出会った女性が可愛いけれど、皆ただ者ではない。
四日目~中刻
盗賊を撃退した。
ビオントまで戻って来ました。
途中、馬に引きずられていた盗賊が、もう歩けるからと泣きながら訴えてきたり、それを冷めきった目で見つめる女性陣に男性陣がジワリと嫌な汗を滲ませたり、キュリィ草の事を話したら、道すがらにラーシアさんとレジーナさんが見つけてくれたりと、充実?した道中でした。
「おいおい、随分と大所帯になったじゃないか?」
門番さんが呆れ驚いている。
まあ、朝出て、昼に10人以上連れて戻って来るんだから、そうなるよね。
「どうやら東の方から流れて来た盗賊らしい。あとは頼んでいいよな?」
「ん?トルケリアの方からか。さては氾濫の噂を聞いて怖気付いて逃げ出したな?」
「そうじゃねえよ!こっちに来りゃ稼げるって聞いたから来たんだよっ!」
門番さんの言葉に頭目が反論しているけど、無駄だよね~。
むしろ大人しくしていた方が良いと思うんだけど…。
「ほう…それはまた、興味深い話だな。じっくりと聴かせてもらおうかね?おーい、地下牢にぶち込んどけー」
いつの間にか周りに展開していた警備兵?…装備が一式揃っている…の皆さんが、テキパキと盗賊を連れ去って行く。彼らがどうなるのか気になる所だけど、知らない方が良かったなんて事もあるからなぁ。
「アルセラ、また後でこっちに来れるか?」
「ギルドに回しといてくれないか?」
「それだと少し時間掛かるが、いいか?」
「ああ、それでいい」
何の事かと思い聞いてみると、盗賊を捕まえた報奨金の支払い手続きだった。賊を捕まえると、国から報奨金が貰える制度があるそうだ。捕まえた際は町の警備担当に渡すと、手続きをしてくれるとの事なので、町の警備は国の管轄と考えられるだろう。報奨金の受け渡しは、手渡しか、口座振込がある。なんと、ギルドには銀行システムがあるらしい。お金の預け入れ、引き出し、振り込みに対応している。魔力波長の一致で取引が成立するから、なりすましはまず無理っぽい。
それで、今回は国からギルドにお金を流すので、手続きが直接貰うよりも時間が掛かるという話だったようだ。
「よし、あとはこの2人をギルドに案内したら、ヤハネの所に行くか」
何気に採集依頼を達成しているので、今日分の仕事は終わりなのだ。
「それじゃ、2人は一緒に行きましょうか」
僕とアルセラさんが先導してギルドに向かい、2人はその後ろについて歩き始めた。
「ヤハネさん、起きてますかね?」
歩きながら、これからお邪魔するであろう残念エルフを思い浮かべる。
どうも彼女は夜型、というか徹夜型?らしく、日中は意識が無い日が多いと聞いていたのだ。
「まあ、寝てたら起こせばいいさ」
アルセラさんの、ヤハネさんへのさっくりとした対応はきっとこの先もブレないんだろうなー。
「あの…私達はこの後、どうすればいいでしょうか?」
残念エルフをどうやって起こそうか考えていたら、後ろからラーシアさんのおずおずとした声が聞こえてきた。本当におずおず感が出ている上に、やや俯きからの上目遣いが小動物を連想させていて…ってなんなのこの子は!?思わず手が伸びそうになったよ!
大きな瞳で上目遣いって、可愛いを通り過ぎて、愛でたいよね。
頭をなでなでしたくなるよね!
「お前達はここを拠点にするつもりなのか?」
アルセラさんの澄んだ声が、僕を静めてくれましたー。
「あ、その、どう、なんでしょうか…」
「どうしたいんだ?」
「えと、あの、その…」
あれれ?すんごいシュンってなっちゃったぞ?
アルセラさんは別に怒ってるわけじゃないんだよ?
「何か目標があって冒険者になったんじゃないのか?」
「…それは…」
「…稼ぎたい」
ここでまさかのレジーナさんの発言。
彼女もちゃんと話を聞いていたんだね。
「そうか。それなら、大きな町にいた方が稼ぎ易いだろうから、ここを拠点にするのは間違いではないな」
「そ、そうですか?」
ラーシアさんがホッとした表情に変わる。
何やら不安を色々と抱えているようだ。
あんまり詮索はしたくないけど、彼女達には笑顔でいて欲しいな~。
「もし、何か力になれる事があれば、お手伝いしますよ。僕も冒険者を始めたばかりですし、お互いに頑張りましょう!」
二人に向けて言ってみたんだけど、なんだか、目をパチクリさせているよ?
…もしかしてスベった!?
えっでも、今の台詞って変じゃないよね!?
