スキルの事とか三人で話してみる。
三日目~下刻
メリルに叱られた。
食堂を後にして、ヤハネさんの家までやって来ました。第一印象は屋敷、または館という文字が浮かびました。何坪とかは分からないけれど…見た感じでは、四人家族が住む二階建ての家よりも確実に広いという事が言えると思います。
何故かというと…家の真ん中に扉があるんです!そこを開けたら玄関ホール!吹き抜け!
「大邸宅ですね」
「…奮発した」
「一人で管理できないのに変な所でこだわるから…」
「…妥協は無い」
胸を張って、まあ…微笑ましい事。
「…なんか嫌な視線を感じる」
気のせいですよ~。
っと、辺りを見回してみよう。
正面には二階へ上がる階段があって、両脇は扉が二つずつ、奥にも二つ扉が見える。
「見た感じ、それ程荒れてはないですが…?」
見える範囲では、床に物が散乱しているという事はないようだ。
「二階に上がれば分かるさ。…こいつは地下と二階しか使わないからな」
「…一階部分はわたしには要らない」
「何故二階建てにしたんですか…」
「…妥協は…しない?」
自信無くなってますよ~。そんなクマができた目で上目遣いされても、首を傾げられても…いや、可愛いですが、可愛いんですがね?なんか惜しい!
「エッジ、とりあえず地下行くか?」
「あ、はい。そうですね」
「…こっち」
階段の右側にある扉を開けると、地下に向かう階段があった。ゆるい螺旋状になっているそれを下りると、少し大きな扉があった。玄関よりも大きく四角い造りで、銀の重厚な質感、取っ手は付いてないけど、紋様が描かれていて真ん中に縦線があるから、引き戸っぽい感じだ。
「…ここ。中は強化魔法で強固な壁造りだから、高威力でも大丈夫」
あ、ちょっと自慢してるっぽい。
口角がちょっぴり上がってる。
「…壁には魔力分散の効果がある金属をコーティングしてある。魔法金属というドワーフの技術をふんだんに使った…!」
「なんか凄そうですね!」
「…えっへん」
それは口に出しちゃダメですよ…仕草も付いてるから余計に。
「ほら、早く開けろ。話が長くなる」
きっと、アルセラさんはもう何度も聞いたんだろうね~。
「…むー、ここからがいいとこ…
「後でな」
…ろ……。じゃあそうする」
渋々頷くと、ヤハネさんは大きな扉に手をかざし…魔力を流してる?…
「キョウコナルフウインヲトキタマエ」
と、呟いた。
「おお…」
扉に描かれた紋様が白く光って、左右に開かれていく。
何この仕掛け。かっこいいけど、無駄にお金掛かってない!?
「…無駄じゃない」
はっ!?ヤハネさんに心を読まれた!?
「…無駄じゃないもん」
「分かってるから、早く中に入ろう」
アルセラさんは、ヤハネさんの手を引いて中に入っていった。
その背中が煤けて見えたのは気のせいだろう…。
きっと、みんなに突っ込まれてきたんじゃなかろうか?
「…アワキヒカリヲツケタマエ」
ふと、ヤハネさんの声が聞こえたと思ったら、暗闇だった地下室に光が溢れた。
「おーっ!広いですね!」
イメージとしては一回り小さい体育館みたいな?
ギルドよりは、規模は小さいけど三人だと十分過ぎる大きさだ。
「なんか、凄いの一言ですよ」
「…もっと褒めて?」
「…えっと、高さと広さのバランスが良い…?」
「…うん」
「…天井の明かりが丁度いい」
「…もう一声」
「シンプルだけど奥深い?」
「そういうこと」
正解したようだ。
「…分かればいいの」
うんうんと頷くヤハネさん。
なんとなく言ったコメントだとは口が裂けても言えません。
「なあ、ヤハネ、あたしもここで練習してもいいか?」
「だめ!刃物は禁止!」
ヤハネさんが怒った!?
「いや、使わないよ」
「…?…それならいい」
「エッジに強化方法を教えてもらうからな。それと、普通に無手でやるならいいだろ?」
「…それならいいけど、なんでエッジ?」
「ああ、こいつ、身体の知識があるみたいでな。鍛え方次第でまだまだ強くなれるらしいんだ」
「…エッジは何者?」
真剣な眼差しを向けられても…言っちゃ駄目な事だしなぁ…。
「まあ、色々と独自に学んでいた、という感じですよ」
「…?」
ワタリトだからで終わらせたいけど、メリルさんが口止めしてるからには、迂闊に言えないんだよね。
「…ヤハネなら大丈夫だと思うが…エッジが大変になるからなぁ…」
アルセラさんの呟きがやけに耳に残る…。
「…エッジは不思議っこ?」
それ二回目です!
僕は普通なんです!
「そ、それよりも、ヤハネさんに魔法を教わるのって、やっぱりまずいですかね?」
「…いいよ」
「…いいんですか」
アルセラさんの徒弟だからかな?
