表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

森から町まで。

初日~


 熊と蜥蜴を倒した。


それから、あーだこーだ言われながらも解体を手伝って、収納袋に突っ込んで…収納袋はなんと中身は亜空間で一軒家くらいの容量なんだって!…帰路に着いたわけだけど…。


「よし、この辺で一旦休憩だ」

「はぁはぁはぁはぁ」


決して興奮しているわけではない。

なんせ、1時間くらい走りっぱなしだったんだから!

なので、現在は森を抜けて平原の様な場所にいる。


「水飲むか?」

「はぁはぁはぁはぁ」

「…この程度でそんなに疲れるとはなぁ…お前、冒険者ではなさそうだな」

「はぁはぁはぁはぁ」


その通りですよ〜。一般人ですよ〜。

でも、あのペースに着いて行けたんだから、少しは褒めて欲しいですよ〜。


「取り敢えず、ここからは歩いてでも間に合う。日が暮れる前には街に着くはずだ。…ほら、飲めよ」

「はぁはぁはぁはぁ…あり…が…と」


ぷはぁー!

うまい!もういっぱい!

あ、ちゃんと口がつかないように、水筒の飲み口を離して飲んでるんだよ!


「ふぅ〜〜」

「そういや、まだ名前聞いてなかったな」

「そう、です、ね」


息切れはまだ治らない…


「…先に言うぞ?あたしはアルセラ、準2級冒険者だ」

「アルセラ、さん、助けていただき、ありがとう、ございました。…えーと、僕は悦司です」

「えっじ?」

「いえ、えつじです」

「えっじ?」

「え、つ、じ」

「え、っじ?」

「…んーと、じゃあそれで」


発音しにくいらしい…って!あれ!?

そういえば今、何語を話しているんだろう??

んー、でも、通じているし、気にしたら負けな気もするな…。


「それで、エッジは、どこから来たんだ?」


ここで少し、アルセラさんの目が鋭くなった。

警戒されてるのかなぁ…いや、それは当たり前か。


「えーと、ですね。説明が難しいんですが…何処から来たかは分かるんですが、どうしてここにいるかはさっぱり分からないんですよ」


アルセラさんは首を傾げている。

ちゃんと理解しようとしてくれているのかな?


「日本という国を聞いたことはありますか?」

「…いや、ないな」

「ちなみにここはなんていう国ですか?」

「ワンダレル王国だ。…おい、まさか、連合国を知らないのか?」

「…はい」

「ホントかよ…森を囲む五大王国だぞ?」

「いやもうさっぱり」


ほほぅ。森を囲む王国は五つあって、連合国となってるのか。

何か森が関係しているのかな?


「お前、余程遠くから来たのか?…いや、でも森の中にいたっていうのがよく分からんな」

「いやぁ、多分、考えられないくらい遠くから来たと思います。それこそ、世界が違うくらいに」

「お前…!」


あれ?なーんてね、って言おうとしたらアルセラさんが真剣な顔になっちゃったぞ?


「まさか、ワタリトか…!?」

「ワタリト…?」


一瞬、火の攻撃魔法を思い浮かべた僕はダンジョンRPGが好きなんだよ!


「…異世界からの渡り人の事だ。そう言えば、お前、服装が見慣れない格好だな。…なる程。そういうことか…」


なんだか納得されちゃったけど、もしかして珍しくはないのかな?


「あの、ワタリトって他にも結構いるんですか?」

「いや、数十年に一人、二人、くらいだぞ」


うん、微妙だね。


「あんまり、ワタリトって言わない方がいいんですかね?」

「そうだな…一応国で保護する事になってたはずだぞ。なんかスキルが凄いらしい」


むむ…所謂、チートかな?

しかし、国かぁ…バタバタするのは嫌だし…


「あの、ワタリトっていうのは無かったことに…」

「…はぁ?国に保護された方が得だと思うが…」

「いえ、目立ちたくないですし。争い事に巻き込まれたくないですし。何よりアルセラさんに恩返ししたいです!」

「はぁ?」


アルセラさんがキョトンとしている!なんか可愛い!


