メリル叱る、ヤハネ自由、エッジ見守る。
三日目~下刻
エルフと出逢って共闘してみた。
「…何をしているんですか…」
現在ギルドの一室でございます。
メリルさんと向かい合って座っている上に、右にアルセラさん、左にヤハネさんと、嬉しいような緊迫するような微妙な状況なのです。…まあ、嬉しい方が勝っているんだけども。
で、なんでこんな状況なのかというと、三人で依頼を終えて戻ってきたのが4刻頃で、丁度メリルさんが受付にいたから色々と報告をしていたら、何故かちょっとこっちへ来なさいと。
怒られそうな雰囲気なんだよなぁ…。
「何故ヤハネが一緒にいるのか、何故浅域に行ったのか、色々と気になる所ではありますが…エッジさん、とりあえず、ご無事でなによりでした」
メリルさんの微笑みが身に染みる…。
「…と、エッジさんはいいとして」
メリルさんが眼鏡をくいっと上げたー!
「アルセラ、あなたは何を考えているのです?」
眼鏡がキランと輝いたー…気がする。
「…まあ、その、なんだ、ヤハネがいるから大丈夫かなーと」
言い淀むアルセラさんと、自分の名前が出てきてちょっと吃驚しているヤハネさん。
…ヤハネさんが焦っている姿がこんなに早く見られるとはね~。
「…エッジさんは冒険者になったばかりなのですよ?ヤハネの実力だけは評価できますが…巻き込まれた者がいる事を忘れた訳ではないですよね?」
静かに、深く語りかけている、そんな声色です。
「あー、その…すまん」
頭を下げるアルセラさん、結構素直に謝罪する所を見るに…
やっぱり、メリルさんは怒らせてはいけないようだ。
「私に謝るのではなく…エッジさんに言うべきでしょう?」
「…そうか、そうだな。…エッジ、今日はすまん。安易に動いてしまった」
「えーっと…まあ結局、無事でしたし、お二人のおかげで怪我一つ無かったので…今回はそれで良しとしましょう」
「…なんていいこ…!」
ヤハネさんが両手を口に当てて呟いた。
無表情でその仕草は蛇足ものだと思うなぁ…。
「ヤハネ?」
「はぅ…わたしは悪くない…よ?」
あ、メリルさんの視線で小さくなった。
肩を竦めるヤハネさん、僕は分かっているんですよ?
風の魔法で巻き込まれそうになったのを。
「…はあ。まあ今回は、これでエッジさんもヤハネの事をよ~く理解できたのだと思う事にして、良かったと思いましょう」
「…照れる」
「…」
キランと眼鏡が輝く!
「…ぁぅ」
メリルさんの視線で、更に一段階小さくなったヤハネさんが若干、かわいそうになってきた。
「とにかく、次からはエッジさんを安易に浅域に連れて行かないようにして下さいね」
「お、おう。あ、でも…試験通してからならいいんだよな…?」
「それは勿論ですよ。…魔法の技能を考えると、二階級は上げられると思います。とはいえ、エッジさんは経験が圧倒的に足りないでしょう?」
「ああ、それは分かっている。…でも、意外と良い動きしてるんだよなぁ」
「…そうなのですか?」
「ああ。ヤハネの魔法に巻き込まれないで済んでたし……あ」
ヤハネさんが慌ててアルセラさんの口を塞ごうとして、失敗。
僕の膝上にうつ伏せで倒れ込んだ。
「ヤハネ?」
おわー…良い笑顔だぁ…。
ヤハネさんは身動きせずに我関せずをしているけど、正解!
このメリルさんの笑顔は、見たら後悔する!
「ヤハネ、あなた、また周りを確認する前に広域魔法を放ったんですね?」
「…エッジは…避けてくれた」
ボソボソ呟いているけど、メリルさんの耳には届かない…。
「ヤハネ…あのアルセラが、徒弟を育てているのですよ?あなたは、何をしているのです?」
「…ぅぅ、メリルがお母さんみたい…」
それは言っちゃダメー!