「アルセラの徒弟なら、わたしのものも同然」
ガキ大将理論は適用されません!
「…お前、無理だからな?他人の徒弟で昇級とかできないからな?」
「…アルセラは武器とか体術、わたしは魔法、完璧」
僕にとっては一石二鳥ですね。
「…そう考えるとあながち間違いではないのか」
アルセラさんも納得しちゃったし。
「…半分こ」
「身体は一つなのですが」
「…じゃあまずは魔法から」
「その前にあたしに教えてくれないと、武器を…」
「エッジは早くアルセラに教えて?」
「…はい」
今回は、ストレッチや筋力トレーニングを一通り教えてみた。こちらの世界では腕立て伏せとか、スクワットとか走るだとかは無いらしい。というか、トレーニングして疲れるくらいなら、休んで狩りに出掛けた方が良い、という考えのようだ。…確かに、スポーツの大会とかに向けて、という考え方だと、ほぼ毎日命のかかった大会がある場合、トレーニングの時間と休む時間の日程なんて組めない。何より実践に勝るものはそうそう無いのだから。
「…心なしか、スキルを使う時の感じが変わった気がしたんだよ。まだよく分からんが…悪くないと思った。スキルって型を繰り返したりして身体に覚えさせるものなんだが、覚えた後は基本的に意識せずに使うだけだからな」
「そういうものなんですか…」
「そういえば、スキルの事は説明していなかったな」
「あ、そうですね、詳しくは聞いてなかったです」
概念はなんとなく知ってるから、気にしてなかった。
「まず、スキルは能動系、受動系とある。能動系は起語をきっかけに発動させる技だ。受動系は常時影響を受ける技能の事だ」
話を聞いた分には、ゲームなどの知識と同じ様なものらしい。
まとめると…
スキルとは、神々から伝えられた技術の中で、直接ヒトが行使できる部類を指す。
スキルを使用するには、受動、能動…パッシブとアクティブの事だね…共に魔力が必要である。受動系の消費は少量なのでそこまで気にしなくてもいいが、能動系は技によって、大きく消費量が変わる。ちなみにアルセラさんのスキルを例に挙げると…
地月<回旋斬<地震撃<流星衝
…となる。
地月は、地面スレスレに槍斧を一回転させて叩き込む技。
フレイムリザードをひっくり返した一撃だ。
回旋斬は、前宙返りからの一撃。アルセラさんはこれをよく使うそうだ。
地震撃は、衝撃を目標に叩き込む技。若干のタメを必要とするので使い所は少々難しいそうだ。
流星衝は、極技の一つで、無数の突きを、降り注ぐ流星の如く目標に繰り出す技。極技というのは、謂わば奥義みたいなもので、基本技の先にある一撃討破…一撃で討ち破るという意味…の、極限の技を指す。そして更にその先には、超絶技というものもあるそうだ。これは一撃必滅の技で、現在使える者は数える程しかいないらしい。使えば、たとえ1級の魔獣でも一撃なんだとか。…まあ、その分反動も大きくて1日は確実に動けなくなるみたいだけど。
受動系のスキルは、能力上昇効果が殆どで、身体能力を上げたり、魔法の素質を上げたり、色々あるとの事。僕の魔法LOVEも受動系かな。
アルセラさん曰く、瞬間の消費が多いものは能動系になると考えて差し支えないそうだ。…消費量が大まかにしか分からないので、そんなもんなんだろうなぁと思った。
「ところで、起語というのは最初から決まっているんですか?」
「ああ、伝えられたものはそうなっているらしいな」
「起語がなければ発動はできないんですか?」
「それがな、例えば…受動系に分類される気配察知のスキルは、意識すれば使えるんだ。この事から、能動系も起語無しで発動できるんじゃないかと言われているんだが…戦いの最中にそれをやろうとすると、うまく発動できないんだよ。あたしも何度か試したけど駄目だった」
「…落ち着いているとできる、という事ですか?」
「んー、まあ、できなくはない、という感じだ」
「なるほど…魔法と似た感じですね」
「…そう、だな…確かに魔力を使うから魔法の一種とも言えなくもない、か」
「スキルの時も魔力が流れてますもんね」
「…魔力が流れるのが見えるの?」
…あ。
ヤハネさんが食いついてきたー!
めちゃくちゃにじり寄られている…。
這い寄ってはいないよ?
