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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔剣の記憶

作者: タリ

 ………………


 …………


 ……うむ、ここはどこだ。


 っていうか我輩は誰だ。

 何やら頭に霞がかかったかのような曖昧な意識であるな。

 この寝起きのような倦怠感は一体何なのであろう。


 っていうか我輩って寝てたのか?

 寝るという行為そのものが久しいような気がするのだが……


 うむ、こういう時は意識が覚醒するのを待つべきであろう。

 我輩の契約者も寝起きは酷いものであったが、よくそんなことを言ってボーっとしていたものだ。


 ……はて?

 契約者とは誰のことであったか。

 っていうか何の契約を結んだのであろう。


 ……うむ、全く思い出すことができぬ。

 思い出せぬということは忘れてしまうようなどうでもよいことなのだろう、大したことではないのであれば一旦放置だ、そのうち思い出すであろう。


 しかしここは暗いな、真っ暗で何一つとして見ることができぬ。

 暗いっていうか暗いって言っていいのかこれ?

 暗闇の中にいるというよりも、周囲に何も存在しないから暗くなっていると言ったほうがいいくらい暗いぞ。

 かべのなかにいる、というわけでも無かろうが、それにしたってここまで何も感じることができぬのは異常ではなかろうか。


 ……まあよい。

 よくはない気がするが、そこはよい。

 どちらにせよここがどこか、我輩が何者か、どうしてここにいるのか、何もかもがわからぬ状態なのだ。

 何もわからぬのであればわからぬことが1つ増えただけに過ぎぬ、わからぬものはわからぬ!