「いや、別に、恩返しとかいらないよ。キングベアは偶然だし、フレイムリザードはお前がいたからなんとかなったわけだし…そんなに気にしなくていい」

「ダメです!」

「ええ!?」

「ちゃんと恩返しするまでは、離れたくないです!」

「いや、ホントにいらないから」


あれー?凄くつれない返事だよー?


「迷惑…ですか?」

「…いや、ちょっとな」


ふむ…何かワケありっぽい。

んー、でも、アルセラさんにはちゃんと恩返ししたい。

っていうか、もっと一緒に居たいし…


「アルセラさんと仲良くなりたいなぁ…」

「おまっ!いきなり何を言ってんだ!?」


声に出してしまった!


「ごめんなさい。思わず本音が」

「…変な奴だな、お前…」


呆れられているようです。

…シクシク。


「…そろそろ出発するぞ」

「はい…」


微妙な空気のまま、二人で歩き出す。


「と、ところで、エッジは魔力が見えているのか?」


少ししてから、アルセラさんはぎこちなく口を開いた。

気を遣わせてしまったようだ…。


「えっと…魔力というのは?」

「いや、お前、フレイムリザードの火炎放射が来るのを分かっていただろう?」

「ああ、あれですか。はい、白っぽい線が見えましたよ?」

「あたしでも見えなかったから、相当隠蔽されていたと思うんだが…それが見えたって事は、お前は凄い奴なのかと思ったんだ」

「…そういうものなんですか?」

「そういうものだ」

「あの、もしかして魔法ってあります?」

「…当たり前の事を聞かれるって、なんかどう答えていいか分からなくなるな…」

「おおー!魔法だぁぁあ!」


やったね!やっぱり魔法があるんだ!

魔法に憧れて二十数年!ここはやはり異世界でした!!ビバ異世界!!!


「…だ、大丈夫か…?」


はっ!?

アルセラさんがドン引きしている!


「す、すいません、僕のいた世界には魔法が無かったものですから…」

「…は?…それでどうやって魔物と戦うんだ?」

「いえいえ、魔物もいなかったですよ」

「…まじかよ…」

「僕が住んでいたところは平和でしたね」

「信じられない話だが…ワタリトっていうんなら嘘ではないんだろうな…」

「ところで、魔法は誰でも使えるんですか?」

「ん?…あぁ、魔力操作を覚えれば、誰でも程度の差はあれ使えるようになるぞ」

「24歳からでもですか?」

「んー、年齢はあまり関係無かったと思うが………え?…今なんて?」

「いえ、24歳からでも…」

「はあっ!?おまっ!?え?14歳じゃなくて!?」

「すいません。僕、一応24歳なんです…」

「いや、お前、その顔で…いや、何ていうか…おさな…わ、若いんだなっ!」


アルセラさん…幼いをかろうじて言わないでいただきありがとうございます…。

ふ、ふふふ…童顔だとは言われてきたけど…流石に中学生に間違われるとか…切ないよ。


「…あの、ちなみにアルセラさんは…?」

「あたしは26だぞ」

「…えっ!?歳下かと思ってたら歳上だったー!?」


な、なんだよ〜。アルセラさんだって若いじゃないか!

20歳前くらいかと思ってたのに。


「そ、そうか?年相応だと思うが…」

「僕もそう思っていますが?」

「…」「…」


この話は終わりにしよう。

華麗なる話題転換だっ!


「あの、アルセラさんに迷惑をかけない程度で、何かできることってありませんか?」

「えっ?…あー…んー…そうだな………あっ」


アルセラさんが何か思い付いたみたいだけど…何やら難しい表情を作って逡巡している様子。


「あの、僕が言うのもなんですけど、遠慮なく言ってくださいね?」

「んー、そう…だな。…一応、そういうものがあると聞くだけでもいいからな?」

「はい」

「あたしは今、準2級で2級に上がるのを保留にしている状態なんだ。ちなみに2級ってのは冒険者の一つの目安でさ、2級に上がると周りからも一目置かれる様になるし、報酬も良くなる」

