第十九話
次の日になると、ヒミリアはぴんぴんとしていた。まだ不思議な声が聞こえるそうだが、落ち着いている。
昨日言っていた通り、僕達はリーダーを誘って少数精鋭で向かう。
「別についてこなくてもいいんですよ?」
「べ、別にいいじゃないっ」
僕は移動しながら、どのダガーで戦うかを考える。ウルフ、ブルースライム、ポイズンバタフライ、アクアフィッシュの武器を、サードにまで強化し終えた。
ブルースライムについては特に何かがあるわけでもないつまらない武器だった。
ウルフからは突牙、アクアフィッシュからはアクアダガーというスキルが手に入った。突牙は貫通力をあげるダガー専用技で、アクアダガーは水の斬撃を放つスキルだ。
アクアダガーは色々と使い勝手があるが、ウルフの突牙はまだ活躍できるような場面に遭遇していない。ボルケーノドラゴンに試してみれば、効果のほどがしれるだろうが、その後を考えるとやりたくない。
ゴブリンダガー、パラライズダガーを熟練度で覚醒した。キクミが、スキルも強化できることを教えてくれたからだ。
本当はトロールダブルエッジを覚醒させたいのだが、サードまで上がった武器でないとダメなのだ。
ゴブリンクラッシュ・弐式、パラライズダガー・弐式。ゴブリンクラッシュは単純に威力があがったが、パラライズダガーはいまいち効果のほどが分からない。
麻痺をさせやすくなったのだろうか? 数値として書かれていないため違う可能性もある。
色々な武器を試したいが、熟練度に余裕が生まれてからだ。
「オグゥゥ!」
出現したオークの棍棒を、リーダーが両腕で受け止める。
オークは驚き、残りの四人がスキルをぶつける。もう何度も戦っているため、慣れている。
トロールダブルエッジでオークの足を斬る。刃は深くまで通るが、斬り飛ばせない。
オークが僕達五人を睨み、傷ついた足を庇いながら棍棒を振り回す。
暴風が僕らの間を駆け抜け、棍棒の一撃がやってくる。直撃しなければ無意味だ。
僕はオークダガーに切り替え、アクアダガーを放つ。水色の斬撃がオークへ襲い掛かる。
対抗するようにヒミリアがアクアボールを放ち、オークの顔面ではじける。視界が封じられたオークへ、キクミが得意の突牙線を放つ。
限界まで溜められた一撃は、オークの足を抉る。耐え切れずにオークは倒れた。
僕はふうと息を吐き出し、汗を拭っているコウジを視界に映しながら、武器を確認する。
『オークダガー・サードが解放されました』
よし。
早速切り替えて、ゴブリンダガーと比べる。攻撃力はゴブリンダガーを上回っていると僕は予想する。
スキルはないが、十分だ。これで、ゴブリンダガーも引退できる。
ゴブリンダガーと基本的な作りは変わらないが、刃が僅かに輝いている。後、手になじみやすい。
「よっしゃ、新しいスキルだっ」
コウジが嬉しそうに声をあげる。
最近知ったのだが、同じ魔物の武器でもスキルのあるなしが分かれているようだ。
僕はブルースライムから何も得られなかったが、ヒミリアはアクアガードという水属性の攻撃を軽減する魔法を入手していた。
「どんなスキルですか? 使えないことを祈ります」
嬉しそうにしているコウジへ訊ねてみた。
「祈るんじゃねえ。オーククラッシュだそうだ。ゴブリンクラッシュの上位版みたいだな」
新たな攻撃スキルは、この島での唯一と言える楽しみだ。
僕にもゴブリンクラッシュがあるのだから、オーククラッシュがあってもいいのに。まあ、暗殺者らしくないスキルだから仕方ないか。
「キクミはスキル手に入っていないのですか?」
「ええ、そうよ。何か文句でもあるの?」
「ありませんよ。そう突っかからないでください」
キクミは服についた埃を払い、顔をそっぽに向けた。
もしかしたら、キクミは僕との接し方に困っているのかもしれない。一応、結構な事件があったのだから、仕方がない。
僕は今まで通りでいいのだが、案外難しいものだ。
「それにしても、第三層はオークの出現が多いわね。豚顔は飽きたわよ」
「同感ですね」
「僕がオークなら、この世のほとんどの男がオークになりますよ」
「大した自信ね」
「それだけが取り柄ですから」
キクミは呆れたと片目を閉じて、ため息をこぼした。
僕とキクミは相手を貶すことが多い。初めて会った頃は他人行儀であったが、今ではすっかり罵倒、罵倒だ。
コウジ曰く似た者同士らしいが、それはない。
