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第十七話


 キクミと話をしたすぐ後辺りから視線は感じていた。距離はあったので、会話内容までは聞かれていないだろう。

 正直、見られるのは嫌だったが、あの場で注意してもキクミを巻き込んでしまう。


「おやおや、気づかれましたか」


 太郎の後ろからさらに二人が出てきた。僕はぴくりと眉をあげて、僅かに目を開く。


「驚いているようですが、どうかしたのですか?」


 くすくすとガラ悪ハゲが馬鹿にするように笑う。完全に舐められてしまった。

 僕は慎重に言葉を選んでいく。


「いや、全く気配を感じませんでしたから。あれほど、僕を嫌っておいてそちらから接触してくるなんて、何か用でもありますか、太郎」


 どうにも、表情が険しい。ある程度、内容は予想できる。


「貴様は約束を破ったな。また、彼女を洗脳でもしていたのか?」

「洗脳?」


 何言っちゃってるのこいつ。開口一番僕は太郎の思考においていかれる。


「とぼけるな、クズが。本当にさっさと死ねばいい」


 会話が全く通じない。そこで僕がポンと手を打つ。


「あなた、自分を洗脳してるんじゃないですか?」


 僕がふざけて言うと、


「……貴様ァッ!」


 太郎が青筋を浮かべて、長剣を握る。その長剣は、どこかまがまがしい緑色をしている。オーラのようなものが剣にまとわりついている。

 あの色の武器は初めて見る。トロールは茶色がかった武器だし、他には思いつかない。

 まだ知らない魔物も多くいるだろうし、そのうち手に入るだろう。

 というか、空気が張り詰めていたから粋なジョークで和ませようとしただけなのに……タイミングミスったな。

 

「太郎さん、待ってください。あなたが無駄な体力を使う必要はありませんよ」

 

 ガラ悪ハゲが長剣太郎をなだめながら前に出てくる。その男は闘技場出身の証である傷を恥ずかしがる素振りも見せない。

 頭よりも活きのいい顎ひげを撫でる。


「お前も、闘技場出身みたいだが、中々身なりのいい服じゃねえか。それで、袖を隠すだなんて……戦う前からわかってるぜ。雑魚が」


 ガラ悪ハゲは態度をがらりと変える。萎縮しそうなほどに声は威圧的だ。


「この傷を隠すのは当たり前でしょう。あなたは犯罪者であることを自慢して歩くのですか? 傷は絶対的に恥ずかしいものです」

「そういうことじゃねえよ。闘技場出身の人間は、強ければ強いほど、その傷が証となる。俺たちに勝ちたかったら、まずは隠すことをやめるんだな。ま、その前に殺されるんだけどな」


