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第五話


 発見したクリスタルに、僕たちは興奮しながらも静かに作戦会議を始める。


「やった。やったな!」


 ガリ男が何度も喜びの声をあげている。ギャル女は呆れながらも、状況の進展に安堵しているようだ。


「取るのは、誰にするか、だね」

 

 茶髪男が切り出した言葉に、ガリ男が威嚇するように目を鋭くする。

 それが一番の問題点だろう。クリスタルに力を願えば、力を得ることができる。ならば、最初に手にした人間がすぐに力を手に入れるのも可能なはずだ。

 裏切り者が出る……。だが、それを否定するようにギャル女が口にする。


「あなたでいいんじゃない?」

「え?」


 茶髪男の戸惑う声。

 茶髪男は今までリーダーとして頑張ってきた。そのことを思い出したように丸坊主とリホも首を振る。


「そうだな」

「そう、ですね」


 僕とガリ男以外が茶髪男を指名して、納得する。僕も、誰でもいいので頷くと、ガリ男が憤る。


「ふざけるなっ! こいつは、クリスタルの力を自分のモノにするに決まってる! 最初になんてとらせるか!」

「だから何? あんたみたいな、キモオタに取られたくないんだけど」


 ギャル女とガリ男がまた喧嘩を始めた。これはまた面倒なことになる。

 そう思ったところで、丸坊主が二人の間に割り込む。


「はっきり言うが、この中で一番信用がないのは、お前だ。俺は、例えこいつに取られたとしてもお前に取られるよりかは許せる」


 丸坊主は茶髪男を指差して言い切った。


「み、見つけたのは俺だぞ! 俺にだって権利はあるだろっ!」

「ならじゃんけんでいいんじゃないでしょうか。ここで奪い取るよりかは後腐れも少ないと思いますよ?」


 僕の指摘により、ガリ男はうぐっと怯んだ。

 恐らく、確実に自分のモノにしたいのだろう。運が絡むじゃんけんは出来れば避けたいようだ。


 狙うなら、茶髪男が手に入れてから奪い取ればいいのにと思ったが、ガリ男は茶髪男を信用していないようだ。

 とはいえ、ここまであからさまだと、さらに信頼をなくすぞ。

 茶髪男は何かを悩むように目を瞑り、それからゆっくりと口を動かした。


「分かった。キミがとっていいよ」

「え!?」


 三人が驚きの声をあげ、ガリ男が嬉しそうに笑い声をあげる。


「分かってるじゃねえか! 見つけたのは俺なんだからなっ」


 元気になったガリ男は「これでやっと活躍できる」と、握り拳を固めている。

 ガリ男は能力を使ってハーレムを作るのが目的とか言っていたな。


「ただし、使用するのは駄目だ。使用はみんなで話して決めよう」

「はぁ!? 最初に取った人間のものだろうが!」


 別に黙っていればいいのに、ガリ男は馬鹿正直に怒鳴った。


「あんた、勝手すぎるわよっ!」


 ガリ男は全員に文句を言われて、しぶしぶと言った様子で使用しないことを口にする。

 裏切る気満々の彼にさすがにツッコまずにはいられなかった。


「切り捨てるのもありだと思いますよ」


 僕が剣を指差して言うと、ガリ男がひぃっと怯む。それからへへっと情けない笑みを浮かべる。


「冗談だろ? 人殺しなんてしたら、捕まるぞ」

「この島なら、関係ありませんよ。誰が誰を殺そうと、それを裁く人間はいませんから」


 僕がニコリと笑うと全員が凍りつく。

 切り捨てれば、さぞかし空気もよくなるだろう。僕の発言に、皆驚きながらも否定の意見が出ない。

 我慢の限界に来ているようだ。


「それは……言っちゃ駄目だ! この状況じゃ、助け合うしか生き残る道はないんだっ」


 茶髪男は全員で生き残る道を選択する。

 僕だって、出来るならば全員で生き残れたほうがいい。だからといって、誰か一人が原因で数人が死ぬなら、僕は間違いなく原因の一人を殺す。

 僕はお人よしじゃない。敵味方関係なく助けるつもりはない。


 僕としたら、クリスタルの力がどういったものなのか。その情報が手に入ったらこのパーティーとはお別れだ。ガリ男がいる限り一緒に行動はしたくない。いつ裏切るか分からない奴と一緒にいるなんて、おかしい。

