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四日目~下刻
酔っ払いを撃退した。
のらりくらりと、質問を躱す事凡そ30分…こっちでいう二息…は長かった。女子のこういう質問攻撃って、下手に答えない方がいいらしい。名探偵も真っ青の頭脳を発揮して、些細な言葉から真実を見抜いたり、女性が生まれつき持つパッシブスキル「ザ・女の勘」があらゆる違和感を見抜くのである。
などと、仰々しい事を並び立ててはいるけれど、3人は裏表が無い素直な子なので、適当に流して答えている僕の心が段々と疚しさで埋まっていく訳で。
…なんだろう、純真な女の子ってこういう事を言うんだろうなと思いました。
「お前、仕事はどうした?」
4人で長椅子に座って雑談をしている所に、アルセラさんが戻って来た。
どうやら会議が終わったようで、雰囲気のある冒険者が階段を下っているのが見えた。先程のおっさん達と比ぶべくもない、そんな印象だ。
そして、どことなく空気が思いという雰囲気をひしひしと感じる…。
「アルセラ、終わったの?」
仕事に関してはスルーらしい。
「ああ、予定通り明日から調査に入る事になった。それでな、エッジはメリルに預けるつもりだったが、あいつもあまり自由に動けないらしい。…だから、まあ、エッジが嫌じゃなければ、ヤハネに頼もうかと思うんだ」
あ、やっぱりヤハネさんの扱いはそういう感じなんですね!
僕は嫌だなんて、言ってないのになぁ…
…うん、言葉には出してなかったはず。
「えーっと、僕はヤハネさんを部分的には信頼していますので、それで構いません。ただ、ヤハネさんはどうなんですかね?」
「ああ、あいつは大丈夫だ。読書の邪魔をしなきゃいいだけだからな」
…逆に邪魔をするとヤバイという事ですね、解ります。
「ちょっとちょっと、アルセラ?その、大丈夫なの?」
ユフィエスさんが何を心配しているのか、そんな事は分かるに決まっているのだ。
「エッジは大丈夫だぞ。ヤハネを制御できる数少ない存在だからな」
…これ変な称号とか付かないよね?
「…エッジくんって、やっぱり普通じゃないんだね」
ちょっとユフィエスさん、そういう納得のされ方は凄く嫌なんですが!
「へっ、女子供が集まって煩いったらありゃしねぇ」
冒険者の一組?…4人の男達…が態々こちらに来て、先頭を歩いていた男が大声でそう言った。
そんなに周りに迷惑を掛ける程、煩くは無かったと思う。
…でも、まあ、これは因縁を付けられているんだろうね~。
「ここは遊び場じゃねえんだぞ?」
再び大声で言ったその男は、僕達を一人一人睨むように見回している。
外見は赤茶系の、やや中肉中背という印象。
…男の容姿の扱いなんてこんなもんだ。
しかも、態々イチャモン付けてくるような輩な訳だし。
「…ガランド、そんな奴らに構うな。明日に備える時間が惜しい」
窘めているようで、こちらを馬鹿にしている…
このタイプはきっと参謀に違いない。
でもね、構うなって言うならこっちに来る前に止めるべきなんだよね。
その台詞を言った時点で、貴方も同じ穴の狢なんだと思う。
「ちょっとー、早く行きましょうよ~。必携品も買わないと足りなくなるしー」
…おかしいな?
女性っぽい声が冒険者の一組の方から聞こえてきた気がする。
「テメェは黙ってろ!ゼーム、そいつと一緒に先に市場に行ってろ」
「…ああ。…行くぞ、カポラ」
「もー、あんたも早く来なさいよー」
そんなやりとりが終わり、2人の『男』が去って行った。
突っ込まないぞ!アレには突っ込まないぞ!!
