訓練場は訓練をする所。
四日目~下刻
フレンチトーストが美味しかった。
訓練場に下りてきました。
人はいないので気兼ねなく練習できそうです。
「2人は武器は使うのか?」
「あの、私は盾と剣を使います」
ラーシアさんは堅実な感じ?
「籠手を使う」
レジーナさんはやはり体術中心のようだ。
「…エッジは?」
「僕はまだですよ。先に魔法を優先させているんです」
「…そう。それなら強化魔法を早く覚えるべき」
ヤハネさんが真面目な意見を言っている。
確かに身体強化は安全性が高まるから使えるに越した事はない。
「私が使うよ」
レジーナさんが自己申告してくれた。
もしかしてあの時も使っていたのかな?
「エッジ、お前達はそこで合わせてろ。…メリル、少し付き合ってもらえるか?」
「…いいわよ」
おお?メリルさんの雰囲気が変わった。
木製の武器をアルセラさんが用意している…槍斧と、剣…レイピア系だ。
「メリルさんって剣を使うんですね」
知っていそうなヤハネさんに訊いてみた。
「魔法剣士はそうそう成れない。メリルは強い。…怒らせちゃダメ」
その原因を作るのは誰なんでしょうね~。
「エッジ…さん、お願い、します」
レジーナさんが…ぎこちない。
「レジーナさん、普通に話してもらって大丈夫ですよ」
「…分かった。じゃあエッジ、組手しよう」
ラーシアさんはそうでもないんだけど、レジーナさんの言葉に違和感があったのはおそらく、翻訳スキルの関係もあるのかもしれない。…本当は語尾に「にゃ」とか付いてたりして…。
「エッジ?」
「おっと、考え事をしていました。えーっと、とりあえず軽く打ち込んでもらって、それで様子を見るという感じでいいですか?」
「分かった」
「レジーナ、加減を間違えないようにね!エッジさん、が、頑張って下さい!」
レジーナさんと向き合い、構える。
構えは半身の自然体から、軽く手足の関節を曲げた状態だ。
「行くよ」
無音なのに力強い踏み込みで、レジーナさんが目の前まで一気に飛び込んで来た。空気圧を感じながら、重心を後ろに移動して後退、レジーナさんの右ストレートの掌底を距離で躱す。
すぐに加速したレジーナさんの身体は沈みながら、下段の回し蹴り!?
「っふ」
下腹部に力を込めて、後方へ跳ぶ。
レジーナさんの身体がブレた。
「ぐっ」
右からの中段蹴りを腕に受けた。
痺れで動きが鈍り、鳩尾へ向かってくる左のストレートを半分受けて半分くの字で逃す。
「うわっ」
追撃の中段前蹴りを右にずれて躱すが、更に後ろ回し蹴りが飛んで来る!
仕方ないからエアバッグを形成。
「!?」
空中で止まった蹴りにレジーナさんの動きが止まる。
その隙を見逃さず、距離を置いて再び構えた。
「今のは何?」
「風の塊、かな?」
「押し返されると思わなかったよ」
「お陰で脱出できました」
「私の動きについてこれるんだね」
なんだろう、妙に流暢なレジーナさん。
表情もキラキラ、ワクワクという感じだし。
ひょっとして普通に話せるのかな?実は本当にヒト見知りなだけだったとか?
「ちょ、ちょっと、レジーナ!加減間違えてない!?」
「大丈夫だよ。エッジは視えてる。動きは危なっかしいけど」
「…エッジ、強化魔法使ってる?」
「使ってないと思いますが…」
ヤハネさんが不思議そうな表情だ。
「…猫種のアニマの動きに素人がついていけるなんて信じられない」
ヤハネさんが真面目モードに?
「それに防御魔法を使っていた?文唱無しで」
あっ。
「…どういう事?」
文唱無しに関しては置いといて、実は僕も不思議に思っていたんだけど、何故か動きが良く視えるんだよね。例えば、どんなに速そうな動きでも一連の流れとして認識できるのだ。だから、アルセラさんのスキルとかも視えたし、害獣とか魔獣の動きも視えた。
可能性があるのは、加護にあったアレなんだよなぁ。
※時空神は気になっている。
って、もしかすると凄い加護なのかもしれない…。
「…何かしらのスキル?っぽいです」
とりあえず曖昧に言っておこう。
「鷹の目系?」
そういうのがあるんですね。
「かもしれません」
「むー、適当にごまかされた」
バレバレですね。でも、迂闊な事は言えないのですいません。
「そのうち、ちゃんと説明できると思いますので今は勘弁して下さい」
「…約束して?」
おおぅふ…美少女からそんなお願いをされたら二つ返事で約束します。
が、しかし、残念エルフの称号が相殺させてしまう訳で。
「善処します」
「…そろそろいい?」
あ、レジーナさんが律儀に待ってくれてたんだ。
「はい、お待たせしました。次は僕も攻撃をしてもいいですか?」
「もちろん。…楽しくなってきた」
ニコッと微笑むレジーナさん。
あどけない可愛さの中に、野性味が一瞬窺えたのはきっと気の所為だ。
うん、気の所為だよね。
おや?レジーナさんの身体を魔力が覆った?