キクミの文句に、僕も同意だ。第三層の主な魔物はオーク。
時々イノシシが出現するのだが、あいつの武器はめちゃくちゃ弱い。
一体倒すのにオークと同等かそれ以上の時間がかかるのだから笑えない話だ。
さらにイノシシたちは、体力がなくなると逃げ出す。
そして、木にぶつかって、最悪傷口に木が刺さって自殺するという馬鹿だ。
木が殺したからか、急成長し、いきなりトレントになって襲い掛かってきたり……とにかく迷惑極まりない魔物だ。
トレントダガーは下級調合というスキルが手に入ったからいいが、調合する素材がないので放置だ。
ふたたび、第三層の探索を開始すると、リーダーがヒミリアに声をかける。二人の会話は珍しい。
「……こっちで、道はあっているのか?」
「あってる。けど……本当にいいの?」
「……仕方ない。今は、声以外に可能性がないんだ」
「……そうだけど」
ヒミリアが助けを求めるように、僕へと顔を向けてくる。僕もリーダーに同意見だ。森の中の移動は危険と隣り合わせだ。
得体の知れない声に頼るのも不安はある。とはいえ、このまま島を闇雲に探し回っていても、結果は変わらない気がした。
……何より、ヒミリア自身が一番不安だろう。僕もできれば彼女を助けたい。
騙されている可能性もあるので、常に疑いながら僕たちは進んでいる。
「明らかにおかしな道案内でしたら、その時は一言言ってください」
「うん」
それからもオークは出現してくる。武器の強化が終わった魔物は極力倒さないで行くのだが、それでも避けきれない場合もある。
オークは無駄に丈夫だから、倒すのに時間をとられる。
魔物たちに邪魔されたせいで、中央にたどり着くのに時間がかかってしまった。
森の木々に終わりが見え、湖がみえる。湖から一本の川が出来、さらにそれがいくつかに別れて、島の川に繋がっているようだ。
川の水も綺麗だったが、湖の水はさらに綺麗だ。底まで見える湖にしばし見とれる。思わず触りたくなるほどだったが、それよりも湖の表面にある魔法陣が先だ。
「触れたら、またボスと戦いとかじゃないでしょうね……?」
それは僕も考えたが、この魔法陣、以前と少し違う。細かい線のようなものが違うように見える。
「サエキ、絶対押すんじゃねえぞ?」
コウジが顔を引きつらせ、僕から距離を開ける。前回のがトラウマになったようだ。
アレはわざとじゃないんだ。何度伝えてもコウジは信じてくれない。
「押してほしいのですか?」
「伝えておかないと、何されるかわからねえだろ! あ、やべ、足つっちまった……」
コウジは足を引きずるようにして、近くの木で休憩を始めた。
「代わりにキクミ、行ってみますか?」
「あなたが行きなさいよ」
僕とキクミで取っ組み合いが始まる。お互いに笑顔で相手を湖に突き落とそうとしている。
そんな醜い喧嘩を止めるように、湖の魔法陣が光をあげる。
『異界の戦士よ。我が名はウンディーネ。水の精霊として、切り離されたこの世界を守護している』
「あっ、この声っ!」
ヒミリアが魔法陣に浮かんでいる人型の女性を指差す。湖の上に立っている女性は、水で出来ている。絶世の美女と言われても過言ではないプロポーションをしている。
「オレ、あの人になら犯されてもいいなぁ。魔物娘とか大好きなんだよ」
などとコウジが変な性癖を暴露している。首をつってほしい。
ウンディーネには聞きたいことが山ほどあった。
「……義則、キミに話を任せてもいいだろうか」
「どうしてですか? こういうのはリーダーがやるべきではありませんか?」
「……その、なんだ。キミは……ずばっといえるだろう? 私はさすがに……あまり得意ではない」
リーダーの言葉にキクミが噴出す。
酷い人たちだ。
「ウンディーネ、僕たちが、この世界の住人ではないのは知っていますよね?」
『ああ』
「あなたが召喚したのですか?」
『違う。だが、犯人がこの世界に入って来たのは知っている。その者の魔力構造は人間ではなかった』
「人間じゃない、ですか……。魔物が僕らを召喚したとでもいうのですか?」
『犯人は、別の世界の……存在で魔族か何かだろう。この島にやってきた男が、謎の魔法陣と神に見立てた像を持っていた』
魔族……。性別があるのだから、人間みたいな存在か。
ウンディーネの説明は、もう少し前提の知識が必要で、文脈からおおよその意味を理解しなければならない。