 くくくと闘技場出身の男たちは笑い声をあげる。どちらも自分の勝ちを確信しているような笑いだ。

 僕はちらとキクミが去ったと思う方角へ視線を向ける。


「女に頼りたい気持ちも分かるが、そう、ビビるなって弱者。今頃あの女は、俺の仲間が相手してるさ。お前も、逆らわなければ簡単に死ねるぜ」


 相手している、か。太郎の反応を見る限り、悪いようにはされない契約なのだろう。

 実際どうなっているかは分からないがな。こいつらが大人しく約束を守るはずがない。


「逆らったらどうなるのかぜひ聞きたいですね」

「どちらにしろ死は変わらねえよ」

「聞かなきゃよかったですね。時間の無駄でした」


 ガラ悪ハゲが苛立つように眉をあげ、それから自分たちの立場が上であるのを思い出したようだ。


「さあ、あいつを捕まえてくるんだ。太郎さんの目的は、この男の殺害だからな」

「分かりやすい説明をどうもありがとうございます」


 前に出てきた巨体は、出っ張った腹を撫でながらニヤニヤと笑みを浮かべる。


「武器は持っていないのですか?」

「武器なんて必要なのか? 闘技場の落ちこぼれくん。俺たちは身一つあれば十分なんだよ。武器なんて必要ないね」


 巨体がげへへと笑い、僕に向かって拳を振りぬく。迫る拳を回避せず、交差させた腕で防ぐ。

 別に回避できないわけではない。ただ、実力を測るのには、くらってみるのが一番だ。


「どうした? おいの力に手も足も出ないか?」


 巨体は僕が気絶でもしたのかと思ったようだ。臭い息をまきちらかしながら、顔を寄せてくる。

 僕は彼の言葉を笑い捨てる。


「手は出ていますし、足も出していいんですか? サービス精神旺盛ですね」

「なっ!」


 巨体の腕をへし折り、痛みに悲鳴をあげている隙にやつの股間を蹴り上げる。玉がめり込んだだろう。

 巨体は声にもならない悲鳴をあげる。うずくまった巨体の頭へダガーを突き刺し、横へ引き裂く。その頭をもぎ取り、僕は上空へ投げ上げる。

 視界の端に新たな武器が解放されたのを確認したが、見るのは後だ。

 

「どうなっているっ!? 油断しやがったのか!」


 ガラ悪ハゲが血相を変えた。いくら驚いたからって、敵に動揺を見せるあたり雑魚は彼らのようだ。


「当然の結果ですよ。弱者が強者に挑んだ結果です。子犬がライオンに挑んだらこうなりますよ」


 僕は相手を威圧するようにじわりじわりと距離をつめていく。


「僕は基本的に他人に本気を見せるつもりはありません。たとえば、仲間の中に裏切り者がいたら、そいつに手の内すべてばれてしまう。そんなの、間抜けで馬鹿すぎるでしょう?」


 ガラ悪ハゲはさっきとは真逆の表情――絶望に震えている。必死に首を振り、自分に言い訳を重ねているようだが、僕の明確な殺意にさらされ、思考もままならないようだ。

 ガラ悪ハゲは優位な状況に慣れていて、ピンチの状態で戦ったことが少ないのだろう。

 だから、強敵に対して萎縮してしまう。予想外に対応できない。


「僕が本気を出すのは本当に信頼できる仲間の前か、後を考えなくてもいいときだけです」

 

 巨体の生首がごろりと地面を転がる。あの世で自慢してこい、僕に殺されたことをな。


「このっ!」


 ガラ悪ハゲは悩みを撒き散らすように拳に乗せた。当たるはずがない。

 代わりにはガラ悪ハゲの懐に拳をぶつける。痛みに顔をゆがめながらもカウンターに拳を振りぬいてくる。僕はそれを頭突きで返す。

 ガラ悪ハゲの手首がへし折れる。僕の頭は生まれながらに頑丈だ。


「なぁぁぁああ!?」

「もう一つプレゼントしてやるよっ!!」


 四肢を破壊していく。ガラ悪ハゲの骨の折れる音を聞きながら、僕は鼻歌混じりに折っていく。

 身動きとれないよう丹念に骨を折ってやった後、僕は太郎へ視線を傾ける。

 僕の動きに驚きながらも、剣を構える姿に怯えはない。


「これで仲間はいなくなりました。真剣勝負と行きますか」

「仲間? こんなクズたちと一緒にしないでくれっ!」


 太郎は距離があるのに、剣を振るった。不思議な行動に僕は踏み出した足を引き、警戒する。

 力任せに振るわれた刃から、緑の斬撃が飛んだ。斬撃の行方を眺めると、木にぶつかり衝撃によりバラバラになる。斬れるわけじゃないようだ。あの程度……生身で耐えられそうだ。

