気付いたら出会う、これぞテンプレ?
初日
目覚めたら、そこには熊がいました。
周りは木々に囲まれているので恐らく、いや、確実にここは森でしょう。
……。
…………。
「うわぁぁぁーーーーー!!!?!!?!?」
何これ!?どうなってんの!?
何でこんな所で寝てんだろう?
っていうか、熊がデカイ!
両手を広げてこっちを睨み付けてるんですが!
体長5メートルはあるんじゃなかろうか?
グルルル…
喉を鳴らしてるのか腹を鳴らしてるのか分かんないけど、これ、間違いなく食われる寸前だよね?
「僕を食べても美味しくないよ〜」
なんてね。
…意外と冷静にとぼけてみたり。
いや、だって、現実感が無いし。
「誰か助けてくれないかなぁ…」
グルゥァァア!!
こっち来たー!来たーきたーきたーーー…
ドグッ…
僕の目の前に刃のような爪が迫った瞬間、鈍く重い音が響いて、熊が吹き飛んでいった。そして今、僕の視界には、赤茶色のポニテと、引き締まった強さを窺わせる後ろ姿が映っている。女性の戦士っぽいけどビキニでは無い。普通にしっかりした装備みたいだ。
「おい!何を呑気に寝ているんだ!邪魔だからどっかに行け!」
「あ、それが、身体が上手く動かせないんですが」
「ちっ…だったらそのまま寝てろ!…動くなよ?」
その声は凛々しく澄んだ声だった。
「よ、よろしくお願いします」
女性は軽く舌打ちをしてから、前方に向かって駆け出した。…見えない速さで。
「これは夢だね。…じゃないと一体なんだというのか?いやぁ…無いわー…」
しばらく現実逃避?をしていたら、女性が斧みたいな長い槍を肩に担いで、空いてる手で熊を引きずりながら戻ってきた。
「…まだ動けないのか?」
「…もう少し掛かりそうです」
こちらを伺うように前傾姿勢になった女性は、それはもう素晴らしいモノをお持ちでした。
防具の隙間から深い渓谷が見えるとは…!
「何を見ているんだ?」
「素晴らしい景色を…」
「…なに言ってんだ?」
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」
僕は咄嗟に感謝してみた。誤魔化したわけではないのである。
「…偶然そうなっただけだ。っつうか、お前、何でこんな所にいるんだ?」
…核心を突く質問なんだけど、答えようがないんだよなぁ。僕もよく分かってないし。
「ええと、実は、気が付いたらこんな状態でして」
「仲間に裏切られたりでもしたか?」
「いえいえ、一人ぼっちです」
「そ、そうか」
…気まずくなっちゃった。
それにしても、整った顔立ちだなぁ。目も大きくて凛々しい感じ。でも、どっちかというと可愛いタイプだと思う。身長は僕より高そう。防具は、胸当てとお腹周りも覆うタイプだ。下半身は膝当てとぴっちりした革のズボンかな?防具の間から見るだけでも、スタイルが良いのが分かる。モデルみたいな細さではなくて、ちゃんと筋肉がついていて、それでいて女性特有のラインと柔らかさを持っているなんて…素晴らしすぎる!あ、全部、独断と偏見ですけども!
「…とりあえず、こいつを解体する迄に動けるようになったら、道案内くらいはしてやろう」
「ありがとうございます!ここが何処なのかさっぱり分からないので、助かります!」
何だか良い人じゃないか〜。
それにしても、この身体はどうなってるんだろう?気が付いてからずっと動かそうとしてるんだけど、何かに押さえ付けられてるようで、全然動かせないんだよなぁ…。
「言っとくが、本当に、解体が終わるまでだからな」
…まじか〜。
「頑張ります…」
さて、どうしたものか。
状態としては、身体が重い。動かそうとしても力の伝達が上手くいかない、そんな感じか。神経伝達が阻害されているような気がするんだよなぁ。まずはこの辺を改善するとして…
「声は出せる…目も動かせる…呼吸はできているから内部は機能している…?…筋肉の収縮が…ん?指が動かせそうだぞ…」
指先に意識を集中して、動かそうとすると、ピクピクと反応があった。どこか他人事のような意識が、ちょっとした違和感だけど、動いただけでも良しとしよう。足先の方はどうかな…お?…少し感覚がある。…ん?全身がムズムズするような…
「うわわっうっふっほほぁっへむむぅあ〜〜」
「…おい!だ、大丈夫か!?」
…恥ずかしい。奇声を上げてしまった…。
物凄い微妙な表情で見られてるよー。
哀れむような蔑むような、でも心配もちょっとしているような。
「…こっちはまだ掛かるから、まあ、無理はすんな」
「うぃ」
やっぱり良い人だよ。
…ん?なんか向こうから近付いてくるような…?