「…ちっ、勝手な野郎だ…」
その台詞に、女性陣の胡乱な視線が集中する。
「ああっ?何見てんだよ!!」
「注目されたいんじゃないの?」
「はあっ?テメェ何言ってんだっ!」
おっと、思わず突っ込んでしまったようだ。※確信犯です。
「目立ちたいから、こうして僕らに構っているのでしょう?」
「ガキが上からものを言ってんじゃねえよっ!」
「ちなみに僕は24歳ですが貴方は?」
「はっ?にじゅうよん!?…っ、俺は18…だが!テメェよりも上だ!!」
…うわぁ…何このヒト。
小物臭が漂ってきたよ…。
「…何が?」
あっ、レジーナさんが心底不思議そうに首を傾げている!
癒される~、可愛いなぁ~。
「歳も下、背も下、…頭も下?」
ぉおーいっ!?言い過ぎ!言い過ぎてるよっ!?
しかも、おそらく背に関しては…
「ち、チビじゃねえっ!テメェよりはでかいだろうがっ!」
ほらぁ…さっき態々「やや」って曖昧にしておいたのにー。
そして、でかいって言ってるけど、レジーナさんと然程変わらないからね?
僕よりも大体頭一つ低いからね?
「おいっガランド、それ以上は…」
「ちっ!アーナク、行くぞ!」
あれ?すんなり引くの?
「…」
と、思っていたら、アルセラさんの方から見えない圧力が放たれていました。無言なのが余計に怖いです。重力に何かが足されて、のし掛かってくるようなそんな感じです。背筋も嫌な感覚がまとわり付くように、ぞわぞわしております。
「…結局、なんだったんですかね?」
アルセラさんへと、空気を変えるように軽い感じで訊いてみた。
「…ちょっとな、あたしが気に入らなかったんだろう。…悪いな、嫌な思いをさせてしまった」
「それは、別に大丈夫でしたけど…ね?」
一応、ラーシアさんとレジーナさんにも確認。
「あ、は、はい!なんかエッジさんとレジーナのお陰でちょっと面白かったです」
ラーシアさん、意外と強かなの?
「…同感」
「…お前ら…結構図太いな」
アルセラさんが苦笑している。
…アルセラさん、敢えて手を出さないようにしていたみたいだな…
何か理由はあるんだろうけど、大丈夫かな。
「ま、あいつらも下手に手を出す事はしないだろう」
「は~…アルセラ、ちゃんと説明しないとダメでしょ?エッジくん、知っておいてね。彼らは貴族の後援がある冒険者なの」
ユフィエスさんのお姉さん的な説明を聞いて納得。
「…なる程。迂闊に手を出すと貴族が出てくるという事ですね?だからアルセラさんも我慢をしていた訳ですか。ふむ、そういう制度?もあるんですね。…傲慢な態度の助長になりそうだけど…資金援助とかは必要だし…悪くは無いか」
「エッジくん…私の説明要らない?」
ん?
…あっ、女性陣がぽかんとしている!
「あー、えっと、背景が見えたので、また細かい事は分からなくなったら聞こうかと思います」
「…なんっつうか、時々できる男になるよな、お前は」
時々って。
アルセラさんの歯に衣着せぬ物言いは好ましいですが…
もうちょっと評価が高くなりたいなぁ。
「え、エッジさんって、やっぱり高等教育を受けてらしたんですねっ!」
逆に、ラーシアさんの無駄に高評価は遠慮したいです!
「…貴族?」
「違います」
レジーナさんの疑問には間髪入れずに答えた。自らを貴い存在などと…それはある種の中二病ですよ。これを経験した事があるなら分かるはず。そして、そこから恥ずかしさや謙虚さを理解するんだと思う。
…歪んだ貴さを持たないようにしたいものですよ。
そして、そういう貴族ばかりじゃない事を願いたい。
「さて、それじゃヤハネの家に行くか」
「はい。…あ、二人はどうします?」
「あ、えと、わたっ私達もご一緒してもいいでしょうか?」
「うーん、ヤハネの噂は聞いてるんだよな?」
「あっ、はい」
ラーシアさんが答えると、レジーナさんも一回首肯した。
「それならまあ大丈夫か。二人なら問題も無いだろう」
「あ、ありがとうございます!」
「…ありがとう」
という訳で、ユフィエスさんはお仕事に。僕達はヤハネさんの家に向かう事になりました。
ヤハネさんの家に着いて呼び出して…カンカンと鳴らすタイプ…みたけど、予想通り反応は無し。アルセラさんが合鍵を持っているので、すぐにそれで中へ入ると、妙な静けさが漂っていた。
間違いない、ヤハネさんは爆睡している…!
