第二十一話
日差しを確認しながら、僕は森を抜けた。精霊の調子を確かめるのに時間をかけすぎた。
リーダーが洞穴の前にメンバーを集め終えたようだ。キクミ、ヒミリア、コウジはリーダーの横で照れくさそうに並んでいる。
海竜と直接戦うメンバーがあそこにいるようだ。僕が一番端につくと、疑いの目がコウジから向けられた。
「お前、どこ行ってたんだ? てっきりキクミさんといちゃこらしてるのか――」
「どこに刺されたい?」
キクミがふふと剣をコウジへ突きつける。
「適当に散歩をしたあとに洞穴で寝ていました。一人で寝るとダメですね……寝坊してしまいましたよ」
僕は後頭部をかいて、あははと苦笑しておいた。
「そうなのか? つーか何か怪我が増えてないか?」
「森でこけてしまいました。慣れてきたとはいえ、夜の移動は危険ですね」
「間抜けね」
近くで聞いていたキクミが手で口元の笑いを隠す。ばればれだ、こんちくしょう。
「それより、一応間に合いましたよね」
「んっ!」
ヒミリアが僕に向けて両手を向けてくる。頬を膨れさせ、僕を見上げてくる。
「なんですかその手は。小さくて可愛らしいですね」
「わたしのはどうした」
朝食の話か? すでにほっぺに果汁みたいなのがついているのだが。
「あるわけないじゃないですか」
「使えない男」
ぷいとヒミリアは頬を僅かに紅潮させて、怒りを示す。元気は出ているようで、よかった。
列に並んだ僕を見届けると、リーダーが声を張り上げる。
「……ここにいる私たちが海竜と直接対決をする。皆は砂浜で待機していてくれ」
メンバーの一人がおずおずと手をあげる。
「砂浜、ですか? オレたちは加護がなくて水中戦闘はできないですよ? オレたちは何をすれば……」
「……実質ダメージを与えられるのは私のチームでサエキとキクミだけだ。……少しでもダメージを与えるために、遠くから攻撃できる人にはいてほしい。海竜が見えたら、魔法や弓で援護とかをしてくれ」
ウンディーネはやはり、加護の人数を増やすことはできない。増やせば、力の維持に疲れてしまい、加護の効果が落ちてしまう。下手をすれば、海中で解除されてしまう可能性もある、
海竜との戦闘ではウンディーネの加護が不可欠だ。
メンバーが砂浜にいれば、少しはダメージも見込める。僕が昨日リーダーと考えた攻撃力の低さを補う作戦だ。
僕たちはリーダーのパーティに入る。
砂浜に待機するメンバーは、トロールのときとそれほど変わらない。トロールによって、絶望を味わった者もいるはずなのに……リーダーの人望のおかげだろう。
リーダーがざっと説明を終えて、砂浜へ移動する。僕たち五人も海竜との直接対決のための作戦会議を行う。
「作戦は昨日の通りでいいのよね?」
「ああ、作戦は昨日の通り、コウジ、ヒミリアは船で待機です。基本、僕たち三人でダメージを与えていきます。コウジとヒミリアは……まあ頑張ってください」
「……投げたな、オレたちを」
砂浜に魔物がいたが、キクミが話をしながら撫でるように切り裂いた。この辺りの敵は、僕たちの敵ではない。
海は濁っていて、泥のようだ。試しに海の水へ触れてみると、どろっとした肌にまとわりつくような不快感が伝わる。
「これに、全身つけるの?」
キクミが眉に皺を寄せ、僕の方を見る。どぶに飛び込むようなものだが、船の上だけではまともに戦えない。
「我慢するしかありませんね」
「……そうね。……我慢するわ」
がくりと肩を落としたキクミ。金持ちのキクミには大きな試練ってところか?
