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始まりは緩やかにしかし確実に。

五日目~上刻


 仲良く訓練をした。

う…狭い…?

これ…なんだろう?

暗くて分からないけど…ヒト?


「!?」


あれ?ちょっと待って、昨日いつ寝たんだっけ?えーっと、メリルさんに僕の部屋でマッサージしてたらそのまま寝ちゃったからそのまま寝てもらって、アルセラさんの部屋でアルセラさんをマッサージして…そこから…いつ寝たか覚えてないぞ!?


え!まさか…え?


ドキドキしてきたー!


このパターンだと…迂闊に動くと色々やらかすから、慎重に動こう。

ラッキースケベは女性には不快なだけだし。


コンコン


誰か来た!?

こ、ここは寝たふりをして、知らぬ存ぜぬを…


ガチャ


「…」


気配を感じるけど、無言なのは何故?


つんつん


ん?なんかほっぺを突かれているぞ?


「…おはよう」


…この声って…サティちゃん?

起こしに来てくれるなんて初めてなんだけど…

なんだろう、違和感が溢れ出てきたよ?


「…おとーさん、もう朝だよ」


……

………

…………えっ。


「…おはよう」

「ん。…お兄ちゃんはまだ寝てる」

「…ああ、疲れているんだろう。まだ寝かせておこう」

「ん。朝食の準備する」

「…ああ」


隣から温もりが消えて行きました。

どうやら僕は、まだゆっくり寝られそうです。

それではさようなら。


………くすん。




そして、不貞寝の二度寝から目が醒めると、すぐ隣に今度は何故かハーティさんが寝ていた。


「何をしているんですか…」

「…あ、おはよー。なんかエッジ君が悲しそうな顔だったから慰めてたのよ?」

「…ありがとうございます」


そんな風に言われたら、言いたい事も言えなくなるってもんですよ。


「…あの、ところで、どうして僕はここで寝ていたんでしょうか?」

「なんかね、疲れてアルセラちゃんの部屋で寝ちゃったから、パパが運んできたんだよ~」


あー、そういう事ですか。

アルセラさんをマッサージして力尽きたんだ。

僕の部屋にはメリルさんが寝ていたし、部屋もラーシアさんとレジーナさんが泊まって埋まってたからなぁ。仕方なく親父さんの部屋に運ばれたっていう感じか。


コンコン、ガチャ


「エッジ…あさ…だ……!?」

「アルセラちゃん、おはよー」

「な、な、な、なんで!?」


あっ。


もしかして一緒に寝てたと思われているっ!!

…実際そうだからなんかややこしいっ!!


「え?あれ?クラウブのベッドで寝たんじゃないのか!?」

「そーだよ~。私は二番目だよ~」

「…は?」

「アルセラさん、おはようございます!!説明しましょう!ハーティさんは親父さんが起きた後に、起こしに来てそのまま寝ちゃったんです!」

「違うよ~?慰め…

 「眠かっただけですよね!」

  …えー?んー、確かに眠かったけど~」


アルセラさんの表情が幾分落ち着いた気がする。

ハーティさんが説明すると、変な方向にしか行かないだろうからここは断固としてこちらのペースで話さねば!


「…あー、そういやハーティだもんな」


わあ…それで片付いてしまうんですね~。


「…なんかモヤモヤするよ~?」

「大丈夫です。ハーティさんは変に考え込まなくても良いんです。そのままで良いんです」

「そうかしら~?」

「…あー、エッジ、起きたんなら鍛錬するぞ」

「はい。準備して行きます」


…朝から疲れる…。




「おはようございます」


みんなと挨拶をして朝の鍛錬の始まり。

メリルさんとレジーナさんが組み手、アルセラさんとラーシアさんが組み手、僕はストレッチを。


「エッジさん、それは何をしているのですか?」

「柔軟体操です。身体の準備をしつつ、可動領域を広げているんですよ」


メリルさんもストレッチをするのが不思議らしい。

やっぱり、ゆっくり準備運動という習慣はこっちでは微妙かなー。

相手はスポーツじゃないもんね。


「身体の準備ですか。…効果の程はどのようなものですか?」

「怪我をしにくくするとか、自分の状態を知るとか、まあ、予防みたいな感じですかね」

「そうですか。それで、その動きで身体の柔軟性を高める事ができるのですか?」

「毎日やらないとダメですが、ある程度は効果が出ます。柔軟性が高いと動きに幅が出るので、それだけでもそれなりに動けるようになると思います」

「そういう考え方もあるんですね。参考になります」


環境で考え方は変わるからね~。

こっちの世界に早く慣れたいとは思うけど、考え方ってすぐには変えられないものだし難しい所だ。


それから、鍛錬を終えて朝食を済ませ…気まずいけど親父さんに御礼を言ったり、ハーティさんが変な事を言い出さないかドキドキしたりとここでまた疲れたよ…皆で一緒にギルドへ。




さて、今日からアルセラさんはしばらく森に入って調査をする訳で。僕とラーシアさん、レジーナさんとでユニットを組む事になる。ヤハネさんも入る予定だけど来るかどうかは、残念具合によると思う。どうなるかなー?