そして噂のヤハネハウスの二階に、遂に足を踏み入れる。
「あー…これは…酷い」
階段を半分程上った時点で、なんか、床が凸凹してるなーと思ったんだ。
思わず感想が口からだだ漏れしたよ…。
「本と、紙…ですね。そして服…?」
もしかしなくても、あれは下着ですよ。
ええ、おパンティさんですよ。
ここはまだ廊下のはずだけどなぁ…。
「こ、これは…」「…しまい忘れ?」
ラーシアさんは言葉に詰まり、レジーナさんは何故かポジティブ。
しまい忘れにしては、床一面に散らかり過ぎじゃありませんか?
「あー、左の方が寝室だから、とりあえずそっちに行こう」
アルセラさんの誘導で、探検隊は道無き道を進む。
「ここだ」
ドンドン
あ、コンコンじゃなくて、いきなりドンドンなんですね!
「ヤハネー、起きろー」
………。
「ご飯だぞー」
………。
「…甘くて美味いぞー」
ガタッ、バタバタ…ガチャ
「砂糖ー!」
おはよー、みたいなノリで砂糖って。
「…?」
ヤハネさんは砂糖を探しているのか、キョロキョロと周囲を見回して、それから僕の後ろの2人に視線が流れると、不思議そうな表情になった。
「誰?」
「お仲間じゃないか?」
「…?」
「あ、その、私はラーシアと言います!」
ラーシアさんはそう言って、被っていた帽子を取った。
「…えっ」
耳が…随分と上に付いてる。
うん、そういう事じゃないよね。
そう、つまりは…
「ケモミミキター!!」
「!?」
おっと、あまりの衝撃に感情が振り切れてしまったよ!
遠目で見てはいたけれど、こんな間近にふさふさふかふかしてそうな可愛いケモミミが!!
ぴこぴこと動くお耳さんが堪りませんな~。
この感じは犬系か狼系かな~?
「…エッジ、お前は時々変だけど、今回はどうした?」
あー、冷静なアルセラさんの澄んだ声が心地良いですよ~。
「これはですね、えーっとアニマっていうんでしたよね?こういうのもまた、憧れていた存在でして、エルフと同じくらい間近で見たかったんですよ」
「そうか。…って事は偏見は持ってないんだな?」
「偏見ですか?うーん、存在自体がもう可愛いと決め付けているくらいですが…」
「ならいい。ヒューマ至上主義が偶にいるからな。気を付けるに越したことはない」
「あー、やっぱりそういうのあるんですね~。ま、僕は大丈夫ですよ」
「…やっぱり変なヒューマ」
レジーナさんはそう呟くと、徐に帽子を外した。
「私は猫種のアニマ。…よろしく」
「ネーコーミーミーだーーーっ!!」
「煩い」
ペチッ
ヤハネさんにチョップで額に突っ込まれてしまった。
鼻を掠めて微妙に不快な痛みだよ…。
「すいません。猫耳は浪漫なんです」
「「「???」」」
あ、周りに凄い数のクエスチョンの幻影が見える。
「えーっと、なんていうか、短いけれど程良い弾力とツヤがあって、丁度良い触り心地の猫毛が素晴らしい訳ですよ」
「褒めてくれた?」
「褒めるというか崇める勢いです」
「レジーナばっかりずるい…」
ラーシアさんがボソッと呟いたのを、聞き逃さなかったぞ。
「ラーシアさん…比べるものじゃないんですよ」
ラーシアさんの肩に手を置いて、やれやれと首を振る。
「それぞれがそれぞれに、至高なんです。ちなみに、ラーシアさんは、何種になるのでしょうか?」
「え、あの、わ、私は狼種でしゅっ」
ありがちな噛み方だよね!
