってもらわないとならないし、逆らうのも駄目だ。それでも、本当に良いのか?」
「ふふふ…。男に二言は無いのですよ…!アルセラさんに頑張って付いていきます!」
「そ、そうか…」
おや?なんだか表情が柔らかくなったような?
「よしっ!それなら、町に着いたらすぐにギルドだな!…よろしくな、エッジ」
「はい!よろしくお願いします!…アルセラさん、でいいですかね?師匠と呼んだ方が良いのかな?」
「あー、師匠っていうのは…なんかムズムズするから、普通に名前でいいよ」
「分かりました、ではアルセラさんで。いやぁ、出逢ったのがアルセラさんで本当に良かったですよ。運が良かったなぁ」
「いや、運が良いならあんなに襲われないだろ…」
「…確かに。あ、そう言えばアルセラさんはなんであそこにいたんですか?」
「ああ、キングベアの討伐で森に入ってたんだが…大きな魔力溜まりが発生したのを感知したんだよ。それで、強力な魔物が発生する可能性が高いから、その周辺を探索していたら、お前がキングベアの前で呑気に寝ているからビックリして、攻撃したわけだ」
「なるほど…あ、そうだ。魔物と魔獣って違うものなんですか?」
「ああ、全然違うぞ?…魔獣は動物が一定以上の魔力を持った時に変化したもの、だったかな。魔物は魔力でできた怪物だ。両者の違いは簡単だ。倒した後に死骸が残るか残らないかだ。魔物は倒すと素材を残して消えるからな」
「そういうことですか…では先程倒したのは魔獣ということですね?」
「そうだ。そして、フレイムリザードは変異種って奴だな。こいつは魔獣が更に強力な魔力を取り込んだ時に起こるんだが…要は、強くなるんだ。力が強くなったり、素早くなったり、魔力操作が上手くなったりする。単純にでかくなって強くなる場合もあるから、基本的には変異種とは正面からぶつからない方がいいな」
「…僕達は運が良かったんですね…」
改めて考えると、恐ろしいな…。アレを食らっていたら、確実に燃え尽きてたかもしれないんだな…。
「そうだな…ぶっちゃけると、あたしはもう戦う余力が殆ど無いからなー。無事に森を抜けられて良かったよ」
「ええっ!?そんなにやばかったんですか?」
「まあな〜。あ、今は少し回復してるからお前くらいなら一撃だぞ?」
「いやいや、アルセラさんに戦いは挑まないですよ。逆に癒したいです」
「ん?お前、回復魔法使えるのか?」
「いいえ?魔法の使い方も知らないです」
「だよなぁ」
「あ、でも、疲れを取れやすくする事は出来ますよ?マッサージというものがありまして」
「なんだそれ?」
「んー、身体をほぐすって分かりますかね?」
「?…よく分からん」
「そうですね、例えば、アルセラさんは攻撃で腕を酷使したと思います。どれくらいの負担かは分からないですが…恐らく明日になれば痛みで、動かすのがそれなりに辛くなるのではないですか?」
「お前、分かる…のか?」
「止めの技…流星衝でしたか。あれ、腕、肩、腰に相当な負荷が掛かるはずです。魔力?が流れていたので筋肉だけでやったわけではないでしょうけど。でも、それでも、無理はしたと思うんですよ」
「あの一回でそこまで見ていたのか…!?」
「いやぁ、まぁ、偶々そういう知識があったので、何となくですよ?」
「…それで、その、マッサージ?というのは反動を抑えることができるのか?」
アルセラさんはまっすぐこちらの目を見つめている。
「えーと、こちらのヒトがどんな感じか分からないので、確証は持てないですけど、まあ、筋肉があるなら有効だとは思います」
「そ、それは、どんな魔法なんだ?」
「いえ、魔法ではなくて、揉むんです。筋肉を」
「…?」
「あれ?筋肉って、言わないですか?」
「いや、筋肉は分かるんだが、揉むだけか?」
「揉むだけですけど適当に揉むのとは違うんです」
「…お前が言っている事が、よく分からん」
「実際試してみないと、僕もなんとも言えないですから、これ以上の説明となると難しいですね」
「そうか…しかし、そうすると、お前があたしの腕を揉むって事なんだよな…?」
「そうなります。…あ、あの、嫌なら無理にとは言いません!アルセラさんが嫌がる事はしたくないですから!」
嫌われたくないもんね〜。
それに、怒らせたら僕なんか瞬殺されちゃうよ、絶対。
「…んー…そうかー…んー…そうかあ…でもあの怠さが無いのは助かるんだよな…んー…」
アルセラさんが物凄い悩んでいる。表情が、渋くなったり目を閉じたり、あ、今の可愛い、そして眉間にシワが寄ったり。
「…あーっ!もう!!とりあえず、宿に着いてから考えるぞ!」
答えが出なかったんですねー。
「…はっ!そう言えば…ぼ、僕、お金無いです…」
ぬあー現実に気付いてしまった!!
「あーいいよ、フレイムリザードは山分けするから。あれならしばらく暮らせるだろ」
「…え、でも、僕逃げ回ってただけ…」
「なに言ってんだ?お前が囮になってくれたから、スキルを決める事ができたんだぞ?」
あ…やっぱり、あれ、囮だったんですね〜。
「それに、徒弟なんだから、まあ、なんだ、遠慮しなくていい」
「師匠…!!」
「それはやめろ」
睨まれた。
さて、しばらくそんな感じで雑談をしながら、道っぽい所を進むと、それは見えてきた。
「…あれは…」
「お、着いたな。あそこがワンダレル王国の要塞の一つ、ビオントだ。森に接している町の中でもデカイ方だな」
「要塞?」
「ああ、要塞の中に町がある、というか、町が要塞なんだよ」
「なるほど…森からの襲来に備えてるんですね」
「お前、理解が早いよな?」
「そうですかね?」
知識があるからってだけだと思うけど。
「まあいいや。とりあえず、あたしが話を進めるからお前は余計な事は言わないようにな」
「はい」
おお…異世界の町に…いざ、突入!!




