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転移無能少年  作者: 森坂 エイタ
1章 取り返しのつかない選択
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1章第4話 邂逅

 元転移者である村長に、ここは夢では無いもう一つの現実だと、そして自分が知る限り元の世界に戻る術はないと知らされた二日後の朝。


 俺はパレッタさんに起こされることも無く目を覚ました。部屋から出て1階に降りてみると、既にパレッタさんは朝食を作っているところだった。


「おはようございます……」


 俺は二日経ってやっとこの現実を受け止める事が出来るようになってきていた。それでもやっぱり、向こうの世界が名残惜しく感じる時はある。そんなすぐに忘れられるわけがない。


「おはよう、もう起きて来たのかい。早いねぇ。そうだ今日、姉ちゃんを街に迎えに行くけどついてくるかい?」


「そういえば思ったんですけど、その人ってなんで街に何日も行ってるんですか?」

素朴な疑問をぶつけてみる。


「たしか……冒険者になる為に街の冒険者ギルドの試験を受けに行ってくるとか言ってたよ」


 ん? この世界は兵士がいるだけかと思っていたんだが、どうやら冒険者という存在もいるようだ。


「わかりました。ついて行きます。街も見てみたいですし」



 そうして俺達は街へ向けて馬車を走らせる。


「パレッタさんって馬車操れたんですね」

「そうだよ。昔はよく街に行くことが多かったからねぇ。今ではこれに乗って何処かへ行くことも少なくなったもんだけど」


 昔は街へ買い物にでも行くことが多かったのだろうか。今は少ないようだが。


「そういえば魔物は見ないんですね。もっとその辺にいるのかと思ってましたよ」

「魔物はそんなに滅多と来るもんじゃないよ。たまにああして逃れて来たのが厄介なだけでね? 実は、ここらじゃあんまり見ないんだ」


 だからこの辺に住んでるんだけどね、なんて笑いながらパレッタおばさんは言った。なら、魔物は何処から発生して来ているんだ?


「魔物は魔大陸から来てるって聞いたことあるけど魔大陸自体、あんまり情報が流れてないみたいだからホントのところはよくわからないんだけどね」


 魔大陸、勇者が居るからには魔王という存在は居そうだな。


「そうですか。それでその冒険者ギルドの試験って言ってましたけど、街なんかで出来るものなんですか?」

「これから行く街、〈ミカーヴァ〉っていうんだけどね、そこから近い所に魔窟って呼ばれる何故か魔物が発生する場所があるんだよ。そこでその試験が行われてるらしいんだ」


 何故か、か。原因はよくわからないけどとにかく出てくるから抑えないと被害が出てしまうけど出てくる魔物自体はさほど強くないから新人の試験にはもってこいって感じか。冒険者ギルドも上手いことやったもんだな。


 それから半日ほど経った頃、パレッタおばさんが声をあげた。


「あっ、街が見えてきたよ〜!」



 ミカーヴァに着いた。見た目は中世ヨーロッパ風の街並みというゲームなんかではよく見るありきたりなものだったけど、現実で見るのは初めてで、外国に来ている様なそんな新鮮さに心躍った。


 気分転換でついて来たのは間違いではなかったらしい。この街は露店なんかも多いようで賑わいを見せていた。


「あっ、ここが冒険者ギルドだよ!」


 パレッタさんが指差す。


 そこは他の家などよりも大きい建物で、入り口には一般人とは違う装いをした屈強な男達がチラホラ見えた。これが冒険者というやつだろうか。


「時間までもう少しあるから少しその辺見ていくかい?」

「あっはい!」


 馬車を馬車停めに停めて露店を見て回った。


 雑貨屋に似たような装飾品が多かったが、おそらくあれがこの街の名産品なのだろう。綺麗な硝子細工だった。あとでパレッタさんに聞いてみる事にしよう。


 食べ物を売っているところでは、いわゆるゲテモノ料理は案外少なかった。倒して残った魔物は上手く調理などされて出されているのかもしれない。そもそも食べているのかすらわからないのだが。魔物を倒したあとは光になって消えるわけでは無いとこの目で見た事があるから、倒した後の魔物はどうしているのだろうかという疑問は湧いた。


