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のんびりとバタバタ。

五日目~上刻


 朝からがっかりした…。


※第三者視点有り

<ビオント付近 外域>


あっという間にキュリィ草を集め終わりました。

この依頼をこなす他の冒険者が今は殆どいないので、さくさくと見つける事ができるのですよ。

そしてポポも点々と群生していました。

ポポは根っこだけを切り取り、茎から上をまた土に植えておくと復活するそうです。

…めっちゃ強い植物。


「ふれんちとーすとー」


帰り道のヤハネさんのテンションについては放っておこう。


「思ったよりも早く終わったけど、どうしましょうか?」

「狩りをしたい」


レジーナさんの即答。


「あ、あの、私も外域でなくてもいいので狩りをしたいです」

「というと…?」

「南から出て少し歩くと森があるって聞いた」


へー。

…そういえば地理的な事知らないや。


「…ツルガの森。地鶏の生息地。あとシャリンがある。美味しい」


えーっと、地鶏がいてシャリンという食べ物も採れるんですね?

あーまたよだれが垂れそうな顔してるよ…。


「シャリンというのはどんなものですか?」

「…赤くて甘酸っぱい。中は黄色っぽい?」

「エッジはシャリンを知らないの?」

「いやぁ…何かと世間知らずなもので…」


世間というか世界ですけども。


「採れた実はそのまま食べられる。赤いもの程甘いよ」


レジーナさんが補足の説明をしてくれた。

この子は何かと教えてくれるからとても助かります。

それにしても、聞いた限りではリンゴが思い浮かぶ。

でも、野生のリンゴなんて見た事ないし想像がつかないなぁ。


「それって、ジャムとかにもします?」

「…ジャムは美味しい」

「あ、あの、種を取って煮詰めたりして保存用に作ったりしました!」


ヤハネさんの感想を引き継いで、ラーシアさんの実体験が語られた。

ふむ、それなりにありふれた果物という認識で良さげかな?


「ところでパイ生地とかってありますかね?」


アップルパイが食べたい。パイ生地のさっくりとした食感にしっとりした食感が合わさり、更にそこへザックリシャクっとした食感が甘酸っぱい味わいを引き立たせる、リンゴのスイーツの完成系の一つ。…たまにリンゴの食感が嫌いな方もいるそうですが、勿体無いなぁと思います。


「ぱい…?」


あ、分かってもらえていないらしい。

この世界には無いのかな?

小麦粉はあるのに思ったよりもバリエーションが無い?