「…ラーシアさんのそのモフモフ感は、柔らかい毛質と微妙に長さの違う毛によるものです。猫系とはまた違う、それもまた素晴らしいのですよ!!」
「あ、ぇ、ぁありがとうございます…」
「…エッジは何をしに来たの?」
置いてけぼりのヤハネさんが、首を傾げています。
うん、本来の目的から逸脱してるのは分かっていますよ?
でもね、可愛いんだから仕方ないのです!
「…一応、明日からの予定が決まったからその報告と、地下室を借りに来たんだよ。…まさかアニマにこんな反応するとは思わなかったよ」
「エッジはアニマを初めて見たの?」
「何回かはギルドで見ましたよ?でも男だったし遠目でしたからね」
「…そういう事」
「お騒がせしてすいませんでした」
「…今度はわたしをもっと崇めて?」
…天秤が大きく残念に傾いている今、それは難しいですよ?
「また始めてどうする…それより、ちょっと話をするから落ち着ける場所は空いてないか?」
「むー、エッジ、何とかして?」
「無茶振りですね…うーん、一階に食堂とかないんですか?」
「…ある?…と思う」
なんで微妙に疑問系?
自分の家ですよね?
「とりあえずそちらに行きましょう。あ、なんでしたらなんか食べるもの作りましょうか?」
「作って!」
おおっと、胸ぐら掴まれた。
「材料は…
「ない」
…ですよね~」
ふーむ。簡単に作れるのはアレか。
「パンと乳と卵とバターと砂糖って、揃いますかね?」
「バターは高いぞ?他のはまあ揃うだろう。砂糖はこいつが常備してる」
「じゃあ、買いに行きますね」
「いや、エッジは作る場所を確保するべきだろう。あたしが行った方が早い」
そういえば、どこで買うとか分からないんだった。
「では、お願いしても良いですか?」
「あたしの分も作るよな?」
「材料があれば大丈夫ですよ」
「よし、じゃあ行ってくる」
何故かアルセラさんがやる気です。
これは期待を外さないように頑張らないと…
っていうか、場所を確保ってどういう事?
「あの、食堂があるなら、厨房もあるんですよね?」
「開かずの間」
これは…まずいんじゃなかろうか。
「あ、あの、私達もお手伝いしますよ!ね、レジーナ!」
「美味しそうな予感がするから手伝う」
…レジーナさんって、ヤハネさんと姉妹って言われても違和感無いと思う。
そして我々は今、扉の前に立っている。地下の重厚感のある扉とは打って変わって、普通の扉である。しかし、その取っ手には埃が積み重なっているのが見て取れるので、長年使われていなかった事は間違いなく、最早、普通の扉という表現はできないだろう。
「ここ、ですか」
「…そのはず?」
とても重苦しい空気感が漂う。
大きく息を吸い込み、取っ手に手を掛ける。
ぐっと力を込めて回すと、ギギっと固い感触が手に伝わってきた。
「行きますよ…」
ガチャッと封印が解かれ、遂に、開かずの間がその姿を現わす。
「…臭い」
レジーナさんが一言、ラーシアさんも表情が歪んでいるので、2人には結構きついのだろう。確かに、これは所謂カビ臭いというやつで、どんよりじわじわと鼻を刺激してくる嫌な臭いだ。
「…これはまさか、本当に一度も使っていないとか?」
「…何故分かった?」
「足元をご覧なさい!!」
床に、層が、埃の層ができている!