 そういえば、馬がいて、鳥も見た。他の動物もいそうなものだが、そこはどうなのだろう。


「あっ、居た! レント〜!」


 そうこうしていると、パレッタさんからお呼びがかかった。もう時間か。


「はいっ! 今行きます!」



「レント、この姉ちゃんがその試験に行ってた娘だよ」

「初めまして……です?」


 ん? ちょっと待てよ…なんか聞いたことある声だな……。しかもなんか相手もおかしな反応してるし。


「ごめん、ちょっとこっち来てもらえるかな?」


 パレッタさんが(いぶか)しげな顔をしていたが、それよりも今は気になる事がある。彼女にあの言葉をぶつける。


「あのさ、もしかして君って転移に身に覚えない?」

「なっ!?」


 俺が村長にこの話をされた時と同じ反応をしていた……なんか面白そうなのでここは敢えて同じセリフでいこう。


「図星か……」

「なんでそのこと知ってるのよ!」


 案の定の反応か。ていうか待って、一応俺ら同じクラスだったよね!? いくら転校して来てすぐとはいえ覚えられてなかったのか……。


「お前、最近うちのクラスに転校して来たばっかりの奴だろ。名前は確か……」


 そういえば俺も覚えてなかった。同罪である。


(あかつき) 紅葉(くれは)よ。てことは、君も転移してこっちに来たの?」

「まあ、そういうことになるな。三日前こっちに来たばかりだ。とりあえず戻らないとパレッタさんが怪しむな」


 既に訝しんでいたというのにこれ以上怪しまれる訳にはいかない。


「そうね、とりあえず戻りましょう。話はいつでも出来るしね」


 なんかすっごい、お前一方的に……みたいな目で見られた気がするけど気にしない。



 パレッタさんの元に戻ったら案の定、レントどうしたの? と聞かれた。


「いえ、彼女を見て思い出したのですが、どうやら知り合いだったみたいで」

「そうなんです。偶然にも」


 なんて笑いながら合わせてくれたのは感謝しておこう。


「そうだったのかい。それじゃあそろそろ帰るかい?」

「そうですね。露店はもう見て回ったのでいいですよ」

「私も特に用事はもう無いので」


 そうして停めてあった馬車に乗り込み、帰路についた。帰る途中にアカツキから試験は案外簡単だったという話や、あの街は硝子細工と少し大きい冒険者ギルドがあるというので有名な街だというと、魔物以外の動物もいること、そして魔物は料理すると美味しいものも案外多いということを聞いた。



 そして村に着いた。そこで隣人から突然の訃報を聞くことになった。


「パレッタさん、大変だよっ! 村長さんが急に倒れて亡くなったんだ! 心臓発作って聞いてるけど……」


 え? 村長が死んだって? つい一昨日まで元気だったのに? それにまだ死ぬには早い年だろう。頭が混乱する。


「そんなっ……!?」

「!?」


 パレッタさんとアカツキも絶句していた。


 そこからはとりあえずパレッタさんの家に帰った。そしてこちらにもあるらしい葬儀の準備を始めた。


「あの人にはお世話になったからねぇ…昔から色々助けてもらったもんさ……こんなに急に居なくなるなんて……」

「私も一ヶ月前に来たばかりだったけどよくしてもらってたよ……」


 アカツキは一ヶ月前にこちらに転移して来ていたようだ。でも俺がこちらに来る直前まで居たということは飛ばされた時間が違うということなのだろう。


 そして、俺自身村長にはほとんど面識が無い。ただ会って現実を知らされただけ。言い方は悪いが特にこれといって悔やむ様な事は無いのが事実だった。この二人の悲しみに対して若干の温度差を感じてしまうのは否めない。



 悲しみの温度差を感じたまま、埋葬する時が来た(ここは土葬らしい)。そしてそこで初めて村長の名を知る。


《エンドウ カツミ》


 俺に衝撃が走った。


 それは、元の世界に居た、唯一と言っても過言では無い友達の名前と一緒だったからだ。そうか、そういうことか! 今になってようやく全て理解した。


 初めて会って俺の名前を聞いた時に一瞬驚いた顔をしたこと、そして俺の帰り際に言った『出来ることなら、もっと若い頃に会いたかった……』という言葉。そして、元転移者であること。


 転移先の場所は近かった様だが、時間のズレはあった。これはアカツキと俺で証明されている。


 信じたくはないが、恐らく勝己(かつみ)も俺と同じ時期に転移したものの、飛ばされたのは今よりもずっと前の時間だったと考えて間違いない。


 出来ることならもっと早く気づきたかった。


 でも俺には何も出来ない。時間は戻せない。


 やっと自分がした事の後悔から抜け出せ始めていたというのに、また沢山の後悔が溢れてくる。いや、今度は後悔だけじゃなく、悲しみまで溢れる。抑え切れる様な涙じゃなかった。俺はそこで初めて号泣した。


 急に声をあげて泣き始めた俺に少し周りは驚いていたようだが、皆泣いていたせいか、あまり気にされる事でもなかった。そんな中、パレッタさんだけは、ずっと背中をさすってくれていた。



 埋葬も終わってそれぞれの家に皆帰って行った。俺も涙が少し落ち着いた頃に、パレッタさんやアカツキと共にパレッタさんの家に帰った。


 その様子じゃ食べられるかわからないけど、とパレッタさんは夕飯を作りにいった。


「それでなんであんな急に?」


 コイツずかずかと人に踏み込んでくる奴だなと、アカツキを少し嫌いになったがそれもそうか。


「ああ、アカツキは知らなかったんだな。村長は元転移者なんだよ。しかも向こうの世界の俺の友達だったのがさっきわかったんだ……。向こうはこっちを覚えていて色々と現実を教えてくれたのに、俺は閉ざしてただ後悔していただけなんだ……。アイツは俺を混乱させない様に自分について悟られないようしていた。向こうの自分を知っている人間に会ってさぞ嬉しかっただろうに、それを隠して……」

「そうだったんだ……」


 話している内に、また涙が溢れそうになる。



 なぁ……カツミ、お前はここで一人だった時、どうやって耐えたんだ? 教えてくれよ……俺は一人じゃないのに耐えられそうもない。俺ってこんなにも弱かったんだなぁ…………。



 それでも俺は涙を堪えるようにした。たとえこぼれても。出来る限り。


 それでも後悔と悲しみと絶望に呑まれそうになる。


 でも、今回はそれじゃダメなんだ。後悔ばかりしていちゃダメなんだ。(うずくま)ってばかりじゃダメなんだ。


 せめて俺がその時気づいてやれなかった分、カツミが残した可能性を。


 カツミは言っていた、世界は広いと。自分には見つけられなかったけど戻る方法はあるのかもしれないと。俺はそれを探して見つける。


 それが、カツミへの『弔い』だ。


 俺は前へ進むよ。今は後悔するのをやめる。辛くて、俺は弱いから挫けるかもしれないけど、俺には支えてくれる人がいるから。


 今は進む事にするよ、カツミが見たこの世界を。


 帰るには、カツミよりも探さなくてはいけないのだから。



 俺は、この世界の全てを見に行こう。

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