「ふむふむ」

「で、なんで保留中かというと、条件の一つが達成できていないからだ」

「条件、とは?」

「指定ランクの魔物と魔獣の討伐、護衛の依頼の成功回数、ギルドマスターの推薦。そして、新人冒険者の育成だ」


魔物と魔獣の違いも気になるけど…


「育成というのは?」

「ん、それなんだ。…要は使える新人を一人でいいから育てろって事だ」

「師弟…みたいなものですかね」

「んー、まあ、そんな感じだろう」

「それがどうして達成できないと…?」

「…あたしは、まず、教えるっていうのができない」

「…断言しましたね」

「それに基本、ソロで動く。共闘が苦手だからな。新人なんかと一緒に戦ったら、確実に巻き込むだろうな…」

「…そ、そうですか」

「そこで、だ。お前、魔力の流れが見えるだろう?恐らくだが、スキルの発動も見えていたんじゃないのか?」

「あ…そういえば、淡く光ってました」

「…一応、悟られないようにしているんだがな…」

「そう…なんですか?」

「あのなぁ、そんなに簡単に見れるものじゃないんだぞ!相当訓練して、それでも意識してやっとだ。特に発動時の魔力の流れなんて一瞬だぞ?それが見えるなんて、凄いとしか言えないぞ?賢術士だってできる奴がいるかどうか…」


おお…怒りながら褒められている…!?

しかし、結構普通に見えていたけど、そんなに見えるものではないのか…これってなんかの能力かな?


「まぁ、とにかくだ。スキルが分かるなら下手に巻き込む事は無くなるだろう?お前なら、あたしにもできそうな気がしたんだよ」

「なるほど…」


ふむ。これは中々良い提案ではなかろうか。

右も左も分からない世界で、素敵な女性に教わりながら冒険者になれる、こんなチャンスはラッキーとしか言えないのではないか!?


「あの、頑張るので、是非、お願いします!」

「え?…い、良いのか?あたしだぞ…?」

「むしろ、アルセラさんが良いです!」

「な、なんでだよ!?」

「出会って間も無いですが、アルセラさんはすでに僕の中では師匠ですから!」

「なんでっ!?」

「なんだかんだ言って今こうしている事が、答えだと思います」

「いや…それは…」


アルセラさんはそれ以降口をつぐみ、頭を掻いたり腕を組んだりして、何か悶々と考えている様子だ。

しばらく足音だけが響いていたが、アルセラさんがこちらを見ながら、一つ首肯すると、ゆっくりと話し始めた。


「あたしは手加減とか苦手だから、かなりきついと思うぞ。徒弟とするからには、あたしに従ってもらわないとならないし、逆らうのも駄目だ。それでも、本当に良いのか?」

「ふふふ…。男に二言は無いのですよ…!アルセラさんに頑張って付いていきます!」

「そ、そうか…」


おや?なんだか表情が柔らかくなったような?


「よしっ!それなら、町に着いたらすぐにギルドだな!…よろしくな、エッジ」

「はい!よろしくお願いします!…アルセラさん、でいいですかね?師匠と呼んだ方が良いのかな?」

「あー、師匠っていうのは…なんかムズムズするから、普通に名前でいいよ」

「分かりました、ではアルセラさんで。いやぁ、出逢ったのがアルセラさんで本当に良かったですよ。運が良かったなぁ」

「いや、運が良いならあんなに襲われないだろ…」

「…確かに。あ、そう言えばアルセラさんはなんであそこにいたんですか?」

「ああ、キングベアの討伐で森に入ってたんだが…大きな魔力溜まりが発生したのを感知したんだよ。それで、強力な魔物が発生する可能性が高いから、その周辺を探索していたら、お前がキングベアの前で呑気に寝ているからビックリして、攻撃したわけだ」

「なるほど…あ、そうだ。魔物と魔獣って違うものなんですか?」

「ああ、全然違うぞ?…魔獣は動物が一定以上の魔力を持った時に変化したもの、だったかな。魔物は魔力でできた怪物だ。両者の違いは簡単だ。倒した後に死骸が残るか残らないかだ。魔物は倒すと素材を残して消えるからな」

「そういうことですか…では先程倒したのは魔獣ということですね?」

「そうだ。そして、フレイムリザードは変異種って奴だな。こいつは魔獣が更に強力な魔力を取り込んだ時に起こるんだが…要は、強くなるんだ。力が強くなったり、素早くなったり、魔力操作が上手くなったりする。単純にでかくなって強くなる場合もあるから、基本的には変異種とは正面からぶつからない方がいいな」