桟橋のような足場が海に伸びていて、そこにウンディーネが造った水の船がある。足場は結構長い。
船に乗る前に、他のメンバーに補助魔法をありったけかけてもらう。効果は永遠ではないが、スタートダッシュを切れると思えば十分だ。
船は水で作られているようだ。コウジが乗り、あちこちいじってみる。
「ウンディーネが僕の記憶から、車の運転とほぼ同じようにして作ってもらいましたが……」
精霊の力を同調させたからか、僕の記憶も多少覗けるようになってしまった。まあ、僕が見せないように意識すれば封じられるので、そこまで困るものではない。
「確かに似ているな。これなら問題なく扱えそうだぜ」
車は、一度だけ運転したことがあるが、思いっきり壁に激突して雇い主に怒られた。僕は無傷だったが、車は大破という結果だったため、免許を取る話はなくなったのを思い出す。
コウジが軽く周囲で運転してみる。
運転は問題ないようで、僕たちが海に放り出されることもなさそうだ。どういう原理なのだろうか。
どちらにしろ、コウジの役目が出来たのでよかった。
「……皆はこの桟橋で待機だ。戦士が魔法使いの後ろを守り、魔法使いは隙があれば、魔法攻撃を仕掛けるんだ」
「分かりました!」
魔法使い一同の威勢のいい発言を受け、僕たちは船に乗り込む。船は水を基本に作ってあるようなので、ひんやりとしていた。真夏にこのベッドがほしい。
五人が乗ってもまだ数人の余裕がある。コウジがエンジンをかけ、船が走り出す。
「おっとと……いきなり飛ばさないでくださいよ」
僕は体勢を整え、転げてしまったヒミリアを立たせる。
「悪ぃ、悪ぃ! これ面白くてなっ」
しばらく海を進んでいき、桟橋がどんどん遠ざかり、コウジは船の速度を緩める。
「おい、今、何かが海を通ったぞ」
「そうですね……コウジ。なるべく一箇所に留まらないで移動してください。転覆とかは嫌ですからね」
「オレもだっつの……」
コウジの運転はあからさまに丁寧になる。
僕は海への注視を厳しくする。影のようなものが見えた。
「……来ましたね」
ウンディーネの力のおかげか、僕は海竜が襲い掛かるのが水越しに伝わる。
海が泣くように震え、山を作るように盛り上がり、そいつは、僕たちの進行方向に飛び出した。
「こいつですかっ!」
僕の目はきっと輝いていただろう。全長五メートルほどの竜に似た魔物が、船を破壊しようと飛びかかってきた。
コウジが避けるようにハンドルをきるが、間に合うか?
船から転び落ちそうになっているヒミリアを抱えながら、僕はダガーを手に持つ。
「やべ、やべっ! どいてくれ! 足がつるぅっ!」
コウジがハンドルを回しながら、クラクションを鳴らすようにボタンを押す。
地球での運転が体に染み付いていたのだろう。クラクションの代わりに、船からは水のレーザーが発射される。
「ヴァァァ!?」
海竜に直撃し、あまりダメージはないようだが、驚いた海竜が海へと戻る。
僕は船のふちに手をかけ、ヒミリアを離す。
「ナイス、クラクション」
危うく、戦う前に全滅するところだった。僕がぐっと親指を立てると、コウジはぽかんとしていた。
「クセだったんだが、まあなんにせよよかったぜ。これで、オレも攻撃に参加出来るな」
「出番があれば、ですけどねっ」
「ないことを祈ってるからなぁー!」
水中戦闘を行う僕たちは視線を合わせ、加護を信じて水中に飛び込む。
頭まで水に浸かったところで、目を開く。
よどんでいるが、不思議と視界は良好だ。加護のおかげだろう。
周囲を見回し、僕はオークダガーを抜く。今一番攻撃力のある武器だ。トロールダブルエッジは水中で扱えるか分からない。
不意をつくのは無理と判断したのか、海竜は僕たちの正面を塞ぐ。
威圧的な視線は、全身が切り刻まれそうなほどに鋭かった。
「ヴァアア!」
海竜は大きな口を近づけてくる。僕は片手でサインを送り、上下左右へ散り散りになる。
海竜の口は誰も捕らえることがない。吠えるように体を揺らし、海竜は海面へ向かう。狙いは船、だろうか。
僕は行かせまいと泳ぐ。だが、海竜は寸前で僕のほうに顔を向け、凶悪な魔力を溜める。
魔法が放たれると感じて、僕は、すぐに泳ぐ速度を上げる。
魔力が形を作り、発射される。僕は必死に右腕を伸ばしながら上へと泳ぐ。ブレスがさっきまで僕のいた場所を通過する。
海竜のブレスはそれだけで終わらない。追尾するように上――僕へと向けられ足元をブレスが掠める。
痛みは一瞬。僕のダガーが海竜の右目に直撃し、ブレスは止まる。
暴れだした海竜に巻き込まれ、僕は海の底へと弾かれる。いくつもの水の壁を突き破ったような衝撃が背中を襲い、悲鳴のかわりに水泡が口から吐き出される。
海竜は逃げるように海中から飛び出す。だが、ヒミリアの魔法と船のレーザーが直撃し、海に戻される。
ざまあみろ。僕はほくそ笑みながら、ダガーを力強く握りしめて落ちてきた海竜に肉薄する。
(パラライズダガー!)
