2章第4話 王都
馬車で王都へ向かう間、ラーズさんから王都について話を聞いた。
「王都はな、基本的に王国兵士が仕切ってんだ。一応冒険者ギルドもあるが、わざわざ王都で冒険者になる様な奴は少ないだろうよ。王都でなるっていったら王国兵士が普通だからな」
「そうなんですか。そういえば、王国兵士と冒険者ってどういう風に違うんですか?」
「えっとな? 王国兵士ってのはその名の通り、王国、即ち王都含めた周辺の村なんかを守護する兵士達の事だ。王国兵士になるには王都で申請しなければならない。そんで、冒険者は各地にある冒険者ギルドでの試験に、何処でもいいから合格さえすればいつでもなれるものだ。その代わりに、自分で動いて稼ぎを出さなければ生活は出来ない」
ん? イマイチよくわからないな。
疑問が顔に出てしまったのだろう。ラーズさんが簡単に説明してくれた。
「まあ簡単に言うとな? 王国兵士は王都で訓練を受けて、王都、又は各地に配属されてそこを守護するのが役目だ。給料制だから収入も安定している。だが、その代わりに自由がかなり利きにくい。統率されているからな。冒険者は基本的に何処でもなれるが、なる為に試験に合格する必要がある。しても自ら動かないと収入は安定しない。その代わりに個人で好きなように動けて、あわよくば一獲千金も夢じゃない。それが冒険者だ」
今度はよくわかった。王国兵士の利点、冒険者の利点、それらを考慮してなりたい方を選んでなるといった形のようだ。
そしてそこに重ねる様にラーズさんは忠告した。
「それでな? 単に利点が違うってだけなんだが、王国兵士の中には王国兵士としてのプライドがやたら高い奴が居て、統率の取れてない冒険者をあんまり良く思ってない。いや、格下とでも言わんばかりに見下している様な奴もいるから気をつけとけよ。何をされるかわからん」
「そうですか……気をつけます」
その間、アカツキはずっと馬車の中で眠っていた。
そうこうしている内に王都が見えてきた。
王都の名に相応しい外壁と、外から見てもわかる程に大きく立派な王城。
王都に入る為には城門を越えなければならないようだ。城門の前には門番が立っていた。
ラーズさんが王国兵士だった事もあり、王都内へ入る事は容易だった。門番に王国兵士証明を見せるだけで簡単に通してくれた。
白い壁に緋色の様な屋根瓦の建物が連なる城下町の、石畳の用いられた道を馬車で通り、馬車を馬車止めに止めた。
「よしっ、到着だ」
「へぇ〜ここが王都ですかー」
俺はまだ馬車の中で眠っているアカツキを起こしにかかった。
「おいっ、起きろアカツキ」
「んん〜」
「着いたぞ、って子供か!」
なかなか起きない所為で、ついツッコミを入れてしまった。
「んん? ああ、おはよ〜」
「おはよ〜、じゃえねよ。もう着いたって。寝ぼけてないで起きろよ」
「ふぁ〜」
アカツキがデカい欠伸をしてやっと起きた。いつもは俺より早く起きるのだが、やはり疲れが溜まっていたのだろうか。
「じゃあ、城下町でも見て回ってくるか? 知らねぇ街にほっぽり出すってのもアレだし、俺はまだ時間残ってるからここで待ってるよ〜」
ラーズさんが言った事にアカツキが応える。
「ありがとうございます! そうですね。私達は少しこの街を見て回って来ます」
私達って……俺は既に付き添い決定か……まあ、どっちみち見て回る事に変わりはないからいいか。
「じゃあ、行ってきまーす!」
「おうっ! 行ってこい」
そうして俺達は王都城下町を見て回る事になった。
「あっ、この雑貨屋さん見ていい?」
「どーぞ」
絶対これアレだな。
女子の買い物=長い
気長に待つしかねえか……。
店の中では、アカツキが目を輝かせながら商品を見ていた。
「あっこれなんて良くない?」
アカツキが綺麗な装飾品を手に持って見せてくる。
「あ? あー、うん。いいんじゃねぇの?」
こういうのはかなり返答に困る。正直、どう答えていいかのかわからない。
「じゃあこれお願いしまーす」
だが、アカツキはそれを嬉しそうに会計を済ませていた。
「先に出てるぞー」
「はーい」
俺はアカツキより先に店を出て、辺りを観察していた。
やはり、圧倒的に王国兵士の数が多い。冒険者はごく稀に見る程度しか居ない。そしてその王国兵士の中には、ラーズさんの言った通り、冒険者に嫌悪の目を向けているような奴も居た。
でも仕方ない。勇者であるリオンについて訊くには、王国兵士に頼るのが一番手っ取り早そうだった。俺は周囲に居た王国兵士の中から、比較的冒険者に対して敵対心の無さそうな兵士を選んだ。と、そこでアカツキが店の中から出てきた。