 茶髪男が簡単に作戦を説明する。


「俺が剣でクリスタルを持つゴブリンの頭を潰して、その隙にクリスタルを奪い取ってくれ。周りのゴブリンを他のメンバーで足止めして、俺が倒す」

「ゴブリンの足止めには、砂を顔面にぶつけるのがいいと思いますよ。それなりに通用するはずです」


 僕は恐竜とイノシシで試している。ゴブリン程度なら効果も抜群だろう。


「そうか、なら、みんな砂を用意しておいてくれ」


 全員が砂を用意したところで作戦を実行するために配置につく。ゴブリン三体のうち、クリスタルを持っているのは真ん中で眠っているゴブリンだ。

 僕とリホは左のゴブリンの足止め。丸坊主とギャル女が右のゴブリン。

 最後の茶髪男、ガリ男がクリスタルを奪う係りだ。全員が目と目を合わせて、首を縦にふり、作戦を開始する。


 茶髪男が気合を入れるように目を鋭くし、剣を頭上へ持ち上げる。

 空気を斬る音、肉に刺さり、骨が砕け散る音が響き渡り、脇のゴブリンたちが目を覚ます。僕のところまで響くのだから、当然だ。

 反応してすぐに仲間に目を向け、茶髪男に意識が集中する。

 