心で唱えながら、尾びれから頭までを斬りつける。
黄色の電撃のような刃が海竜の全身を包み込むが、足止めは数秒。やはり、パラライズダガーは効かないか。
僕に標的を決めた海竜が噛み付いてくる。
ダガーで牙の先を弾き、僕は海竜の上に回り、ヒレを掴む。
「ヴァァ――!?」
触られるのが嫌なようで、大きな悲鳴が海に響く。
暴れだした海竜に、弱点と判断した僕はダガーをヒレの根元へ突き刺す。苦しみ悶える姿に笑みを濃くしながら、全力を叩き込む。暴れ始める海竜。
このままではいらないダメージを負うと判断し、僕は手を離す。
海竜の暴れは次第に治まり、僕をきつく睨みつける。
僕に集中していて大丈夫なのか? 僕が挑発的に睨んだタイミングで、キクミの突牙線が風穴を開けんばかりに叩き込まれる。
スキルが吠え、海竜の肉を抉り、大量の血が海に溶け込む。
「ヴァァァ!」
きれた海竜が尾びれを揺らす。その攻撃はキクミに当たる前にリーダーに阻止される。
リーダーが軽くタックルをしただけで、海竜が不自然なほどに怒り、リーダーに突撃する。
リーダーは攻撃をぎりぎりまでひきつけ、避ける。水中であるため、上下左右に移動できるのは回避する場合に便利だ。
海竜は急ブレーキで標的であるリーダーを目で追う。
「ヴァ!?」
(大人しくしてろよ……)
背中にあるうちの一つの尾びれを掴み、僕はポイズンダガーを突き刺す。
「ヴァヴァヴァ!?」
すると、海竜の様子がおかしくなる。毒が……通用するのか? 確証はなかったため、発動すれば、程度の気持ちだった。
僕に全身でタックルをぶつけてきた海竜。僕は回避が間に合わず直撃する。
まるで車にでも突っ込まれたような衝撃だ。だが、この程度なら、問題なく耐えられる。
日頃のトレーニング、さらにクリスタルによって肉体は強化されている。
単純な身体能力ならば、今の僕を越える存在はいないはずだ。
「ヴァ!?」
僕が吹き飛ばずに受け止めたことに、驚愕しているようだ。
『……貴様は人間の皮を被ったドラゴンか何かだろうな』
呼ぶ前に出てくるなウンディーネ。僕は油断している海竜の背中へ、トロールダブルエッジに切り替えて連続斬り。
驚きによる大きな隙。時間的に余裕があるからこそ、僕はこの武器を水中で使える。
回転するように何度も振るうと、血が海を汚していく。元々汚いため、今さらだ。
海竜は逃げだす。だが、キクミが追い討ちをかける。
邪悪な笑みでスキルを放つと、海竜は怯えたように別の道に戻る。海竜の気持ちもよくわかる。同情する。
海面に出た海竜は、船を捜しているようだ。僕たちが無理ならば、という作戦か。
追うように僕も海面に出て、顔に張り付いた髪をどかす。船は岸近くに移動している。
海竜がそちらに向かおうとしたところで、無数の矢と魔法が飛んできて、僕はたまらず海面に避難する。
桟橋からの援護だ。コウジがしっかりと船を移動させていたからこその一撃。
逃げ遅れた海竜はほとんどを浴びたのか、顔に無数の傷を作りながら海中に戻ってくる。
海竜が目を血走らせ、僕に攻撃しようとするが、頼もしい背中が僕の前を覆う。
リーダーだ。両手を広げるように、リーダーは攻撃を受け止める。
兜がついたままの顔がこちらに向く。
僕と違って、リーダーは疲労こそある。が、ダメージは全く負っていないようだ。
それでも、連続で攻撃されればリーダーが潰れてしまう。
僕たちは少しでも攻撃回数が減るように攻撃していく。ポイズンダガーで何度か攻撃するが、毎回効くわけではないようだ。