「お前は…どれだけ心が広いんだ?」
焦っていたら、アルセラさんにそんな事を言われてしまった。
でも、心の広さはあんまり関係無かったような…。
「新人同士仲良く、みたいなのってないんですか?」
「いや、それはあるけどな…でも、女2人の新人に構う余裕がある新人なんて普通いないぞ?」
ん?それってまさか。
「ひょっとして女性冒険者って…あんまり好ましくないとか?」
「まあ、そういう事だ。ギルドでも殆ど見かけなかったろ?」
あー…そういう事か。
「なんとなく、解りました。でも、僕はそういうの気にしないので、大丈夫です」
こっちの世界の事はまだまだ分からないけど、おそらく、深淵の森が基準になっているんだろうね、色々と。
「まあ、お前はそうだよな。じゃなきゃ、あたしの徒弟になってないだろうし」
「そういう事ですね。という訳で、ラーシアさんとレジーナさんも、僕に関しては普通に接してもらって大丈夫ですよ」
2人は立ち止まって顔を見合わせて、何やら目と目で通じ合っているようだ。
そんなに悩ませる事は言っていないんだけどなぁ。
「変わったヒューマだけど…よろしく」
先に口を開いたのはレジーナさんだった。
ちゃんと目を見ながらそう言うと、ちょこんと頭を下げた。
何気に変って言われたけど、なんか可愛かったから不問にしておこう。
「あの!ありゃありがとっございます!」
噛んでつまらせる高度な技を披露するラーシアさん。
こちらは、やや瞳がうるうるしているのが可愛い。
この子には本当に健気という言葉が似合いそう。
「そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。お互い様なんですから」
僕なんかこの世界の新人でもあるんだよ!
「あの、わたっ私もエッジさんのお役に立てるよう頑張ります!」
「無理はしない程度にして下さいね」
空回りする予感が、ラーシアさんの身体から溢れ出ている気がする。
うん、気がするだけだ、前振りでもなんでもないぞ!
「競う相手ができるのは良い事だな。互いに見合い違いを知り、糧とする。修業の大事な要素の一つだな」
アルセラさんが師匠っぽい…じゃなくて本当に師匠でしたね、すいません。
「あたしはしばらく離れるから、3人で採集依頼とか、良いかもな」
「あー、それもそうですね。さすがに僕一人で外域はまだ不安ですし」
「ああ。それを考えると、助けた甲斐もあったって事だ」
出逢い運に恵まれているのかな。
いや、熊とかトカゲとか狼を考えると、相殺かも…。
何はともあれ、ユニットを組める知り合いができたのは嬉しいものです。
そしてギルドに着きました。
アルセラさんは打ち合わせという事で、待合所で僕達は待つ事になったのですが、何と言うか、遂に絡まれました。酔っ払い三人に。長椅子に僕、ラーシアさん、レジーナさんと並んで座って和やかな一時を過ごしていたのに。
「おいおいねーちゃんよー、そんな弱っちいガキよりオレ達と一緒に来なよー」
「あの、すいませんっ」
「煩い…」
2人並んでそれぞれの反応を返す。
「いいからこっちこいよっ、オレ達とイイコトしようぜー」
「ガキがよぉ、昼間っからイチャイチャしてんじゃねえよ!」
「オレ達が大人の男を教えてやるよ!黙ってそこに横になりな!」
「ひゃっはっは、お前ここで何する気だよ?」
「ああっ?そりゃやる事やるだけだろうがよ!」
「はぁっはっは」
ダメだこのおっさん達。昼間っから酔っ払って、ギルド内で可愛い女の子を見掛けたら薄汚い言葉を酒の臭いと共に口から吐き出す。事情が有ろうと無かろうと、同じ男として冒険者として黙っている訳にはいかない。※女の子の手前、テンションが高まっています。
「こんな事をしている暇があるのは、無職のゴロツキだけだと思うのですが、そんなあなた達がギルドでこんな真似をしてタダで済むと思っているんですか?」
「ああっ!?ガキがっ何言ってやがる!?」
「言葉も理解できないような状態で、こんな事をして恥ずかしくは無いんですか?もしかして、恥ずかしいって分からないですかね?」
「生意気なガキだなっ!」
僕に手が伸びてくるけど、躱しましょう。態々掴まる必要は無いのですよ。
向かって左から手が伸びてきたので、右方向へと半身になりながら立ち上がり、出されたその腕の手首を左手で手前に引く。
「ああっ?」
社交ダンスの様に向かい合い、そしてすれ違いざまに重心が載った左足を、後方へ打ち払う。
「あっ」
一瞬、その場で飛び込むような姿勢で、おっさんが浮かび上がる。
まるでスーパーマンのようなポーズだ。
ちなみに足を払う時には、推進力を増すために風魔法を使っているので、良い子は真似しちゃダメだよ!
どふっ「ぐへっ」
丁度長椅子に顎がヒット。
やや海老反り姿勢でその男は沈黙した。
あっ、そして臭い。
色々臭ってくるな…。
「あ?」「は?」
「ほらー、酔っ払ってフラフラしてるじゃないですか」
「てっ、テメェっ!」
あ、腰に付けてる剣に手を掛けちゃった。
ヒュッ、ゴッ!