…と思ったら次の瞬間には、目の前にレジーナさんの掌底が!
フォッ
身体を捻って崩れ落ちるようにそれを躱したけれど…
どっ
足を払われチェックメイト。
攻撃する暇も無かったよ?
「さすがにそれは無理…身体が付いてきません」
そう、視えても対応できるかは別問題。
だから今は武器を練習するよりも身体を使えるように練習しているんだよ~。
「今のは10段階の8くらい。エッジは凄いよ?」
「ありがとう。でも、次からはもっと優しくお願いします…」
受身を取った右手がジンジンしております。
「エッジは変だけど面白いヒューマだね」
「す、すす凄いですよ!エッジさん!魔法士の方でもあんなに動けるんですね!」
「魔法士って、魔法しか使えないものなんですか?」
「…称号を知らない?」
初耳です。
「冒険者なのに称号を知らないの?」
少なくともアルセラさんからは聞いてないですね。
「説明を聞かなかった?」
「そういう事になりますね~」
レジーナさんの突っ込みにドキドキしますよ~。下手な事は言えません!
「…称号は加護の一種。魔法士なら魔法を、剣士なら剣を使い続けると、称号が名前の前に付くようになる。ステータスを確認すれば分かる」
ヤハネさんの真面目モード発動だ。
話を聞いた感じだと、ジョブとかパッシブスキルみたいなものかな?
ギルドの神器で分かるのか…僕もそのうち付くのだろうか。
「効果の方は…?」
「…魔法士は魔法が使い易くなるとか、剣士なら剣の扱いが良くなるとか」
「能力の上昇補整という感じですね」
「…凄い称号ならもっと良くなる。魔法士だと上位に賢術士、魔導士、剣士なら覇剣士、剣闘士とある」
「派生があるんですね。それはやはり特徴で変わるんですか?」
「そう。例えば、賢術士は魔法に関して全体的な能力が良くなる。魔導士は魔力に関する能力が良くなる」
「ちなみに、称号の獲得条件は分かっているんですか?」
「…はっきりはしていない。ただ、魔法士なら魔法をとにかく使い続けていれば必ず付く事が確認されている。一応、魔法の神に認められた時に付くと伝えられてはいるけど、確かな事は解らない」
もしかして神様はちゃんと見ている、という事?
でも、一人一人確認するとか…できなくはないのか?
検索能力があればいい訳だし、なんたって神様だし。
しかし…この世界の神様は随分と、ヒトに関わりがあるらしい。
ちゃんと調べてみるべきかな、これは。
「普通、魔法士だと魔法の練習しかできないから、格闘能力は低い。でもエッジは魔法も使えてあんなに動ける。…おかしい」
断言しないで下さい。
そもそも、魔法士では無いんですけどね~。
ラーシアさんがそう言っているだけで。
魔法を使うヒトを魔法士と呼んでいると思っていたから、否定もしなかった、ただそれだけなのに。
「えーっと、称号に関しては確認していないので分からないんですよ」
「ええっ!?え、エッジさん、称号も無しであんな魔法を!?」
ラーシアさんが一々大袈裟だよー。
「…どんな魔法?」
ヤハネさんが喰いついてきたー!
「土の範囲攻撃、光?の範囲攻撃?とか凄かったよ」
レジーナさん、ここでそんなに喋らなくてもいいんですよ~。
「…エッジはおかしい」
ヤハネさんがにじり寄ってくる。
「…お前ら、何をしてるんだ?」
救世主登場!
「戯れている暇は無いんですよ?」
メリルさん…薄っすらと汗をかいているのか、何やら色っぽさが増している気がする。
「ヤハネ、お前はちょっとこっちに来い。メリルから話があるから」
「…な、なぜ?」
僕の後ろに隠れないで下さい。
メリルさんの笑っていない笑顔が僕にも向けられるんですけど。
「…怒られない?」
「疚しい事でもあるんですか?」
「ない!」
「では、問題ありませんね?」
「…ぅぅ…はい」
ヤハネさんが、トボトボとメリルさんの元へドナドナされて行った…。
「そちらはもういいんですか?」
「ん?…ああ、久しぶりにメリルとやったが、相変わらず速かった。魔法使われたら負けてたな」
マジっすか!?
「エッジもあそこまで行けるといいな」
…想像できないですよ。
……今はまだ、と思っておこう。
「それじゃラーシア、あたしとやってみるか?」
「あ、は、はいっ、お願いします!」
ラーシアさんは剣と盾、アルセラさんは槍斧。
ラーシアさんの盾の使い方で大きく流れが変わりそう。
「遠慮は無しだぞ」
「は、はいっ」
アルセラさんは中段に構えて、ラーシアさんは左の盾を前に半身の構え。
守りからの反撃かな?