料理の工夫があまりされなかったのか…そんな余裕が無かったのか…。


「それは何?美味しい?」


ヤハネさんが食いついてきました。

食べ物ですぐ釣れる残念エルフです。


「えーっと小麦粉を使った焼き料理、という感じですかね」

「パン?」

「えーっと、パンの派生?というか。バターを生地に使うんですよ」

「バター…」


そうか、バターはそこそこ高い代物。

だから一料理に贅沢に使おうとは考えないのかもしれない。

スイーツって、美味しいのを目指すと高くなるよねー。


「作れる?」

「え、僕がですか?…うーん、知識として作り方は知っているんですが…実際に作った事がないんですよ。でも、食べたいので挑戦はしてみます」

「…エッジはできる子」

「え、エッジさん、料理をなさるんですか!?さ、さすがです!」


ラーシアさんはいい加減に、その評価の仕方をなんとかして欲しいですよ。

幻滅されたらどうしようという不安が溜まる一方なんですが。


「エッジは物知りだね」


レジーナさんの笑顔を伴う一言に癒された。

あー、帽子が無かったらもっと癒されるのに。

普段はアニマと分からないように、2人は帽子を被っているのだ。

ちなみに尻尾は未だに見ていない…。


「それでは、ギルドに戻って軽く食べたら、そのツルガの森に行きましょうか」

「おー」


ヤハネさんのテンションがまた上がったらしい。

ここだけ見ると本当に可愛い少女なのにね。




<ビオント北西 深淵の森>※第三者視点


「…不自然な程に魔物がいねえな」

「ああ、これは…おかしい」


声を発したのは先日エッジに因縁をつけた男「ガランド」と、その仲間「アーナク」であった。


「浅域はまだしも…中域も静かだなんて不気味だぜ」

「やはりトルケリアの方へと流れているだけではないのか?」

「そう考えるのが妥当だが…油断はできん。過去に繰り返した過ちを我々が繰り返す訳にはいかん」

「…確かにな」

「小難しい事なんてどうでもいいじゃない~。私達が楽ならそれでいいのよ」

「…カポラ、口に気を付けろ」

「あら?じゃあアーナクが塞いでくれる?」


カポラの視線を受けたアーナクは、瞬間の怖気を振り払いなんとか視線を逸らした。


「…お前らちったぁ真面目にやれ。剛槍旋風にだけは負けられねぇんだ」

「アルセラちゃんね~。連れていた男の子は徒弟だってね。可愛い顔してたわ…うふふ」

「…ふんっ、外域で拾ったガキじゃねえか。あんなもん何にもならねえよ!」

「…あんた、まだ根に持ってんの?」

「…うるせえよっ」


ガランドはカポラの一言に思考が切れて、一瞬心身が怒りに染まった。徒弟を取るはずが無いと思っていたアルセラに、いつの間にか徒弟がついており何故か仲が良さそうだった。自分はあっさりと断られたのに、ガキ臭い男を徒弟にした。その事実が、無性に腹立たしいのである。


「くそっ、とっとと終わらせて、ランクを上げねえと…」

「…ガランド、目的を忘れるな」


アーナクのその言葉は、森の中に、特に響く事も無くただ消えていった。




<ビオント北東 深淵の森>※第三者視点


「やはり異常、か」


アルセラは単独で中域を進んでいた。

本来、ユニットを組まねば危険な領域だが、その実力と戦闘形式から単独でも問題無いとギルドから直に免責されているのだ。


「…エッジと会った時…いや、その前からか?」


アルセラの記憶では、この一月は森の動向がいつもと違っていたとある。各地のワタリトの事といい、変異種の出現の重なり。少なくとも、今までの経験とは大きく異なる状況であった。


「…ふっ、しかし早く戻りたいと思うのは久しぶりだな」


思い浮かぶ顔は少年な青年と2人の少女。


教えるという事を自分ができるとは考えていなかったが、何故か青年とは自然に話ができた。そう、自然なのである。余計な考えが無く、素直、または何も考えていないただの大様な青年。しかし、知識が豊富なのか理解が早く、それがまた楽に話せる要因となっていた。


教え、また教わるという徒弟を超えた関係なのも良い具合に作用しているのだろう。


「さて、エッジのお陰で身体も軽いし調査範囲をまずは終わらせるか」


アルセラの調査範囲は、ビオントとその東に位置するトルケリアという要塞の間で、今回の調査範囲では一番トルケリアに近い。その為氾濫に巻き込まれる可能性も高く、ランクを考慮してアルセラに依頼が来たのである。


そして、アルセラは実際にこの辺りであれば問題無かった。


…そう、普段であれば。




<ビオント北 深淵の森>※第三者視点


「!!」


その異変に気付いたのは、他の地域を調査していた者達であった。

中域の奥、深域付近を調査しようと進んでいたユニットで、5人の男達である。


「すげえ魔力が放たれたよな?」

「…ああ、そんな感じだった」

「お、おい!来るぞ!!」


感知能力の高い探索士が、それに気付いた。


「…退くぞっ!!」


大量の足音と地鳴り、そして見えない圧力に押されて、彼らは迷わずに元来た道を戻った。




<ビオント ギルド3階>※第三者視点


「調査が無事に済むといいけど…」


机の上の書類を一通り片付けて…とは言ってもまだ積まれた山が一つ残っているが…ぐっと背伸びをしてから肩を回す。そんなデスクワークのOLを彷彿とさせる彼女は、このギルドの副長を務めるメリル・コウ・セクターである。


「それにしても、エッジさんのまっさあじがこれ程効果があるとは…」


昨夜受けた癒しの技法は、メリルの身体をしっかりと癒していた。

だが不覚にも、あまりの心地良さに熟睡してしまうという失態を犯してしまった。


…と、彼女は考えていた。

実際、男の部屋でそんな無防備を晒したので、とりわけエッジと顔を合わせ辛かった。しかし特に何をされる事も無く、寧ろゆっくり休めた事を喜ばれるというなんとも気の抜けるやり取りがあり、有耶無耶になったのである。


(おヒト好しとは彼そのもののようですね)


ヒト当たりの好い笑顔を浮かべる少年のような青年。メリルの第一印象はそんな感じで始まり、現在では不思議な青年に落ち着いていた。あのアルセラが徒弟にしたというから最初はどんな男なのかと気が気でなかったが、初対面での奇声で、まず気がそがれてしまった。そして自己紹介での台詞に思考を一瞬止められて、更に独特の考え方に気が抜けて(ああ、こういう男もいるのか)という達観を得たのである。


また、ワタリトであるという事実がメリルには重要な事であった。このビオント、延いては国の為に役に立たなければならない立場である彼女にとって、エッジという存在は大事なものなのである。


「これ程一個人に興味を惹かれるのはいつ以来かしら…」


ふと、ネックレスに付けられている指輪に手をやる。


「何故か貴方を思い出すわ…」


指輪にはこの世界の文字が刻まれていた………「セドラル」と。




<ビオント ギルド1階>


「あれー?早かったね~」

「ちゃんと依頼は完遂しましたよ~」

「もう慣れた感じ?」

「いえいえ、頼れる仲間がいますから」

「…見た目はあれだけどね」


ユフィエスさんの言いたい事はよーく解りますよ?