「…なんとなくですね、そんな感じかなーと。こう、モヤっとした感じなので見えてるかと言われたら、微妙な感じで…」
「…そう。…まあいい。それよりも、スキルは現在、魔法とは別の体系になってる。でも魔力の消費がある以上同じに考えてもおかしくない。エッジは良い所に目を付けた」
流暢に話すヤハネさん、ギャップが凄いな。
そしてうまくごまかせたようだ。
「スキルに使われる魔力は、魔法よりは少ないとされているけど、使用後の倦怠感は魔法より大きい。これは未だによく分からない現象。恐らく肉体に掛かる負荷が大きいからと言われてる」
これはアルセラさんが言ってたやつか。
マッサージで楽になったんだっけ。
「そういえば、エッジのお陰で楽になったよな?」
そう、それですけど言わない方が…
「どうして?」
ああ…こぶし一つ分の距離に顔が来ちゃったよ~。
「えっと、マッサージをしただけです」
「まっさあじ?」
「疲労回復効果があるんです。魔法じゃないですよ」
たぶん。
魔力を調整?している感じもあるけどよく分からないし、黙っておこう、そうしよう。
「…よく分からない」
「…試してみます?」
「…できる?」
「そうですね、肩周りから…目の疲れが酷そうなので、頭の方まで触りますけど大丈夫ですか?」
「…実験の為なら良い」
割り切ってらっしゃる。
「…じゃあ、ちょっと失礼しますね。帽子は外しても?」
「…仕方ない」
ではでは、失礼して…おお!ボッサボサだ!エルフの髪ってイメージ的にサラサラストレートだったけど、なんだろうね、これ。あ、でもふわふわしてる。天パなのかな?
「肩周りから進めますね」
まずは華奢な肩を…ふむ、かったいねぇ…なんだこれ、柔らかさが表面の数ミリしか無いような感じ。タチの悪いコリですよ…。あ、そういえば、魔力のモヤモヤが見えなかったな。メリルさんの時とは違うのか?あれが魔力なのかもハッキリしてないから、判断しにくいんだけど。
「…ん?」
あった。これ、内側に固定化されてるような…外に見えてないだけなのか?
もしかすると、溜まり過ぎているからかもしれない。指先に集中して、と。
「…ん」
「痛いと思ったら教えて下さいね」
「…不思議な感じがした」
流れが良くなるように…柔らかく揉んでいく。
「ぁ…んっ」
ツボの刺激に声が漏れるヤハネさん。
「…エッジは…魔力操作が上手い!?」
そうなんですかね~?
「んっ、そこは…」
ぞわぞわしているらしい。確かに、指先に引っかかる感覚がある。
ピリピリした感じをマイルドに…モヤモヤ…そしてサラサラ。
「…なんか軽くなった気がする」
ふむふむ、それでは次は首から頭へと。
側頭部、頭頂部をワシワシっとね。
「…ぁぅ~」
「…大丈夫ですか?」
「…大丈夫…だけど…髪が乱れる」
元から乱れてますけどねっ。
ワッシワッシと頭皮をマッサージ。表面を擦るのではなく、頭皮を掴んでグニグニする感じ。でも、見た目はワシワシ。髪が擦れるのは不快になるから要注意!
「目の周りも少し失礼しますよ~」
「…ん」
眼窩の周りをソフトに押していく。こめかみや頬も少し…と。
「なんか、ヤハネの顔色が良くなった気がするぞ?血色が良いというか…」
経過を見守っていたアルセラさんが、ヤハネさんの顔を見ながら呟いた。
「…と、こんな感じで如何ですか?」
簡単に済ませたけど、それなりに手応えがあった。
…魔力のお陰?
「…視界が広いし頭がスッキリしてるし肩が軽い」
ヤハネさんは自分の身体を確かめている。
効果はちゃんとあるみたいで何よりですよ。
「…これは回復魔法じゃない…のに…どうして?」
首を傾げるヤハネさん…今回のは可愛いと思いました!
「なにこれ…わたしの肩がこんなに動いてる…」
そういえば、ヤハネさんって160歳…そうか、百年以上もののコリなんだ。
それが短時間で効果があったという事は、やっぱり魔力が関係してるんだろうな。
「…これでまた本が読み放題…!」
…残念エルフ見参。
「なあ、エッジ。あたしも後でやってもらえるか?腕と…背中もできるんだよな?」
「あ、はい。一応、全身できますよ」
「足もか?」
「はい。むくみなんかは、結構取れると思います」
「凄い技術だな…」
「んー、身体の仕組みを理解して、こうすればこうなる、というのを実践するものなので、誰でもそれなりにできるんですけどね」
「…エッジが何者なのか気になる」
心なしか破壊力の増したジト目が、逃げる事は許さないと言っている気がする。
「それは、メリルに聞いてみろ」
アルセラさんの鶴の一声!
「…そうする」
時に素直なヤハネさん。
「よし、それじゃ始めるか」
それから、アルセラさんは独自にトレーニング、僕はヤハネさんに魔法を教わり…属性の概念とか、メリルさんに聞いたものの延長を主題として…体感で2時間くらいしてから、宿へと帰った。
もちろん、寝る前に、アルセラさんの腕と背中はしっかりマッサージしたよ!…次は足とか臀部もやってみたい。腰が楽になるはずだし。…臀部ってお尻の事だけど、どうなんだろうなぁ…。まあ、それはおいおいね。
さてさて、明日はまた魔法の修得を頑張ろうかね~。
ヤハネの家は都内のマンションくらいには費用がかかっている!?




