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第十二話

「うわぁ……眠ぃな。だりーなぁ」


 コウジは紫色の空から差し込む朝日を見ながら、テンションが低かった。

 今まで、積極的に調査には参加していなかったらしい。森で出会ったときが初めてだったとか。

 もう一人は元気一杯のヒミリア。こいつは昨日見張りもしないでずっと寝ていた。当然だ。


「あなたも来るのですか?」


 嫌がる気持ちが少し出ていたかもしれない。


「今はかなり元気。たぶん、二度と眠くならない」

「嘘ですね。絶対寝ますよ」

 

 ヒミリアがスキップを始めたのだから、僕は今後の天気が心配でならない。雨が降ったら最悪だ。

 人数が増えて困ることもないだろうし、ヒミリアも連れて行くことにした。

 ヒミリアがいると、火を扱う料理が簡単に出来るので朝食は魚にした。久しぶりに食べたし、ついでに武器の強化も出来た。

 一つ気になったのは熟練度の上昇だ。なぜか、魚を殺しても増えなかった。

 ちなみに熟練度は百六十四だ。武器の覚醒もできるようになったが、ゴブリンダガーとパラライズバタフライダガー、どちらにしようか迷っている。

 

 ゴブリンダガーなら新しいスキルが発動する可能性がある。ただ、今後のためにとっておきたい気持ちもある。

 とりあえず、ダメージが通るまでは覚醒はしない方向にする。覚醒したからってボルケーノドラゴンと戦えるか分からない。

 そんなことを考えていたら、リーダーたちが集まる洞穴についた。


「……おはよう、さわやか、とは言いにくいが晴れてよかった」

 

 リーダーがゆっくりと綺麗な声で話す。中の人は男なのか、女なのか、相変わらずわからない声質だ。


「まだ雨なんて、この島で降ったことないですよ。まあ、たぶんこれから降りますけど」


 僕がヒミリアを見ると、むすっと頬を膨らまし脛を蹴ってきた。子どもの蹴りなんて痛くもかゆくもない。


「一人増えますが大丈夫ですか?」

「……ああ、大丈夫だ」

「列になっているみたいですが、パーティを作っているのですか」

「……一応、な。二~四人で一つのパーティ。基本的に魔物が襲ってきた場合などはそのメンバーで戦うことになっている」

「僕たちはこのままパーティを作っていいですか?」

「……分かりやすくていいな」


 いきなり知らない奴と組んでも、連携はままならない。列のメンバーは昨日一緒に行動している奴らが多い。

 列の先頭をコウジに譲り、僕は周囲を見回す。

 キクミが片手を小さくあげ、その背後から太郎が僕を睨んでいる。面白い反応を期待して、キクミに大げさに手を振ってみた。


「……んどぅあっ!!」


 太郎が地団駄を踏み、全く状況が理解できていない別の女がびくっと跳ねた。からかうのにはうってつけの相手だ。


「……それでは、これから魔法陣の調査に向かう。恐竜、オークが出現した場合は、焦らず逃げてくれ」


 なんとも卑屈な作戦だ。

 リーダーが先頭を歩き、魔物を捌いていく。基本的にリーダーは守りがメインのようだ。ウサギヘビが襲い掛かっても、強固な鎧が攻撃を寄せ付けない。

 そして、リーダーがウサギヘビへダイブして潰す。


 仲間は……別のところで戦いをしている。アレがリーダーの正しい戦いなのか? リーダー額の汗を拭っているが、兜の上から意味ないだろ。兜には土がついたままだ。

 何より攻撃がすごく、かっこ悪い。


 ウサギヘビが木から飛びかかってきたので、首を掴んでそのままダガーで三等分。

 コウジもハンマーをぶつけ、ヒミリアはファイアボールで敵を焼く。

 魔法は不思議なもので、明らかに火種があっても、対象以外は燃やしていない。対象が消えたら火も自動で消えた。


 そして、森の第二層――結界より先に進んでいく。

 さっそく、ドクヘビがやってきた。少し気になったのだが、わざわざ毒と書くってことは、ウサギヘビには毒がないのか?