でも、迂闊に言わないで欲しいですよ?

聞こえていたら僕が怒られるパターンですからね?

3人は待合所にいるけれど…アニマだから聞こえてるとか無いよね…?


「それにしても、エッジ君ってほんとに接しやすくて助かるよ。昨日さあ、やな奴に舌打ちされたり、ガキみたいな奴にあーだこーだ言われたりでさー…嫌になるよね」

「あー…その、お察し致します」


苦笑いしか浮かばないよ…。


「ほら、その新鮮な反応!」

「新鮮ですかね?」


至って普通の当たり障りの無い返しのような気がするけど。


「エッジ君は愚痴っても、何言ってんだコイツ、みたいな返しが無いから凄く良い!」

「そ、そうですか?」


褒められたのかなこれ?


「あ、そうだそれになんだっけ、まーさあじ?」

「マッサージですか?」

「そう、それ!私にもやって欲しいの!」


この瞬間、何故か視線が集まった気がした。それに妙な震えが…?


「暇な時でいいからさ、お願いできる?」

「えっと、まあ、肩周りなら一息くらいでできますが…」

「足のむくみは!?」

「えっと…まあそれだけなら同じくらいで…」


って、あなたは誰ですか!


あ、他の受付さんが何故か僕を中心に集まってきたー!?

見知った顔もあるけど、知らない顔もあってなんだか嫌な予感が…。


「ユフィエス!順番は?」

「ええっ?ちょ、みんな持ち場は…」

「いいから早く!」


何これ?


全部で6人…一人頭15分として1時間半だから半刻程か…っていやいやいや、やる気を出している場合ではなくて!


「それじゃエッジ君、よろしく?」

「丸投げ!?」

「エッジ…ふれんちとーすと…」


っく!ここでヤハネさんの乱入…だと!?

腕を摘むその姿に心惹かれるものがある…ような無いような?


「あ、あの、どうしたんですか?」


ラーシアさん、現状把握は大事だけどそんなおどおどした態度では呑み込まれて終わっちゃうよ!


「エッジは面白いね」


レジーナさんの笑顔に癒され…ている場合じゃないっ!


「あなた達は何をしているのです?」


わーい、メリルさんだ~。

氷の微笑という言葉しか当てはまらない、極寒の笑顔が眩しいです。


「こ、ここ、これは、その…」


ユフィエスさんの慌てっぷりが酷いけど、いつの間にか持ち場に戻った彼女達もまた酷い…。


「…エッジさん、説明をお願いしても?」

「あー、そのですね…」


ユフィエスさんが視線で訴えている。

間違いない、助けを求める瞳だ。

しかし僕は普通に応えることしかできないのですよ。


「…えー、マッサージを受けたいそうで、じゃあどうしましょうか、という感じでした」

「…どこで聞いたかはさて置き、それは当人同士の問題ですね。しかし…今は仕事中のはずですよ?」

「すす、すいませんでしたっ」


うん、素直に謝りましょう。

メリルさんはとても優しいですからね、怒らせない限りは。


「ふれんち…とーすと…」


おおっとちょっとビックリした!

ヤハネさんがいつの間にか背後に取り憑いていたらしい。

真後ろからボソッと呟かれるとホラーなんだけど!


「メリルさん、また厨房を借りますね。あとユフィエスさん、マッサージに関しては、夕方戻り次第でいいですか?」

「ほんとっ?お願いできるなら合わせるから大丈夫だよ!」

「ではそういう事でお願いします」


喜ぶユフィエスさんがとても可愛かったので癒されました。




<ビオント北 深淵の森>※第三者視点


紅い妖光を宿した瞳を揺らしながら、2本足、4本足で走る大群が5人に迫っている。

それらは流れる川の如く、大きな奔流となって彼らを呑み込まんとしていた。


「くそぉっ…間に…あわ……」

「ぐあっ…おいっ、なんとか足止めしろ!」

「ダメだ…魔力が、尽きた…」


彼らは走りながら背後から迫るものへと牽制をしていたが、それは大河に向けて一滴の水で抗おうとするようなものであった。


「ちく、しょ…ぅ」


中域の中程で、彼らは奔流に巻き込まれ大地へと呑み込まれていった。

そして、大群は何事も無かったようにそのまま進む。

彼らが向かおうとした先へと…。




特に深淵の森の周辺では、命があっけなく散る場所です。

殺伐とした世界ですが、そこに暮らす人たちは諦観と達観を併せ持っています。

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