「…僕達は運が良かったんですね…」


改めて考えると、恐ろしいな…。アレを食らっていたら、確実に燃え尽きてたかもしれないんだな…。


「そうだな…ぶっちゃけると、あたしはもう戦う余力が殆ど無いからなー。無事に森を抜けられて良かったよ」

「ええっ!?そんなにやばかったんですか?」

「まあな〜。あ、今は少し回復してるからお前くらいなら一撃だぞ?」

「いやいや、アルセラさんに戦いは挑まないですよ。逆に癒したいです」

「ん?お前、回復魔法使えるのか?」

「いいえ?魔法の使い方も知らないです」

「だよなぁ」

「あ、でも、疲れを取れやすくする事は出来ますよ?マッサージというものがありまして」

「なんだそれ?」

「んー、身体をほぐすって分かりますかね?」

「?…よく分からん」

「そうですね、例えば、アルセラさんは攻撃で腕を酷使したと思います。どれくらいの負担かは分からないですが…恐らく明日になれば痛みで、動かすのがそれなりに辛くなるのではないですか?」

「お前、分かる…のか?」

「止めの技…流星衝でしたか。あれ、腕、肩、腰に相当な負荷が掛かるはずです。魔力?が流れていたので筋肉だけでやったわけではないでしょうけど。でも、それでも、無理はしたと思うんですよ」

「あの一回でそこまで見ていたのか…!?」

「いやぁ、まぁ、偶々そういう知識があったので、何となくですよ?」

「…それで、その、マッサージ?というのは反動を抑えることができるのか?」


アルセラさんはまっすぐこちらの目を見つめている。


「えーと、こちらのヒトがどんな感じか分からないので、確証は持てないですけど、まあ、筋肉があるなら有効だとは思います」

「そ、それは、どんな魔法なんだ?」

「いえ、魔法ではなくて、揉むんです。筋肉を」

「…?」

「あれ?筋肉って、言わないですか?」

「いや、筋肉は分かるんだが、揉むだけか?」

「揉むだけですけど適当に揉むのとは違うんです」

「…お前が言っている事が、よく分からん」

「実際試してみないと、僕もなんとも言えないですから、これ以上の説明となると難しいですね」

「そうか…しかし、そうすると、お前があたしの腕を揉むって事なんだよな…?」

「そうなります。…あ、あの、嫌なら無理にとは言いません!アルセラさんが嫌がる事はしたくないですから!」


嫌われたくないもんね〜。

それに、怒らせたら僕なんか瞬殺されちゃうよ、絶対。


「…んー…そうかー…んー…そうかあ…でもあの怠さが無いのは助かるんだよな…んー…」


アルセラさんが物凄い悩んでいる。表情が、渋くなったり目を閉じたり、あ、今の可愛い、そして眉間にシワが寄ったり。


「…あーっ!もう!!とりあえず、宿に着いてから考えるぞ!」


答えが出なかったんですねー。


「…はっ!そう言えば…ぼ、僕、お金無いです…」


ぬあー現実に気付いてしまった!!


「あーいいよ、フレイムリザードは山分けするから。あれならしばらく暮らせるだろ」

「…え、でも、僕逃げ回ってただけ…」

「なに言ってんだ?お前が囮になってくれたから、スキルを決める事ができたんだぞ?」


あ…やっぱり、あれ、囮だったんですね〜。


「それに、徒弟なんだから、まあ、なんだ、遠慮しなくていい」

「師匠…!!」

「それはやめろ」


睨まれた。


さて、しばらくそんな感じで雑談をしながら、道っぽい所を進むと、それは見えてきた。


「…あれは…」

「お、着いたな。あそこがワンダレル王国の要塞の一つ、ビオントだ。森に接している町の中でもデカイ方だな」

「要塞?」

「ああ、要塞の中に町がある、というか、町が要塞なんだよ」

「なるほど…森からの襲来に備えてるんですね」

「お前、理解が早いよな?」

「そうですかね?」


知識があるからってだけだと思うけど。


「まあいいや。とりあえず、あたしが話を進めるからお前は余計な事は言わないようにな」

「はい」


おお…異世界の町に…いざ、突入!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