8.路地裏
訪問ありがとう御座います。
最終です!
初めての出会い話です!
別に、喧嘩が好きなわけではない。女が好きなわけでもない。ただ何となく沢山耳に穴を開けていただけだ。それが耳から口や、体へと移っただけ。
それなのに、人は寄ってきた。
「面倒くせぇ……」
香水の匂いがついて回り、鼻が曲がりそうな日々だった。
いい加減、構わないで欲しいと思っていたとき、他校の生徒に殴られた。何でも、自分を取り囲む中に、そいつの彼女がいたらしい。
迷惑な話だ。首輪をかけておいてほしい。
耳につけていたピアスは一応無事だったらしく、一個ずつ外していく。耳も無事だ。
「痛っ……」
「大丈夫……ですか?」
顔を上げると、茜色の空をバックに、見下ろす少女が立っていた。今時珍しく髪をおさげにして、膝中のスカートをはいている。
興味本位か、馬鹿なのか、自己満足か、いずれにしても邪魔だった。
「あぁ!?」
「あの、本落としてました」
「……あぁ?」
一瞬頭がフリーズした。
本と言っただろうか、この少女は。
「この本、いいですよね。私もこの間読んだばかりで」
「……」
本なんか持っていた覚えがなかったのだが、そういえば幼なじみの明から、何かを預かっていた気がする。きっと乱闘中に中身が出てしまったのだろう。
「特に主人公の心情が……。ごめんなさい」
そろりと本が手渡される。
俯いた少女の顔は逆光で分からなかったが、笑っているのかどうかは分かった。今は強ばっている。
「……何がしたいんだよ」
「……日は登り、また沈んでいく」
「あ?」
「例え今苦しくとも、明日には笑っているかも知れない」
「……」
「って言っても、この本の受け売りなんですけどね」
柔らかな声が耳朶を打つ。
下品で耳につくいつもの笑い声とは違った。
「貴方の明日に、よい出会いがありますように」
何かがはじけた。世界が一瞬にして鮮やかに見える。
路地を出て颯爽と歩いていくその少女の横顔が、目から離れなかった。
帰ってその本を読んだが、あの少女の言ったときのような感動は、同じセリフを見ても沸いてこなかった。
☆★ ★☆
好きと言ってから恥ずかしくなったのか、先を歩いている水面は振り向いてくれない。
長い髪が背中を揺れる。
「水面」
「……」
「みーなも」
「……何ですか?」
小さな声が、やっと返ってきた。
「いい出会い、あったよ」
「え?」
例え彼女が覚えていなくとも、彼女の関心があの時の本にあったとしても、俺のこの気持ちが変わることはない。
「あぁ〜やっぱ俺、水面が好きだわ」
茜色の空の中、彼女は頬を同じ色に染めていた。
最後までおつきあい下さり有り難う御座いました。
今更気づいたのですが、和斗、不良じゃないですね。
ああいう性格にしようと思っていたのでいいのですが、何故不良設定にしたのか。
次回作もよろしくお願いします。