「ヤ、ハ、ネ?」
何故だろう。
僕の膝上でふるふる震えるヤハネさんが危険物みたいに思えてきたよ?
心なしか、アルセラさんが離れたような気もするんだけどー。
「言っても、分からないかしら?」
バチッパチン!
ええええ!?
メリルさんの身体から雷!?
放電してるよっ!!
「二人共がんばれ」
アルセラさーん!?
「…はっ!エッジが助けてくれる!?」
ヤハネさんは何を期待しているんですかー?
「ヤハネ、ソノミヲハシリワタレシビレノイカヅチ」
バチバチッ
メリルさんの身体から、青白い光の線がヤハネさんの身体に放たれた。
「はうっ」
ヤハネさんの身体がビクンと跳ねて、沈黙。
…え?これ大丈夫だよね?
「と、このように雷電魔法はその出力の仕方でお仕置きにも使えるのですよ」
と、にっこりメリルさん。
「べ、便利ですね~」
他に言いようが無いってばー。
「ちなみに、雷電魔法はイメージが難しく使える者が少ないとされています。エッジさん、試してみませんか?」
…おぉ?何故か魔法講義が始まった?
「えーと、雷ですよね」
確か雷は…電位差による放電現象だったっけ。
乱暴に言うと静電気の凄いヤツ?
と、まあとりあえずイメージから…
パチッ
ビクッ
ヤハネさんの頭の上で手の平を上に向けてイメージしたら、静電気のパチッが生じた…驚かせてごめんなさい。
「やっぱりできちゃうんですねぇ…」
メリルさんが無表情…。
「おいおい、雷電魔法も使えるのか?お前…本当に魔法の素質がとんでもないんだな」
「…どういうこと?」
ヤハネさんが目覚めました。
「「あ」」
「…どういうこと?」
近い!胸ぐら掴まれて見上げられてしまったよ!
…顔小さいなー。ほんと整った顔立ちだこと。
なのに目のクマが残念無念。
「どーゆーことー?」
うわっふ、揺すらないで下さいよ~。
「…スキル持ちなの?」
「えっと…」
メリルさんに視線で確認を取る。
が、首を横にふりふりするだけ…。
え?まさかの放置?
「ねースキルなのー?」
うわっふ、なんでこんなにアクティブなんだ?
「あの、まあ、スキルですね~」
嘘はついてないぞ。
「…魔導の悟り?」
何ですかそれは?
メリルさーんヘルプ!
「エッジさんのスキルは魔導の悟りではありませんよ」
「そう…」
あ、収まった。
「…ヤハネ、あなた…」
「…いい、大丈夫」
なんだろう?
「…お腹すいた」
えぇー…。
「今日はここまでにしましょう。…また明日、上刻中にギルドまでいらっしゃって下さい」
「…なんかあるのか?」
急に、アルセラさんが怪訝な顔でそう言った。
「…隣町で氾濫の兆候があると報告がありました」
「そういう事か」
「…正直な所、ビオントからは応援を出す余裕は無いのですが…」
「ワタリト捜索に駆り出されてるもんな…」
「もしかすると、エッジさんは残してアルセラだけ、という事も考えられますので…」
「ああ、分かってるさ」
「…ありがとうございます」
「そん時は、お前に任せるからな?」
「ええ、勿論ですよ」
…何やら、色々とあるようですよ?
「…お腹…すいた」
そして膝上にぐったりする残念エルフ。
…猫みたい、と思ったのは内緒だよ?
「それじゃあ、また明日な」
「…ヤハネをよろしくお願いしますね」
「お任せ下さい、もう慣れました」
ふふふ、猫的な小動物枠だと思えばどうってことないさー!