 噛まれたらまずいので、近づく前にダガーで切り裂く。大して強くはない。

 何度か戦闘を繰り返せばサードになる。予想通りポイズンダガーのスキルを獲得した。だいたいの効果は分かるが、後でゴブリンに試してみよう。


 魔物はドクヘビがメインであるため、そこまで強くはない。だが、奥に進めば進むほど出現数が増えるので、ダメージを受ける人間も出てくる。

 毒の状態異常には幸い誰もかかっていない。


「……魔法陣はもう少しだっ、みんな大丈夫か? 無理のあるものは手をあげるか、パーティリーダーに伝えてくれ」


 疲労はあるかもしれないが、それでも、メンバーの返事はまだまだ力強い。


「死ぬ。もう駄目。眠い……」

「朝言っていたことを思い出してください」


 ヒミリアは体力があまりないようで、すでに「ぜーはーぜーはー」と息も絶え絶えだ。これから、魔法陣で何が起こるか分からないのに、これでは不安すぎる。


「お、オレももう、駄目かもしれねえ。サエキ、おんぶしてくれ」

「さすがに男は嫌ですよ。ていうか、汗臭いので近づかないでください」


 僕の服が汚れてしまう。


「なら、女であるわたしはいいということ?」

「もっと女らしくなってから言ってください」

「大丈夫、モノはついてない」

「そんなこと言ったらいかん!」


 コウジが親のようにヒミリアを怒鳴りつける。ヒミリアはむうと口をすぼませる。


「これ以上の証拠の提示の仕方を思いつかなかった」

「いや、他にもあるって。肌とか髪とか綺麗だし、いい匂いするし、何より可愛いからな!」


 さっとヒミリアは何かを察したかのようにコウジから距離を開けてジト目になる。


「……ごめんなさい」

「告白じゃねえぞっ!」

「……コウジが話しがあるって。愛の告白だとか」


 ヒミリアが僕の肘をついてくる。


「もしかして、僕にだったんですか? ごめんなさい、男はさすがに……」

「お前らって、いいコンビだな……」


 コウジは疲れたように呟き、ヒミリアが僕の方へ両手をぶらんと向けてくる。


「いや、最初に戻りますが、あなたは女の証明を出来ていないのですが……」

「さ、さすがに、触ったらオレのハンマーですり身になってもらうからな」

「お前のハンマーで僕を潰せるのですか?」

「触る気なのか? え、マジで?」

「距離を開けないでください、冗談ですよ」


 年端もいかないガキ相手にそんなことするかよ。


「とはいえ、僕がおんぶをする場合、コウジが戦うことになりますよ」


 それだと不安だ。コウジはお世辞にも動きがいいとは言えない。一撃は強力だが、空振りも多い。


「確かに、サエキはかなり動けるみたいだし、オレがおんぶしたほうがいいよな」


 コウジは仕方ないなぁといいながらも、やる気十分に腕をまくる。


「しかたねぇな。今回だけだぜ?」


 コウジがヒミリアの前でしゃがみ、背中を向ける。


「どうした? 早く来いよ!」


 二カッとさわやかに笑い、ヒミリアはごくりと唾を飲んで僕のほうを見た。その目はどこか、あきらめたようであった。


「……」


 ヒミリアはコウジの背中に乗った。


「……ゴホゴホ!」


 むせた。ヒミリアは鼻を押さえて、コウジの背中から降りる。


「……わたしは、彼の臭いは駄目」


 ヒミリアはなるべくコウジを傷つけないように、その言葉を選んだのだろう。だが、その優しさがつらかったようで、コウジは空を見上げて、頬を濡らしていた。


「なあ、サエキ。オレって本当に臭いのか?」

「怒っとけ、怒っとけ。わがままばかりいう奴には拳骨の一つでもぶつけとくのがいいですよ」

「いや、さすがになぁ……」


 コウジがやらないので、僕が代わりにお仕置きしておく。

 僕がぽかりと殴ると、ヒミリアはうーと頭を押さえてこっちを睨んでくる。

 まだおんぶをしてくれとその目は要求していた。こいつ、あきらめ悪すぎだろ。


「片腕にコアラみたいな感じでくっついてください。それだったら運んでやりますよ」

「わたしはなまけものがいい」

「もう十分なまけものです。その辺の木の上で眠ってください。二度と目覚めなくていいですから」

 

