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私は君の手を引いて

作者: 七都

 私は君の手を引いた。



 すると、学校で教えて貰った慣性の法則が体にかかる。

 そして、私は前へ、君は後ろへの力がかかり、立場が入れ替わる。

 右から迫る大型車。クラクションの音が鳴り響く。

 君の手を引くのに私の意識の全てを使い、動こうにも動けなかった。

 私は遅くなった時間の中、迫ってくるそれをただ見つめることしかできず、


次の瞬間――













 ――また、こんな夢……。

 一番初めに頭によぎった言葉はそれだった。


 私は今ベッドの上にいる。

 なぜベッドの上にいるのか? 私は車にひかれたはずなのに? と不思議な感覚に襲われる。でも、それも何回も感じる内に慣れた。

 確かに私は彼を庇って車にひかれた。

 でも、それは夢の中の話。

 これから私が体験する話だ。


 なぜ、夢の中の話なのに、これから体験すると分かるのか? と疑問に思う人がいるだろう。

 中には、そんなの分かるはずがない と否定する人もいると思う。

 しかし、どんなに疑問に思っても、どんなに否定しようとも、現にいるのだ「未来が見える人」つまり、「私」が。


 私も最初から未来が見えた訳ではない。

 だから、そんな人達の言い分も理解できなる。

 恐らく言うだろう、そんなことは有り得ないと。

 でも、この世界には人間が理解できない現象のほうが多いと、どこかの賢い博士も言っていた……ような気がする。

 だったら私のこの能力も理解して欲しい。


 それに、それって凄く便利じゃん! と言う人もいると思う。

 けれども残念ながらそんなに便利な訳でもない。

 第一にいつも未来が見えている訳じゃない。

 たまたま見た夢。

 羽が生えて空を飛んだりとか、そういう非日常的ファンタジーな夢じゃなく、日常に起こってもおかしくない夢が、未来になる。

 それに、例え見たとしても未来の一部かけらしか体験しないので、それがいつ、どの時に起きるのか分からない。

 だから、テストに出る問題が分かったり、明日起こる出来事の全てが分かったりとか、そういう便利なものではない。


 親しい友達にこの事を話した時、それは正夢だよと、笑われた。

 確かに私のみらいは、普通の人が聞くと正夢だと思う。


 しかし、私は知っている。

 正夢は夢で見た事が現実で起こる事だ。

 その時は、大抵起こった後に、ああ、そう言えば夢で見たな と気づく。

 しかし、私のみらいは変える事が出来る。

 現実で気付きさえすればいい。


 もしかしてこの後、こうなるんじゃないか? と。


 だから、私がその場で場違いな事をすれば私のみらいは夢になる。

 今までもこの方法でいくつも夢にしてきた。

 そして今からも夢にする。

 今日のみらいも……。


 今日は彼との月に一回のデートだ。多分、その途中のどこかで、今日の私のみらいへ繋がる場面があるだろう。

 今日見たみらいは、私が彼を庇って車にひかれる場面だった。

 大きな出来事だから繋がる場面は限られる。

 大丈夫、防げるだろう。


 そうと決まれば着替えだ。

 嫌な汗で濡れたパジャマなんか早く脱いでデートの準備しないと!

 今日の運勢はどうかな…?

 今日はどこに行くのかな…?






 待ち合わせ時間の十分前、君はもう待っていた。

 こちらを見て笑う。こちらも笑い返す。

 そして、

 私の待った? に対し、君の いや、今来たところだ でいつも私達のデートが始まる。


 しばらく雑談しながら、これからの予定決め。

 君も私もどこでも良いと言う結果になったので、いつもの行く大型ショッピングセンターへとバスに乗って行く。


 君と、ウィンドショッピングをして、気になる店があれば入る。

 そして、店内を見て回り、気に入った物があったら購入する。

 その間、私は君の腕を片時も離さなかった。

 君は迷惑していたかもしれない。

 でも今日は君の温もりを感じていたかった。


 昼頃になりショッピングセンターの中にあるカフェでランチを取る。

 その店はナポリタンが有名だったので、二人分を頼む。

 君が食べ、私も食べる。

 それだけで幸せだった。

 本当の幸せを知っている人からは鼻で笑われるかもしれないけど、他に言葉が見つからなかった。


 もう一度言う、私は今本当に幸せだ。


 ランチが終わった後、ショッピングセンターを後にする。


 今からバスに乗り、帰る。

 予定だったが、私は歩いて帰りたい とワガママを言った。

 君は少し悩んだ後、途中で疲れたとか言うなよ? それだけ言い、手をつないでくれた。


 歩行者用道路を二人で歩く。

 三月の第二週目とあって、暑くなく、寒くないちょうどいい気温だ。

 道路には車や、バス、タクシーがひっきりなしに行き交っている。

 ここで私はやっと意識し始めた。


 いつ彼がひかれるのか?