 とはいえ、せっかく意識が戻ったのだ、どうせであれば意識がはっきりするまでの間、有意義な時間の使い方をしてみようぞ。

 なんといっても我輩は優秀であるからな、我輩は我輩であるというだけでそれはもう優秀なのだ、天才と言ってもいいくらいに。

 何が優秀だったのかはさっぱり思い出せぬが、とりあえず優秀であったことだけはなんとなく覚えておる。


 さて、まずは体に異常が無いか確認するところからであろう。

 何をするにしても体が資本であるからな。

 異常があるならあるで、選択すべき行動も見えてくるというものよ。

 うむ、それを思いつくというだけでも我輩の優秀さが垣間見えるというものだな。

 まぁ全部契約者が言っていたことだが。


 さて、まずは腕から確認するか。


 ……うむ、問題ない。

 なんかものすごく短い上に、まるで鉄のようにガチガチに固まっていて僅かさえ動かすこともできんが、とりあえず有る。

 多分これ腕なんだろうなっていう部分が有る、腕かどうかはわからんが我輩が腕っぽい部分と認識しておるので、多分これは腕なのであろうな。

 有るなら問題ない、我輩にとって腕は有るか無いかが問題なのであって、有るのであればそれは問題ないと本能が言っておる。

 故に問題はない、恐らく。


 腕とくれば、次に確認するのは足であろう。


 ……うむ、問題ない。

 こちらも腕と同じようにガチガチに固まっていて動かせんが、とりあえず有る。

 なんか1本しか無い上に包帯のような何かでかなりきつめにグルグル巻きされているような感覚がするが、とりあえず有る。

 頭から一番離れてる場所にあるのだから、これは恐らく足なのだろう、本能がそう告げているような気がするだけではあるが。

 まあ腕と同様、問題は有るか無いかでしかないのだ、有るならば問題はない。

 ……多分問題ない。


 腕と足があるのであれば、残すは胴と頭だ。

 頭はこうして考えられているのであれば大きな異常は無いはずだ。

 ならば先に調べるべきは胴のほうであろうな。


 ……うむ、問題ない。

 やはりこれも身じろぎすらできぬほど固まっているが、とりあえず有る。

 横に広くてパッと見はメタボっぽい体型な感じがするけど、外側に行くにつれてどんどん細くなっててかなりスリムな体型……な感覚がする。

 正面から見たら擬音はデーンだけど、横から見れば擬音はシュッだと思う、スラッでもいい、ギランも我輩には似合う表現であろうな。

 ……ギランって体型を表現するのに使う擬音であったか? ううむ、言葉の奥深さは我輩の優秀な頭脳をもってしても理解しきれぬものよ。


 っていうか今更だが、胴が無かったら我輩死んじゃう気がする。

 手足は無くても生きていけるけど、胴と頭が無かったらどんな生物でも死んじゃう気がする。

 少なくとも我輩が殺してきた相手はそうだったはず……、ん? 我輩って殺しの経験有り? 思い出せんから放置だな。

 まあつまり問題はない……と思う。


 さて、最後は頭であるな。

 とはいえ、こうして思考している時点で無事であることはわかりきっておる。

 故に確認すべきは外見のみであろうな。

 我輩の美し……かった気がする魅惑の横顔に傷でもついてしまっていては、世界の大いなる損失である。

 神ですら涙を流して悲しむであろう。


 で、あるならば。

 念入りに、今まで以上に意識を集中して確認しなくてはならぬな。


 ……うむ、問題ない。

 首の太さが胴と同じくらい太い気がするが、所謂デブでブタみたいなヤツの首が無くなっている状態みたいな感覚だが、問題ない。

 要はバランスがよければいいのだ、例え首が無かろうが、全体を見た時にバランスが取れていればいいのだ。

 我輩の美しさは神がもたらした絶対の理であるが故、首があろうがなかろうが美しいことに変わりは無い。

 故に問題は無い。

 例え首から頭にかけて見事な三角形を描いていようとも、一切の曲線無く直線と平面のみで構成されていようとも、我輩が美しいという事実が変わることは無いのだ。

 我輩は美しいという事実が変わらぬのであれば、形など問題ではない。

 ……何故か悲しい気分になってしまったが、問題はない、ないったらない。


 ………………


 …………


 ……


 うむ、やることが無くなってしまった。


 こういう時はあれだ、なんだ、あのあれだ、ほら、なんて言ったか、あのーあれ、なんだ。


 げんて、げんてん、げんてい、限定販売いや違う。

 げん……げん……げんて……限定解除! もっと違う!

 げんて……「ん」だったような? げんてん、原点? あ、原点解除、解除違う、かい……かい……かい……

 かいあ、かいい、かいう、かいえ、かいお、かいか、かいき、かいく……ん? なんか今当たりがあったような?

 かいか? かいき? かいく? かいき! そう「かいき」だ。

 原点回帰! よしこれだ、間違いない。

 フ、流石は我輩であるな。

 愚民には意味すら理解できぬ言葉を僅かな記憶の断片から甦らせるなど、我輩が優秀であると言っているようなものだ!

 フハハハハ! 我輩の優秀さをまた見せ付けてしまったようだな! 見てる相手いないけど!


 ……で、そう原点回帰。

 要するに最初に戻ってみようという意味だった気がする、契約者がそんな説明をしてた気がする。

 最初に戻る、最初ってどこだ?

 っていうかここどこだ、なんで我輩はここにいるんだ。


 あ、原点回帰した、さすが我輩。


 え~っと、ちょっと思い出してきたような?

 確か我輩は誰かと一緒にいたんだよな、誰かっていうか誰か「達」だったような。

 そいつらとどっかに行って、何かと戦ったような、なんかあったような……


 あれ、なんで思い出そうとすると炎の渦が真っ先に思い浮かぶんだろう。

 しかもなんか恐怖で涙が出てきそうになるんだけど、条件反射で出てきそうってどういうこと? 涙を出せた記憶は無いけど。


 ……うむ、しかし恐怖に負けているようでは我輩らしくないな。

 我輩は優秀であるからして、恐怖等に負けるような軟弱物では無いのだ。

 ここは1つ、そーっとだな……って記憶にそーっともクソも無いか。

 うむ、覚悟を決めるしか無い。


 グッと! 堪えて我慢すれば良いのだ!

 よし、やるぞー、やるぞー、よーしやってやるぞー、我輩優秀だから簡単にできちゃうぞー、ほーらやっちゃうぞー、今ならまだ許してやるぞー、ほーらほーら謝るなら今のうちだぞー、やるぞ、よしやるぞ、せーのっ、ってやると思ったか、フハハバーカバーカひっかかってやんのー、よし次こそやるぞ、さあやるぞ、まあまだやらないでやってもいいがそろそろ我輩もやっちゃいたいのだ、やっちゃっていいですかね、じゃあやっちゃいますよ、と見せかけてまだやらないでやろう。


 ……うむ、進まぬ。

 仕方あるまい、今の時点では唯一の手がかりなのだ。

 覚悟を決めるしかないであろうな。


 グッと……ヒィー!!!

 ヤーメーテー! 炎出さないでー! 溶かさないでー!

 鬼! 悪魔! 極悪魔女! ……魔女?