「ここで作った料理を食べたいですか?」
冷静にそう言ってから3人の顔を見回すと、それぞれが全力で顔を横に振り始めた。
「間違いなく、今から掃除をしたら今日が終わりますよ、これは…」
「…ごはん」
しょんぼり娘になってしまった3人を一旦放置して…さてどうしよう。むう…厨房があるとなると、宿屋、食堂とか。でも、そこを借りて自分で作るとか、どうなんだろうか?使用料とか払えばいけそう?でも僕にそんな余裕は無いし…あっ、そういえばギルドはどうなんだろう?
「ヤハネさんに質問です」
「…なに?」
「ギルドって厨房はあるんですかね?そして借りたり…
「さあ行こう」
…できるんですね」
早いよ、答えるのが。
「アルセラさんが戻ってきてから…」
「戻ったぞ!」
早いよ、戻るのが。
「やけに早かったですね?」
「走ったからな」
…一体アルセラさんを突き動かしているのはなんなのだろう?
「えーっとですね、実は、厨房がこの状態なので…
「食えないのか!?」
…ギルドで作ろうかと…
「さあ行くぞ!」
…思いましたので行きましょう」
なんていうかね、こういうテンションの女性には逆らってはいけないんですよ。
流れに身を任せるのです。
決して、ただ流されている訳ではありませんよ?
再びギルドに戻って来ました。
ユフィエスさんに頼んでみると、あっさりと職員用の厨房を借りる事ができました。あまり使われないので、ご自由に、との事です。それと、ギルド内に宿泊施設があり、そこに泊まる冒険者にも開放しているんだそうです。
「で、何を作るの?」
ユフィエスさんがテーブルに載せられた材料を見て聞いてきました。
が、逆に問おう。
「仕事は…?」
「暇だから大丈夫」
…後でメリルさんに怒られても知らないぞー。
「えー、フレンチトーストを作ります」
「…何それ?」
あれ?簡単に作れるからあると思ってたけど…。
「パンに卵と乳を絡めて、焼きます。朝ご飯に丁度良いお手軽料理ですよ」
「…砂糖は?」
ヤハネさん、そんな顔をしなくても大丈夫ですってば。
「絡めますよ。そして、本当は蜂蜜かメープルシロップがベストなんですが、今回はベリージャムを使います」
「??…卵に乳に砂糖??」
「卵と乳はお菓子に使える偉大な素材ですよ?」
「…なん、だと…!?」
驚く一同に、僕は思う。
なんだこの小芝居は、と。
ヤハネさんとアルセラさんは一歩下がって驚愕の表情、ラーシアさんとレジーナさんは、口に手を当てて目を見開いて、ユフィエスさんは卵と僕の顔を交互に見て…
「あの、もう作ってもいいですかね?」
「…うん」
まずは、卵を割ってときましょう。
そこに乳…おそらく牛乳…と砂糖を適量、そしてかき混ぜる。
パンは柔パン。食パンほど四角くはないけどまあ大丈夫。
僕はヒタヒタ派なので、ちゃんとパンに卵液を染み込ませる。
ちなみにこのパンは比較的染み込み易いので、それ程時間は掛からないようだ。
そして、フライパンにバター…香りと風味が良くなるからバターが良い…をしいて、と。
「香ばしい…」
レジーナさんが鼻をヒクヒクさせている。
そういえば、彼女達はご飯を食べてなかったのかもしれない。
「では焼きます」
ジュワーっと、バターとパンに染み込んだ卵液が蒸発する音はテンションが上がる。
この感じだと表面カリカリでいけるかな?
理想としては、カリッジュワーモニュモニュという感じ。
「確かに簡単な料理だな」
アルセラさんが妙に感心しているようだ。
「エッジくん、これ、自分で考えたの?」
「いえいえ、故郷の料理ですよ」
「こんな作り方があるのね~」
ユフィエスさんも感心しているらしい。
うーむ、料理も気を付けるべきかなぁ…
でも、これは簡単だし何より好物だから良しとしよう。
「っと、焼けましたね、では皿に…はい、ヤハネさんどうぞ。とりあえず、まずはそのままどうぞ」
「おー」
何故拳を突き上げたのでしょうか?