 僕はそれを上体を逸らして避ける。攻撃を見切ったあと、僕は溜めていた力を解放し、太郎に肉薄する。

 近接で一、二回の読みあい。


「くっ……!」


 太郎に隙が生まれ、僕はつま先で顔面を蹴りぬく。太郎は頭をのけぞらせたが、すぐに態勢を戻す。


「なるほど、違うのは耐久だけですか。倒すのが面倒なので、さっさと沈んでくれませんか?」

「くそがっ!」


 太郎はまともに立つことも出来ないはずだが、剣をもう一度振るう。

 僕はその斬撃を腕にくらい、衝撃を上空へ弾きあげる。腕に僅かな痺れを感じたが、傷はない。


「自慢の斬撃も意味はありませんね」

「化け物めぇっ!」

「口を開く暇がありましたら、剣でも振ったほうが良いですよ」


 ガラ悪ハゲ同様四肢をへし折ってやる。

 呪詛のように悲鳴をあげるガラ悪ハゲだが、太郎は痛みを感じないのか、こちらをにらみ続けている。


「貴様がいなければ! 僕とキクミさんは幸せに暮らせた! 貴様は悪魔だっ! キクミさんの笑顔を守るためにも、絶対に殺す!」


 四肢が折れているのだが、太郎は剣を振るう、もちろん、当たるはずがない。太郎は狂ったように振るい続ける。剣から放たれる緑の光が太郎の心に反応しているようだ。

 まるで、剣に操られているようだな。

 邪魔をされたら面倒なので、太郎を蹴り飛ばす。ゴロゴロとよく転がる。来世はボールにでもなってくれ。


「さて……」


 僕は仮面を脱ぎ捨て、ガラ悪ハゲの手を踏む。


「でだ、本当の作戦はなんなんだ? キクミと俺たちに何をするつもりだよ」

「へ、へへへ、言うわけないだろ? この場を見逃してくれるのなら、教えてやってもいいぜ」


 ばればれの嘘だな。ガラ悪ハゲは痛みに何とか耐えているようだ。

 俺はガラ悪ハゲの心を決壊させるためにダガーを取り出す。


「脂汗が凄いな。拭いてやるよ」

「お、おい! それは、ナイフだぞ!」

「ダガーだ」


 肉を傷つけないよう最善の注意を払いながら、右腕にダガーを近づける。


「やめろ! 触るんじゃねえ!」


 俺は彼の顔面を地面に押し付け、片足で押さえつける。

 ダガーをゆっくりと動かし、ガラ悪ハゲに見えるように、右腕の皮を剥いでいく。ゆっくりと赤の肉が顔を覗かせていく。


「だっ!?」

「どうだ。俺は中々料理は得意なんでな。ほら見てみろ。リンゴの皮よりも薄いかもな」


 剥いだ皮をガラ悪ハゲの目の前で揺らす。肉が見えて赤く染まる男の腕。


「や、やめてくれ! さっさと殺してくれ!」

「悪いな。耳が遠いんだ」


 ガラ悪ハゲに俺は最高の笑顔を返ししておく。右腕があらかたむき終わったので、左の皮をそぎ落としていく。

 悲鳴をあげようとするたび、俺は頭をさらに強く潰す。

 ガラ悪ハゲはすっかり子どものように泣きじゃくっていた。左腕が終わったところで、俺は顔にダガーを持っていく。


「紐とかで縛れれば、次は足なんだが、顔にいかせてもらうぜ」


 頭を押さえつけるのが大変なため、足はやめておく。

 俺は男の顔を持ち、恐怖心をあおるようにダガーを近づけていく。がちがちと男の歯がぶつかり合う。目はうつろで怯えるように震え続け、そしてゆっくりと口を動かした。


「捕らえて……! 生かしているっ! もしも、太郎を殺しきれなかった場合のために、人質としてっ!」


 涙交じりに、ガラ悪ハゲは言い切った。俺は顔に向けていたダガーをくるりと回す。

 太郎を殺す……? 俺の中に一つの考えが浮かぶ。


「人数は?」

「二人だ……」

「なるほどな……俺たちを殺して、全員分のクリスタルを集めようってことか」

「は、はいぃっ」

 