「えっ」
小麦色の残像が、視界に映ったと思ったら、おっさんの一人が、スローモーションで後ろに仰向けに倒れ込んでいった。
「レジーナ!?」
ラーシアさんの小さい悲鳴が上がる。
レジーナさんは、それに応えることなく最後の男を一瞥すると、足を振り上げた。
ドムッ「っうっぐっ」
あーっ、おっさんの男が女の子の蹴りによって女にされちゃうっ!?
「…正当防衛攻撃」
…アグレッシブな防衛だなぁ。
レジーナさんって先に手が出るタイプの女子系?
「エッジくんっ!大丈夫!?」
おや、この声はユフィエスさん?
バタバタと駆け付けてくれたようだ。
「あー…この方達は…」
床に転がるそれらを見て、なんとも言えない表情のユフィエスさん。
ま、いかなる理由であろうと、あの醜態に弁解の余地は無しだよね。
「申し訳ありません…現在、荒事に対応できる者が出払っておりまして、お手数おかけしました」
深々と頭を下げるユフィエスさん。真面目な対応もできるんだね。
軽い感じのお姉さんってだけじゃないんだ。
「あー、お気になさらずに。それより、これらはどうしますか?」
「懲罰房行き決定です」
あるんだ~。
「このヒト達は、トルケリアで戦力外通告を受けてこちらに流れて来たんだけど…見栄を張ってしまって、仕事にあぶれたのよ」
「あー、環境に翻弄されて前に進めなくなって荒んでしまったパターンですか…」
きっと、プライドという名の妄執にとらわれて身を崩したのだろう。プライドをただ見せびらかしても、それはただの虚像なのに。ハリボテのプライドなんか持っていても、何にもならないんだよね。寧ろ邪魔というか。
「失礼しますよ~」
おっさん達に憐れみの視線を向けていたら、男の職員らしきヒトが2人やって来た。
床の男をチラ見しながらこちらに軽く頭をさげると、いそいそとロープを使って、それらを拘束する。
「失礼しました~」
2人で3人をまとめて引きずっていく。
ドナドナがBGMで聴こえるのは、気のせいじゃないな、これは。
ああはなりたくないものですよ…。
「ところでエッジくん、この2人は?」
「あ、彼女達は外域で出逢ったんですよ。盗賊に襲われている所を助太刀したんです。2人もトルケリアから来たそうで、しばらくここを拠点にするという話になりました」
「へー…って、えっ!?と、盗賊!?あっでもアルセラが一緒だから大丈夫なんだ」
「そういう事です」
「は~、なんだかエッジくん、大変じゃない?」
「まあ、ぼちぼちですよ?」
「暴走魔女に狙われてるって噂も聞いたし、無理しちゃダメよ?」
「どんな噂ですか…。一応、普通に友人だと思いますので大丈夫ですよ~」
「えっ?そうなの?エッジくんって好き嫌いがないのかしら?」
どういう意味ですか!
「あれはあれで、可愛いかと」
友人と言った手前、フォローしておこう。
「ふーん、ああいうのが趣味なんだ」
…そういう話になっちゃいますかー。
そーですかー。
「あの!ぼ、暴走魔女って、あの、暴走魔女ですかっ?」
ラーシアさん、知ってたのかな?
「ヤハネさんをご存知ですか?」
「ええっ!だって、有名なエルフですよ!?」
そういえば、それなりに名前が売れているんだっけ?
「エルフの異端児…」
レジーナさんの呟きに同意せざるを得ない。
そして、やっぱり普通のエルフではないと分かって一安心。
「ヒューマの国で好き勝手している凄いエルフなんだって、私達の間では噂になっていたんですよ!」
それ褒めてるのかな?
深く聞くのが躊躇われる理由だよ?
「エッジさんって、とても凄い方なんですねっ!」
おおっ?なんか話の流れが変わった。
「僕は普通ですよ。周りの方が凄いのです」
「で、でも、エッジさんも凄かったですよ!あんな土の範囲魔法見た事無かったですし、光ったやつも凄かったです!」
あれ、結構ちゃんと見られていたらしい。
「…エッジくん、魔法を始めたのって一昨日じゃなかったっけ?」
ユフィエスさんが首をこてんと傾げる。
「「えっ」」
「実際に使い始めて3日ですね」
「…あり得ない」
「…あり得ませんよ…」
「…色々あるんですよ~」
やっぱりやり過ぎたかな。
変に話が膨らむと面倒だし、これ以上は適当に流そう。
早くアルセラさん戻って来ないかな~。
酔っ払いはその後、資格停止を受けて、強制労働の後に追放処分です。
強制労働は、下水関係の仕事が一番きついとか…。