『私はその頃別の用事に追われていて、とてもではないが一人の小さき魔族に構っている場合ではなかった。もっとも、別の用事にもその魔族が関わっていたのだが』
「詳しい説明をしてくれませんか? こっちは魔族とか一つも分かりません」
『魔族については、私も詳しいことは知らない。魔物が知性を持ち、人間のような容姿になったことくらいだ』
「魔族がなんで僕たちを召喚したのですか。あなたはその時に何をしていたんですか?」
共犯の可能性を僕は疑い、慎重に言葉を選ぶ。
ヒミリアが不安そうにウンディーネを見つめる。ヒミリアにだけ声が聞こえた理由も、聞き出さなきゃいけないな。
『魔族が召喚した理由までは知らない。私は、その間、海竜からこの島の水を守るために魔法を構成していた』
「海竜……砂浜の先にある海に住んでいるのか?」
『そうだ。海竜と私は共に水を綺麗に保ってきたのだが、海竜が突然おかしくなったのだ。白い鱗が黒く染まり、まがまがしいオーラを放ち、すぐに海を穢していった。犯人は、魔族だろうな』
ウンディーネは苛立ったように、舌打ちをする。
確かに、あの海は入りたいという気持ちを蹴散らすほどに汚かった。まるで毒沼のようだった。
『この島も近くない未来に、水が汚染されてしまうだろう。そうなれば、私も死に絶える』
「ヒミリアを使って僕たちを呼んだのは、あなたですよね」
『そうだ』
そして、義則はウンディーネの目的にたどりつく。
「その海竜の退治を僕たちにやらせたい、とかそんなところですか?」
『そうだ』
「ヒミリアにだけどうやって語りかけてきたんですか」
びくりとヒミリアの肩が振るえ、黒猫を抱えながらウンディーネに近づく。
「あなたは、わたしを知っているの?」
『……ヒミリアか。知ってはいるが、私はお前の壊れた魂を修正したにすぎない』
「壊れた、魂?」
ヒミリアが言い直しているが、言葉の意味は分からない。
「ヒミリアは死んでいたってことですか?」
『それは、分からない。お前の体の構造はゴーレムに似ている。そのゴーレムの体に入れられた、魂のようなものだと考えていた。誰かに召喚された、のではないか?』
「ゴーレム……知らない。わたしは、そんなの分からない」
魔族が召喚したのだろうか。僕の思考を破壊するように、ウンディーネがこちらを見る。
『お前は、この島に突然現れた。それも、魔族が現れるよりもずっと前に。私はそんなお前に少しの加護と魔法を教えただけだ』
「……アクアボール」
やけに使いやすいと、ヒミリアは言っていた。
『そうだ』
ヒミリアは首をぶんぶん振り続ける。理解できないことが多すぎる。情報不足は明らかだ。
「ヒミリア、何か訊きたいことはありますか?」
「……わからない」
だろうな。ひとまず、ヒミリアの件はヒミリアが落ち着くまで保留だ。
「あなたはヒミリアに与えた加護で、僕たちを導いた。そして、僕たちの実力を知って海竜退治を任せたい」
『ああ、お前たちならば任せられると判断した。人間の力を借りるのは悔しいのだがな』
「あなたは島を見ていた、ということですよね? それとも、ほかに……」
ウンディーネが水を伝って島を観察している可能性はある。
だが、それだけでは僕たちの正しい力を見抜くことはできない。
「まさか、あのトロールもあなたが仕掛けたもの、だったのですか?」
『そうだ』
「……なんだと。お前のせいで、何人が犠牲になったと思っている……っ」
リーダーは激昂とともに、湖に突っ込んでいく。足場が見えていないのか、そのまま湖に入りそうで、コウジとキクミが慌てている。
『六人ほどだったはずだ』
「……具体的な数字を聞いているわけじゃないっ!」
『聞いたではないか……』
リーダーとウンディーネがずれた話を始めそうになったので、僕はリーダーの肩を掴む。
「リーダー、落ち着ついてください。ここで暴れようが死んだ奴らは戻ってきませんよ」
「だが……いや、そうだな」
リーダーはすぐに落ち着きを取り戻し、その場でウンディーネを威圧している。
「僕たちの中にはあなたを恨む奴もいるでしょう。だから、あなたに力を貸したいと思える人はいないはずです」
『だが、お前たちの目的はこの島から出ることだろう? ならば、問題ない』
「海竜が関係している、ということですか?」
『この島は本世界から切り離された別世界だ。この世界にあるのは私がいるこの島がすべて。世界から出るには世界の端に行けば簡単だ。世界の端は海を少し行ったところだ』