「エッジ、無理はするなよ。…まぁお前なら大丈夫だろうな」

「はい。アルセラさんも無事に戻れるように無理はしないで下さいね」

「フッ…お前に心配されるとはな…」


心配しますとも。

アルセラさんには恩を返さねばなりません。

まあ、あの実力を考えると大丈夫だろうなーと思うけど。


「ではアルセラ、行きましょう。エッジさん達は早目に受付を済ませて出発してくださね。調査隊と重なるとバタバタしますので」

「分かりました。では、気を付けて下さいね。無事を願っています」

「ああ、任せておけ」


力強いなぁ。

大丈夫、きっと大丈夫。




受付でサクサクといつもの採集依頼を受けて、ヤハネさんの家に向かいます。

すんなり起きたら一緒に行くし、起きなかったらそのまま寝かせるという流れですよ。


「ヤハネさんは起きてるかな」

「寝てそう…」


僕の呟きにすぐ反応したのはレジーナさん。

彼女も残念具合を見切ったようです。


「で、でも、ヤハネさんがいると心強いですよね!」


ラーシアさんのフォローが居た堪れないよー。

心強さと不安が見事に打ち消し合うから、結局残念に傾いたままなんだよね~。


カンカンッ


「ヤハネさーん朝ですよ~」


………返事が無い、ただの…


「あのっ、はちみつパンを持ってきました!」


僕のテンプレを遮ってラーシアさんが一際大きな声を発した。

はちみつパンって、何?


「あ、これ、ヤハネさんを起こすのに使ってみてとメリルさんが作ってくれたんです」


あー、そういえば朝食の後になんか厨房でやってたのはこれだったんだ。

でも、これで起きるのかな?


バタンっ


起きた。


ガチャッ


「はちみつー!」


だからその、おはよーみたいな感じで言うのはなんなんですか。


「あー、もう、髪がボサボサですよ?ちゃんと身だしなみを整えないと、はちみつパンはお預けですよ」

「…!!」


ヤハネさんの無表情が茫然自失な可哀想なものになったけど、甘やかすつもりはないですよー。


「さあさあ、まずは顔を洗いましょう」

「はちみつ…」


力無い呟きをその場に置き去りにして、ヤハネさんを水場…裏庭に井戸があってそこから水を貯めておく場所…に連れて行きます。


「ぷはー」


風呂上がりの飲み物を飲んだ後に聞く効果音が聴こえたけど、ヤハネさんが顔を洗っただけだよ?


「スッキリ」

「それは良かったです。あと、うがいもしてみて下さい。えーと、七つ数えるくらいやると、またスッキリしますよ」

「?」


ガラガラペッ、ではなくて、ガラガラガラガラガラガラ………ペッなのです。また、息を吐き出すようにするのも良いらしいですね。


「ぷはー」


えっ?ちゃんと出しましたよね?

うがいしたのを飲んでませんよね!?


「心なしかスッキリ」

「…それは良かったです。では、お待ちかねのはちみつパンをどうぞ」

「はむっ」


ラーシアさんが取り出したはちみつパンを即行で噛り付いたよ!ラーシアさんがビックリして顔を引きつらせた上に、ペタンと座り込んじゃったし。でも、パンはしっかり持ったままで偉いと思う。例えその光景が残念エルフにパンを捧げる子犬のようであっても…。


「満足した」

「行きますよ?起きて食べたからには行きますからね?寝るのは後ですよ?」

「…わかって…いた」


何故に過去形なんですか?


「お昼にフレンチトースト作ろうかなー」

「さあ行こう」

「………」


うん、お二人さん、これが残念エルフの異名を持つヤハネさんだからね。




「おう、エッジか。今日は嬢ちゃん達と遠足か?」


門の所でいつものおっちゃんにからかわれました。


「…引率はわたし」

「違います。アルセラさんが調査に行くので、ユニットを組ませていただいたんですよ」

「おー、そうか。今日からだったな。…最近森がおかしいようだからな、外域とはいえ、十分に気をつけるんだぞ」

「はい、もちろんですよ。それでは行ってきます」

「おう、頑張ってこい!」


おっちゃんは強面だけど、優しいんだよなぁ。

初日になんか凄く可哀想な奴と思ったらしく、会う度に気に掛けてくれるのだ。




「エッジ、ポポも集めて?」


外域のキュリィ草のある領域に到着して、さあ始めようとした所でヤハネさんのリクエストが入りました。


「…初耳ですが、この辺りで採れるものですか?」

「そう。ポポ茶に使う」

「ポポ茶?」

「…ポポの花の根っこを煮出した飲み物。薬用にも使われる」


…それはもしかして。


「それって花は黄色ですか?」

「そう。…知ってた?」

「あ、いえ、似た物を知っているので…それは、苦味や渋みもありますか?」

「ある。…砂糖を入れて飲むと美味しい」


あ、やっぱり甘いのは外せないんですね。


「私は苦手です…」


話を聴いていたラーシアさんが、味を思い出したかのように渋い表情になっている。


「私も苦手。でも体に良いって聞いた」


確かタンポポ茶とかタンポポコーヒーも、漢方的な使い方もあったはず。そういえば、知っているものに近い花とかは気にせずにいたな…。よくよく考えると、全部同じ物ではないんだよね。やっぱり余裕が無かったのかもしれない…。


「では、見つけたら教えて下さい。それを参考にしますので」

「…そうする」


さてさて、まずはキュリィ草から探しますよ~。



ポポ…地球のタンポポによく似た花。ただし、こちらの根にはカフェインのような成分が含まれるのである程度の覚醒作用がある。


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