「今だ!」


 茶髪男が指示を出し、僕たちはゴブリンの顔目掛けて砂をぶつけた。

 僕とリホは見事に命中し、怯んでいるのでタックルをぶつけて転ばしておく。

 だが、ギャル女たちは失敗したのか、ゴブリンはすぐに目を取り戻し、クリスタルを取ろうとしていたガリ男に棍棒を叩きつける。


「え?」


 ガリ男は迫る攻撃に反応するが遅い。直撃したと思ったが、茶髪男が割り込んで剣で攻撃を受ける。膝を折り、茶髪男の表情が苦痛に染まる。

 このままではまずい。僕は即座に駆け出し、ゴブリンを蹴り飛ばせるだけの力を入れて足を振るう。

 茶髪男に集中していただけあり、ゴブリンは簡単に飛んで砂を巻き上げる。


「取ったわ!」


 ギャル女が右手にクリスタルを持ち、掲げる。ちゃっかりした奴だ。

 散々文句を垂れていたガリ男は、まだ恐怖に犯されているのか膝を震わせている。股の辺りが濡れているのは涙だろう。本人のためにも指摘はしない。


「ゴブゥゥ!」


 ゴブリンが自分の名前を証明するような雄たけびとともに、棍棒を振りかぶる。僕はギャル女を押し倒すようにして、攻撃を回避する。

 すぐに立ち上がらせて、手を掴む。


「あ、ありがとう」

「すぐに逃げますよっ」


 僕はゴブリンに小石をぶつけてから、逃げる。全員が一目散に洞穴に走る。


「ゴブゥゥ!!」


 逃げる僕たちをゴブリンが追いかけてくる。

 とはいえ、ゴブリンの一歩はそれほど大きくない。段々と距離が開き、余裕が生まれていく。


「クソ女! それを渡せ!」

「きゃぁっ! ちょっと、なにすんのよ!」

「それは俺の物なんだよ! 触るなブス女がっ」


 ギャル女に飛びかかったガリ男は、そのまま地面に押し倒して顔面を殴りつけた。何をしてるんだ、あのアホは。

 先頭に近い位置にいた茶髪男たちは、ガリ男の声を聞いて足を止める。僕も視界の端に映っていたが距離はある。

 ギャル女の手にあったクリスタルをガリ男は掴む。不気味な笑みでクリスタルを天に掲げ、


「クリスタルよ! 俺に力をくれ!」


 ガリ男が叫ぶと、クリスタルが光を放ち、ガリ男の体に入り込む。


「何をやっているんだ!」


 茶髪男が怒鳴るが、ガリ男は笑みを濃くして両手を広げている。

 光は数秒で治まり、ガリ男の拳にはグローブが嵌められている。


「力が、わいてくる!」


 ガリ男が調子よく声をあげ、近くにやってきたゴブリンを殴る。ひょろひょろとした構えにも関わらず、ゴブリンは数メートル飛び、絶命する。


「パーティ、ジョブ……! まるでゲームみたいだっ! ははっ」


 ガリ男が無邪気に笑い声をあげる。

 あれが……クリスタルの力か。

 さっきまでただの雑魚だったにも関わらず、今では一流の武道家顔負けのパンチを繰り出せるほどになっている。それもまったく技術のない構えでだ。

 残っていた一体のゴブリンは最低限の知能はあるようで、ガリ男に敵わないと見るや逃げようとした。


「逃がすか雑魚がっ!」


 嬉々としてガリ男がゴブリンの先回りをして、これまた微妙な蹴りを放つ。威力はあるようで、ゴブリンは回転しながら飛んでいった。綺麗な回転だが、着地に失敗している。

 むちゃくちゃだが、あれだけ適当にやってあれだけの力なのだ。元々格闘の心得がある人間が扱えば、アレの倍以上は強くなる。


 アレだけの力ならば、オークや恐竜にだって勝てるかもしれない。

 全員が呆けている中、最初に現実に戻ってきた茶髪男がガリ男に近づいていく。その顔は怒りに染まっていた。

 近づいてガリ男の胸倉を掴む。

 茶髪男はそれなりに筋力がある。だが、ガリ男の体は全くぶれていない。

 まるでゾウにでも対面しているように感じたのか、茶髪男は一瞬怯みを見せた。


「なんで勝手にクリスタルの力を使ったんだ!」


 確かに使用を迫られるような状況ではなかった。

 顔から血を出しているギャル女は、赤くなった頬をさすりながら、きつい眼差しで丸坊主に肩を貸してもらっている。

 ガリ男はふんと鼻を鳴らし、茶髪男の手を払い落とす。

 