 あ、これあれだ、なんだっけ。

 えーっと、えーっと、確か「ろり巨乳猫耳魔女っ子」って契約者が呼んでたヤツだ。

 属性多くね? って契約者が言ってた気がする、意味はわからんが。


 うむ、思い出してきたぞ。

 すばらしい双子山の持ち主であったので、敵を斬るついでにこいつの服も度々斬ってやってたんだ。

 良いものを見せてもらった礼に毎度毎度拝んでやっていたというのに、何故かこやつには恨まれていたのだ。

 全く女心というものはいつになっても解せぬものよ。


 ろり巨乳魔女っ子と言えば、「ちゃら弓男」がこの双子山……じゃなかった、この娘を好いておったな。

 我輩と同じくらい追い掛け回されていたはずであるが、何故かいつも楽しそうに笑っていた記憶があるぞ。

 契約者は「マゾなんだよ」と言っていたからあやつは「まぞ」なのだろう、意味はわからぬが契約者が言うのであればそうなのだろう。


 そして「ろり巨乳猫耳魔女っ子」を止めるのはいつでも「ちょい悪槍騎士親父 (※契約者命名)」であったな。

 さすがは仲間内で唯一の妻子持ちの貫禄ある男は違う。

 子供の馬鹿を優しく、時に厳しく正す姿はまさに漢であった。

 あのような漢こそ、世の男共が目指すべき正しい姿よ。

 契約者が「あれが家に帰りゃ嫁の尻に敷かれてるってんだから、結婚とかする気失せるよなぁ……」と言っていたのが妙に記憶に残っておる。

 尻に敷かれるとはどういうことであろう? むしろご褒美ではないだろうか、性的な意味で。


 性的といえば、我輩の契約者は「ヒロイン属性治癒術師 (※契約者命名)」と性的な関係を持ったのだろうか?

 双子山のサイズは「ろり巨乳猫耳魔女っ子」……面倒になってきたな、もう魔女っ子でいいか。

 で、そう魔女っ子よりは小さかったものの、中々素晴らしい肉体をしておった。

 何度か剥いて……いや敵を斬るのに巻き込んでやろうとしたのだが、契約者が死ぬ気で阻止してきたので結局1度も拝むことができなかったな。

 我輩の目から見てもベタ惚れであったというのに、中々進展せぬ関係を魔女っ子と共にイラつきながら覗いたものよ。

 夜中に突然魔女っ子が我輩を抱えて深夜デートという名の拷問にかけようとしたことが何度かあったが、不思議と契約者と治癒術師だけが姿を現さぬことがあったが……

 まああの二人は美男美女であったし、街中ではお似合いだと評判であったからな。

 むしろ早くくっつけよと思っていたくらいではあるし、くっついていたなら喜ばしいことである。

 魂だけはやらんがな! あれは私のものだ!


 ……魂ってなんぞ?

 というか契約者ってどんな男であったか。

 うむ、普通一番最初に思い出すような気がするが、まあ我輩にとっては恐怖を乗り越えるのが先であったからして……


 まず思い出すのは流れるように肩まで伸びたサラッサラの銀髪だな、頭頂部がツンツン逆立っていたのが格好良い。

 すらっと高い身長に筋肉質だけど色んな部分が引き締まった肉体、契約者は「すまぁとな体型」と言っておったな、つまり格好良い。

 そんで我輩に合わせて黒い鎧と兜を被ってこれがまた格好良かったのを覚えておる。

 確か「どうせやるならとことんやる! 厨二病街道を突っ切ってやる!」と言っておった。

 厨二病街道がどこにあるのかは教えてもらえなかったが……

 まあそもそも我輩を見つけた時からして「厨二病キター!」と叫んでおったし、恐らく騎士道や魔道のような意味なのであろう。


 そういえばその時に契約を結んだのだ。

 明らかに強者の放つ量の魔力を纏っておる契約者がそんなことを叫ぶものだから、我輩は「ちゅうにびょう」なる恐ろしき魔物が出現したのかと思って焦ったものよ。

 如何に我輩が天才と呼ぶべき優秀な存在で、神の名の下に下界に賜わされた使者であろうとも、当然の如く死は存在するのだ。

 もちろんたかが人間如きと比べるべくもないほど強靭な存在であるとはいえ、契約もしていない我輩では抵抗することすらできぬ。

 抵抗できぬのであれば、死を持つ存在であれば如何なるものであろうともいずれ死ぬ。


 で、あるからして。

 我輩はその時に契約を結んだのだ。

 ……どんな契約であったかは忘れたが。


 あ、魂か。

 確か我輩は「魂ちょーだい」って言ったはずだ。

 言い方は違った気がするが、まあ間違ってはいないだろう。


 待てよ?

