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その名は暴走魔女。

二日目~下刻


 魔法の練習でびっくりした。

「…エッジさん…死に急ぐ理由をお聞かせ願いますか?」

「…そんなに悲壮な事ですか…」


まるで敗北必至の戦場に向かう様なワンシーン。

現在、会議室で普通に向かい合って座っているだけなのに、アルセラさんと二人でメリルさんに事情を説明したら、こんな状況が生まれてしまったわけで…。


「彼女に頼る事はあまり推奨できません。確かに彼女は、魔法に関してだけは、その才能を遺憾無く発揮しています。ただそれ以外は…残念無双なのです」

「…」


残念無双て。

残念無双ってなんだろう。

気になるけど聞きたくない、複雑。


「それに、エッジさんがワタリトである事を彼女が知ったら………分かりますよね?」


笑顔だ。メリルさんの笑顔なんだけど、可愛いんだけど怖い。

アルセラさんも、あちゃーって顔してるし。

止めた方がいいのかなぁ…。


「あの…練習する場だけ借りるとかは無理ですか?」

「…アルセラ、あなたはどう思いますか?」

「あー、うん、エッジの事を知られたら食い付くどころか噛み付いた上で離れないだろうなーと…」

「…ヒトですよね?女性ですよね!?」


アルセラさんの物騒な話は流石にスルーできないよ!!


「いや、ほんとに、悪い奴じゃないんだ。ちょっとずれてるだけで。…思考が」

「それ、タチ悪いタイプのヒトじゃないですかー」

「…という具合なんですが、それでも、彼女に協力を仰ぎたいと望みますか?」


わぁ…凄い優しく諭されてるこの感じ。

しかし、逆に会ってみたくなってくるよね、ここまで言われるヒトってどんなヒトなのか。


「その方は、どんなヒトなんでしょうか?」

「あー、ヒトっていうか、エルフだ」

「エルフキタ――――!!!」


しまった、テンション急上昇し過ぎた。

2人が目を丸くして停止している…。


「あー、その、エルフって憧れの存在というかなんというか…」

「そ、そうなのか?」

「えーっと、僕の故郷では美形で高貴な存在に描かれる事が多かったので…」

「そうでしたか…。そうなると…幻滅する可能性が高くなりますね」

「そうだなー。あいつは確かに美人だけど、それ以外がなぁ…」


ボロクソ言われるエルフ、か…。

怖いもの見たさの気持ちが芽生えそうな所で萎れていく、そんな複雑な感情。


「取り敢えず話だけでも通してみたりとか、できませんかね?」

「そうだな。あたしが聞いてみるよ」

「そうですね…邪魔されたくないから、といような理由で借りればいいでしょう。今日の所は私がもう少し進めるという事で如何ですか?」

「はい。それでお願いします」


というわけで、メリルさんと勉強してる間に、アルセラさんはエルフさんの所に行って来ることになりました。




「…という訳です。活力属性に関してはこんな所ですね」


気になっていた回復魔法や再生魔法、強化魔法に関して聞いてみた。


回復魔法は体力の回復や不調を癒すもので、外傷は治せない。どうやら元気を与えるというイメージの魔法らしい。傷を治すのは再生魔法で、こちらは修復のイメージだ。魔力が通るものであれば、大体は再生可能らしい。その分魔力の消費が多いのはお察しだろう。あとは、時間経過と共に再生効果が低くなる事、欠損部分をくっ付ける事は可能だが生やす事はできないといった所だ。それから、当たり前なんだけど、死者は蘇らない。


強化魔法に関しては、対象に魔力をコーティングするイメージだった。強度を増して、硬くしたり劣化を防いだりするようだ。身体強化も強化魔法かと思ったら、微妙に使い方が違うらしい。そもそも身体強化は自分にしか掛けられないそうだ。固有波長が違うと効果が薄く、魔力の無駄になるから非推奨との事。


「色々と覚える事も多いですね~」

「そうですね。メインで魔法を使うのであれば色々と知識を身に付けなければなりません。自分や相手の能力と状態、属性相性や立ち回り方など、覚えるべき事は沢山あります」

「アルセラさんを支援するとなると、攻撃魔法や回復魔法ですよね」

「懸命な判断だと思います。エッジさんが前線に出たら…間違いなく巻き込まれるでしょう」


うん。何に、とは聞かなくても解るよね。


「エッジさんは当面、魔法に関する知識を学習する事を優先しましょう。魔力言語も覚えなければなりません」

「魔力言語?」

文唱(モンショウ)に使う言葉の事ですよ。言の波(コトノハ)とも言いますね。これは魔法を発動しやすくするものです。言の波を並べ唱えるので文唱と呼ばれます」


あー、あのもごもご呟いてたやつか…。

聞き取りにくいと思っていたけど、特別な言語だったから、という訳か。


「あれ?でも、イメージだけでも魔法は使えますよね?」

「はい。文唱が無くとも、魔法は発動できますが、それは難しいのです……?」


メリルさんがジト目になった!