「行くぞ」
その声と同時にアルセラさんはまっすぐ進み、突きを放つ。
カンッ
盾で受け流したラーシアさんは前に出て、剣を袈裟斬りにするが、アルセラさんは斜めに避けて、そのまま槍斧を振るった。
カッ
今度は受け流さずにしっかり受けて、体勢が崩れないようにしている。
アルセラさんは間合いを取り直すように動き、それに合わせてラーシアさんも、構え直す。
オーソドックスな戦いというか、堅実な打ち合いというか。
戦いって性格がでるものなんだな~。
「使い慣れてはいるようだな。どれくらいだ?」
「あ、はいっ、あの、8年くらいになります」
…8年!?…そういえば、2人の歳を聞いてなかったな。
「ほう…それなら戦士か?」
「は、はいっ、一応戦士です」
何気に強かったりするの?
実は、助けなくても大丈夫だったとか…
あ、でもあの時は武器防具が無かったんだ。
「あの、ちなみにレジーナさんは?」
確認しておこう。
「私は闘士。武器を使わない戦士だよ」
ふむふむ、そうなる訳か…。
「エッジはやっぱり無いの?」
「まあ、冒険者になりたてですしね」
「その前は?」
おっと、これ以上はまずいかな?
「まあ一人で適当に…」
「…エッジも色々あったの?」
…なんですかその上目遣いは!
もしも帽子を被ってなかったら、頭に手が伸びてた所ですよ!
「色々ありましたね~。アルセラさんに拾われなかったら死んでいたでしょうし…」
「…!……そう」
「あ、でも、今は絶賛冒険者満喫中ですよ?」
「…前向きだね」
むむ、どことなく寂しげな微笑。
「レジーナさんは今、どうですか?」
「…今、は悪くないのかな?」
「それで良いじゃないですか。少なくとも今を楽しめるなら、それは明日に繋がると思います」
結局は今を生きる訳だからね。過去は過ぎ去るものだから、それに囚われていると今を無くしちゃう。前に進むなら、今から先を考えていかないといつまでも過去を引きずって重くなるだけだから…。
「優しいね」
なんだか、ドキッとさせられました。
歳下に翻弄される…って、まさかの歳上がないように、一応確認しなければ。
「ところで、ラーシアさんとレジーナさんって、同い年なんですか?」
「ラーシアは一つ上で19だよ」
そうでしたか。確かにお姉さんっぽい振る舞いをしていた気がする。
「エッジが歳上だなんて信じられないよね」
そこはもう、頑張って納得しましょう。
「はっ、…っ、やぁっ」
カーンッ
あっ、ラーシアさんの剣が弾かれている。
「打ち込む時にまだ躊躇いがあるな。…怖いか?」
「は、はい、少し…」
「慣らすか、吹っ切るか、早目に覚悟しないとダメだぞ」
「そう…ですよね」
ラーシアさんは性格的なものなんだろうなぁ。
「盾の防御は良いが、その後だな」
「ぅぅ…」
…しょんぼりラーシアさんは可愛いと考えている場合ではないか。
何かアドバイスの一つもできたら良いんだけど、素人だからなー…。
「それじゃ今度は2人で来い」
「分かった」
レジーナさんとの連携を確かめるって感じかな。
「…エッジさん、少しよろしいですか?」
ん?メリルさんがヤハネさんとの話を終えてこちらに来たようだけど、なんだろう?
「明日からの依頼に関してです」
「なんでしょう?」
「基本的には外域での依頼を受けるようにして下さい。そして必ず、一人ではなくユニットで出て下さい。なるべくヤハネが一緒になるようお願いしましたので、遠慮なく連れて行って下さいね?」
「はい。…ヤハネさんは大丈夫ですか?」
「…エッジならいい」
とても素直になっているのは、脅されたとかじゃないですよね?
「エッジさんには苦労をかけるとは思いますが、悪くない条件ですので、ここはひとつよろしくお願いします」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」
何はともあれありがたい事だから、しっかりとお辞儀をする。
「これであの子達も加わるとなれば、外域ではそうそう問題にならないでしょう。…やはりアニマというだけあって基礎能力は高いですね。私も後で手合わせしなければ…」
メリルさん、戦闘狂じゃないですよね!?視線が鋭いですよ?
そんなこんなで、ヒトがちらほら入ってきた所で解散となりました。あとは宿に帰ってゆっくり休むだけ…と思いきや、マッサージの要望がアルセラさんとメリルさんから舞い込んできましたよ。アルセラさんは明日からの調査に備えて、メリルさんはあまり寝ていない疲れが溜まったようです。
僕も眠いけど…ここは一つ頑張って癒すとしましょう!!
あー…欠伸がでるなぁ………。
称号は所謂、ジョブみたいな感じです。