「見事に目的が重なってるのですか……」
僕たちが脱出するには、海竜を倒さなければならない。この島を守るために、海竜を倒さなければウンディーネは消滅する。
危険なのは、僕たちもだな。水がなくなれば、まともな生活なんて送れない。
ウンディーネよりも僕たちのほうが厳しい状況だ。
ただ、気になるのは切り離された世界という言い方だ。島と島を繋ぐのに、海がある。
ウンディーネの言い方では世界と世界を繋ぐ空間があるのかもしれない。
「僕たちが世界を出た場合、無事に元の世界に戻れるのですか?」
『近くの世界に移動できるはずだ。召喚魔法自体がそれほど強力なものでなければ、お前たちは近くの世界から引きずり込まれただけだ。世界から出れば、戻れる可能性は高いだろう。故郷と、お前たちは繋がっているからな』
僕たちをここに呼んだ魔族に仕返しができないのはムカつくが、戻れるのならよしとしよう。
魔族の目的がなんであれ、戻ればひとまずは解決するはずだ。またいつ呼ばれるかという不安は残るが。
「あなたは自分で何か出来ませんか? 海竜を僕たちに頼まなければならないほど、弱くはなさそうですが」
ウンディーネを形作る水が、怒りを表すように震えた。
『……私は、戦いは嫌いだ。元々、人間と魔族の争いのせいで、私はこの世界に逃げることにしたのだ。争いばかりで、水を穢すお前たちを、私は許しはしない』
魔力が膨れ上がり、僕の体へ衝撃となって襲い掛かる。
僕は、逆に力を込め、魔力の塊を吹き飛ばす。
『……ほぅ、中々頑丈だな。人間とは思えないな』
「僕は地球では化け物みたいなものでしたから。好き嫌いじゃなくて、やらなきゃならない戦いもあります。あなたは海竜の友達ですよね。友達の失態を自分でどうにかするつもりはないのですか?」
『何が、目的だ。はっきり言え』
「あなたの力を僕たちに貸せ。そうすれば、海竜を止めるのもラクになります」
海の中にいる敵に対して、攻撃する手段が少ない。さらに、海というどう考えても海竜が得意な戦場。
陸におびき出せればいいが、砂浜で海竜に襲われた人間はいないから難しい。
『人間に力を貸せというのか』
「あなたの体の一部をもらえれば、僕たちはダガーで強化できる。この島にいたのなら、僕たちの戦い方も大体理解しているんじゃないですか?」
『対象の魂……いや、魔力を奪えば、それらの武器は進化するだろう。ならば、分かった。私の加護を盛大にプレゼントしてやる。ただ、あまり多くの人間に与えることはできない』
「なぜですか?」
『私ももうあまり強くはない。この湖でなら、大量の人間に力を与えられるが、よどんだ海では……私の力も本来のものよりか落ちてしまう。ここにいる五人が限界だ』
「そうですか……それでも構いません。ください」
そういうと、僕の視界にウンディーネダガーと表示される。特殊効果として、海の生き物が発生している。攻撃的なスキルはない。
『私が持つ力の一つだ。人間は水中では動きが鈍くなり、呼吸もできないのは知っている。だから、その二つを克服してやる』
「へえ、そりゃ一気に戦いがラクになりますね」
敵のアドバンテージがなくなったようなものだ。
まだ水中で試していないので、どれほどかは分からないが。
『それと、水の船を砂浜に作っておいた。これぐらいすれば、どうにか倒せるか?』
「まあ、海竜を倒せる可能性がぐっと上がったでしょうね」
海竜がどれだけの実力かを調べる必要がある。その前に、特殊効果を試してみたい。
「ウンディーネ、この湖で武器の効果を試してみていいか?」
『……仕方ないか。いいだろう。私の中に入るがいい』
ウンディーネが湖に姿を隠したので、僕は湖によって手をつける。準備運動をしたほうが安全だろうけど……スキルを信じよう。
僕が服に手をかけると、ウンディーネが顔だけを出した。
『服は脱がなくても大丈夫だ。水で濡れないようになっているはずだ』
「せっかく僕の鍛え上げられたボディを見せてやろうと思ったのですが……またの機会にしますか」
「誰がそれで喜ぶのよ」
キクミは僕を抜かして湖に飛び込む。リーダーは何ともいいがたい表情で湖に入る。
鎧をつけたままで大丈夫なのだろうか。
「わたしは……なんなのだろう」
「悩むのは後にしておいたほうがいいですよ。今は体を動かして忘れましょうよ」