「お待たせー」
「おうっ、ちょうどいい。お前の社交性を借りたい」
「へ?」
「勇者の現状について訊きたいんだが、相手は王国兵士だ。念には念をって事で、ちょっと手伝ってくれないか?」
「別にいいけど……」
それからアカツキに頼んで王国兵士の元に行ってもらった。俺は少し離れた場所で話を聞く事にした。
「すみませーん。ちょっと訊きたい事があるんですけど」
「ん? なんだい?」
「勇者様って今何処におられるかご存知ですか?」
「勇者様なら、昨日王都を出られたぞ。どうした? 勇者様に何か用でもあったのか?」
「いえ……ただ勇者様を一目見たく思いまして」
ナイスアカツキ! いい切り抜け方したな。
「なるほどな。勇者様は幼いながら顔のいい坊ちゃんだったからなぁ、そりゃ女子人気も高くなるか! ハハッ!」
思った以上にフランクだった兵士の男は笑いながら話を続ける。
「そういえば嬢ちゃん、冒険者だろ? 今近くの闘技場で闘技大会が開かれてるんだ。試しに出てみないか? タッグで出場するやつなんだが、優勝者には多額の賞金が出る」
「闘技大会ですか? ちょっと考えてみますね」
「おう。出たかったらまた言ってくれ。案内する」
アカツキは話終えて戻って来た。闘技大会……一度ラーズさんの所に戻って聞いてみるか……。
ラーズさんの元へ戻った俺達はその、闘技大会の旨を伝えた。
「闘技大会か……聞いたことは無いな。暫く来ない内に新しく出来たのかもしれんが、もし出ようと思うなら、一応気をつけとけ」
ラーズさんは聞いたことが無いらしい。少し怪しい様な気もするが、勇者が既に王都を出たというなら今のところ此処には用は無い。王都程の近場ならば、恐らくカツミも、既に元の世界に戻る方法を探しているだろうからな。
「優勝賞金っていうぐらいだから、なかなかの額は出そうなんだけどなぁ〜……」
こっちはこっちで、完全に金に目が眩んでいた……。アカツキは案外、守銭奴なのかもしれない。いや、生活の為に身に付けた生きる術というべきか……。
「わかりました。闘技大会には出てみようと思います。何かあったらすぐに戻って来ますので、よろしくお願いします」
「おう、気をつけて行って来い」
それから、先程話し掛けた王国兵士の所へ行った。
「すみません。その闘技大会に出場したいんですけど」
「おお、そうか。ちゃんともう一人連れて来たんだな、なら案内しよう。ついて来てくれ」
そう言って案内されたのは、会った場所から少し歩いた所にあった、大きな闘技場だった。
闘技場。自分が想像していた通りの物だった。円形の上の開いた巨大な建物がそこにはあった。
「ここがその闘技大会が開かれる闘技場だ。エントリーする受付があるから、そこへ行ってエントリーしたら、それで後は出るだけだ」
「わかりました。それで、ルールとかってどうなんですか?」
これは聞いておかなければ話にならない。
「ルールは簡単。トーナメント戦に、タッグで出場する。基本的に出場者は王国兵士だな。そしてそのトーナメントの優勝者に多額の優勝賞金が渡される」
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ、頑張れよー」
案外想像通りの闘技大会の様だ。然程怪しいものでも無さそうだった。
「じゃあ、エントリーしてくるか? アカツキ」
「そうね。行きましょうか」
エントリー受付にて、エントリー受付を済ませた俺達は、エントリー選手達の待合室に居た。俺達は初戦で戦うらしい。
王国兵士であろう、甲冑を身に纏った屈強な大男達も其処には居た。優勝なんて狙えるものなのだろうか……。心配になってアカツキに尋ねる。
「なぁ、アカツキ。これ本当に勝てると思うか?」
「勝てるわよ! 君はともかく、私も出るんだから」
『勝てるわよ』そう言われるが、やはり少し不安は残った。すると、アカツキは断言する。
「私が居るからには必ず勝つっ!優勝賞金は私の物よ!」
やっぱりそこなんだな……と、不安を残しつつ、その時を待った。
『観客の皆様! お待たせしました! 屈強な兵士達の熱いバトルの幕が上がります! さあどうぞ、最後までお楽しみください!!』
会場のアナウンスが流れる。遂にその時はやって来た。
「よしっ!気合い入れて行くよっ!!」
「ああ、わかった。こうなったらやるしかないな。頼んだぜ、アカツキ!」
思いっきりアカツキに頼りながら、俺はその舞台へと上がり始めた。