「うっせーよリア充が! お前だってどうせ、力を自分のモノにしようとしてたんだろ!? だから、テメーは焦ってんだろ!?」

「何を言っているんだ? そんなつもりはないっ! キミは何を考えているんだ?」

「ごちゃごちゃうるせーよ!」


 ガリ男は茶髪男の首を絞めて持ち上げる。

 息が出来ずに茶髪男はむせながらも、ガリ男の腕を掴んで抵抗する。

 気に食わないようで、ガリ男の顔が歪む。


「俺に逆らうのか? なら、殺してやる! 抵抗するのが悪いんだからな!」

「ぐっ、やめ……ろ!」


 茶髪男が強気な目を向けてガリ男を睨みつける。ガリ男はさらにきつく力を入れる。


「ひゃははっ! どうしたよっ! さっきまで散々馬鹿にしやがってっ。威勢のよさはどこに言ったんだ!? 弱い奴にしか威張れないのか! 負け犬めっ!」


 僕は剣を拾って、ガリ男の首に背後から押し付ける。


「自虐はそこまでにしておいてくださいよ。力を得たからってはしゃいでいたら、おもちゃを与えられた子どもにしか見えませんよ」 


 ぴとりと、刺さるか刺さらないかの手前でとめる。剣の冷たさがガリ男の首に伝わる。

 だが、興奮気味のガリ男はふんっと軽く笑ってこちらをチラと見た。


「……お前だけは俺の味方だと思ってたのに、そこのブス女に誘惑でもされたのか!? さっきも助けてたしなっ!」

「あんな胸のない奴に興味ありませんよ」

「殺すっ!」


 ギャル女が声を荒げる。

 ガリ男が茶髪男に殺意を向け、僕がガリ男に殺意を向け、ギャル女が僕に殺意を向ける。複雑な関係が出来上がってしまった。

 茶髪男が強くむせたので、僕はさすがにまずいと本気の目で睨みつける。さっきまでかんしゃくを起こしていたギャル女が一気に震えだし、僕以外の全員が顔を青くする。

 空気が凍り付いていく。この辺りだけ、戦争でも起きているかのような息苦しさが広がる。


「あ、あんた何?」


 ギャル女が振るえながら疑問を口にするが、答える余裕はない。


「おろすのか、ここで死ぬか……どっちがいいですか?」

「お、お前! 本気で殺すつもりなのか!? 殺人犯だぞ!」

「法が適用されるなら、すでにあなたも罪をおかしていますよ?」


 僕が剣をさらに少し強く当てる。まだ抵抗するようなら、このまま首をはね落とす。


「ちっできもしねえくせに脅しなんかしやがって!」


 ガリ男は震えながらも精一杯の虚勢を張る。茶髪男を地面に降ろして、背中を向ける。

 さっきまでロクに呼吸ができなかった茶髪男は、息を乱しながらガリ男を睨んだ。


「どうして、クリスタルの力を使ったんだ?」

「何度言えばいいんだよバカが! お前に取られるくらいなら俺が使ったほうが有効活用できるからだよ!」


 茶髪男の顔面に唾を履きかけて、ガリ男はリホの近くにいく。いやらしく両手が動かされている。


「お前は今日から俺の女だ」

「え?」


 そして、おもむろに手を伸ばして女の胸を揉む。ガリ男はすんすんと鼻を近づけて、彼女の髪の匂いを嗅ぐ。


「な、なにするんですか! やめてください!」


 リホが抵抗して見せるが、力が明らかに負けている。目元を赤くして、必死に暴れるがガリ男は離れない。


「逆らうのかよ。死にたいのか?」


 ガリ男は自分の持つグローブがついた手を女の顔の前で揺らす。僕を除く全員が、怒りを顕わにする。


「お前! いい加減にするんだ!」


 茶髪男が声を荒げて女から離そうとするが、ガリ男はカウンターに拳を振るった。

 茶髪男はぎりぎり腕を間に挟むが、モロにくらって飛ばされる。このチームでは一番力がある茶髪男が、一撃でやられたのを見て、他の人間は足が動かない。


「ぎゃはははっ、どうしたんだよ!? これで俺に逆らえる人間はいないんだ!」

「まるでヒーローじゃありませんね。悪の幹部の下っ端ってところですか?」


 僕が素直な感想を伝えると、ガリ男は目つきを悪くする。


「うるさい! お前はずっと生意気だな! 殺すぞ」

「虚勢ばかりの妄言ですね。今もこいつに手加減してたくせに」


 殴る直前に腕の筋肉が不自然な動きを見せた。力を抜いたのは明らかだ。


「見逃してやったんだよ。感謝しろよな」


 ガリ男はそれからリホを強引に洞穴へ連れていく。

 茶髪男は負傷しながらも、幸い大怪我には至っていない。ギャル女が心配そうに寄り添っているが、茶髪男は明るい笑みで心配を消そうとする。


「あいつは……止めないと駄目だ」

「そうですね。ですが、あなたにも多少の責任はありますよ?」


 ゴブリンから奪うときに、茶髪男か、または別の人間を指名しておけばよかった。そして、そのまま彼を省くのが最善だっただろう。まあ、今さらそんなことを言ってる場合でもない。

 僕も無理やりにでも止めなかったのだから、責任はある。せめて、ガリ男の暴走を止めるまではこのパーティに付き合おう。


「俺……。確かにそうだね。あそこで切り捨てるべき、だったのかも」

「全員がうまくいくことなんて滅多にありません。終わりよければすべてよしとも言えるし、これからあいつをどうにかするしかないですね」

「キミも、手伝ってくれないか?」

「僕は表に立つのは嫌いで、苦手です。だから、あなたの補佐をさせてもらう。つまり、あなた次第ということですよ」


 それだけを伝えて、洞穴に向かう。


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