 利口ではあったが、相手が悪かったな。


「た、頼む! もう殺してくれ! 痛いのはもう嫌だ!」

「ああ、望み通り殺してやるよ。俺のダガーの糧にでもなってくれ」


 ガラ悪ハゲはどこか幸せそうに俺に殺された。そして、放心状態の太郎の元に向かう。

 こちらはもう脅す必要もない。この後のことを考え、仮面をつけ直す。


「さっきの聞こえましたか、太郎。お前の大事な姫が命の危険だそうですよ。誰が、誰を守るって?」

「う、嘘だ! そいつは、僕の味方だ!」


 慌てたように太郎が叫ぶと、剣の緑が弱まっていく。

 まるで太郎の怒りを示すようだ。不思議な剣だな。


「仲間じゃないのに味方ですか。面白い関係ですね」

「そん……な。僕は、僕は、彼女を守ろうとしたのに。なんで、なんでなんだぁぁぁあああ!」


 太郎は腕を無理やり動かし、頭を抱える。


「あいつらは普通に嘘をつきます。世界で一番交渉の難しい人種ですよ」

「あぁ、あぁ……」

「お前は守るべき対象を自ら追い込んだわけですよ。今頃どうなってることやら」

「は、や、く……行かないと。僕、は彼女の……騎士……」


 うつろにぼそぼそ呟く太郎の頭を掴む。


「今の死体同然のお前が行ってどうにかできますか?」

「どうすればいいんだ! 僕は、駄目で、僕は、守れない。僕は、僕はァァァ!」


 太郎は頭を地面に叩きつける。額から血が流れるが、今さらその程度の傷は小さいものだ。

 そして、太郎は僕の顔を睨みつけて唾を撒き散らす。


「お前だ! お前がキクミさんを追いこんだんだ! 実はさっきの奴らとも手を組んでいたんだろ! だから闘技場出身の人間は信用できない! 嘘つき、化け物! 人間以下の奴隷どもが、僕によくも逆らいやがったな!!」

「まあ、間違っちゃいませんね。それで、どうするんですか? あんたももう十分、こっち側の人間ですよ」

「僕が……? はは、ふざけたことを言うな。お前と僕では生まれが違うんだっいいから……さっさと死ねぇ!」


 太郎が腕を振るうが、僕の体にも届かない。骨は折れているのだから、当然だ。


「さて……終わりにしますか」


 キクミのこともあるし、時間はかけられない。僕がダガーを掴むと、太郎は冷静さを取り戻し始める。


「な、何をするんだ……本当に殺すっていうのか!? 僕をかっ、僕は有名な家の――」

「今さら命乞いをしても遅いですよ」

 

 僕はダガーを腹に突き刺す。あまり刺さらないが、肉を抉るように引き抜くと赤い血と肉が飛ぶ。


「ぐ、あぁ……っ!」

「それでは、良い睡眠を」


 僕は虚ろな目をした太郎の首にダガーを突き刺して、半分ほどめくってやった。力任せに首を引っ張れば、簡単に取れた。

 その首を放り投げて、僕はすぐに離れる。血の臭いにどんな魔物が呼ばれるか分からない。

 太郎とガラ悪ハゲ、二つのクリスタルが転がっているが、拾うつもりはない。どうせ僕は使えないし、誰か、いい人間に出会ってくれとだけ言う。

 移動しながら、僕は解放された武器を見る。やはり、人間を殺しても武器は解放される。

 武器効果はまだないが、長く見ていると心がおかしくなりそうな模様だ。すぐに別のダガーに切り替える。

 そして、キクミの居場所をパーティー登録から割り出す。わりと近いな。

 大雑把ではあるが、リーダーが拠点としている洞穴から東の場所だ。大体の地図は頭に入っているので迷うこともない。

 敵はクリスタルを持っていないのだから、仲間の死にも気づいていないだろう。キクミはまだ生きているはずだ。

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