 何かちゃんと思い出さねばまずい気がするな。

 確か……何かの代わりに魂ちょーだいって言ったのだ。

 あ、なんか思い出してきた。


 お?


 お??


 お???


 うむ、記憶が鮮明になり始めたぞ。

 ようやっと我輩の意識が覚醒を始めたようであるな。

 そういえば契約者も我輩のことを「すろぉすたぁたぁ」と言っておった。

 盛り上がってくるのが遅いという意味だったはずだ。


 そんなことはどうでもよい。

 契約の内容だ、内容。

 確か契約の内容というかその時誓った言葉は……


【我ランド=ルギーニアスはここに誓う、汝に我が死したる瞬間の魂を捧ぐことを】

【なれば我は死するその瞬間の魂がより素晴らしいものになるよう、汝の魂を力として共に戦うことを誓おう】


 こんな感じの内容であったはずだ。


 ……あれ、ってことは我輩は契約者の魂を食ったんだろうか?


 ………………


 …………


 ……


 うむ、結論から言おう。


 我輩にそんな記憶は全く無い!


 これはどういうことだ?

 我輩とランボ=ルギーニだかエル=ニーニョだかとかいう長ったらしい名前の契約者は離れずの誓いもたてたはずだ

 ということは我輩と契約者が離れているというこの状況そのものがオカシイということになるぞ。

 まあ離れずとは言っても村の端っこから端っこくらいだったら十分圏内だったりするゆる~い契約であるし、ちょっと距離が空いてるだけかもしれぬが。

 しかしこの何も無いような暗闇は、さすがに「ちょっと距離が空いてるだけ」とは考えづらい感覚がしておるな。


 うむ、ちょっと最後の記憶だけうまく思い出せぬものだろうか……


 思い出せ~、思い出せ~、我輩思い出せ~……


 あ、なんか思い出してきた。


 確か我輩達は街一番の高級宿をとって休んでいたのだ。

 そんで女性二人が風呂に行くというので、ちゃら弓男が契約者を我輩ごと無理矢理連れて覗きに行って……ひいぃぃぃぃぃぃっ!?!?!?!?


 違う! これは違う記憶だ!

 確かに我輩の最後になりそうな記憶だけど! なんかこの後の記憶がさっきとは違う意味で消えてるけど!

 むぅ、真剣にやらねば。

 いや、ある意味では真剣にやったのだが、我輩超真剣にやったのだが。

 しんけんなだけに真剣、なんちゃって。


 ……我輩は何を考えているのだ、疲れているのであろうか。


 さて、気を取り直してもう一度だ。

 我輩頑張れ、できるだけ魔女っ子は思い出さない方向で頑張れ。

 頑張る方向さえ間違わなければ良いのだ、我輩は優秀なのだからやればできる子なはずだ。


 う~む、うぅ~む……


 確かどこかの迷宮に入ったのだ、魔女っ子の服を虎視眈々と狙っていたのだが、思いのほか敵が強かったために中々チャンスが巡ってこなかったのだったな。

 しかし我輩の契約者とその愉快な仲間達は世界規模で見ても超がつくほど優秀な者達なので、着々と最奥部に進んでいったのだ。

 まあ我輩を使う者とその仲間達なのだ、そのくらい優秀でいてもらえないと困るというものだ。


 そんであれだ、結局最奥部まで辿り着いたんだ。

 休憩中になんとか魔女っ子の双子山を拝もうとして、全員があまりに緊迫した雰囲気だったので自重したのを覚えておる。

 我輩は優秀だからな、場の空気を読むことくらい造作も無いことよ。

 契約者曰く「えありぃでぃんぐ検定」とやらに合格できるほどの実力があると言われたことがあるほどだ、さすが我輩。


 最奥部にいたのは確か昆虫とブタを足して5倍にしたものが金銀財宝でゴテゴテなジャラジャラを身に着けたような迷宮の主だったはずであるな。

 ドラゴンが溜め込む金銀財宝並みに高価なものばかりだった気がするが、気持ち悪い以外の感想が出てこなかったくらいに気持ち悪い主だった。


 ……あれ、ってことは契約者はこいつに殺されたのか?