 君とたわいもない話をしながらも、君の行動、目線、一つ一つの動作の変化に気を配る。

 右足左足、左手右手、笑顔……。

 ……幸せだ。

 君の動作を見るだけでこんなにも幸福感を感じられる。

 こんな時にこんな事を思うなんて誰か、もしくは万人が私のことをノー天気と言うかもしれない。

 けど、君への「大好き」が止まらなかった。


 結局、帰る途中にはみらいは訪れなかった。

 私達の町へ帰ってきたのは、太陽が住宅街へ橙の塊となって沈む頃だった。

 そして今、私達は、いつもデートの最後には絶対寄る公園のベンチで、二人寄り添って座っている。

 住宅に囲まれた何の変哲もないただの小さな公園。

 特に特別な思い出があるわけではないが、デートの最後には必ず寄る。それが思い出だ。


 二人の間に言葉はない。

 二人で目を閉じ、私が君の肩に身を任せているだけだ。

 溢れてくる君への思いは「好き」それだけだ。

 もしかしたら、今日のみらいは夢だったのかもしれない。

 それならそれでいい……。

 今はずっとこの状態でいたかった。


 しばらくすると君が、少し話があるんだ。 と呟くような声で言った。

 何の話? と私は聞く。

 ……なんか飲みながらでも話そう。

 そう言い、君はベンチを立つ。

 辺りを見渡し、公園外の道路の向かい側にある自動販売機を見つけ、小走りする。

 私は小走りする君の姿を見た。


 その時、道路を出た瞬間、力なく宙を舞う君の姿が、私の目の奥に映った。


 ……どうろ。…道路!


 みらいが今になる。



 私は一心不乱に君の元へとと走った。

 そして叫んだ。待って! ただそれだけを。

 そして追いつき、






私は君の手を引いた。



 すると、学校で教えて貰った慣性の法則が体にかかる。

 そして、私は前へ、君は後ろへの力がかかり、立場が入れ替わる。

 右から迫る大型車。

 クラクションの音が鳴り響く。

 君の手を引くのに私の意識の全てを使い、動こうにも動けなかった。

 私は遅くなった時間の中、迫ってくるそれをただ 見つめることしかできず、

 次の瞬間、






 私達の目の前を大型車が通りすぎた。


 ……間に合った。

 今、君はいる。今、私もいる。

 夢に……夢になったんだ!

 肩で息をしている私に君は、どうした? 急に? と少し笑いながら言った。


 この笑顔を……この笑顔守ることができた。

 そう考えると、胸から熱いものが込み上げそうになる。

 何とかそれを抑え、いや…何でもないよ。ただ今、別に、喉渇いてないから……。 少し鼻声になりながらも笑顔を作った。


 そうか……。 ただ、君はそう言った。

 そして、私を凝視する。

 すると、次の瞬間には私は君の腕の中にいた。

 君の温度が直に触れる。

 その中で、君は言った。


 俺……留学するんだ…外国に。 今日の夜の飛行機で飛ぶ。 だから、君の温度をこうして直に感じるのはしばらくないかもしれない。 そのせいで君は寂しくなるかもしれない。 でも、約束する。 俺は絶対戻ってくる。 君のそばへ。 だから…だから、笑顔で送りだしてくれないか? 作り笑いでもいい。 涙を流してでもいい。 この目に君を焼き付けて君のもとを離れたいんだ……。


 君は言った。

 君は……確かに言った。


 君を笑顔で送り出してくれと。


 大好きな君の願いだ。

 すぐにでも、月の光よりも、太陽の光よりも眩しい笑顔を君に贈りたい……はずだった。


 ……出来なかった。

 何より、私の笑顔で君がいなくなるのが怖かった。

 さっきとは違う何かが胸から込み上げる。今度はそれを押さえきれなかった。


 目から涙が次から次へとこぼれ落ちる。

 その悔しさと虚しさを私は抑えきれず、気づけば私は君の手を払い、公園を飛び出していた。


 視力はいいはずなのに、周りの景色がぼやけて見えない。

 聴力も悪くないはずなのに何も聞こえない。

 私は走った。走った走った走った。

 走っていく内に、全てが何かで溶けていった。


 ――涙も、意識も、感覚も――


 私は止まった。

 道路の真ん中で。


 何かの音が鼓膜を叩く。

 でも何かの音かは分からない。

 網膜が右から迫ってくる影を映す。

 でもそれに恐怖は感じない。

 私の中の私が消えた。その時だった。






 君は私の手を引いた。



 君は前へ、私は後ろへの力がかかり、立場が入れ替わる。

 右から迫る大型車。クラクションの音が鳴り響く。

 私を庇った君を見る。

 君は笑っていた。

 例えるなら太陽のように、月のように。

 遅くなった時間の中、君へと迫ってくるそれをただ見つめることしかできず、


 次の瞬間――













 ――私は起きた。

 嫌な夢……。

 一番初めに頭によぎった言葉はそれだった。


 私は今ベッドの上にいる。

 なぜベッドの上にいるのか? 私は道路にいたはずなのに? と不思議な感覚に襲われる。

 でも、今の状況を見る限りそれは夢だったらしい。

 その証拠にそのラストシーン以外思い出すことが出来ない。


 嫌な夢だったけど、夢は夢だ。

 正夢なんて言葉があるけど、そんなのめったにに起こることじゃない。


 それより今日は彼とのデートだ。

 嫌な汗で濡れたパジャマなんか早く脱いでデートの準備しないと!


 今日の運勢はどうかな…?

 今日はどこに行くのかな…?

 あぁ! 未来が見えればいいのに!

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