見つめ合う事、数秒。


「…できちゃうんですか?」

「…えっと、なんか、はい」


何故か冷や汗が噴き出してきそうな感覚に襲われております…。


「エッジさん、正直にお答え下さい。何か隠していませんか?」


ジト目から、目が据わってしまった。

非常に怖いです。


「あの…ですね、よく分からないスキルがあったんですが、どうやら、それが魔法のスキルみたいで…」

「文字が読めなかったスキルですね?」

「…はい。僕の故郷の言葉で魔法LOVE、つまり、魔法愛というスキルです」

「魔法あい?」


メリルさんの表情が無から混沌に。


「僕もよく分からないんですが、恐らく魔法が大好き、魔法に好かれる、といった意味だと思います」

「愛…ですか…!?」


あー、これがぽかーんという顔なんだね~。


「魔法が恋人…愛人…魔法をそういう対象としている…」


メリルさんがブツブツ呟いているけど、何やらおかしな方向へ向かっているので止めよう。


「あの、メリルさん、どちらかというと憧れに近いものですよ」

「…え?」

「ほら、魔法が無い世界だったので、より強く憧れていたんですよ。無い物ねだりというか…夢を描いていたんですよね」

「…そう、ですか。…確かに、そういった憧れはありますね…」


メリルさんが帰還したようだ。


「しかしそうなると、エッジさんは相当強い魔法への想いを抱いているのですね?」

「まあ、それなりには」


黒歴史だから抱くっていうか、心の奥深くに埋めてあるけどね!


「困りましたね…。前例が無いスキルですか…報告しようにもこれは…」

「そこはもう、内緒にしちゃいましょうよ!」

「エッジさん、気楽に言わないで下さい。私には立場があるんですよ?」


ちょっとプンプンしているメリルさんが可愛い、と思ったのは仕方ないのです。


「…とは言え、このまま報告しても伝わらないでしょうし、しばらくは様子を見ましょう」

「すいません、お手数おかけします」

「いえ、仕事ですので。その代わりしっかりと、まずは常識を学んでくださいね?」


圧力が凄いよー。


「が、頑張ります」


そして始まる異世界魔法講座常識編。


魔法で気を付けるのは、まずは即成させない事。即成というのは文唱無しで魔法を使う事だ。これは他人に見られると厄介というのと、支援するのに無言で後方から魔法を使われるのは、前衛に迷惑が掛かる可能性があるからである。


魔力の消費に関しては、一般成人の魔力量が凡そ、火の玉を5回連続で出す程度だそうだ。魔力を使い切ると、一時的に解放感があって、その後に酷い倦怠感に襲われるらしい。身体が動かし難くなるので戦闘中は要注意との事。


時間と共に魔力は回復するが、個人差がそれなりにあるので一概には言えないけど、大体一刻で一般成人は全回復できるようだ。


魔法属性は、やはり波長が相反する属性は普通使えないとされている。得意属性が火の場合、水属性は使えないと思われるようだ。全く使えない訳ではなくて、上手く発動できないらしい。これはきっと「なんか彼奴とは波長が合わないんだよなー、俺は彼奴の事が理解できねーよ」みたいな事が魔法で起こっているんだろう。


「…如何ですか?この辺りは是非注意して欲しい所ですが…」

「はい、大体理解できました」

「そうですか。一安心ですね」

「ありがとうございます」


2人でにこにこと見つめ合う。


「エッジー!!」


そこへ、勢い良くアルセラさんが乱入してきた!


「身を隠せ!」

「…はっ?」

「あいつが来る!」

「…!、エッジさん、こちらへ」


メリルさんが奥のデスクの陰になる所へいそいそと案内してくれた。


「一体何が…?」

「…アルセラ発見…」


…?


聞いた事のない声だ。

やや低めで澄んだ声。

どこか暗いような、だるそうな印象を感じる。


「徒弟は…どこ?」


うん?僕の事?


「ここにはいませんよ、ヤハネ。そして三ヶ月振りですね」

「…メリルが徒弟?」

「違います。それよりも、何故あなたがここに?」

「…アルセラが、あのアルセラが、徒弟を手に入れたって聞いた」

「手に入れたってお前なぁ…エッジは物じゃないんだぞ?」

「…本当に、ヒトなの!?」

「本当にヒューマだぞ。つうか、お前はあたしをどういう目で見てるんだ…」

「…こういう目」


辺りに沈黙が広がる…。


一体何が起きているんだろう。

っていうか、隠れる必要があるのかな?


「と、とにかく、ヤハネは家に戻りなさい。良いですね?」

「…疲労困憊」

「はあ?」

「…アルセラ、おんぶ」

「お前なぁ…力尽きたのかよ…」

「なんというか…相変わらずですね」

「…わたしはいつも同じ…つもり」

「分かった分かった、それじゃ帰るぞ」

「…今度は徒弟を連れて来て…」

「ヤハネ、それはあなた次第ですよ。普通に接するのであれば、許可しましょう」

「…メリルはお母さん?」

「っ…保護者の様なものです」


うひゃぁぁ…冷え込みましたよ~。


「…分かった。善処する…」

「ほら、帰るぞ!」


そんな感じで、ヤハネさんは去って行った。顔見たかったなぁ。

それにしてもそんなに悪い印象では無かった気がするけど…。


「…行きましたね。エッジさん、もう大丈夫ですよ」

「そんなに警戒する必要があるんですかね?それ程変な感じは無かったように思うんですけど」

「こればかりは、実際に経験しなければ分からないでしょう。見た目に騙されて散っていった男は数知れず…。エッジさんはそのような事が無いと良いですね?」


何故か無意識に首肯していた。


おかしいな?

優しい声で優しい言葉を掛けてもらったはずなのに、身体が熱を失っているような気がするよ?


それから、普段の魔法練習はどうしたらいいかなどを聞いて、この日は終わりとなった。


そして翌日、メリルさんの台詞がフラグとなっていた事に気付いたのは、薬草採集に出ている時だった…。



メリルはそれなりに年を気にしているようです。

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