 いやいや、待て待て、落ち着け我輩。

 例え誰かに殺されたとしても、我輩であればその瞬間に契約者を食らっておるはずだ。

 そんな記憶が一切無いのであれば、その後に何かあったはず。


 もっとよく思い出せ我輩。


 ……あれ、迷宮の主って倒しておったような?

 確か、ちょい悪槍騎士親父が「俺が隙を作る、その間にどでかいのをぶち込んでやれ」とやたら清々しい笑顔で言って、主に突っ込んでった……ハズ。

 そんで契約者達が制止するのも聞かずに突っ込んでいって、実際に主をちょっと抑え込んだ……ハズ。

 いや、確かちょっと危うくなって犬死にしそうになったところを、ちゃら弓男がなんか魔法の蔓を使ってさらに拘束してた……ハズ。

 そんでもって魔女が泣きながらドでかい炎の塊みたいな魔法を使って、二人もろとも主に向けて放った……ハズ。


 うむ? 何故に二人は命を賭けてまでそのようなことをしようとしていたのだったか……

 ああそうだ、二人は主の決して消せぬ毒をくらって瀕死の状態であったのだったな。

 いや、二人どころでは無い、全員だ。

 例え勝利しようとも、契約者達はここで死んでしまう運命であったのだ。

 そして自分達がこの場で死ねば、自分達の魔力を吸収して強力になった主が、迷宮の外に出てしまう可能性を理解していたのだ。


 ……そうだ、我輩達は負けるわけにはいかなかったのだ。


 この迷宮の主は、もう外に出てくる一歩手前の状態になっていたのだ。

 だからこそ、我輩達がここに来て、主を倒そうとしていたのだ。

 例えこの場で命尽きることになろうとも、主だけは絶対に倒すと、我輩達は誓ったのだ。


 この世界最大にして、最古の迷宮を攻略する。


 そう、誓ったのだ……


 自らの命すら限界まで削って放った魔女っ子の魔法によって、主は瀕死となった。

 しかし契約者も、治癒術師も消せぬ毒によって今にも死んでしまう状況だったはずだ。


 そうだ、治癒術師だ。


 最後の命を、契約者に渡したのだ。

 残り僅かな命の欠片を契約者に託し、たった数分を生かすためだけに、自ら死を選んだのだ。


 我輩は……


 我輩は、契約者の魂に、治癒術師の魂が重なることによって、二人分の魂の力を得たのだ。

 そして、我輩は、契約者と共に力を振るったのだ……


 そうだ、我輩は、魔剣だ、




 魔剣ソウルイーター




 それが我輩の名前。

 名など持たぬ、ただ神より賜わされた神剣としか呼ばれておらなかった我輩に、契約者が……ランドがつけた名前。

 死したる際の魂を代償に、契約者の魂の強さに応じて姿を変え、相応の力を生み出す神の作った魔剣。


 それが、我輩だ……




 ……そうだ、全てを思い出したぞ。


 我輩はまだ、契約を果たしておらぬ。


 迷宮の真の主は、我輩達が倒した虫もどきなどではない!

 迷宮そのものが、迷宮の主であったのだ!


 姑息な迷宮は、戦いに傷つき倒れた我輩の契約者を、仲間達を奪い去ったのだ!

 魂を捕らえ、肉を魔力に分解し、骨だけを残して全てを奪い去っていったのだ!


 そうだ、そうだ。


 我輩は、神の創りたるこの身は、ヤツに奪うことはできなかった!


 迷宮よ、我輩は今、新たな誓いをここにたてようぞ。

 我輩は貴様を許さぬ、例え神が貴様を許そうとも、決して許すことはできぬ。

 例え神が貴様を守ると言うのであれば、我輩は神にも弓引く愚か者となろう。




 貴様は、我輩が滅ぼす!




 契約者と、仲間達の魂は全て奪い返してやる!

 そいつらの魂は、我輩のものだ!




 我輩が




 魔剣ソウルイーターが




 この迷宮を攻略してみせようぞ!




 ――――――――――




 この日から、世界最大最古の迷宮内にて、一体のスケルトンが確認されるようになる。

 日を追うごとに禍々しく、強力になっていくそのスケルトンは数年後、迷宮探索ギルドの特に危険なモンスターの名簿に記載されることとなる。



【危険度:Sランク】

 魔剣士・ソウルイーター



 最古の迷宮が突如として崩壊したのは、名簿にその名が登録された日から実に10年後のことであった……






 ――――完――――

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

時間に余裕ができたら連載版として続きを執筆するかもしれません。

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