海竜は中々倒れない。そして、先にまいったのはリーダーだ。
リーダーが両手でバツを作る。アレは限界のサインだ。ばたばたと足を動かし、海竜から距離を開けていく。
すかさず、リーダーが休めるように僕が前に出ると、海竜は僕を危険人物と判断したのか、勢いよく後退した。
かしこい魔物――。戦闘が長引けば、お互いの手の内がわかってしまう。その状況で勝てるのは、スタミナの多さ、技の豊富さだろう。
技の豊富さでは、僕たちがリードしているかもしれないが、海竜のスタミナは僕たち三人を遥かに越えている。
そして、海竜は僕たちからだいぶ離れたところで、水のブレスを溜めに入る。
距離を開けたのはこのためかっ――!
最初の攻撃で海竜は水のブレスを僕に破られた。水中だからこそできる荒業を利用して。
だから、海竜は僕から距離を開けた。怯えているように見せかけて、内心ほくそ笑んでいたのだ。
水のブレスはリーダーに向けられる。今一番傷ついていて、やられれば僕たちに大打撃を与える最高の一手。
ああ、なんて最高な魔物だ。これほど、賢く戦いにくい奴だとは思わなかった。
僕は爆笑したいと思いながら、冷静に状況を分析する。これ以上海竜に切り札がないことを祈り、離れていくリーダーを追う。
リーダーは僕たちを巻き込まないためにか、わざと別方向に泳ぐ。自分の身を犠牲にするつもりか……。
そんなこと許さない。僕は全力でリーダーのほうに泳ぎながら、キクミに目と手で指示を飛ばす。
「ヴァァァァ!」
海竜が放ったのは、水のブレス。回転するように放たれた水のブレスはまるでドリルのように、リーダーと僕へ向かってくる。直撃すれば、死ぬだろう。
だからこそ、僕も全力をぶつける……っ。
海竜の力を認め、僕も隠していた切り札を使用する。
(ウンディーネッ。力を貸せっ)
『む、出番か』
僕は海の中で生き続ける精霊の呼吸へ耳を傾け、より多くの精霊を取り込む。体がゆっくりと水と同化していく感覚。
キクミが僕の変化に気づいたようで、泳ぎながら顔を向ける。それも海中に住む水の微精霊から伝わってくる。
何かウンディーネみたい。
キクミは目を見開きながら、口をそう動した気がする。
的を射た説明だ。これで成功していることが分かる。
水のブレスは魔法のようだが、所詮は水だ。
海竜が放った水のブレス。僕はその構造を把握し、微精霊の尻を蹴り飛ばすようにしていうことを聞かせる。
『相変わらず……精霊魔法の扱いが汚いな』
ウンディーネは僕の心の中で罵倒しながら、僕に水の知識を与えていく。その知識と微精霊を用い、水のブレスをただの水へと戻す。行き場を失った衝撃が、その場で小さな爆発を起こし、僕たちの泳ぎに支障をもたらす。
海竜は確かに水に関して知識が豊富なようだが、ウンディーネの右に出る物はいない。
この状態の僕に、水の攻撃は無意味だ。すぐに精霊ウンディーネを解除する。途端、体内の血液が暴れだしたかのような痛みを駆け抜ける。
この程度の痛み――我慢できないはずがない。これは僕の体だ。
痛みだろうが何だろうが、僕の言うことを聞きやがれっ。
脂汗が海水に混じりながら、痛みを気合で捻じ伏せる。それから僕は、リーダーに片手をあげて、海竜へ接近する。
海竜は驚いたように動きを止め、そこへキクミがスキルをぶつける。
最初からやりなさいよっ。
キクミがスキルをぶつけながらこちらを睨んだ。
長時間の維持ができませんと口を動かしたが、通じたかどうかは分からない。