 僕はヒミリアを放置して、歩き出す。さすがにわがままを言いすぎだ。

 ついてくると自分で決めたのだから、そのくらいはやり遂げてもらわないと。最初からおぶるつもりはない。

 ヒミリアは苦しそうに、自分の足で歩き始める。コウジがその後ろから声をかけながら、僕の後を追いかける。

 なるべく後ろ二人に魔物が行かないようにどんどん殺していく。


「魔法陣だ! ゲームみたいだ、すげぇ! 異世界っぽい!」

「うぉ、でっけぇな! ……巨人とか召喚されないよな?」

「俺ぁ、わくわくしてきたぞ!」


 先頭を行くメンバーが、それぞれ思い思いに魔法陣の感想を伝える。僕たちも遅れて魔法陣を見られる場所に出た。

 森の第二層は木々が生い茂り、満足に遠くも見渡せない。だが、魔法陣がある一帯は広場のようになっている。

 ヒミリアたちも遅れて、たどりつき、全員が到着したのを確認してからリーダーが声を張り上げる。


「五分ほど休憩したら、この魔法陣の調査を始める! 各自、何が起きてもいいように、準備をしておいてくれ」


 僕の準備か。ドクヘビのおかげで熟練度が二百を突破した。

 これなら、どちらかを覚醒するのも一つの手だな。僕はウィンドウを表示させ、どちらを強化するか悩む。最終的にはどちらも出来ると思うが、たまるのに時間がかかる今は、有効なほうを選びたい。


 パラライズバタフライダガーはこれ以上の成長はなさそうなんだよなぁ。

 ああ、でも、もしかしたらパラライズダガーよりも強力なスキルが見つかる可能性もあるよな。

 そうなると……だが、ゴブリンダガーも悩ましい。


「何やってるんだ?」


 コウジが僕の横に座る。


「いや、熟練度で何を覚醒するかってな」

「あー、そういやあったなぁ……オレも一回覚醒させたんだけどさ、特に強くならなかったんだよな」

「へー、どんな武器だ」

「ウルフだ」


 初めの日と木の実のとき以来見ていないな。


「どこにいるんだ? 僕はあまり戦ったことがないのですが……」

「今オレたちがいる場所は、地図でいう南エリアみたいなんだよ。ウルフが生息してるのは、北西あたりだな」


 となると、夜には活動範囲が増えるようだ。

 そもそも、僕は南エリアしかうろついていなかったな。この森での捜索を終えたら、一度行ってみるか。


「覚醒すると、どんな感じですか?」

「攻撃力があがっただけだ。それでもうその武器は終わりみたいだな」


 そろそろ五分も経つ。結局熟練度の消費は後にした。

 狙う魔物は、ボルケーノドラゴン、オークあたりだな。

 リーダーが「休憩終わり」と声をあげると、ヒミリアが口を尖らせながらやってきた。この短時間でさえ、睡眠時間に当てたようで、目元をこすっている。


「……魔法陣の調査、まずはどうしてみるのがいいと思う?」

「触れてみるのはどうでしょうか?」

「……なるほど、みな準備を始めてくれ」


 リーダーが指示を出し、メンバーたちが、ずらっと魔法陣を囲む。


「……よ、よし、全員準備はいいな? それじゃあ、私の合図で一緒に触るぞ」


 おい、大丈夫か? リーダーの声音は不安定だ。


「り、リーダー! よーいドン、ですか!? それとも、レディーゴーですか!?」

「た、確かに。みんなどっちがいい!?」


 いきなりわけのわからない多数決が始まる。結果はよーいドンになるがどっちでもいい。


「ぶい」


 ヒミリアはよーいドンに投票していた。僕はレディーゴーだったので、勝てたことが嬉しかったようだ。


「り、リーダー!」

「今度はなんだ!」


 僕も言いたいぞ。今度はなんなんだよっ。

 何が起こるのかってうずうずしているんだ。さっさと進めさせてくれ。


「よ、よーいの溜めはどのくらいですか!? というか、ドンって言い終わってからタッチするのですか!?」

「……そ、そうだな――」

「お前ら本当は触りたくないんですよね? もう、いいよ。さっさと帰ってくださいよっ」


 いつになったら始まるんだよ。どんだけビビリなんだ、こいつらは。

 リーダーに割り込んで、僕は怒鳴り散らす。悪いが、チームの雰囲気なんて知ったこっちゃない。


「わ、分かった。オレは帰るぜ」

「テメェは逃がしません」


 コウジが一人で帰還しようとしたので、首根っこを掴んで引っ張る。


「あっ……」


 その場のメンバー全員が声を合わせた。

 勢いが強すぎたせいで、コウジの体は魔法陣のほうへ傾き、


「う、うぉ、あぁぁぁー!」


 魔法陣に直撃する。魔法陣が光りコウジの姿がなくなり、転移系の罠の可能性が濃厚になる。

 やっちまったよっ。まあ、いいか、僕も追いかけよう。

 転移先が上空一万メートルとかでないのを祈り、魔法陣へジャンプする。


「……ぜ、全員突撃だー!」


 リーダーの一声。僕は一足先にワープした。

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