「…っ!くそっ!何でこんな所にあんな奴が出てくるんだよ!?」
身体を起こしてそれを見ると、それは静かに
グルルル…
と、喉を鳴らした。
「ワニにしては…でかいなぁ…」
たぶん、一般的なワニの5倍くらいあるんじゃないか。
「…ちっ、おい、…動けるようになったみたいだな?さっさと逃げるぞ。せっかくの獲物だが…あれを囮にすれば逃げ切れるはずだ」
「…は、い…?」
僕の視界に、ワニの口から、細くて淡く白い線が、女性に向かって伸びているのが映っていた。
「…!!」
途轍もなく嫌な予感に、僕の身体は意識を超えて動いた。
「!?」
女性の腰に手加減無しのタックルをかまして、線上から外れるように、地面に倒れ込む。
ゴオォッ
倒れ込むと同時に、背中を高熱が撫でていく。
「くぅああっつ!」
「お、おい!どういう事だ!?前兆が無いだと…!」
女性は、覆い被さった僕の身体を外して素早く立ち上がり、槍斧をワニに向けて構えた。
「こいつ…変異種のフレイムリザードか!?」
どうやら、ワニではないらしい。
「!!」
まただ、線が見える!
「正面から来ます!」
「なにっ!?」
僕は、今度は女性を羽交い締めするように抱きついて、横っ跳びで線上から脱出を計った。
ゴオォッ
「っく!お前、見えるのか!?」
「よく分かりませんが、線が見えます!」
上手く木と木の間に身体を滑り込ませると、女性は僕の肩を思いっきり掴んで声を上げた。
「あたしにも見えないのに…いや、今はそれでいいか。お前…前兆が分かったらすぐに知らせろ。どうやら、逃げられそうにないからな。何とか仕留めるしかない」
「了解です。…ええと…二手に別れた方がいいですかね?」
「問題無く動けるんだよな?」
「はい。あれを躱すくらいなら大丈夫です」
「…良し、それじゃ行くぞ!」
フレイムリザードはこちらを伺いながら、熊の周りをゆっくりと移動している。
と、急に首を右に向けた!
「地震撃!!」
おお!槍斧が光ってる!斧の刃に集まって…あ、フレイムリザードの頭に直撃した!
ズゥゥッン
…わー。
小さいクレーターができました〜。
「…!狙われてます!!」
なんと、あれを食らって地面にめり込んでいたのに、すぐさま反撃するとは…!
「チッ、やっぱり硬えなぁ」
そう言いながらも、的を絞らせないように、木を上手く使いながら、フレイムリザードの周りを転々と動いている。あの人、物凄い強いのではないだろうか?
「…!」
こっちにキタァァァ!
細い線が伸びてくる…木を盾にしたいけど森林火災…にはならない?
そういえばさっきのも特に燃え広がってない…って、来る!
力一杯、横っ跳び。
ゴォォォッ
あちちちっ!
「大丈夫か!?」
「大丈夫です!って!もっかいきたーーー!!!」
今度のはなんだかぶっとい線だ。
悪い予感しかしないぞー!ちょっと太めのあの木まで…!
「だぁっ」
転がるように木の陰へ。
ゴヒュゥゥゥッ
うぉー!?
ボッファァァッ
うわぁー燃えてる!周りが燃えてる!
「回旋斬!!」
地面に腹這いでコソコソ退避していたら、凛々しい声が響き渡った。
ドォッォン
「ギュアアアッ」
鈍い音に続けて鳴き声が上がる。
「地月!!」
ドゥッ…「おりぁぁぁ!」…ズゥンッ
地面に重い物が落ちた音…?
炎を掻い潜って、僕はそれを目撃した。
「ひっくり返ってる…」
フレイムリザードが、仰向けになっているのだ。何百キロはあるだろうあの巨体を、どうやって?
「止め!流星衝!!」
女性は跳び上がり、晒されている腹部に向けて、槍斧を真っ直ぐ伸ばしてから引いた。
次の瞬間には、彼女の身体に淡い光が広がり、槍斧も包み込んだ瞬間、腹部に向けて無数の線が走った。
ドドドドドドドッ
「すごい…」
残像を残す程の無数の突きが、フレイムリザードの腹部に叩き込まれ、その身体は折れ曲がる程だった。そして、それが過ぎた後は…もうね、モザイクものです。
「っしゃあー!何とか上手くいった!」
…結構ギリギリだったらしい。血塗れの槍斧が生々しいです。
ちょっと刺激が強過ぎるかも。
「あの、倒したんですよね…?」
スプラッタを横目に一応の確認。
「ん、ああ、一応な。…しかし、よく火炎放射を躱せたな?ホントに見えてるんだな」
「いえ、偶然ですよ〜って、そうだ!森林火災になっちゃう!!」
…おやおや?火が…治まってきてる?
「大丈夫だぞ?この森の木は魔力を持っているからな。もっと本気で燃やさないと燃えないぞ?枯れた木はそれなりに燃えるが…この辺のは平気だろう」
なんとまぁ…すごい木なんですね〜。
「…お前、ホントにどこから来たんだ…?」
「えーと、その辺も含めてお話ししたい所なんですが…」
「ああ、でも、解体が先だな。次でかいのが来たら流石にまずい。…お前も手伝ってくれ」
「が、頑張ります」