つーか、こっちをみてる暇があったら、敵に集中しろっ。
僕は弱点のヒレを斬りつける。海竜は苦悶の声をあげながら逃げるように離れる。だが、明らかに動きが遅い。
またブレスが来るが、さっきと同じようにウンディーネを体に宿し、ただの水に戻す。
ウンディーネの真価は水を操れることよりも、冷静になれるところだ。頭から水をかけられたように、どんな怒りも沈下させられる。
そして、対象の呼吸を読むことが出来る。
海竜が何をしようとしているのか手を取るように分かる。精霊ウンディーネの力が、海竜の呼吸を分析し、追い込まれているのを伝えてくれる。
水があるここならば、ウンディーネを従えている僕に勝てる敵はいない。
『誰がお前に従えているだ。仕方なくだ、馬鹿』
うるさい。僕は最後の作戦を決行するために、二人に手で合図を出す。
行動を先読みし、尾びれの攻撃を避けながらポイズンダガーをぶつける。
毒が発症したのか、海竜が悲鳴をあげる。
どれだけ体力に自信があっても、毒によるダメージと僕たちの攻撃をくらい続けているのだ。無事なはずがない。
海竜が逃げようと泳ぎ始め、僕は何とかヒレを掴むことに成功する。さらに暴れだすが、離すものか!
海竜を自由にさせないようにヒレを引っ張り、痛みによってある方角へと誘導していく。
僕が余っている片手で、キクミにスキルを発動するようにサインを出した。泳ぐスピードの速い海竜だが、僕たちはそれにもついていけるほどだ。
冷静に僕はタイミングを計り……片手をあげた。
キクミが一気に海竜へと泳ぎ、未だ暴れている海竜の腹へスキルを放つ。泳いでいた力の向きが、上に変わる。
同時に僕はダガーを叩きつけ、ヒレを掴む。
けたたましい悲鳴とともに海竜が海面へと飛び上がる。僕も海竜の背にくっついたまま、空中へ上がる。
「コウジ、ヒミリア!」
「任せろっ」
「アクアボール・オーバー!」
海面へ飛び出すと僕はすぐ近くに桟橋の魔法部隊がいるのを確認して笑みを濃くする。アクアボールと水のレーザーが襲う。
横から殴りつけた二つの攻撃によって、海竜の体は砂浜の方へと向かう。だが、まだ足りない。
「ウンディーネ、やれ!」
『おいしいところだな……』
ウンディーネは、僕の体の力を勝手に使って海の水を操る。
海の水は巨大な拳を形取り、海竜を殴り飛ばした。強烈な打撃に、僕は尾びれから手を離してしまう。
とはいえ、衝撃は残ったままだ。横っ飛びに着地したのは砂浜だ。
ごろごろと体に砂をつけながら、僕は全身から血が噴出したような痛みを感じながらも懸命に立ち上がる。
「打ち上げられた気分はどうですか?」
僕はダブルエッジに変えながら、笑ってやる。
海竜は砂浜で暴れているが、上手く動けないようだ。
海竜の大きな体では水が足りなくてまともに動くことが出来ない。足でも生えていたらやばかったが、海竜は魚に近いため、陸ではロクに動けないようだ。
海で戦い続けるのは危険だったから、こうしてラクな戦場に変えさせてもらった。
桟橋からやってきた、メンバーたちもそれぞれ武器を構えて不気味に笑っている。
「この人たち笑顔怖いですね。みなさん、犯罪者じゃないんですか?」
「お前が一番怖いぞ」
船から戻ってきたコウジが、僕に言い放つ。
僕たちは、動けない海竜に武器をたたきつけた。
今までの鬱憤が相当たまっていたからなのだが、海竜からすればいい迷惑だったろう。
こうしてそれほど苦戦することもなく、海竜の討伐に成功した。