「エッジは、心が広い…のか?」
「…悟っているのでしょう」
2人がなんか言っているけど、気にしない気にしない。
さー、ご飯だ~。
やってきました、荒くれ者が夢の跡。
「いらっしゃいませー」
エミィさんは今日も朗らかだ。
「カウンターいいか?」
「どうぞ~」
奥の三席にアルセラさん、僕、ヤハネさんと着席。
ヤハネさんは食べ物の匂いで覚醒したらしい。
「…お肉?」
「…肉料理中心で頼む」
「かしこまりました~」
ヤハネさんは肉好きキャラなのだろうか。
「それにしても、久し振りにメリルに叱られたな」
「…そうなんですか?」
「…ああ、なんつうか…ちょっとな」
「…ビリビリした」
それは自業自得ですよ~。
「…でも、メリルはいいこ」
いい子って…ああ、そういえばヤハネさんは随分と歳上なんだっけ。
ヤハネさんの見た目からだと圧倒的に歳下に見えるけども。
「そういえば、三人はどういった経緯で知り合ったんですか?」
「あたしとメリルは元々ユニットを組んでたんだよ。ヤハネは10年くらい前から組むようになったんだよな」
「…わたしがリーダー」
それは嘘だ。絶対メリルさんがリーダーだ!
「メリルとは、あいつが8年前にギルドの職員になってから、段々と会わなくなってたんだけどさ…エッジのお陰で昔みたいに話せたんだよな~」
そうだったんですね…。
「…わたしとアルセラは畏怖の対象だった…!」
もー…なんか、しみじみした話が台無しですよー。
「畏怖…か。確かにバカな野郎共には恐れられていたな」
「暴走旋風とはわたしたちの事…!」
名前の由来が手に取るように分かる!!
「…ヤハネの方が酷かったんだが」
きっと、五十歩百歩だと思うのです。
「…はっ!お肉!」
このマイペースさんめっ!
「お待たせしました~」
エミィさんに癒される~。
「ヤハネさんは久し振りですね?」
「…はむはむ…ふむふむ」
食べるか頷くかどちらかにしなさい…。
「ヤハネさんは魔法の研究をなさってるんですよね~」
「研究ですか?」
「ほむほむ」
頷いている…のか?
「国から褒賞を受けたりしてるんですよ!凄いですよね~」
…マジで?
「…はむん」
えへん、という雰囲気だけど、口元がお子ちゃまだよぉー!
「ヤハネさん、食べてていいですから。あー、ボロボロこぼしてますよ。これで拭いて下さい」
保護者になった気分だよね~。
「はむはむ」
「はいはい、大丈夫ですよ~」
「…エッジが凄い大人に見えるな…」
しみじみ呟かないで下さいよ、アルセラさん。
「あ、ところで、ヤハネさんはどこに住んでいるんですか?」
魔法の練習ができる場所がないと困るからね。
…あれ?そういえば、ヤハネさんって家を持っているって事なんだよな…。
「ヤハネの家は東区の方だぞ」
「東区…というのは遠いんですか?」
「いや、ギルドから歩いて少しだぞ」
「そこって、ヤハネさんの持ち家なんですか?」
一応確認してみよう。
「そうだな。後先考えずに金を使って買ったんだよな?」
「はむ」
頷いちゃったよ。
「そして、研究所として買ったはいいけど、メイドを雇う金が無いから荒れ放題なんだよな?」
「…」
無言で咀嚼してる…否定もしないのね~。
っていうか、それ、想像に難くないんですけども。
「あ、そうだ。それじゃあ、地下を借してくれたら、御礼に掃除しますよ?」
「…!」
おお…何だか期待が込められた視線?
「それなりに大変だぞ!?」
「…広いんですか?」
しまった。家の大きさを聞いてからの方が良かったかな?
「あたし達の宿よりは大きいぞ」
それは一人暮らしにはちょっと持て余すなぁ。
「とりあえず、一回で全部をやらずに何回かに分けてやれば大丈夫かと」
「…エッジはお父さん?」
「違います」
ヤハネさんの方が百年以上も歳上なんですけどー。
「ヤハネ、どうする?エッジを連れて行っても大丈夫か?」
「…大丈夫。掃除してもらう」
それがメインではないのに…。
「じゃあ食ったら行くか」
「よろしくお願いします」
「…はむん」
だから食べながら話さないで下さい。
静かに怒るタイプは怖い…