「はむっ」
さて、どうかな?
「はむはむ!!ほいひー」
ん、大丈夫みたい。
「卵と乳と砂糖が良い具合に混ざってる…これに蜂蜜とかかけたら…」
あー、またよだれが!
「とりあえずジャムでも美味しいですよ、どうぞ」
「こんな食べ方ができるとは知らなかった。エッジは良い働きをした」
「はいはい、口から垂れてますよ~、これで拭いてください」
「エッジ、あたしの分は!」
「はーい、どんどん焼いちゃいますね」
アルセラさん、甘い物が好きなんだなー。
その内ケーキとか食べさせてあげたいものですよ。
さて、あれよあれよとフレンチトースト祭りが一段落して、のんびり紅茶をいただいております。
そこへやって来たのは…
「あなた達は何をしているのです…?」
美人秘書メリルさんです。が、何やらお疲れのご様子。
…色々事務作業とかあるんだろうね。
「フレンチトーストは美味しい」
ヤハネさんの実に簡潔な説明。
「それは一体…?」
まあ、今来たメリルさんには伝わらないけれど。
「ヤハネさんに朝食を作ったんです」
「…すでに中刻も過ぎているのですが?」
「…じゃあ昼食でいい」
「ヤハネ、また夜通し本を読んだのですか?それと、何故態々ギルドに来たのです?あなたの家………は、ダメでしたね」
おお~、メリルさんは自分で答えを理解したようだ。大正解であります!
「それにしてもエッジさんは、女性と仲良くなるのがお上手なんですね」
あれー?
何だか矛先が鋭くこちらに向いている気がするよ?
「別に悪いとは言いませんが、男の冒険者の前では気を付けてくださいね?」
おや?これは…忠告って感じなのかな。
「絡まれる原因、ですか?」
「ええ。すでに経験されているでしょう?」
「あれもそういう事ですか…」
「それだけ、とは言いませんが、要因の一つでしょう。エッジさんの場合、絡みやすいというのもありますから、余計に気を付けていただければと思います」
「はい。注意します」
僕も別に絡まれたいわけじゃないし、仲良くできないならそれはそれでいいんだ。
「あー、メリル、あたしがいない間…頼む」
「できる限り目を離さないようにします」
子供じゃないんだけども。
状況的に仕方ない、か。
「わたしがついている」
も、じゃなくて、が、なんですね。
その場合は不安がとても大きくなるだけなので、是非とも考えを改めて欲しいものです。
「エッジさん、ヤハネを巧く利用してくださいね」
言い終わると同時のスマイル。
メリルさん、ヤハネさんが怯えているので止めてあげてください…。
「…わたしにはエッジが付いてる」
それは逆ですからね?
そして、メリルさんへの抵抗力なんてこれっぽっちも無いですからね?
「そうだ、どうせなら訓練場で組手をしていくか?」
「?」
「この2人はアニマだから前衛だろ?エッジと組むのに悪くない訳だ」
「そういえば、レジーナさんのあの動きは凄かったですよね」
「2人も援護できる奴がいた方が何かと良いだろう?」
「ええっ、あの、でも、私達と組んでもらえるんですか!?」
「何か組めない理由がありますか?」
「…ラーシア、エッジは変だから大丈夫」
「そ、そうだよね!」
…変で通じ合うのは止めて欲しいなぁ。
「とりあえず、お手柔らかにお願いします」
この2人はどれくらいの強さなんだろう?
アニマっていうくらいだし、身体能力は高いだろうとは思うけど。
ま、ボコボコにされない程度には頑張ってみようっと。
アニマ…所謂獣人。ほぼ人の姿です。耳と尻尾や爪、筋肉や瞳に特徴が現れます。
フレンチトーストは甘い方が美味しいという持論。