ヒミリアにとっては気分転換になるだろう。昨日からずっと悩みっぱなしだ。
「う、うわ、何する! 抱えるなっわたし、泳げないっ」
ヒミリアが抵抗するようにポコポコ殴ってくるが、ダメージはない。
「コウジは入らないのですか?」
「話聞けっ」
ヒミリアの蹴りが炸裂する。
コウジは湖のふちに立って、ははっと乾いた笑いを浮かべる。
「……知ってるか? オレって、実は泳げないんだ」
「加護もあるし大丈夫ですよ」
「お、おい! 押すなって! 自分のタイミング! 自分のタイミングで入りたいんだよっ」
「放っておいたら入ってこないですよね。こういうのは勢いが大事なんです、勢いが」
コウジの背中をとんと押し、僕はヒミリアと共に湖に飛び込んだ。
身体がゆっくりと水へ沈んでいく。肌をつめたい水が撫でていくのを感じながら、僕はゆっくりと目を開く。
ウンディーネが管理しているだけあり、この湖は透き通っている。今までこれほど綺麗な湖は始めてみた。
すいすいと泳いでいると、加護の効果が尋常じゃないのを理解する。
どういう原理か分からないが、水中で呼吸ができ、目を開けていても遠くまで見渡せる。水が入って痛くなることもない。
これなら、泳げないという二人も大丈夫だろうと顔を向けてみる。
コウジは……まるで前に進まず、その場で泡を生み出すだけ。器用な奴だ。
コウジがどうだ? とばかりにこちらを見る。
ないなとだけ、首を振っておいた。
ヒミリアのほうは、犬掻きのようにして泳いでいる。まあ、ここまでの加護を受けて泳げないほうがおかしいか。
溺れる心配がなくなったのか、二人は少しずつ泳ぎの練習を始めるが、正直戦力として数えられない。
逆にリーダーとキクミは十分だ。
キクミはすでに剣を振り、水中での感じを確かめている。
リーダーは……なんか怖い。泳ぐのが速いのはいいが、彼は鎧をつけているのだ。鎧を着た人間がそこそこのスピードで迫ってくる。中々にホラーだ。
とりあえず、僕も調子を確かめていく。
まずは普通に泳ぐ。全力で泳げば、地上よりも速く移動できる。それから、ダガーを掴み敵がいると考えて動いてみる。
ダガーの振る速度は問題ない。
スキルも発動できるが……ダブルエッジは少し扱いにくい。地上でも集中を切らせば、自分の体を傷つけそうになるから仕方ないか。
水中では相手が動かない状況でしか使えそうにない。
やがて、全員の動きがなれたのを確認してから、水中から顔を出すように指示を出す。
「どうしたのよっ?」
ぷはっと息苦しいわけではないが、空気を吸い込むキクミ。
僕は彼女の疑問に答えるように、ウンディーネへ話しかける。
「試しに戦いをして見たいんだが、ウンディーネどうにかできないか?」
『……そうだな。これならどうだ?』
ウンディーネはミニウンディーネを作る。
『私の分身みたいなものだ。私は水がある場所では不死身だから、好きな風に戦ってみるがいい』
「よし。全員潜ってください」
「なるほどね……まあ戦ってみるしかないわよね」
それからウンディーネの分身と戦いを始める。
僕は全員の状態を確認する。どれぐらい、水中で戦えるのか。戦力はやはりよろしくない。
コウジは泳ぐのが下手でまともに動けない。近づいてきたウンディーネにハンマーを振るが、あたることはない。
ヒミリアはアクアボールをぶつけるが、大してダメージはない。海竜に対しても攻撃は効かないだろうな。
ヒミリアは僕たちに補助魔法をかけるのが限界だ。
キクミは、地上と遜色ないどころが地上よりも素早く泳いでウンディーネと戦っている。だが、決定打といえるものではない。
僕はキクミの動きを邪魔しないよう、ウンディーネへダメージを与えていく。
僕とキクミはどちらかというと敵の攻撃を避けて攻撃するタイプだ。僕は無理やり力でごり押しできるが、一応華奢な女の子であるキクミにそこまでの破壊力はない。
普段は僕かコウジでダメージを与えているので、コウジが抜ける穴はでかい。
リーダーは問題なく敵の攻撃を受けている。頑丈さがウリなだけはある。攻撃スキルがさしてないので、リーダーの攻撃にも期待できない。
全員の分析を終え、かなり絶望的なのが明らかになった。コウジ、ヒミリアがまともに戦えないのが痛い。
ヒミリアの魔法は攻撃できる部位が多いため、意外と頼りになる。
……水中で動けるからってうかうかしてはいられなさそうだ。
どうにか解消しないと、いけないな。